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第四十九話:地層に眠る「ありえない遺物」
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『時が止まった大渓谷』。
そこは、まさに地質学者にとっての聖地だった。僕は、調査に没頭し、時間の感覚すら失っていた。何億年も前の生物たちが目の前で動き、太古の大気が肌を撫でる。その全てが、僕の知的好奇心を、飽くことなく満たし続けていた。
だが、その完璧な世界に対する、漠然とした「違和感」は、僕の心の片隅で、徐々に、しかし確実に、その輪郭をはっきりさせ始めていた。
(何かが、おかしい……)
それは、地質学的な矛盾ではない。むしろ、逆だ。
この世界の地層は、あまりにも「完璧すぎる」のだ。
現実の地球では、地層の形成は、もっと混沌としている。火山活動、プレートの移動、大規模な隕石の衝突。それらの予測不能なイベントが、地層に、無数の「傷」や「乱れ」を刻むはずなのだ。
しかし、この渓谷の地層は、まるで、誰かが意図的に、完璧な見本として作り上げた標本のように、整然としすぎていた。
まるで、イレギュラーな要素を、全て排除したかのような、クリーンルームで培養された歴史。
「リク、どうしたんだ? さっきから、難しい顔をして」
ゴードンが、僕の顔を覗き込んできた。
「いえ……少し、考え事を」
「リクさんの考え事は、いつも難しいことですからね。でも、あまり根を詰めすぎないでくださいね」
ミモリさんが、心配そうに微笑む。
僕は、二人に頷きを返しながらも、その違和感の正体を探し続けていた。
そして、ついに、その決定的な「一点」を、発見することになる。
僕たちは、渓谷の中でも、最も古い地層が露出しているエリアにたどり着いた。
カンブリア紀中期、約五億五百万年前の地層だ。
壁面には、三葉虫やハルキゲニアといった、奇妙な形をした生物たちの化石が、無数に埋まっている。完璧な整合性。教科書通りの、美しい地層。
僕は、その壁面を、いつものように、つるはし【ジオ・ブレイカー】の柄で、軽く叩きながら歩いていた。岩盤の硬さや、内部の密度を、反響音で確かめるためだ。
コン、コン、コン……。
粘板岩特有の、乾いた音が続く。
――キンッ。
突如、一か所だけ、明らかに異質な、硬い金属音が響いた。
僕の足が、ぴたりと止まる。
「……今のは」
僕は、音がした場所を、もう一度、慎重に叩いた。
キンッ。
間違いない。この、地層の、内部に。
岩石ではない、何か、極めて硬質な「金属」のようなものが、埋まっている。
「ゴードンさん、ミモリさん、少し手伝ってください」
僕は、二人を呼ぶと、つるはしを構えた。
「この壁を、少し、掘ってみます」
「おう、任せろ!」
僕は、慎重に、周囲の脆い粘板岩を削り取っていく。新しいつるはしは、僕の意のままに、ミリ単位での精密な掘削を可能にしてくれた。
数十分後。
僕たちの目の前に、その「異物」が、ついにその全貌を現した。
「……なんだ、こりゃあ」
ゴードンが、絶句した。
ミモリさんも、息を呑んで、その物体を見つめている。
五億年以上前の、カンブリア紀の地層。
その、完璧な縞模様の中に。
ただ一点。
錆び一つない、滑らかな、白銀色の金属質のプレートが、埋め込まれていたのだ。
大きさは、一メートル四方ほど。
表面には、幾何学的な、しかし、僕たちの知らない、どんな言語とも違う、微細な文様が、無数に刻まれている。
それは、この世界に存在する、どんな古代文明の遺物とも、明らかに異質だった。ドワーフの作った工芸品でも、エルフの魔法具でもない。
あまりにも、場違い。
あまりにも、ありえない。
まるで、最新鋭のスマートフォンが、恐竜の化石と一緒に出てきたかのような、絶対的な時代のミスマッチ。
地質学の、そして、歴史の、全ての法則を、根底から愚弄するかのような、超未来的なオーパーツだった。
「リクさん……これ、は……?」
「……わかりません」
僕は、震える声で答えることしかできなかった。
僕の脳が、目の前の現実を、理解することを、拒絶していた。
これは、バグなのか?
それとも、運営が仕込んだ、ただのイースターエッグ(隠し要素)か?
