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第三十六話:奇策の果て
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嵐の結界が消え去った後、天空神殿の前には、絶対的な静寂が訪れた。
それは、敗者の沈黙だった。
《絶対王権》のプレイヤーたちは、誰一人として、声を発することができなかった。彼らが信奉し、絶対的な存在だと思っていた王が、今、目の前で、たった一人の男の前に、膝をついている。その光景は、彼らの心に、ギルドの理念そのものが崩壊していくような、深刻な衝撃を与えていた。
カイザーは、地面に膝をついたまま、虚ろな目で、静まり返った神殿の入り口を見つめていた。
力で、全てを支配できると信じていた。
富で、全てを動かせると信じていた。
戦略で、全てを計算できると信じていた。
その、彼が築き上げてきた全ての常識が、リクという規格外の存在によって、完膚なきまでに、粉々に打ち砕かれた。
「……なぜだ」
ようやく、彼の口から、か細い声が漏れた。
「なぜ、貴様は、そこまでできる……? 俺の知らない理を、貴様は、どこで手に入れた……?」
それは、王としての問いではなかった。純粋な探求者が、自らの理解を超えた真理を前にして、発する、根源的な問いだった。
僕は、彼の前に立つと、静かに答えた。
「僕は、特別な力を持っているわけではありません。ただ、あなた方が見過ごしている、足元の声に、耳を澄ませているだけです」
「足元の、声……?」
「ええ。大地は、常に語りかけています。その成り立ちを、その構造を、その力を。僕は、その声を聞き、理解し、そして、少しだけ、力を借りているに過ぎない。あなた方が、剣や魔法の理を学ぶように、僕は、大地の理を学んできた。ただ、それだけの違いです」
僕の言葉は、カイザーの心に、深く、そして重く突き刺さったようだった。
彼は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、もはや、怒りも、憎しみも、焦りもなかった。
そこにあったのは、自分という存在が、いかに狭い世界の中で生きてきたかを悟った者の、完全な「無」だった。
「……俺の、負けだ」
その一言を絞り出すと、カイザーは、ふっと、糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。精神的な消耗が、彼の限界を超えたのだ。
周囲のギルドメンバーたちが、慌てて彼に駆け寄る。
その時だった。
【イベント最終ボス、出現!】
神殿の奥から、地を揺るがすような、重々しい足音が響き渡ってきた。
嵐の結界が破られたことで、ついに、このイベントの真の最終ボスが、眠りから覚めたのだ。
神殿の入り口から姿を現したのは、全身が、光り輝く未知の金属でできた、巨大な人型の機械兵だった。その高さは、二十メートルはあろうか。背中には、六枚の光の翼が生え、その手には、雷をまとった巨大な剣を握っている。
古代文明が生み出した、究極の守護者。『アーク・ガーディアン』。
「くそっ、このタイミングで、ラスボスのお出ましかよ!」
ゴードンが、盾を構え直す。
だが、《絶対王権》のメンバーたちは、もはや戦える状態ではなかった。王が倒れ、彼らの心は、完全に折れていた。
「……もう、終わりだ。我々に、あれと戦う力は残されていない」
騎士団長が、絶望的な声で呟いた。
彼らの言う通りだった。僕たち三人と、戦意を喪失した《絶対王権》の残党だけでは、あの神のごとき機械兵に勝つことは、不可能に近い。
イベントの結末は、誰もが予想しなかった、バッドエンドへと向かおうとしていた。
しかし、僕は、諦めていなかった。
僕の目は、アーク・ガーディアンそのものではなく、その背後にある、天空神殿の構造へと向けられていた。
「……ミモリさん。僕のMPを、回復できますか?」
