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第三十二話:妨害工作と地質学者の回答
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僕たちが最初の浮遊島に上陸した頃には、《絶対王権》の本隊は、すでに遥か先へと進んでいた。彼らは、イベントの攻略法を熟知しているのか、雑魚モンスターの群れを効率的に処理し、最短ルートを突き進んでいる。
彼らが通った後には、討伐されたモンスターの亡骸と、彼らの圧倒的な力を物語る、戦闘の痕跡だけが残されていた。
「ちっ、すっかり先行されちまったな」
ゴードンが、悔しそうに呟く。
「大丈夫ですよ、ゴードンさん。私たちは、私たちのペースで進みましょう」
ミモリさんが、なだめるように言った。
僕も、焦ってはいなかった。僕の目的は、彼らとの競争ではない。この特異な地形の謎を解き明かすことだ。
「この島の岩盤は……主に、斑れい岩で構成されているようですね。地表の岩石とは、明らかに組成が違う。これは、地下深くのマントルに近い物質が、何らかの力で地上に持ち上げられたことを示唆している」
僕は、早速、この浮遊島の地質調査を開始した。足元の岩石を【ジオ・ブレイカー】で軽く叩き、その反響音と鑑定結果から、内部構造を推測していく。
この島の浮力源となっているエネルギーコアは、どうやら島の中心部、地下深くにあるらしい。そして、そのエネルギーが、地脈のように島全体に行き渡り、この巨大な岩塊を空に浮かばせているのだ。
僕たちは、島の守護者がいるという祭壇を目指し、奥へと進んでいった。
しかし、カイザーの仕掛けた妨害工作は、まだ終わってはいなかった。
僕たちが、深い渓谷にかかる、一本の吊り橋にさしかかった時だった。
「……リク、あれを見ろ」
ゴードンが、険しい表情で対岸を指さした。
対岸にある、吊り橋を支える巨大な杭。その根本に、見慣れた紋章をつけた《絶対王権》の工作員たちが、何やら怪しげな作業をしていた。彼らは、僕たちの姿に気づくと、ニヤリと笑い、手にしていた斧で、吊り橋のロープを断ち切り始めたのだ。
「あっ! 橋を!」
ミモリさんが叫ぶ。
ブツン、という鈍い音と共に、吊り橋は、僕たちの目の前で、なすすべもなく谷底へと崩れ落ちていった。
「ヒャッハー! 残念だったな、反逆者ども! これで、お前たちは行き止まりだ!」
工作員たちは、勝ち誇ったようにそう叫ぶと、すぐにその場から姿を消した。
「くそっ、またあいつらか! どこまでも、やり方が卑怯なんだよ!」
ゴードンが、怒りに拳を震わせる。
幅が五十メートル以上ある深い渓谷。これを渡る手段は、常識的にはない。僕たちは、完全に足止めを食らった形だ。
しかし、僕は、冷静にその渓谷を見下ろしていた。
「……なるほど。面白いことをしてくれますね」
僕の目には、この渓谷が、単なる障害物には見えていなかった。
谷底を流れる、激しい風。そして、両岸の壁面を構成する、風化して脆くなった岩盤。その全てが、僕にとっては、新たな「道」を作るための、最高の材料だった。
「リクさん、また、あの……?」
ミモリさんは、僕が何をしようとしているのか、もう察しているようだった。
「ええ。道がなければ、創ればいい。ただ、それだけのことです」
僕は、渓谷の縁に立つと、対岸に向かって右手をかざした。
「【地形編集】――《破壊》!」
僕のスキルが、対岸の崖の中腹、僕が鑑定で特定した最も脆い部分に作用する。
ゴゴゴ……という音と共に、崖の一部が、巨大な板状になって剥がれ落ちた。
「リク!? 何してんだ! 崖を崩してどうするんだよ!」
ゴードンが、僕の意図を理解できずに叫ぶ。
