不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

文字の大きさ
56 / 80

第六十話:カイザーの切り札

しおりを挟む
 僕がこじ開けた突破口から、反王権連合軍の濁流が、なだれ込んでいく。
 僕たちの進軍を阻んでいた防衛壁は、もはやただの瓦礫の山と化し、僕たちの行く手を遮るものは、何もなかった。
 上空では、バルカン率いる陽動部隊が、多大な犠牲を払いながらも、なお、《アヴァロン》の防衛部隊を引きつけ続けてくれている。

「よし! このまま、一気に、エーテル源まで駆け抜けるぞ!」
 ゴードンが、士気を鼓舞するように叫ぶ。
 連合軍の誰もが、勝利への道を、確かに感じていた。僕という、規格外の「矛」が存在する限り、カイザーのいかなる防御も、突破できる。そんな、確信にも似た空気が、軍全体に満ち溢れていた。

 その、あまりにも楽観的な空気に、僕だけが、言いようのない、胸騒ぎを覚えていた。
 カイザーが、このまま、黙って、僕たちの進撃を、許すはずがない。
 僕が、壁を破壊した、あの瞬間。僕は、確かに、感じていた。
 遥か上空の《アヴァロン》から、僕一点に向けられた、冷たく、そして、静かな、カイザーの視線を。
 その視線には、焦りも、怒りもなかった。
 あったのは、ただ、獲物が、自ら、罠にかかるのを、待つかのような、絶対的な、静けさだけだった。

(……罠?)

 僕の脳裏を、その、不吉な単語がよぎった、その時だった。

 天空の城《アヴァロン》。
 その、玉座の間で、カイザーは、ホログラムのスクリーンに映し出される、僕たちの進軍の様子を、静かに、見つめていた。
 彼の周囲に控える、側近たちが、焦りの色を浮かべる。
「カイザー様! このままでは、奴ら、エーテル源に到達してしまいます!」
「もはや、我々の地上部隊では、リクを止めることは不可能です! ご決断を!」

 だが、カイザーは、動じなかった。
 それどころか、彼の口元には、不気味なほどの、穏やかな笑みさえ、浮かんでいた。

「……慌てるな」
 彼は、まるで、チェスの、最終盤を、楽しむかのように、言った。
「全て、俺の、計算通りだ」
「け、計算通り、ですと?」

「奴は、確かに、俺の『壁』を、壊した。だがな、それは、奴が、俺の『庭』に、足を踏み入れたということに、他ならない」
 カイザーは、ゆっくりと、立ち上がった。
 そして、玉座の横にある、一つの、黒い、水晶の台座に、その手を、置いた。
「俺は、知りたかったのだ。奴の、その規格外の力が、一体、どこまで、この世界の理に、干渉できるのかをな」
「そして、今、確信した。奴の力は、確かに、脅威だ。だが、それは、あくまで、この世界の『物理法則』という、ルールの上での話に過ぎん」

 カイザーの瞳が、狂気的な、光を宿した。
「ならば、俺が、その『ルール』そのものを、書き換えてやれば、どうなる?」

 彼は、台座の上の、黒い水晶に、自らの魔力を、注ぎ込み始めた。
「愚かなことだ、リク。貴様が、この俺の領域に、足を踏み入れたこと、骨の髄まで、後悔させてやる」
「見せてやろう。王だけが、使うことを許された、世界の理を、支配する、本当の力を!」

「――起動せよ! 『王権領域(キングス・テリトリー)』!」

 彼が、そう、叫んだ、瞬間。
 僕たちの、世界が、歪んだ。

 ゴッ!
 突如、僕の全身を、見えない、巨大な力で、地面に叩きつけられるかのような、凄まじい圧迫感が、襲った。

「ぐっ……!?」
「な、なんだ、これは……!?」
 僕だけでなく、ゴードンも、ミモリさんも、そして、進軍していた、連合軍の全てのプレイヤーたちが、その場に、膝をつき、あるいは、倒れ伏していく。
 空間そのものが、まるで、粘性を帯びた、水飴のように、重くなった。
 空気が、震える。大地が、呻く。
 僕たちの周囲の景色が、ぐにゃり、と、蜃気楼のように、歪んで見えた。

 そして、僕の全身から、あの、大地と繋がる、地質学的なエネルギーの流れが、完全に、断ち切られるような、感覚に襲われた。
 僕が、恐る恐る、自らのステータスウィンドウを開くと、そこには、絶望的な、赤い警告文が、表示されていた。

【警告:特殊フィールド『王権領域』の効果により、一部のスキルが、無効化されています】

 そして、僕の、ユニークスキルのアイコン。
 【地形編集】。
 その、アイコンの上に、大きく、そして、無慈悲に、赤い×印が、上書きされていた。

「そん……な……」

 僕の最大の武器が。
 僕という、存在の、根幹をなす、その力が。
 カイザーによって、完全に、沈黙させられてしまった。

 天から、再び、カイザーの、高らかな、嘲笑が、降り注ぐ。

「――どうした、反逆者よ。その、自慢の力は、どうした?」
「言ったはずだ。ここは、俺の庭。この領域の中では、世界の法則は、俺が決める。俺が、『動くな』と命じれば、山すらも、その動きを、止めるのだ」

 僕の、地質学の知識が。
 僕が、信じてきた、この世界の、物理法則が。
 たった一人の男の、傲慢な意思によって、否定され、上書きされていく。

「さあ、始めるぞ。一方的な、蹂躙の、時間だ」

 カイザーの声と、共に。
 歪んだ空間の、遥か前方から、無数の、新たな影が、姿を現した。
 それは、《絶対王権》の、最強の、切り札。
 カイザーの、親衛隊。
 彼らが、僕たちを、絶望の淵へと、叩き落とすべく、ゆっくりと、その歩みを、進めてきていた。

 僕の、武器は、ない。
 僕たちの、希望は、潰えた。
 王の、絶対的な、悪意の前に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...