不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第六十二話:逆転の発想、フィールドの外から

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「――ここから、脱出します」

 僕の、静かだが、決意に満ちた一言。
 それは、絶望的な戦況の、ど真ん中に、小さな、しかし、確かな波紋を広げた。

「脱出、だと? リク、正気か!」
 ゴードンが、親衛隊の猛攻を、満身創痍で受け止めながら、叫んだ。
「この、訳のわかんねえフィールドに、囲まれてるんだぞ! どこに、逃げ道があるってんだ!」
「道は、創ります。スキルではなく、僕の、知識で」

 僕は、二人に、短く、そして、簡潔に、僕の考えを伝えた。
 この『王権領域』は、無敵ではない。
 効果範囲は、半径5km。このフィールドの、外側からの、間接的な攻撃には、無力である、と。
 僕たちの、真の目標は、ここではない。
 遥か南にある、エーテル源。
 そこへ、たどり着くことさえできれば、僕たちには、まだ、勝機がある。

「……なるほどな」
 ゴードンは、僕の、あまりにも突飛な作戦を、瞬時に、理解した。彼の、戦士としての直感が、そこに、唯一の、活路があると、告げているのだ。
「面白え! やってやろうじゃねえか! ここから、出るぞ!」
「私も、行きます!」
 ミモリさんも、力強く頷いた。

 だが、問題は、どうやって、この、三百六十度の、包囲網を、突破するか。
 僕のスキルは、封じられている。
 残された武器は、僕の、頭の中にある、知識だけ。

(このフィールドは、地形変動率を、『0』に固定している。だが、それは、あくまで、システム上の、パラメータの話だ。現実の、物理法則までを、完全に、支配しているわけではないはずだ)

 僕は、周囲の地形を、高速で、分析した。
 この辺りは、緩やかな丘陵地帯。
 地質は、比較的、柔らかい、砂岩と、泥岩の、互層。
 そして、僕たちの、背後には、小さな、川が流れている。

 ――いける。

 僕は、確信を持った。
「ゴードンさん! 僕たちの、背後にある、川岸! あそこの、崖を、あなたの、最大火力のスキルで、攻撃してください!」
「崖を? なんでだ?」
「説明は、後です! とにかく、全力で!」
「おう、わかった!」

 ゴードンは、僕の、意図を、全く、理解していない。
 だが、彼は、僕を、信じてくれた。
 彼は、僕の指示通り、親衛隊に、背を向けると、自らの、新しい盾【イグニス・ウォール】に、全ての力を、集中させた。

「食らいやがれェェ! フレイム・バースト!」

 ゴードンの盾から、蓄積されていた、熱エネルギーが、灼熱の、衝撃波となって、放出された。
 その、狙いは、敵ではない。
 僕たちの、背後にある、何の変哲もない、川岸の、崖だった。

 ドゴォォォン!

 凄まじい、爆発音。
 だが、崖は、びくともしない。
 カイザーのフィールドの効果で、地形の耐久力が、異常に、引き上げられているのだ。

「無駄だ! そんなもので、我が王の領域に、傷一つ……!」
 親衛隊の、隊長が、嘲笑う。

 だが、僕は、その瞬間を、待っていた。
「ミモリさん! 川の水に、最大出力の、聖水魔法を!」
「え? は、はい!」

 ミモリさんが、詠唱を開始する。
 ゴードンの、灼熱の攻撃によって、超高温に熱せられた、崖の岩盤。
 そこへ、ミモリさんの魔法によって、聖なる力を帯び、急激に、冷却された、川の水が、降り注ぐ。

 ジュウウウウウウ!

 凄まじい、水蒸気が、立ち上る。
 熱せられたガラスに、冷たい水を、かけると、どうなるか?
 答えは、一つだ。

 ――急激な、熱膨張と、収縮。

 それは、岩盤の、内部構造に、システムが、想定していない、物理的な、破壊応力を、発生させる。
 カイザーのフィールドは、外部からの、スキルによる、地形変動を、封じる。
 だが、岩盤が、自らの、内部から、崩壊しようとする、この、純粋な、物理現象までは、計算に、入れていなかった。

 ピシッ……!

 崖の表面に、微細な、亀裂が、走った。
 それが、合図だった。

「今です! 全軍、川に飛び込んでください! そして、下流へ!」
 僕は、近くにいた、連合軍の、仲間たちに、叫んだ。
「この崖が、崩れます!」

 僕の言葉を信じた、一部のプレイヤーたちが、次々と、川へと、飛び込んでいく。
 そして、僕たちが、飛び込んだ、直後。
 崖は、大規模な、水蒸気爆発と、共に、轟音を立てて、崩れ落ちた。

 ガラガラガラ!

 膨大な量の、土砂が、川を、堰き止め、そして、親衛隊の、追撃ルートを、完全に、塞いでしまったのだ。
 僕たちは、川の、濁流に、身を任せながら、その光景を、見ていた。

「……すげえ。本当に、やりやがった……」
 ゴードンが、水しぶきを、顔に浴びながら、呟いた。
 スキルを、使わずに、ただ、物理法則の、知識だけで、地形を、破壊する。
 それは、カイザーの、王の力の、想定を、完全に、超えた、一撃だった。

「追え! 奴らを、逃がすな!」
 対岸から、親衛隊の、怒号が聞こえる。
 だが、僕たちと、彼らの間には、もはや、越えることのできない、絶望的な、瓦礫の山が、そびえ立っていた。

 僕たちは、川の流れに乗り、スキル封じの、絶望のフィールドから、脱出することに、成功したのだ。
 もちろん、連合軍の、全ての仲間たちを、救えたわけではない。
 多くの、犠牲が出た。
 その、悔しさを、胸に、刻みつけながら。

 僕たちは、ただ、ひたすらに、南を目指した。
 カイザーの、心臓を、止めるために。
 そして、散っていった、仲間たちの、無念を、晴らすために。

 王の、フィールドの外側。
 僕たちの、本当の、反撃は、ここから、始まる。
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