だが、僕の狙いは、単なる破壊ではなかった。
剥がれ落ちた巨大な岩盤は、谷底へと落下していく。しかし、その途中で、谷底から吹き上げる強力な上昇気流を、その広い面で受けた。
巨大な岩盤は、まるで、凧が風に乗るように、ふわりと宙に浮き上がったのだ。
「なっ……! 岩が、浮いてる……!?」
ゴードンが、信じられないものを見る目で、その光景を見つめている。
「この渓谷の風は、ただの風ではありません。浮遊島を浮かせるエネルギーの一部が、熱となって上昇気流を生み出しているんです。十分な面積を持つ物体なら、この風に乗せて、対岸まで運ぶことができる」
僕は、風に乗ってゆっくりとこちらへ近づいてくる岩盤を、スキルで微調整し、僕たちの足元に、ぴたりと接岸させた。
僕たちの目の前に、天然の「空飛ぶ船」が出現した瞬間だった。
「さあ、乗りましょう。対岸まで、空中散歩です」
「……お前の常識は、俺の常識と、どうやら作りが違うらしいな」
ゴードンは、もはや呆れるのを通り越して、感心したようにため息をついた。
僕たちは、即席の空飛ぶ船に乗り込み、風の力だけで、悠々と渓谷を渡りきった。
僕たちの妨害工作が、ことごとく、想像の斜め上の方法で突破されていく。その報告は、リアルタイムでカイザーの元へと届けられていた。
「……吊り橋を落とされ、崖を崩して、船として使い、渡った、だと?」
本隊を率いて進軍していたカイザーは、魔法の通信機から聞こえてくる報告に、思わず足を止めた。
彼の完璧に計算された妨害プランが、リクという男の前では、まるで子供の悪戯のように、いともたやすく無力化されていく。
(奴は、俺の思考を読んでいるのか? いや、違う。奴は、俺とは全く異なる次元で、この世界を見ているのだ。俺が、ルールの上で戦うチェスのプレイヤーなら、奴は、チェス盤そのものを創り変える、神のような……)
カイザーの心に、初めて、焦りとは異なる、未知の感情が芽生え始めていた。
それは、畏怖。
そして、その畏怖は、彼の歪んだ独占欲を、さらに強く、激しく、燃え上がらせていった。
「……面白い。どこまで、俺を楽しませてくれる、リク……!」
一方、僕たちは、ついに最初の祭壇がある、島の最深部にたどり着いていた。
そこには、風化した古代の遺跡があり、その中央に、祭壇を守るボスモンスターが鎮座していた。
それは、全身が、風をまとったクリスタルでできた、巨大なゴーレムだった。
「『テンペスト・ゴーレム』か! あの硬さは、石巨人の比じゃねえぞ!」
ゴードンが、身構える。
だが、僕は、そのゴーレムの足元を見て、静かに笑みを浮かべた。
ゴーレムが立っている遺跡の床は、無数のひびが入った、一枚の巨大な石板の上だった。
「ゴードンさん、ミモリさん。戦う必要はありません」
「はあ? じゃあ、どうするんだよ!」
「この遺跡ごと、このゴーレムを、下に落とします」
僕は、【ジオ・ブレイカー】を構えた。
この島の浮力は、中心部のエネルギーコアから供給されている。だが、この遺跡部分は、後から付け足された、いわば「増築部分」だ。その接続部は、構造的に極めて脆い。
「――お掃除の時間です」
僕がスキルを発動すると、ゴーレムが立っていた遺跡の床全体が、巨大な一枚の皿のように、綺麗に切り離された。
「グォォォ!?」
テンペスト・ゴーレムは、何が起きたのか理解できないまま、自らが守っていたはずの遺跡の床ごと、はるか眼下の雲海へと、落下していった。
【島の守護者、テンペスト・ゴーレムの討伐を確認しました】
【第一の祭壇が、起動しました】
あまりにも、あっけない幕切れ。
僕たちは、一滴の汗もかくことなく、最初の祭壇を起動させた。
