不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

文字の大きさ
57 / 80

第六十一話:スキル封じの絶望

しおりを挟む
 僕の視界の中で、赤い×印が上書きされた【地形編集】のスキルアイコンが、絶望的な現実を、無慈悲に、告げ続けていた。
 大地との繋がりが、完全に、断ち切られた。
 それは、音楽家が、聴力を失うにも等しい、根源的な喪失感。僕という存在の、半分が、死んでしまったかのようだった。

「どうした、反逆者よ。その力なくして、貴様は何ができる?」

 カイザーの、嘲笑に満ちた声が、重苦しい空気の中を、支配する。
「無力な凡夫に成り下がった貴様が、この俺に勝てるはずがない!」

 彼の言葉を、証明するかのように。
 僕たちの前に姿を現した、《絶対王権》の親衛隊が、ゆっくりと、しかし、確実に、その包囲網を、狭めてきていた。
 彼らの動きには、一切の、迷いがない。
 僕が、もはや、何の脅威でもなくなったことを、完全に、理解しているのだ。

「くそっ……! リクのスキルが、使えねえだと!?」
 ゴードンが、僕の隣で、歯噛みする。彼は、僕が、どんな絶望的な状況でも、必ず、奇策で覆してきたのを、誰よりも、見てきた。
 だが、その、奇策を生み出す、源泉そのものが、今、枯渇してしまった。

「うおおお! だからって、黙ってやられるかよ!」
 ゴードンは、雄叫びを上げると、親衛隊へと、突進しようとした。
 だが、彼の動きは、明らかに、鈍い。
 この『王権領域』は、僕のスキルを封じるだけでなく、僕たち連合軍、全てのプレイヤーに、ステータスを低下させる、強力なデバフ効果をも、与えていたのだ。

「ぐっ……! 体が、重い……!」
 親衛隊の、一人の剣士が、振るった、何気ない一撃。
 それを、ゴードンは、盾で受け止めるが、いつもなら、びくともしないはずの一撃が、彼の巨体を、大きく、よろめかせた。

「ゴードンさん!」
 ミモリさんが、慌てて、回復魔法を飛ばす。
 だが、彼女の魔法もまた、その輝きを、いくぶんか、失っているようだった。

 完全に、僕たちの動きは、封じられている。
 反王権連合の、仲間たちも、同じだった。
 数で、勝っているはずの僕たちが、少数精鋭の親衛隊に、一方的に、蹂躙されていく。
 あちこちで、悲鳴が上がり、光の粒子となって、消えていく、仲間たちの姿が見えた。
 士気は、見る見るうちに、低下していく。
 僕たちの、希望の象徴であったはずの僕が、無力になったことで、彼らの心もまた、折れかけていた。

 地獄。
 まさに、地獄のような、光景だった。
 カイザーは、この戦場を、彼の、絶対的な力を、見せつけるための、公開処刑場へと、変えたのだ。

(……くそっ……!)

 僕は、地面に膝をついたまま、必死に、思考を巡らせていた。
 何か、手はないのか。
 この、絶望的な状況を、覆す、何かが。

 スキルが、使えない。
 ならば、僕に残されているものは、何だ?
 僕の、頭の中にある、知識だけだ。

(落ち着け……冷静に、分析しろ……)

 僕は、この、『王権領域』という、異常なフィールドの、原理を、解き明かそうと、試みた。
 カイザーは、言っていた。
『この領域の中では、世界の法則は、俺が決める』と。
 これは、単なる、デバフフィールドではない。
 もっと、根源的な、システムの法則を、局地的に、書き換える、禁断の力。

 ガイアが、言っていた。
『彼は、深層のシステムへと、アクセスしようとしている』
 おそらく、このフィールドこそが、その、一端。

(だが、どんなシステムにも、必ず、『穴』はあるはずだ……!)

 僕は、弱体化させられた、鑑定スキルを、必死に、発動させた。
 この、歪んだ空間の、構造を、読み解くために。
 僕の視界に、ノイズ混じりの、情報が、流れ込んでくる。

【フィールド情報:王権領域(キングス・テリトリー)】
【効果範囲:半径 約5km】
【持続時間:術者(カイザー)のMPが尽きるまで】
【効果:領域内の、特定パラメータ(地形変動率)を、強制的に『0』に固定。付随して、対象(反王権連合)の、全ステータスを、30%低下させる】

「……地形変動率を、『0』に、固定……」

 僕は、その、一文に、目を見開いた。
 そういうことか。
 僕の【地形編集】スキルが、使えないのは、僕の能力が、直接、封じられたからではない。
 この、フィールド全体の、「地形が変動する」という、物理法則そのものが、カイザーによって、「変動しない」という法則に、上書きされてしまっているのだ。

 なんと、傲慢で、そして、絶対的な、力。
 だが、同時に、僕は、そこに、一つの、微かな「光」を、見出した。

(……領域内?)

 そうだ。
 この、法則の上書きは、あくまで、この、半径5kmの、フィールドの、「内側」だけの話だ。
 カイザーの力は、まだ、この世界全てを、支配するには、至っていない。
 ならば。

(――フィールドの、『外』からなら?)

 僕の脳裏に、一つの、あまりにも、突飛で、そして、無謀な、逆転の、発想が、閃いた。
 僕は、ゆっくりと、顔を上げた。
 僕の視線は、もはや、目の前の、親衛隊ではない。
 僕たちを、蹂躙する、この、忌々しいフィールドでもない。

 僕の視線は、この、フィールドの、遥か、遥か、外側。
 僕たちが、本来、目指していた、あの、南方の、火山地帯。
 《アヴァロン》の、浮遊を支える、大地の、生命線。

「……エーテル源」

 僕の口から、かすれた、呟きが、漏れた。

 このフィールドは、僕の、直接的な、地形操作を、封じる。
 ならば、僕は、直接、地形を、操作しなければいい。
 遥か、遠く離れた、このフィールドの、効果範囲の「外」にある、地質構造に、干渉し。
 その、影響が、このフィールドの、土台そのものである、《アヴァロン》に、及ぶように、仕向ければいい。

 それは、風が吹けば、桶屋が儲かる、というような、あまりにも、遠大で、そして、不確かな、作戦。
 だが、今の僕たちに残された、唯一の、そして、最高の、希望。

「……ゴードンさん、ミモリさん」
 僕は、立ち上がった。
 僕の瞳には、もはや、絶望の色はなかった。
 そこにあるのは、新たな、そして、より困難な「パズル」を前にした、地質学者の、静かな、闘志だった。

「――ここから、脱出します」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

処理中です...