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第三十五話:天候すらも味方につけて
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第五の浮遊島が、僕たちの足元のごく一部を残して崩壊していく。
それは、世界の終焉を思わせる、壮絶な光景だった。
《絶対王権》の待ち伏せ部隊も、彼らが呼び寄せたモンスターの群れも、全てが轟音と共に、眼下の雲海へと飲み込まれていく。断末魔の叫びすら、岩盤が砕け散る破壊音にかき消されていった。
「……リク。お前、本当に、島ごと、やっちまったのか……」
ゴードンが、僕たちが立つ、孤島と化した小さな岩盤の上で、震える声で呟いた。彼の顔には、もはや驚きを通り越して、畏怖の色が浮かんでいる。
「やりすぎ、じゃないですか……?」
ミモリさんも、青ざめた顔で、眼下に広がる崩落の跡を見下ろしていた。
「仕方がありません。あれが、最も効率的で、安全な方法でしたから」
僕は、冷静に答えた。僕の計算では、あのまま戦いを続けていれば、いずれ僕たちの誰かが倒れていた可能性が高い。ならば、戦場そのものを消滅させてしまうのが、最も合理的な判断だった。
僕たちが立つ岩盤の上には、奇跡的に、最後の祭壇が、無傷のまま残されていた。
【第五の祭壇が、起動しました】
島の守護者は、島そのものの崩壊に巻き込まれ、戦うことなく「討伐」された扱いになったらしい。
これで、五つの祭壇が、全て起動した。
その瞬間、はるか彼方に浮かぶ中央島《天空神殿》から、天を貫くような、巨大な光の柱が立ち上った。
神殿への道が、開かれたのだ。
【全プレイヤーに告ぐ! 五つの祭壇が起動され、《天空神殿》への道が開かれました! 神殿の最奥に到達し、古代文明の秘宝を手にするのは誰か!?】
イベントの最終フェーズが始まったことを告げる、壮麗なアナウンスが響き渡る。
しかし、そのアナウンスを、虚ろな気持ちで聞いていた男がいた。
カイザーだ。
彼は、別のルートから第五の祭壇のボスを討伐し、まさに勝利の雄叫びを上げようとしていた、その瞬間に。
自らの部隊が、そして、戦いの舞台そのものが、目の前で消え去るという、悪夢を見た。
彼の完璧な計画、圧倒的な戦力。その全てが、リクという男一人の、常識を超えた奇策の前に、全く意味をなさなかった。
「……ありえない」
カイザーの口から、か細い声が漏れた。
「こんなことが……あっていいはずがない……。俺の、この俺の完璧な世界が……たった一人の男によって、こうも容易く……」
プライドが、音を立てて砕け散っていく。
彼の周りにいた《絶対王権》のメンバーたちも、言葉を失っていた。彼らが信奉してきた絶対的な王が、見たこともないほど、狼狽し、打ちのめされている。ギルドの士気に、亀裂が入る音が、確かに聞こえていた。
だが、僕たちには、まだやるべきことが残っていた。
「ゴードンさん、ミモリさん、行きますよ。中央神殿へ」
「しかしリク、どうやって行くんだ? 俺たちがいるのは、完全に孤立した岩の上だぜ?」
ゴードンの言う通り、僕たちの足元から、中央神殿へと続く橋は、どこにもない。
「問題ありません。道なら、すぐそこに来ます」
僕は、空の一点を指さした。
そこには、このイベントの運営が用意したであろう、定期的に浮遊島間を巡回する、巨大な「風の船」が、ゆっくりと近づいてきていた。おそらく、攻略に失敗したプレイヤーを回収するための、救済措置なのだろう。
僕は、この船の存在と、その航路も、事前に計算に入れていた。
やがて、風の船は僕たちの足元に接岸した。
