不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第四十六話:反撃の狼煙

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 《クラフトヘイム》の工房に戻った僕たちを、バルカンをはじめとする街の職人たちは、まるで凱旋将軍のように出迎えてくれた。
 偵察部隊の全滅という報は、僕たちが街に帰り着くよりも早く、カイザーの元だけでなく、この自由都市にも届いていたのだ。《絶対王権》の監視の目をかいくぐって活動する、彼ら独自の情報網によるものだろう。

「リク殿! また、あんたは、わしらの想像を超えていきおったわい!」
 バルカンは、僕の肩を力強く叩き、心の底から嬉しそうに笑った。
「システムの介入すら、知識で覆すとはな! まさに、痛快の一言じゃ!」
「へっへーん! 俺たちのリクを、なめんじゃねえってんだ!」
 ゴードンは、自分のことのように胸を張り、祝杯と称して酒場へと消えていった。ミモリさんも、彼の後に、嬉しそうについていく。工房には、勝利の余韻と、安堵の空気が満ちていた。

 だが、僕の心は、晴れなかった。
 一人になった工房の研究室で、僕は、壁に貼られたエリュシオン・テラの広大なマップを、険しい表情で見つめていた。
 確かに、僕たちは勝った。カイザーの仕掛けた、システム的な介入という、最も理不尽な攻撃すら、僕の知識は打ち破ってみせた。
 しかし、それは、本当の意味での勝利なのだろうか。

(違う。これは、ただ、彼の攻撃を『凌いだ』に過ぎない)

 カイザーは、諦めないだろう。
 今回の敗北は、彼のプライドを、そして、僕への執着を、さらに歪んだ方向へと加速させるに違いない。
 次は、どんな手が来る? 運営への、さらなる圧力か? あるいは、僕の仲間たちを狙った、より直接的な攻撃か? それとも、現実世界の僕自身にまで、その手が及ぶ可能性は?

 いつまでも、受け身のままではいられない。
 彼の仕掛けてくる攻撃を、ただ待ち、そして、打ち返すだけでは、いずれ、僕の知識の及ばない、致命的な一撃を食らうことになる。僕が守りたいと願う、この仲間たちとの平穏が、崩れ去ってしまう。

(守るだけでは、ダメだ。攻めなければ)

 その思考は、僕にとって、一つの大きな転換点だった。
 これまで、僕の行動原理は、常に「探求」と「防御」だった。未知の地形を調べ、仲間を、そして自分自身を、危険から守る。そのために、僕はスキルを使ってきた。
 だが、今、僕は、初めて、明確な「攻撃」の意思を持った。

 僕は、黒板の前に立つと、チョークを手に取った。
 そして、これまで僕が経験してきた、カイザーという男の行動パターンを、一つ一つ書き出していく。

『完璧主義』
『支配欲』
『自らの常識への絶対的な自信』
『想定外の事態への脆弱性』

 彼の行動原理は、「支配」だ。彼が理解し、計算できるルールの中で、全てを掌握しようとする。
 だからこそ、彼は、僕という「想定外」の存在に、これほどまでに固執するのだ。

「ならば……」
 僕は、黒板に、力強く、一つの単語を書きなぐった。

『カウンター(反撃)』

「僕が、彼にとって、最大の『想定外』を、仕掛ければいい」

 それは、静かだが、僕の覚悟を凝縮した、宣戦布告だった。
 僕が狙うべき、カイザーの最大の弱点。それは、彼の能力や戦術ではない。
 彼の、プライドそのものだ。彼の、支配の象徴。

 僕の視線が、マップの片隅に描かれた、一枚の概念図へと吸い寄せられた。
 雲海に浮かぶ、白亜の城。
 誰もが攻略不可能だと諦めている、難攻不落の空中要塞。
 《絶対王権》のギルド本拠地、《アヴァロン》。

(あの城を、落とす)

 途方もない、あまりにも無謀な計画。
 だが、僕の頭脳は、地質学者としての本能は、そこにこそ、勝機があると告げていた。
「どんな建造物にも、地盤があり、基礎がある。それは、たとえ、空に浮かぶ城であっても、同じはずだ。あの城を浮かばせている、物理法則や、魔法的な理。そのシステムの『欠陥』を、僕が見つけ出し、突くことができれば……」

 僕の思考は、もはや誰にも止められない速度で、加速していく。
 壮大な「城落とし」計画。
 そのための、第一歩は、徹底的な情報収集だ。

 ちょうどその時、ゴードンとミモリさんが、工房に戻ってきた。
「リク、まだ起きてたのか。何を、そんなに難しい顔して……」
 ゴードンは、黒板に書かれた僕のメモを見ると、目を丸くした。
「……アヴァロンを、落とす?」

 僕は、二人に向き直ると、僕の立てた、荒唐無稽な計画の全てを話した。
 二人は、最初は、僕が何を言っているのか、理解できないといった顔をしていた。
 だが、僕の瞳に宿る、揺るぎない覚悟と、理論的な可能性を語る熱意に、次第に引き込まれていった。

「……は、はは。ははははは!」
 ひとしきり話を聞き終えたゴードンは、突然、腹を抱えて笑い出した。
「最高だ、リク! お前、やっぱり、最高にイカれてるぜ! 空に浮かぶ城を、地質学で落とす、だと!? 面白え! やってやろうじゃねえか!」
 彼は、僕の無謀な計画に、一点の曇りもなく、賛同してくれた。

「でも……そんなこと、本当にできるんでしょうか……」
 ミモリさんは、不安そうに尋ねる。
「ええ。可能性は、ゼロではありません。そのためには、まず、《アヴァロン》に関する、あらゆる情報が必要です」

 僕たちは、その日から、行動を開始した。
 僕は、バルカンや、街のギルドのネットワークを最大限に活用させてもらった。
 《絶対王権》の元ギルドメンバーだったというプレイヤーを探し出し、内部構造に関する、断片的な証言を集める。
 古代文明に関する文献を、図書館から借り受け、浮遊城の動力源に関する、記述を探す。
 様々なプレイヤーが撮影した、遠景の《アヴァロン》の映像を集め、その形状や、高度の変化を、分析する。

 工房のテーブルの上には、日を追うごとに、膨大な資料の山が築かれていった。
 そして、その中央には、不鮮明ながらも、徐々にその輪郭を現していく、《アヴァロン》の、巨大な構造概念図が、広げられていた。

 僕は、その図の上に、無数の計算式や、仮説を書き込みながら、静かに、しかし、確かな闘志を燃やしていた。
 これまで、僕の知識は、大地を「識る」ためのものだった。
 だが、これからは、違う。
 大地を、そして、世界の理を、「支配」するための、武器とする。

「待っていろ、カイザー」

 僕は、概念図に描かれた、白亜の城を睨みつけ、呟いた。
「あなたのその傲慢な城、僕の知識で、地に堕としてやる」

 僕たちの、反撃の狼煙が、静かに、しかし、確かに、上がった。
 それは、一人の地質学者が、この世界の王に、そして、世界の理そのものに、挑む、壮大な戦いの幕開けだった。
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