《絶対王権》が、多大な犠牲を払いながら、力ずくで祭壇を攻略している頃、僕たちは、地質学の知識だけで、涼しい顔をして、彼らに追いつき始めていた。
このイベントは、もはや、単なる攻略レースではなかった。
それは、カイザーの「常識」と、僕の「地質学」との、壮絶な戦いの始まりだったのだ。
彼らが通った後には、討伐されたモンスターの亡骸と、彼らの圧倒的な力を物語る、戦闘の痕跡だけが残されていた。
「ちっ、すっかり先行されちまったな」
ゴードンが、悔しそうに呟く。
「大丈夫ですよ、ゴードンさん。私たちは、私たちのペースで進みましょう」
ミモリさんが、なだめるように言った。
僕も、焦ってはいなかった。僕の目的は、彼らとの競争ではない。この特異な地形の謎を解き明かすことだ。
「この島の岩盤は……主に、斑れい岩で構成されているようですね。地表の岩石とは、明らかに組成が違う。これは、地下深くのマントルに近い物質が、何らかの力で地上に持ち上げられたことを示唆している」
僕は、早速、この浮遊島の地質調査を開始した。足元の岩石を【ジオ・ブレイカー】で軽く叩き、その反響音と鑑定結果から、内部構造を推測していく。
この島の浮力源となっているエネルギーコアは、どうやら島の中心部、地下深くにあるらしい。そして、そのエネルギーが、地脈のように島全体に行き渡り、この巨大な岩塊を空に浮かばせているのだ。
僕たちは、島の守護者がいるという祭壇を目指し、奥へと進んでいった。
しかし、カイザーの仕掛けた妨害工作は、まだ終わってはいなかった。
僕たちが、深い渓谷にかかる、一本の吊り橋にさしかかった時だった。
「……リク、あれを見ろ」
ゴードンが、険しい表情で対岸を指さした。
対岸にある、吊り橋を支える巨大な杭。その根本に、見慣れた紋章をつけた《絶対王権》の工作員たちが、何やら怪しげな作業をしていた。彼らは、僕たちの姿に気づくと、ニヤリと笑い、手にしていた斧で、吊り橋のロープを断ち切り始めたのだ。
「あっ! 橋を!」
ミモリさんが叫ぶ。
ブツン、という鈍い音と共に、吊り橋は、僕たちの目の前で、なすすべもなく谷底へと崩れ落ちていった。
「ヒャッハー! 残念だったな、反逆者ども! これで、お前たちは行き止まりだ!」
工作員たちは、勝ち誇ったようにそう叫ぶと、すぐにその場から姿を消した。
「くそっ、またあいつらか! どこまでも、やり方が卑怯なんだよ!」
ゴードンが、怒りに拳を震わせる。
幅が五十メートル以上ある深い渓谷。これを渡る手段は、常識的にはない。僕たちは、完全に足止めを食らった形だ。
しかし、僕は、冷静にその渓谷を見下ろしていた。
「……なるほど。面白いことをしてくれますね」
僕の目には、この渓谷が、単なる障害物には見えていなかった。
谷底を流れる、激しい風。そして、両岸の壁面を構成する、風化して脆くなった岩盤。その全てが、僕にとっては、新たな「道」を作るための、最高の材料だった。
「リクさん、また、あの……?」
ミモリさんは、僕が何をしようとしているのか、もう察しているようだった。
「ええ。道がなければ、創ればいい。ただ、それだけのことです」
僕は、渓谷の縁に立つと、対岸に向かって右手をかざした。
「【地形編集】――《破壊》!」
僕のスキルが、対岸の崖の中腹、僕が鑑定で特定した最も脆い部分に作用する。
ゴゴゴ……という音と共に、崖の一部が、巨大な板状になって剥がれ落ちた。
「リク!? 何してんだ! 崖を崩してどうするんだよ!」
ゴードンが、僕の意図を理解できずに叫ぶ。
だが、僕の狙いは、単なる破壊ではなかった。
剥がれ落ちた巨大な岩盤は、谷底へと落下していく。しかし、その途中で、谷底から吹き上げる強力な上昇気流を、その広い面で受けた。
