不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第三十四話:ゲリラ戦と王の罠

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 僕たちが第二の祭壇を攻略して以降、イベントの様相は、完全に、僕たちと《絶対王権》との、異様なデッドヒートと化していた。

 僕たちは、僕の地質学的知見に基づき、正規ルートを完全に無視した、独自のショートカットを開拓し続けた。
 第三の浮遊島では、島と島を繋ぐ橋が《絶対王権》の別働隊によって破壊されていたが、僕は、近くにあった小島を《破壊》スキルで意図的に崩落させ、その破片を「飛び石」のように配置して、新たな道を作った。

 第四の浮遊島は、内部が巨大な迷宮のような洞窟になっていた。プレイヤーたちは、複雑な分岐に惑わされ、時間を浪費していた。しかし、僕は壁の地層の走向と傾斜を《鑑定》することで、洞窟全体の構造を三次元的に把握。一度も迷うことなく、最短距離で祭壇まで到達した。

 その度に、イベントログは僕たちの「奇行」をサーバー中に伝え続けた。

【速報! リク、橋を破壊され、島を砕いて渡る!】
【リク、迷宮ダンジョンを壁抜け(物理)で突破!】
【絶対王権、力でゴリ押し! リク、知識でショートカット! 差は、もはやない!】

 フォーラムは、もはやどちらが勝つかの賭けで盛り上がっていた。圧倒的な物量と組織力で正攻法を突き進む《絶対王権》と、常識外れの奇策でそれを追い抜こうとする、たった三人のパーティー。
 この奇妙なレースは、イベントに参加している他の全てのプレイヤーたちを、ただの観客に変えてしまっていた。

 そして、ついに僕たちは、最後の祭壇がある、第五の浮遊島へとたどり着いた。
 カイザー率いる《絶対王権》の本隊も、ほぼ同時に、別のルートからこの島に到着していた。
 中央神殿への道を啓く、最後の鍵。それを手にするのは、どちらが先か。

 この第五の浮遊島は、これまでの島とは、明らかに雰囲気が違っていた。
 地面は、不安定な砂礫や、風化した岩で覆われ、足場が極めて悪い。そして、島のあちこちで、間欠泉のように、強力な上昇気流が噴き出している。
「なんだか、この島……すごく、脆そうな感じがしますね」
 ミモリさんが、不安そうに言う。
「ああ。島の浮力も、他の島に比べて不安定だ。おそらく、内部のエネルギーコアが、寿命を迎えかけているんだろう」
 僕は、この島の危険性を、即座に見抜いていた。ここは、下手に大きな衝撃を与えれば、島そのものが崩壊しかねない、極めてデリケートな場所だ。

「リク! 前方を見ろ!」
 ゴードンが、鋭い声を上げた。
 僕たちの進路上に、《絶対王権》の軍勢が、陣形を組んで待ち構えていた。その数、実に百名以上。カイザーの姿は、見えない。おそらく、彼は別動隊を率いて、祭壇のボス攻略に向かっているのだろう。
 僕たちを足止めし、その間にボスを討伐する。それが、彼らの狙いだ。

「ついに、直接対決か!」
 ゴードンが、勇ましく盾を構える。
「待ち伏せとは、感心しませんね。ですが、この場所を選んだのは、あなた方の、最大の失敗ですよ」
 僕は、彼らに聞こえるように、静かに呟いた。

「何を訳のわからんことを! 総員、攻撃開始! あの反逆者どもを、ここで叩き潰せ!」
 指揮官らしき男の号令で、《絶対王権》のプレイヤーたちが、一斉に僕たちへと襲いかかってきた。
 百対三。圧倒的な戦力差。まともに戦えば、僕たちに勝ち目はない。

 だが、僕が選ぶのは、もちろん「まともな戦い」ではなかった。
「ゴードンさん、ミモリさん、僕のすぐ後ろに! そして、絶対に、僕が指定したラインから前に出ないでください!」

 僕は、地面に、つるはしで一本の線を引いた。
 そして、迫りくる敵軍に向かって、右手をかざす。

「この島が、どれだけ脆くて、危険な場所か。その身をもって、体験していただきましょう」

 僕は、スキルを発動した。狙うは、敵軍の先頭が、今まさに踏み込もうとしている、その地面。
「【地形編集】――《破壊》!」

 僕のスキルは、岩盤を砕くためではない。この不安定な地盤の、ほんのわずかな「バランス」を崩すためだけに使われた。
 その、ごく小さなきっかけが、ドミノ倒しのように、連鎖的な崩壊を引き起こした。

 ズズズズズ……!

