不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第五十九話:要塞の牙、リクの突破口

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 僕の号令と共に、反王権連合軍は、二手に分かれた。
 バルカン率いるドワーフの飛行船団を主力とした、約三千の陽動部隊。彼らは、鬨の声を上げながら、真正面から、天空要塞《アヴァロン》へと、突撃を開始した。
 彼らの役割は、ただ一つ。僕たちが、真の目標であるエーテル源に到達するまでの、時間を稼ぐこと。

「行けェ! 自由の夜明けは、近いぞォ!」

 バルカンの雄叫びが、空に響き渡る。
 色とりどりのギルドの旗をはためかせ、巨大な船団が、雲を突き、白亜の城へと迫っていく。
 それに対し、《アヴァロン》は、ついに、その牙を剥いた。

 城壁の、いたるところから、無数の砲門が姿を現し、一斉に、火を噴いた。
 シュゴオオオッ!
 何百という、魔力の光弾が、空を切り裂き、連合軍の船団へと、降り注ぐ。
 ドゴォン! ドゴォォン!

 凄まじい爆発が、空中で連鎖する。ドワーフの誇る、頑丈な装甲を持つ飛行船が、いともたやすく、その船体を貫かれ、黒い煙を噴き上げながら、雲海へと墜落していく。
 さらに、城からは、無数の、機械仕掛けの、翼を持つガーディアン部隊が出撃し、連合軍の空戦部隊へと、襲いかかった。
 空は、一瞬にして、地獄の戦場と化した。

「……ひどい」
 ミモリさんが、その光景に、息を呑む。
 僕たちの、仲間たちが、僕たちの作戦のために、命を散らしていく。
 僕の胸が、ナイフで抉られるように、痛んだ。

「……リク、感傷に浸ってる暇はねえぞ」
 ゴードンが、僕の肩を、力強く叩いた。
「あいつらは、覚悟の上だ。俺たちが、やるべきことを、やるしかねえ。あいつらの死を、無駄にするな」
「……ええ。わかっています」

 僕は、心を、鬼にした。
 僕たち、約二千の本隊は、陽動部隊が作り出した、その壮絶な死闘を背に、地上を、全速力で、南へと、駆け抜けていた。
 目的地は、遥か先にある、火山地帯。
 僕が、この戦いの、真の鍵だと突き止めた、エーテル源。

 だが、カイザーもまた、僕たちの動きを、完全に見過ごしていたわけではなかった。
 僕たちの進路上に、大地が、盛り上がった。
 それは、土や、岩ではない。
 《アヴァロン》の城壁と、同じ材質でできた、巨大な、防衛壁だった。
 高さ、数十メートル。厚さも、十メートル以上はあろうか。僕たちの進軍を、完全に、遮断している。

「カイザーの奴……! 地上にも、防衛設備を、仕込んでやがったのか!」
 ゴードンが、悔しそうに叫ぶ。
 壁の上からは、《絶対王権》の、弓兵部隊が姿を現し、こちらに、矢の雨を、降らせ始めた。

「盾部隊、前へ! 後衛を守れ!」
 連合軍の、タンクたちが、一斉に、大盾を構える。
 だが、このままでは、僕たちは、ここで、完全に、足止めを食らってしまう。
 陽動部隊が、稼いでくれる時間は、無限ではない。

「……僕が、道を、啓けます」

 僕は、仲間たちの、盾の壁に守られながら、その、絶望的なまでに、巨大な、防衛壁の前に、立った。
 そして、つるはし【ジオ・ブレイカー】の、鑑定機能を、最大まで、解放する。

 僕の視界に、壁を構成する、材質のデータが、流れ込んできた。
(……なるほど。古代文明の技術を、応用した、魔力合金か。確かに、物理的な強度は、凄まじい。だが……)

 僕の目は、単なる材質だけを、見てはいなかった。
 この、巨大な壁が、建造される過程で、必ず、生じるはずの、構造上の「歪み」。
 原子レベルでの、結晶構造の、微細な「ズレ」。
 そして、複数のブロックを、連結させている、その「継ぎ目」。

 僕の、地質学者としての目は、それらの、肉眼では、決して、捉えることのできない、ミクロの「弱点」を、正確に、捉えていた。

「ゴードンさん、ミモリさん。僕に、力を」

 僕は、二人に、合図を送った。
 ゴードンが、僕の前に立ち、彼の盾【イグニス・ウォール】を、地面に突き立て、絶対的な、防御壁を形成する。
 ミモリさんが、僕の背後で、杖を掲げ、僕のMPを、回復し、増幅させる、補助魔法を、詠唱し始めた。

 僕の身体に、力が、満ちていく。
 僕は、鑑定で特定した、壁の、最も、エネルギー効率の良い、破壊ポイント――構造上の、特異点――ただ一点に、意識を、集中させた。

「ユニークスキル【地形編集】――《破壊》!」

 僕の、全てのMPを、注ぎ込んだ、渾身の、一撃。
 だが、それは、爆発を伴うような、派手なものではなかった。
 僕の手から放たれた、不可視の力が、壁の、一点に、吸い込まれていく。

 次の瞬間。
 シン……と、世界が、一瞬だけ、音を失った。

 そして。
 ピシッ、という、ごく、ごく、小さな亀裂が、僕が狙った、一点に、走った。
 その、たった一つの亀裂が、引き金となった。
 亀裂は、凄まじい勢いで、壁全体へと、伝播していく。
 まるで、巨大な、一枚のガラスに、石を投げ込んだかのように。

 バリバリバリバリ!

 数十メートルの、巨大な壁が、音もなく、内側から、崩壊していく。
 壁の上にいた、弓兵たちが、何が起きたのか、理解できないまま、悲鳴を上げて、崩れ落ちる、壁の破片と、共に、落下していく。
 そして、数秒後。
 僕たちの目の前にあった、絶望の壁は、完全に、消え失せ、その向こう側へと続く、一本の、道が、開かれていた。

「……な……なんだ、今のは……」
「壁が……消えた……」
 連合軍の、仲間たちが、目の前で起きた、奇跡のような光景に、呆然と、立ち尽くしている。

 僕は、息を切らしながらも、彼らを、振り返り、叫んだ。
「道は、開きました! 全軍、突撃!」

 その、僕の声が、彼らを、我に返らせた。
 「うおおおおお!」という、歓声と共に、連合軍は、僕がこじ開けた、突破口へと、殺到していく。
 僕は、ミモリさんの回復魔法を受けながら、その、力強い、仲間たちの背中を、見送った。

 だが、僕には、わかっていた。
 カイザーが、これしきのことで、諦めるはずがない。
 僕の、この、規格外の力が、彼を、最後の、そして、最も、凶悪な「切り札」へと、追い詰めてしまったのだということを。
 本当の、絶望は、この先にこそ、待っている。
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