「え? は、はい! 少しだけなら……!」
「ゴードンさん。僕が合図をしたら、あの機械兵の注意を、全力で引きつけてください。たった、十秒でいい」
「おう、わかった!」
僕は、僕の最後の、そして最大の奇策を実行する覚悟を決めた。
僕が《鑑定》で調べた結果、この天空神殿の浮力を支えているのは、神殿の地下深くに存在する、巨大な「キーストーン」だった。それは、この浮遊島群全体のエネルギーを制御する、心臓部とも言える存在。
そして、そのキーストーンは、目の前のボス、アーク・ガーディアンの強力な攻撃によってのみ、破壊できるほどの、絶対的な硬度を持っていた。
「リクさん、まさか……」
ミモリさんは、僕の狙いに気づいたようだった。
「ええ。ボスを倒すのではありません。ボスに、この島を、破壊させるんです」
ミモリさんの回復魔法を受け、僕のMPが、スキルを一回だけ発動できる最低限のレベルまで回復した。
「ゴードンさん、今です!」
「うおおおお! 機械人形! こっちを向けェ!」
ゴードンは、雄叫びを上げて、アーク・ガーディアンの前に躍り出た。
ガーディアンは、その巨大な雷の剣を、ゴードンめがけて振り下ろす。
その、一瞬の隙。
僕は、最後の力を振り絞り、スキルを発動した。
「【地形編集】――《造成》!」
僕が創り出したのは、道でも、壁でもない。
ゴードンのすぐ背後に、そして、神殿のキーストーンの真上に、巨大な「鏡」だった。
僕が、道中で密かに収集していた、光を反射する性質を持つ特殊な鉱石「月光石」を、スキルで薄く、そして巨大な鏡面へと変形させたのだ。
ゴードンが、ガーディアンの攻撃を、紙一重で回避する。
ガーディアンが振り下ろした雷の剣は、ゴードンの背後にあった、僕の創り出した巨大な鏡に、直撃した。
次の瞬間。
鏡は、雷撃のエネルギーを、全く衰えさせることなく、完璧に反射した。
反射された雷撃は、まっすぐに、その軌道上にあるもの――つまり、神殿の床を貫き、その地下深くにある、キーストーンを、直撃した。
パリン、という、小さな、小さな音が、世界に響いた気がした。
世界の心臓が、砕けた音だった。
直後、天空神殿全体が、凄まじい揺れに襲われた。
浮力を失った中央島が、ゆっくりと、しかし確実に、高度を下げていく。
島そのものが、落下を始めたのだ。
「なっ!? 島が、落ちる!?」
《絶対王権》のメンバーたちが、パニックに陥る。
アーク・ガーディアンも、自らの足場が失われていくことに気づき、その動きを止めた。
【警告:島の浮力システムが暴走。エリア全体の崩壊が始まります。全プレイヤーは、速やかに脱出してください】
無機質な、しかし、最終通告とも言えるアナウンスが響き渡る。
僕たちは、近くにあった風の船へと飛び乗った。
そして、崩れ落ちていく神殿と、なすすべもなく落下していくアーク・ガーディアン、そして、呆然と立ち尽くすカイザーたちを眼下に、その場から離脱した。
ボスを「利用」して、イベントの舞台そのものを破壊する。
それは、ルールにも、システムの想定にもない、奇策の果ての、究極の結末だった。
【イベントのメインシナリオが、想定外の形で終了しました】
【最終ボスを撃破し、道を切り拓いたと判定します】
【勝者:プレイヤー『リク』『ゴードン』『ミモリ』】
僕たちの視界に、イベントの勝利を告げるメッセージが表示された。
眼下では、神殿の崩壊に巻き込まれた《絶対王権》のメンバーたちが、次々と、イベントからの強制リタイアを余儀なくされていく。
僕は、風の船の上から、その光景を、静かに見つめていた。
これが、僕の勝利。
だが、僕の心にあったのは、達成感だけではなかった。
自らのプライドも、ギルドの威信も、そして、信じてきた世界のルールすらも、完膚なきまでに破壊された、あの王。
彼の瞳に宿っていた、完全な虚無。
それが、僕の胸に、小さな棘のように、突き刺さっていた。
僕たちの勝利は、同時に、彼の心を、完全に壊してしまったのかもしれない。
