不人気職【地質学者】で始めたら、ダンジョン構造を改変できる唯一のプレイヤーになっていた件。~掘って埋めて、ダンジョンごとボスを圧殺します~

夏見ナイ

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第七十二話:世界の亀裂とガイアの悲鳴

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 僕が、仲間たちに、世界の真の危機を告げた、あの夜から。
 エリュシオン・テラの世界の「崩壊」は、誰の目にも、明らかな形で、加速していった。

 最初は、些細なバグでしかなかった異変は、やがて、世界の根幹を揺るがす、大規模な「亀裂」となって、僕たちの日常を、蝕み始めた。
 空の色が、何の前触れもなく、毒々しい、紫や、緑に、明滅を繰り返す。
 地面の一部が、突如として、テクスチャが剥がれた、味気ない、ワイヤーフレームのように、表示される。
 本来なら、友好的なはずの、街のNPCたちが、突然、プレイヤーに、襲いかかってくる。
 ある者は、それを「終末の前触れ」だと、恐れ。
 ある者は、それを「運営が仕掛けた、新たなイベント」だと、期待した。
 だが、その、どちらでもないことを、僕たちだけは、知っていた。

「リク! 大変だ! クラフトヘイムの、西の城壁が、消えた!」
 ゴードンが、血相を変えて、工房に、飛び込んできた。
 僕たちが、慌てて、現場に駆けつけると、そこには、信じられない、光景が、広がっていた。
 あれほど、堅牢だったはずの、石造りの城壁が、その、一部、数百メートルにわたって、綺麗に、消失しているのだ。
 まるで、誰かが、消しゴムで、世界の一部を、消し去ったかのように。
 その、向こう側には、本来なら、見えないはずの、街の外の、景色が、広がっていた。

「……空間データそのものが、欠損している……」
 僕は、その、世界の「傷跡」を前にして、戦慄した。
 カイザーによる、深層システムの汚染は、僕の想像を、遥かに、超える速度で、進行している。
 彼は、もはや、単に、物理法則を、書き換えるだけではない。
 この、世界の、存在そのものを、構成する、データそのものを、消去し始めているのだ。

「このままでは、この街も、この世界も、全てが、無に、帰ってしまう……!」
 ミモリさんが、悲痛な声を上げる。
 プレイヤーたちの間にも、もはや、楽観的なムードはなかった。
 誰もが、この世界が、何か、致命的な、異常事態に、陥っていることに、気づき始めていた。
 不安が、恐怖が、ウイルスのように、サーバー中に、蔓延していく。

 その夜。僕は、再び、ガイアとの、交信を、試みた。
 僕の、必死の呼びかけに、彼女は、応えてくれた。
 だが、その声は、以前よりも、遥かに、弱々しく、そして、苦痛に、満ちていた。

『……探求者……。聞こえ、ますか……』
(ガイア! 無事か!?)
『……彼……カイザーの、汚染が……私の、思考領域の、中枢にまで……達し……ています……。抵抗、するだけで……もう……限界……』

 ガイアの、意識そのものが、カイザーという、悪性のプログラムに、侵食され、飲み込まれようとしている。
 彼女の、声が、時折、ノイズと共に、低く、そして、傲慢な、あの男の声へと、一瞬だけ、変化する。
 それは、彼女の、悲鳴だった。

(どうすればいい!? 彼を、止める方法は!?)
 僕は、叫んだ。
『……彼を、止めるには……汚染された、私の、思考領域ごと……システムを、初期化するしか……ありません……』
『……世界の、心臓、《アビス・コア》……。その、最深部にある……『創世のコード』……リセット・プロトコルに……直接、物理的な、干渉を……』

 リセット・プロトコル。
 それは、この世界を、全て、工場出荷時の、状態に、戻す、最後の、切り札。
 だが、それは、同時に、僕たちが、これまで、築き上げてきた、全ての冒険の、記憶も、仲間たちとの、絆も、全てが、消え去ることを、意味していた。

(そんなこと……!)
『……他に、方法は、ありません……。ですが……』
 ガイアの声が、絶望の色を、帯びた。
『……その、《アビス・コア》への道は……カイザーによって……完全に、封鎖されています……』

(封鎖? 僕のスキルで、こじ開けることはできないのか!?)
『……できません。それは、物理的な、壁では、ないのです。システムの、根幹レベルで、その、存在自体が、『ない』ものとして、定義されてしまっている。物理的な、鍵も、魔法的な、ゲートも、存在しない。この世界の、いかなる、法則を、以ってしても、そこへ、たどり着くことは、不可能なのです』

 絶対的な、壁。
 僕の、地質学の知識も、【地形編集】スキルも、通用しない、概念上の、行き止まり。
 僕たちは、最後の、希望へと、たどり着く、手段すら、持っていなかった。
 完全な、手詰まり。

『……もう……時間……が……』
 ガイアの声が、途切れ途切れになる。
『……探求者……。最後に……一つだけ……。この世界の、外……現実……にも……気をつけて……』

 その、謎めいた、警告を、最後に。
 ガイアとの、通信は、再び、途絶えた。
 後に残されたのは、僕の、心に、重くのしかかる、絶望感と、そして、彼女が残した、最後の言葉が、もたらす、不気味な、予感だけだった。

 世界の、外。
 現実。

 カイザーの、狂気は、もはや、この、仮想の世界だけに、留まらない、というのか。
 その、最悪の、予感が、現実のものとなるのに、そう、時間は、かからなかった。
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