僕たちは、その船に乗り込み、最後の目的地である、《天空神殿》へと向かった。
僕たちが、中央島にたどり着いた時、そこは、奇妙な静寂に包まれていた。
島の中心にそびえ立つ、白亜の神殿。その入り口の前には、先に到着していたはずの、《絶対王権》の残存部隊が、なぜか立ち往生していた。
その数、約百名。カイザーの姿も、その中にあった。
「どうしたんだ、あいつら。なんで、中に入らねえんだ?」
ゴードンが、不思議そうに言う。
僕たちが近づいていくと、カイザーが、まるで亡霊のような、虚ろな目で、こちらを振り返った。
「……来たか、リク」
「神殿に入らないのですか? あなた方が、一番乗りだったはずでは?」
僕が尋ねると、カイザーは、自嘲するように、力なく笑った。
「入れんのだ。この神殿は、我々を拒絶している」
彼が指さした神殿の入り口には、巨大な嵐の結界が渦巻いており、近づく者全てを、容赦なく弾き飛ばしていた。
「神殿の守護者、『古の嵐神』だ。ヤツを鎮めない限り、誰一人として、中には入れん。だが、奴は、我々のどんな攻撃も、その嵐で弾き返してしまう」
カイザーたちは、この最後の壁を前に、なすすべもなく、立ち尽くしていたのだ。
僕は、その嵐の結界を、静かに観察した。
それは、ただの風ではない。この浮遊島群全体の天候を、コントロールしている、巨大な気象システムそのものだった。
そして、僕は、あることに気づいた。
この嵐の中心部では、気圧が極端に低くなっている。そして、その気圧差が、周囲の空気を吸い込み、巨大な渦を形成している。まるで、台風の目のように。
「……なるほど。面白い仕組みですね」
僕は、一人、静かに頷いた。
「カイザーさん。あなた方は、嵐を、力で打ち破ろうとしている。それが、間違いの元です」
「……何?」
「この嵐は、打ち破るものではありません。利用するんです」
僕は、神殿の周囲に散らばっている、巨大な岩塊に目をつけた。これらは、神殿を建設した際に残された、ただの廃材だ。
だが、僕の目には、それらが、最高の「弾丸」に見えていた。
「ゴードンさん、あの岩を、僕が指定する場所まで、運んでもらえますか?」
「おう、任せろ!」
「ミモリさん、僕たち全員に、風圧から身を守る、最大限の結界を」
「はい!」
僕は、僕の最後の作戦を、実行に移し始めた。
ゴードンが、僕の指示通り、巨大な岩塊を、嵐の結界のすぐそばへと、いくつも配置していく。
その奇妙な行動を、カイザーたちは、ただ黙って見つめていた。もはや、彼らには、僕を止める気力も、口を挟む気力も、残されていないようだった。
そして、準備が整った。
「皆さん、しっかりと、地面に捕まっていてください」
僕は、そう言うと、最後のスキルを発動した。
狙うは、僕たちが配置した、巨大な岩塊の数々。
「【地形編集】――《破壊》!」
ただし、今度の破壊は、岩を砕くためではない。
岩を、風化させるためだ。
僕のスキルによって、巨大な岩塊は、その結合を失い、一瞬にして、山のような「砂」へと姿を変えた。
次の瞬間。
嵐の結界が、その凄まじい吸引力で、僕が生み出した、膨大な量の砂を、一気に吸い込み始めた。
「なっ!? 砂が、嵐の中に……!」
カイザーが、驚愕の声を上げる。
嵐の中心部に吸い込まれた砂粒は、超高速で渦を巻きながら、互いに激しく擦れ合い、摩擦を起こす。
その結果、膨大な「静電気」が発生した。
バチチチチッ!
嵐の結界全体が、凄まじい雷光を放ち始めた。
それは、もはやただの嵐ではない。雷雲(サンダーストーム)だ。
そして、蓄積された静電気のエネルギーは、やがて、その限界を超える。
ピシャァァァァン!