巨大な岩盤は、まるで、凧が風に乗るように、ふわりと宙に浮き上がったのだ。
「なっ……! 岩が、浮いてる……!?」
ゴードンが、信じられないものを見る目で、その光景を見つめている。
「この渓谷の風は、ただの風ではありません。浮遊島を浮かせるエネルギーの一部が、熱となって上昇気流を生み出しているんです。十分な面積を持つ物体なら、この風に乗せて、対岸まで運ぶことができる」
僕は、風に乗ってゆっくりとこちらへ近づいてくる岩盤を、スキルで微調整し、僕たちの足元に、ぴたりと接岸させた。
僕たちの目の前に、天然の「空飛ぶ船」が出現した瞬間だった。
「さあ、乗りましょう。対岸まで、空中散歩です」
「……お前の常識は、俺の常識と、どうやら作りが違うらしいな」
ゴードンは、もはや呆れるのを通り越して、感心したようにため息をついた。
僕たちは、即席の空飛ぶ船に乗り込み、風の力だけで、悠々と渓谷を渡りきった。
僕たちの妨害工作が、ことごとく、想像の斜め上の方法で突破されていく。その報告は、リアルタイムでカイザーの元へと届けられていた。
「……吊り橋を落とされ、崖を崩して、船として使い、渡った、だと?」
本隊を率いて進軍していたカイザーは、魔法の通信機から聞こえてくる報告に、思わず足を止めた。
彼の完璧に計算された妨害プランが、リクという男の前では、まるで子供の悪戯のように、いともたやすく無力化されていく。
(奴は、俺の思考を読んでいるのか? いや、違う。奴は、俺とは全く異なる次元で、この世界を見ているのだ。俺が、ルールの上で戦うチェスのプレイヤーなら、奴は、チェス盤そのものを創り変える、神のような……)
カイザーの心に、初めて、焦りとは異なる、未知の感情が芽生え始めていた。
それは、畏怖。
そして、その畏怖は、彼の歪んだ独占欲を、さらに強く、激しく、燃え上がらせていった。
「……面白い。どこまで、俺を楽しませてくれる、リク……!」
一方、僕たちは、ついに最初の祭壇がある、島の最深部にたどり着いていた。
そこには、風化した古代の遺跡があり、その中央に、祭壇を守るボスモンスターが鎮座していた。
それは、全身が、風をまとったクリスタルでできた、巨大なゴーレムだった。
「『テンペスト・ゴーレム』か! あの硬さは、石巨人の比じゃねえぞ!」
ゴードンが、身構える。
だが、僕は、そのゴーレムの足元を見て、静かに笑みを浮かべた。
ゴーレムが立っている遺跡の床は、無数のひびが入った、一枚の巨大な石板の上だった。
「ゴードンさん、ミモリさん。戦う必要はありません」
「はあ? じゃあ、どうするんだよ!」
「この遺跡ごと、このゴーレムを、下に落とします」
僕は、【ジオ・ブレイカー】を構えた。
この島の浮力は、中心部のエネルギーコアから供給されている。だが、この遺跡部分は、後から付け足された、いわば「増築部分」だ。その接続部は、構造的に極めて脆い。
「――お掃除の時間です」
僕がスキルを発動すると、ゴーレムが立っていた遺跡の床全体が、巨大な一枚の皿のように、綺麗に切り離された。
「グォォォ!?」
テンペスト・ゴーレムは、何が起きたのか理解できないまま、自らが守っていたはずの遺跡の床ごと、はるか眼下の雲海へと、落下していった。
【島の守護者、テンペスト・ゴーレムの討伐を確認しました】
【第一の祭壇が、起動しました】
あまりにも、あっけない幕切れ。
僕たちは、一滴の汗もかくことなく、最初の祭壇を起動させた。
《絶対王権》が、多大な犠牲を払いながら、力ずくで祭壇を攻略している頃、僕たちは、地質学の知識だけで、涼しい顔をして、彼らに追いつき始めていた。
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