そのことが、これから先の物語に、どのような影響を与えるのか。
僕の地質学の知識でも、予測することは、できなかった。
それは、敗者の沈黙だった。
《絶対王権》のプレイヤーたちは、誰一人として、声を発することができなかった。彼らが信奉し、絶対的な存在だと思っていた王が、今、目の前で、たった一人の男の前に、膝をついている。その光景は、彼らの心に、ギルドの理念そのものが崩壊していくような、深刻な衝撃を与えていた。
カイザーは、地面に膝をついたまま、虚ろな目で、静まり返った神殿の入り口を見つめていた。
力で、全てを支配できると信じていた。
富で、全てを動かせると信じていた。
戦略で、全てを計算できると信じていた。
その、彼が築き上げてきた全ての常識が、リクという規格外の存在によって、完膚なきまでに、粉々に打ち砕かれた。
「……なぜだ」
ようやく、彼の口から、か細い声が漏れた。
「なぜ、貴様は、そこまでできる……? 俺の知らない理を、貴様は、どこで手に入れた……?」
それは、王としての問いではなかった。純粋な探求者が、自らの理解を超えた真理を前にして、発する、根源的な問いだった。
僕は、彼の前に立つと、静かに答えた。
「僕は、特別な力を持っているわけではありません。ただ、あなた方が見過ごしている、足元の声に、耳を澄ませているだけです」
「足元の、声……?」
「ええ。大地は、常に語りかけています。その成り立ちを、その構造を、その力を。僕は、その声を聞き、理解し、そして、少しだけ、力を借りているに過ぎない。あなた方が、剣や魔法の理を学ぶように、僕は、大地の理を学んできた。ただ、それだけの違いです」
僕の言葉は、カイザーの心に、深く、そして重く突き刺さったようだった。
彼は、ゆっくりと顔を上げた。その瞳には、もはや、怒りも、憎しみも、焦りもなかった。
そこにあったのは、自分という存在が、いかに狭い世界の中で生きてきたかを悟った者の、完全な「無」だった。
「……俺の、負けだ」
その一言を絞り出すと、カイザーは、ふっと、糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。精神的な消耗が、彼の限界を超えたのだ。
周囲のギルドメンバーたちが、慌てて彼に駆け寄る。
その時だった。
【イベント最終ボス、出現!】
神殿の奥から、地を揺るがすような、重々しい足音が響き渡ってきた。
嵐の結界が破られたことで、ついに、このイベントの真の最終ボスが、眠りから覚めたのだ。
神殿の入り口から姿を現したのは、全身が、光り輝く未知の金属でできた、巨大な人型の機械兵だった。その高さは、二十メートルはあろうか。背中には、六枚の光の翼が生え、その手には、雷をまとった巨大な剣を握っている。
古代文明が生み出した、究極の守護者。『アーク・ガーディアン』。
「くそっ、このタイミングで、ラスボスのお出ましかよ!」
ゴードンが、盾を構え直す。
だが、《絶対王権》のメンバーたちは、もはや戦える状態ではなかった。王が倒れ、彼らの心は、完全に折れていた。
「……もう、終わりだ。我々に、あれと戦う力は残されていない」
騎士団長が、絶望的な声で呟いた。
彼らの言う通りだった。僕たち三人と、戦意を喪失した《絶対王権》の残党だけでは、あの神のごとき機械兵に勝つことは、不可能に近い。
イベントの結末は、誰もが予想しなかった、バッドエンドへと向かおうとしていた。
しかし、僕は、諦めていなかった。
僕の目は、アーク・ガーディアンそのものではなく、その背後にある、天空神殿の構造へと向けられていた。
「……ミモリさん。僕のMPを、回復できますか?」
「え? は、はい! 少しだけなら……!」
「ゴードンさん。僕が合図をしたら、あの機械兵の注意を、全力で引きつけてください。たった、十秒でいい」
「おう、わかった!」
僕は、僕の最後の、そして最大の奇策を実行する覚悟を決めた。