凄まじい轟音と共に、嵐の中心部から、巨大な雷撃が、天に向かって放たれた。
それは、嵐のエネルギーそのものを、一瞬で放電させる、自爆行為だった。
雷撃が放たれた後。
あれほど激しく渦巻いていた嵐の結界は、まるで嘘のように、静かに、そして完全に、消滅した。
天候すらも、僕は、味方につけたのだ。
神殿への道は、開かれた。
カイザーは、その、あまりにも非現実的な光景を前に、ついに、その膝を、地面についた。
王の、完全な敗北だった。
それは、世界の終焉を思わせる、壮絶な光景だった。
《絶対王権》の待ち伏せ部隊も、彼らが呼び寄せたモンスターの群れも、全てが轟音と共に、眼下の雲海へと飲み込まれていく。断末魔の叫びすら、岩盤が砕け散る破壊音にかき消されていった。
「……リク。お前、本当に、島ごと、やっちまったのか……」
ゴードンが、僕たちが立つ、孤島と化した小さな岩盤の上で、震える声で呟いた。彼の顔には、もはや驚きを通り越して、畏怖の色が浮かんでいる。
「やりすぎ、じゃないですか……?」
ミモリさんも、青ざめた顔で、眼下に広がる崩落の跡を見下ろしていた。
「仕方がありません。あれが、最も効率的で、安全な方法でしたから」
僕は、冷静に答えた。僕の計算では、あのまま戦いを続けていれば、いずれ僕たちの誰かが倒れていた可能性が高い。ならば、戦場そのものを消滅させてしまうのが、最も合理的な判断だった。
僕たちが立つ岩盤の上には、奇跡的に、最後の祭壇が、無傷のまま残されていた。
【第五の祭壇が、起動しました】
島の守護者は、島そのものの崩壊に巻き込まれ、戦うことなく「討伐」された扱いになったらしい。
これで、五つの祭壇が、全て起動した。
その瞬間、はるか彼方に浮かぶ中央島《天空神殿》から、天を貫くような、巨大な光の柱が立ち上った。
神殿への道が、開かれたのだ。
【全プレイヤーに告ぐ! 五つの祭壇が起動され、《天空神殿》への道が開かれました! 神殿の最奥に到達し、古代文明の秘宝を手にするのは誰か!?】
イベントの最終フェーズが始まったことを告げる、壮麗なアナウンスが響き渡る。
しかし、そのアナウンスを、虚ろな気持ちで聞いていた男がいた。
カイザーだ。
彼は、別のルートから第五の祭壇のボスを討伐し、まさに勝利の雄叫びを上げようとしていた、その瞬間に。
自らの部隊が、そして、戦いの舞台そのものが、目の前で消え去るという、悪夢を見た。
彼の完璧な計画、圧倒的な戦力。その全てが、リクという男一人の、常識を超えた奇策の前に、全く意味をなさなかった。
「……ありえない」
カイザーの口から、か細い声が漏れた。
「こんなことが……あっていいはずがない……。俺の、この俺の完璧な世界が……たった一人の男によって、こうも容易く……」
プライドが、音を立てて砕け散っていく。
彼の周りにいた《絶対王権》のメンバーたちも、言葉を失っていた。彼らが信奉してきた絶対的な王が、見たこともないほど、狼狽し、打ちのめされている。ギルドの士気に、亀裂が入る音が、確かに聞こえていた。
だが、僕たちには、まだやるべきことが残っていた。
「ゴードンさん、ミモリさん、行きますよ。中央神殿へ」
「しかしリク、どうやって行くんだ? 俺たちがいるのは、完全に孤立した岩の上だぜ?」
ゴードンの言う通り、僕たちの足元から、中央神殿へと続く橋は、どこにもない。
「問題ありません。道なら、すぐそこに来ます」
僕は、空の一点を指さした。
そこには、このイベントの運営が用意したであろう、定期的に浮遊島間を巡回する、巨大な「風の船」が、ゆっくりと近づいてきていた。おそらく、攻略に失敗したプレイヤーを回収するための、救済措置なのだろう。
僕は、この船の存在と、その航路も、事前に計算に入れていた。
やがて、風の船は僕たちの足元に接岸した。
僕たちは、その船に乗り込み、最後の目的地である、《天空神殿》へと向かった。
僕たちが、中央島にたどり着いた時、そこは、奇妙な静寂に包まれていた。