 敵軍の足元が、まるで雪崩を起こすように、一斉に崩れ始めたのだ。
「なっ!? 足場が!」
「うわあああ! 落ちる!」

 先頭にいた数十名のプレイヤーが、なすすべもなく、崩れ落ちる地面と共に、眼下の雲海へと飲み込まれていく。
 僕が引いた一本の線。そこが、この地盤が崩壊する、ギリギリの境界線だったのだ。

「ひ、ひるむな! 魔法部隊、空から攻撃しろ!」
 後方にいた指揮官が、慌てて指示を飛ばす。
 だが、僕はそれすらも読んでいた。
「風よ、吹け」

 僕は、近くの間欠泉――強力な上昇気流が噴き出しているポイントの、地面の構造を、スキルでわずかに変化させた。
 それにより、気流の噴出する角度が変わる。
 凄まじい突風が、敵陣の真横から吹き荒れ、魔法使いたちが放った魔法は、全てあらぬ方向へと逸れていった。それどころか、風の勢いに煽られ、数名のプレイヤーが、バランスを崩して奈落へと落ちていく。

「馬鹿な……! 地面だけでなく、風まで操るというのか!?」
 指揮官の顔が、絶望に染まる。

 僕がやっていることは、単純な理屈だ。
 風が吹けば、砂が舞う。地面が崩れれば、人は落ちる。
 僕は、ただ、その「きっかけ」を、最も効果的なタイミングで、作り出しているに過ぎない。
 戦場全体を、巨大なピタゴラ装置のように見立て、最初の一押しをするだけ。あとは、自然の法則が、勝手に敵を排除してくれる。

「くそっ……! こうなれば……!」
 指揮官は、最後の手段に出た。彼は、一つの魔法の角笛を取り出し、高らかに吹き鳴らした。
 それは、周囲のモンスターを強制的に呼び寄せる、禁断のアイテムだった。
 島のあちこちから、翼を持つグリフォンや、巨大なロック鳥といった、飛行型のモンスターたちが、僕たちを目がけて殺到してくる。
 僕たちを、モンスターごと、数の暴力で押し潰す作戦だ。

 だが、そのモンスターの群れが、僕たちの頭上に到達する直前。
 僕は、静かに、天を仰いだ。
「――時間切れ、ですね」

 僕のスキルによって、この島の地盤は、限界を超えて不安定になっていた。
 そして、モンスターたちの羽ばたきが起こす、無数の振動。それが、最後の引き金となった。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……!

 島全体が、断末魔のような悲鳴を上げた。
 僕たちが立っている、ごく一部の安定した岩盤を除き、第五の浮遊島そのものが、大規模な崩壊を始めたのだ。

「そ、そんな……! 島が……島が、崩れていく……!」
 指揮官も、彼が呼び出したモンスターたちも、そして、残っていた《絶対王権》のプレイヤーたちも、なすすべもなく、崩壊していく島と共に、雲海の底へと消えていった。

 後に残されたのは、僕たちが立つ、小さな、小さな岩の足場だけ。
 そして、その足場の上には、崩壊を免れた、第五の祭壇が、静かにたたずんでいた。

 僕は、島の守護者と戦うことなく、島そのものを崩壊させることで、祭壇への道を切り開いたのだ。
 その、あまりにも壮大で、常軌を逸した光景を、遠く離れた場所から、カイザーが、ただ一人、見ていた。
 第五の祭壇のボスを討伐し、勝利を確信していた、まさにその瞬間に。
 彼は、自分の仲間たちが、そして、自分が立つべき舞台そのものが、目の前で消滅していくという、悪夢のような光景を、見せつけられたのだ。

「…………」
 彼の口から、言葉が失われた。
 その顔に浮かんでいたのは、もはや、焦りでも、怒りでもない。
 自らの理解と常識が、完膚なきまでに破壊された者の、完全な「虚無」だった。
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