僕が《鑑定》で調べた結果、この天空神殿の浮力を支えているのは、神殿の地下深くに存在する、巨大な「キーストーン」だった。それは、この浮遊島群全体のエネルギーを制御する、心臓部とも言える存在。
そして、そのキーストーンは、目の前のボス、アーク・ガーディアンの強力な攻撃によってのみ、破壊できるほどの、絶対的な硬度を持っていた。
「リクさん、まさか……」
ミモリさんは、僕の狙いに気づいたようだった。
「ええ。ボスを倒すのではありません。ボスに、この島を、破壊させるんです」
ミモリさんの回復魔法を受け、僕のMPが、スキルを一回だけ発動できる最低限のレベルまで回復した。
「ゴードンさん、今です!」
「うおおおお! 機械人形! こっちを向けェ!」
ゴードンは、雄叫びを上げて、アーク・ガーディアンの前に躍り出た。
ガーディアンは、その巨大な雷の剣を、ゴードンめがけて振り下ろす。
その、一瞬の隙。
僕は、最後の力を振り絞り、スキルを発動した。
「【地形編集】――《造成》!」
僕が創り出したのは、道でも、壁でもない。
ゴードンのすぐ背後に、そして、神殿のキーストーンの真上に、巨大な「鏡」だった。
僕が、道中で密かに収集していた、光を反射する性質を持つ特殊な鉱石「月光石」を、スキルで薄く、そして巨大な鏡面へと変形させたのだ。
ゴードンが、ガーディアンの攻撃を、紙一重で回避する。
ガーディアンが振り下ろした雷の剣は、ゴードンの背後にあった、僕の創り出した巨大な鏡に、直撃した。
次の瞬間。
鏡は、雷撃のエネルギーを、全く衰えさせることなく、完璧に反射した。
反射された雷撃は、まっすぐに、その軌道上にあるもの――つまり、神殿の床を貫き、その地下深くにある、キーストーンを、直撃した。
パリン、という、小さな、小さな音が、世界に響いた気がした。
世界の心臓が、砕けた音だった。
直後、天空神殿全体が、凄まじい揺れに襲われた。
浮力を失った中央島が、ゆっくりと、しかし確実に、高度を下げていく。
島そのものが、落下を始めたのだ。
「なっ!? 島が、落ちる!?」
《絶対王権》のメンバーたちが、パニックに陥る。
アーク・ガーディアンも、自らの足場が失われていくことに気づき、その動きを止めた。
【警告:島の浮力システムが暴走。エリア全体の崩壊が始まります。全プレイヤーは、速やかに脱出してください】
無機質な、しかし、最終通告とも言えるアナウンスが響き渡る。
僕たちは、近くにあった風の船へと飛び乗った。
そして、崩れ落ちていく神殿と、なすすべもなく落下していくアーク・ガーディアン、そして、呆然と立ち尽くすカイザーたちを眼下に、その場から離脱した。
ボスを「利用」して、イベントの舞台そのものを破壊する。
それは、ルールにも、システムの想定にもない、奇策の果ての、究極の結末だった。
【イベントのメインシナリオが、想定外の形で終了しました】
【最終ボスを撃破し、道を切り拓いたと判定します】
【勝者:プレイヤー『リク』『ゴードン』『ミモリ』】
僕たちの視界に、イベントの勝利を告げるメッセージが表示された。
眼下では、神殿の崩壊に巻き込まれた《絶対王権》のメンバーたちが、次々と、イベントからの強制リタイアを余儀なくされていく。
僕は、風の船の上から、その光景を、静かに見つめていた。
これが、僕の勝利。
だが、僕の心にあったのは、達成感だけではなかった。
自らのプライドも、ギルドの威信も、そして、信じてきた世界のルールすらも、完膚なきまでに破壊された、あの王。
彼の瞳に宿っていた、完全な虚無。
それが、僕の胸に、小さな棘のように、突き刺さっていた。
僕たちの勝利は、同時に、彼の心を、完全に壊してしまったのかもしれない。
そのことが、これから先の物語に、どのような影響を与えるのか。
僕の地質学の知識でも、予測することは、できなかった。
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