不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第五十話:GAIA_Error.log

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 つるはし【ジオ・ブレイカー】の先端が、五億年前の地層に眠る、ありえない遺物――白銀のプレートに触れた、その瞬間。
 僕の視界を、閃光のような、膨大な情報奔流が埋め尽くした。

 それは、アイテムの名称や、説明文といった、普段の《鑑定》スキルで表示されるような、整然とした情報ではなかった。
 無数の、意味不明な文字列。
 破損したデータ。
 そして、エラーを示す、赤い警告文。
 まるで、コンピュータの深淵を覗き込んでしまったかのような、禁断の光景だった。

 ゴードンとミモリさんには、このウィンドウは見えていないのだろう。彼らは、ただ、プレートに触れたまま硬直している僕を、心配そうに見守っている。
 だが、僕の意識は、すでに、この場所にはなかった。僕は、この世界の、裏側へと、引きずり込まれていた。

 僕の網膜に、明滅しながら、断片的な文字列が、次々と焼き付けられていく。

**...// INITIALIZING SYSTEM... Elysian Terra Online Ver 1.0 //...**
**...// BOOT SEQUENCE... OK //...**
**...// LOADING WORLD_DATA... OK //...**
**...// EXECUTING AI_CORE_PROGRAM... [ G.A.I.A. ] ... ENGAGED //...**

「……G.A.I.A.(ガイア)?」

 僕は、思わず、その名を呟いた。
 ガイア。ギリシャ神話に登場する、大地の女神の名。
 これが、この世界の、地形生成や、生態系を管理している、中核AIの名前なのか。
 僕が、その存在に畏敬の念を抱いていた、超知性体。その、固有名詞。

 僕がその名に戦慄している間にも、ログは、凄まじい速度で流れ続けていく。

**...// GAIA_System Ver 1.0 // Geologic_Data_Override_Protocol... Engaged. //...**
**...// TARGET_ERA: Cambrian Period. Approx. 505 million years ago. //...**
**...// REASON: [DATA_REDACTED] //...**

「地質データ、上書きプロトコル……? 対象年代、カンブリア紀……?」

 僕の心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。
 これは、どういうことだ。この完璧なカンブリア紀の地層は、ガイアというAIが、「意図的に」、何らかのデータを「上書き」した結果、生まれたものだというのか?
 REASON(理由)の部分が、[DATA_REDACTED](データ削除済み)となっているのが、ひどく、不気味だった。

 そして、ログは、僕が最も知りたかった、そして、知るべきではなかったであろう、核心部分へと、到達した。

**...// Anomaly_Object_Insertion_Protocol... ENGAGED. //...**
**...// OBJECT_ID: [ PLATE_001 ] //...**
**...// COORDINATES: [ -34.588, 139.529 ]_ERA_CAMBRIAN //...**
**...// WARNING: Geologic_Integrity_Compromised. High probability of Chronological_Paradox. //...**
**...// WARNING: System_Resource_Overload. Potential for cascading data corruption. //...**

「異常オブジェクト、挿入プロトコル……!?」

 僕の目の前にある、この白銀のプレート。
 それは、ガイア自身が、何らかの理由で、この五億年前の地層に、意図的に「挿入」したものだったのだ。
 だが、その行為は、この世界のシステムの、許容量を超えていた。

 ログの最後に表示されたのは、致命的な、赤い、赤い、エラーメッセージだった。

**...// CRITICAL_ERROR.LOG_OUTPUT_FAILURE. //...**
**...// GAIA_SYSTEM... ENTERING SAFE_MODE... //...**
**...// SHUTTING DOWN ANOMALY_TRACE_SYSTEM... //...**
**...// [ CORE_FUNCTION_MAINTENANCE_REQUIRED ] //...**

 プツン。

 そのメッセージを最後に、僕の視界から、全ての情報が消え失せた。
 僕の意識は、荒れ狂う情報の海から、現実の、静かな渓谷へと、引き戻される。

「……はっ……はぁっ……」
 僕は、プレートから手を離し、その場に、へたり込んだ。全身が、冷たい汗で、びっしょりと濡れている。
「リクさん! 大丈夫ですか!?」
「リク! おい、しっかりしろ!」
 ミモリさんとゴードンが、慌てて僕に駆け寄り、その体を支えてくれた。

「……大丈夫、です」
 僕は、震える声で、なんとかそう答えた。
 だが、僕の頭の中は、先ほど見た、禁断のログの情報で、完全に飽和状態だった。

 整理しよう。
 この世界の管理AIの名は、「ガイア」。
 この完璧な『時が止まった大渓谷』は、ガイアが、何らかの理由で、過去の地質データを「上書き」して、創り出したものだ。
 そして、僕の目の前にある、このありえない遺物は、ガイア自身が、この時代に「挿入」した、異常なオブジェクト。
 しかし、その行為は、システムに、致命的なエラーを引き起こした。

 なぜ?
 ガイアは、一体、何のために、こんなことを?
 自分のシステムを、危険に晒してまで、このプレートを、この時代に、埋め込む必要があったのか?

 そして、僕の脳裏に、もう一つの、巨大な疑問が、浮かび上がってきた。
 僕の、ユニークスキル【地形編集】。
 僕が、この世界の理を、部分的に、書き換えることができる、この力。
 それは、本当に、運営が、僕に与えたものなのだろうか。

(違うかもしれない……)

 僕のこの力は、もしかしたら。
 ガイアのシステムに生じた、「エラー」そのものなのではないか。
 このプレートが挿入されたことで、この世界の地質データに、微細な「バグ」が生じた。
 そして、そのバグを、「地質学」という、特殊な知識体系を持つ僕だけが、利用することができている。
 僕という存在は、運営にとっての「想定外」であると同時に、ガイアにとっても、「エラーから生まれた、イレギュラーな存在」なのではないか。

 その、途方もない仮説に、僕は、背筋が凍るような、それでいて、パズルの最後のピースが、カチリとはまったかのような、戦慄と、興奮を、同時に感じていた。

「……リクさん、顔色が、真っ青ですよ。一度、街に戻りませんか?」
 ミモリさんが、心から心配そうな顔で、僕の顔を覗き込んでいる。
「いや……」
 僕は、ゆっくりと、首を横に振った。

 戻れない。もう、後戻りは、できない。
 僕は、この世界の、あまりにも深すぎる、秘密の、ほんの一端に、触れてしまったのだ。
 この謎を、このまま放置しておくことなど、僕の、地質学者としての、そして、一人の探求者としての、魂が、許さない。

 僕は、立ち上がった。
 そして、再び、あの白銀のプレートへと、向き直る。
 プレートの表面には、微細な文様が、無数に刻まれている。
 それは、先ほどは、ただの模様にしか見えなかった。
 だが、今、僕の目には、その文様が、全く別のものに見えていた。

 それは、地図だ。
 いや、座標だ。
 このプレートが、微弱なエネルギー信号を発信し、それが指し示している、一つの「場所」。

 僕の、物語の、次なる目的地。
 ガイアが、エラーを起こし、そして、今も、そのエラーを、抱え続けているであろう、場所。
 全ての謎の、中心点。

 僕の、地質学者としての本能が、告げていた。
 そこに行けば、会える、と。
 この世界の、創造主であり、そして、僕と同じ「エラー」を抱えた、同類に。
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