島の中心にそびえ立つ、白亜の神殿。その入り口の前には、先に到着していたはずの、《絶対王権》の残存部隊が、なぜか立ち往生していた。
その数、約百名。カイザーの姿も、その中にあった。
「どうしたんだ、あいつら。なんで、中に入らねえんだ?」
ゴードンが、不思議そうに言う。
僕たちが近づいていくと、カイザーが、まるで亡霊のような、虚ろな目で、こちらを振り返った。
「……来たか、リク」
「神殿に入らないのですか? あなた方が、一番乗りだったはずでは?」
僕が尋ねると、カイザーは、自嘲するように、力なく笑った。
「入れんのだ。この神殿は、我々を拒絶している」
彼が指さした神殿の入り口には、巨大な嵐の結界が渦巻いており、近づく者全てを、容赦なく弾き飛ばしていた。
「神殿の守護者、『古の嵐神』だ。ヤツを鎮めない限り、誰一人として、中には入れん。だが、奴は、我々のどんな攻撃も、その嵐で弾き返してしまう」
カイザーたちは、この最後の壁を前に、なすすべもなく、立ち尽くしていたのだ。
僕は、その嵐の結界を、静かに観察した。
それは、ただの風ではない。この浮遊島群全体の天候を、コントロールしている、巨大な気象システムそのものだった。
そして、僕は、あることに気づいた。
この嵐の中心部では、気圧が極端に低くなっている。そして、その気圧差が、周囲の空気を吸い込み、巨大な渦を形成している。まるで、台風の目のように。
「……なるほど。面白い仕組みですね」
僕は、一人、静かに頷いた。
「カイザーさん。あなた方は、嵐を、力で打ち破ろうとしている。それが、間違いの元です」
「……何?」
「この嵐は、打ち破るものではありません。利用するんです」
僕は、神殿の周囲に散らばっている、巨大な岩塊に目をつけた。これらは、神殿を建設した際に残された、ただの廃材だ。
だが、僕の目には、それらが、最高の「弾丸」に見えていた。
「ゴードンさん、あの岩を、僕が指定する場所まで、運んでもらえますか?」
「おう、任せろ!」
「ミモリさん、僕たち全員に、風圧から身を守る、最大限の結界を」
「はい!」
僕は、僕の最後の作戦を、実行に移し始めた。
ゴードンが、僕の指示通り、巨大な岩塊を、嵐の結界のすぐそばへと、いくつも配置していく。
その奇妙な行動を、カイザーたちは、ただ黙って見つめていた。もはや、彼らには、僕を止める気力も、口を挟む気力も、残されていないようだった。
そして、準備が整った。
「皆さん、しっかりと、地面に捕まっていてください」
僕は、そう言うと、最後のスキルを発動した。
狙うは、僕たちが配置した、巨大な岩塊の数々。
「【地形編集】――《破壊》!」
ただし、今度の破壊は、岩を砕くためではない。
岩を、風化させるためだ。
僕のスキルによって、巨大な岩塊は、その結合を失い、一瞬にして、山のような「砂」へと姿を変えた。
次の瞬間。
嵐の結界が、その凄まじい吸引力で、僕が生み出した、膨大な量の砂を、一気に吸い込み始めた。
「なっ!? 砂が、嵐の中に……!」
カイザーが、驚愕の声を上げる。
嵐の中心部に吸い込まれた砂粒は、超高速で渦を巻きながら、互いに激しく擦れ合い、摩擦を起こす。
その結果、膨大な「静電気」が発生した。
バチチチチッ!
嵐の結界全体が、凄まじい雷光を放ち始めた。
それは、もはやただの嵐ではない。雷雲(サンダーストーム)だ。
そして、蓄積された静電気のエネルギーは、やがて、その限界を超える。
ピシャァァァァン!
凄まじい轟音と共に、嵐の中心部から、巨大な雷撃が、天に向かって放たれた。
それは、嵐のエネルギーそのものを、一瞬で放電させる、自爆行為だった。
雷撃が放たれた後。
あれほど激しく渦巻いていた嵐の結界は、まるで嘘のように、静かに、そして完全に、消滅した。
天候すらも、僕は、味方につけたのだ。
神殿への道は、開かれた。
カイザーは、その、あまりにも非現実的な光景を前に、ついに、その膝を、地面についた。
王の、完全な敗北だった。
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