いや、違う。
このプレートが放つ、静かで、冷たい存在感は、そんな生易しいものではなかった。
これは、この世界の、もっと、根源的な部分に関わる、「何か」だ。
僕が感じていた、違和感の正体。
この、完璧すぎる世界に紛れ込んだ、たった一つの「ノイズ」。
それは、これだったのだ。
僕は、吸い寄せられるように、そのプレートに手を伸ばした。
ひんやりとした、金属の感触。
だが、その表面は、五億年という時間を経てきたとは、到底思えないほど、滑らかだった。
「……鑑定、します」
僕は、覚悟を決めた。
この、ありえない遺物の正体を、突き止めなければならない。
僕の、地質学者としての、全てのプライドを懸けて。
僕は、つるはし【ジオ・ブレイカー】の、強化された鑑定機能を、最大出力で発動させた。
その先端を、プレートの表面に、そっと触れさせる。
鑑定の光が、プレートに吸い込まれていく。
そして、僕の視界に、ウィンドウが、ゆっくりと、表示された。
そこに映し出されたのは、僕が予想していたような、アイテム情報ではなかった。
それは、全く別の、僕が決して、目にしてはならないはずの、禁断の情報だった。
この世界の、心臓部から漏れ出した、生々しい、システムのエラーログ。
僕の冒険は、この瞬間、全く新しい、そして、後戻りのできない領域へと、足を踏み入れてしまったのだ。
その先に待つのが、世界の真実か、それとも、ただの破滅か。
僕には、まだ、知る由もなかった。
そこは、まさに地質学者にとっての聖地だった。僕は、調査に没頭し、時間の感覚すら失っていた。何億年も前の生物たちが目の前で動き、太古の大気が肌を撫でる。その全てが、僕の知的好奇心を、飽くことなく満たし続けていた。
だが、その完璧な世界に対する、漠然とした「違和感」は、僕の心の片隅で、徐々に、しかし確実に、その輪郭をはっきりさせ始めていた。
(何かが、おかしい……)
それは、地質学的な矛盾ではない。むしろ、逆だ。
この世界の地層は、あまりにも「完璧すぎる」のだ。
現実の地球では、地層の形成は、もっと混沌としている。火山活動、プレートの移動、大規模な隕石の衝突。それらの予測不能なイベントが、地層に、無数の「傷」や「乱れ」を刻むはずなのだ。
しかし、この渓谷の地層は、まるで、誰かが意図的に、完璧な見本として作り上げた標本のように、整然としすぎていた。
まるで、イレギュラーな要素を、全て排除したかのような、クリーンルームで培養された歴史。
「リク、どうしたんだ? さっきから、難しい顔をして」
ゴードンが、僕の顔を覗き込んできた。
「いえ……少し、考え事を」
「リクさんの考え事は、いつも難しいことですからね。でも、あまり根を詰めすぎないでくださいね」
ミモリさんが、心配そうに微笑む。
僕は、二人に頷きを返しながらも、その違和感の正体を探し続けていた。
そして、ついに、その決定的な「一点」を、発見することになる。
僕たちは、渓谷の中でも、最も古い地層が露出しているエリアにたどり着いた。
カンブリア紀中期、約五億五百万年前の地層だ。
壁面には、三葉虫やハルキゲニアといった、奇妙な形をした生物たちの化石が、無数に埋まっている。完璧な整合性。教科書通りの、美しい地層。
僕は、その壁面を、いつものように、つるはし【ジオ・ブレイカー】の柄で、軽く叩きながら歩いていた。岩盤の硬さや、内部の密度を、反響音で確かめるためだ。
コン、コン、コン……。
粘板岩特有の、乾いた音が続く。
――キンッ。
突如、一か所だけ、明らかに異質な、硬い金属音が響いた。
僕の足が、ぴたりと止まる。
「……今のは」
僕は、音がした場所を、もう一度、慎重に叩いた。
キンッ。
間違いない。この、地層の、内部に。
岩石ではない、何か、極めて硬質な「金属」のようなものが、埋まっている。
「ゴードンさん、ミモリさん、少し手伝ってください」
僕は、二人を呼ぶと、つるはしを構えた。
「この壁を、少し、掘ってみます」
「おう、任せろ!」
僕は、慎重に、周囲の脆い粘板岩を削り取っていく。新しいつるはしは、僕の意のままに、ミリ単位での精密な掘削を可能にしてくれた。
数十分後。
僕たちの目の前に、その「異物」が、ついにその全貌を現した。
「……なんだ、こりゃあ」
ゴードンが、絶句した。
ミモリさんも、息を呑んで、その物体を見つめている。
五億年以上前の、カンブリア紀の地層。
その、完璧な縞模様の中に。
ただ一点。
錆び一つない、滑らかな、白銀色の金属質のプレートが、埋め込まれていたのだ。
大きさは、一メートル四方ほど。
表面には、幾何学的な、しかし、僕たちの知らない、どんな言語とも違う、微細な文様が、無数に刻まれている。
それは、この世界に存在する、どんな古代文明の遺物とも、明らかに異質だった。ドワーフの作った工芸品でも、エルフの魔法具でもない。
あまりにも、場違い。
あまりにも、ありえない。
まるで、最新鋭のスマートフォンが、恐竜の化石と一緒に出てきたかのような、絶対的な時代のミスマッチ。
地質学の、そして、歴史の、全ての法則を、根底から愚弄するかのような、超未来的なオーパーツだった。
「リクさん……これ、は……?」
「……わかりません」
僕は、震える声で答えることしかできなかった。
僕の脳が、目の前の現実を、理解することを、拒絶していた。
これは、バグなのか?
それとも、運営が仕込んだ、ただのイースターエッグ(隠し要素)か?
いや、違う。
このプレートが放つ、静かで、冷たい存在感は、そんな生易しいものではなかった。
これは、この世界の、もっと、根源的な部分に関わる、「何か」だ。
僕が感じていた、違和感の正体。
この、完璧すぎる世界に紛れ込んだ、たった一つの「ノイズ」。
それは、これだったのだ。
僕は、吸い寄せられるように、そのプレートに手を伸ばした。
ひんやりとした、金属の感触。
だが、その表面は、五億年という時間を経てきたとは、到底思えないほど、滑らかだった。
「……鑑定、します」
僕は、覚悟を決めた。
この、ありえない遺物の正体を、突き止めなければならない。
僕の、地質学者としての、全てのプライドを懸けて。
僕は、つるはし【ジオ・ブレイカー】の、強化された鑑定機能を、最大出力で発動させた。
その先端を、プレートの表面に、そっと触れさせる。
鑑定の光が、プレートに吸い込まれていく。
そして、僕の視界に、ウィンドウが、ゆっくりと、表示された。
そこに映し出されたのは、僕が予想していたような、アイテム情報ではなかった。
それは、全く別の、僕が決して、目にしてはならないはずの、禁断の情報だった。
この世界の、心臓部から漏れ出した、生々しい、システムのエラーログ。
僕の冒険は、この瞬間、全く新しい、そして、後戻りのできない領域へと、足を踏み入れてしまったのだ。
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僕には、まだ、知る由もなかった。
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