ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第八十三話 勇者の剣、魔将の槍

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私とカイザーが遺跡の最深部で教皇と対峙しているその頃。
入り口付近の広大な通路では、レオンとゼノヴィアが邪神の眷属たちを相手に激しい戦いを繰り広げてしていた。
「―――はあっ!」
レオンの聖剣が黄金の光を迸らせる。
その一振りは薙ぎ払う光の津波となり、数体の眷属たちをまとめて吹き飛ばした。
だが、敵の数は減らない。
一体倒せば、闇の奥から二体が現れる。まるで無限に湧き出してくるかのようだった。
「……きりがないわね!」
ゼノヴィアが忌々しげに舌打ちをした。
彼女のレイピアが煌めくたびに周囲の大気が凍りつき、眷属たちの動きを鈍らせる。だが、彼らは氷をその硬い甲殻で打ち砕き、すぐに再生してしまう。
「こいつら、本体を叩かない限り何度でも蘇るタイプのようだな!」
レオンが叫ぶ。
「本体? どこにいるというの!」
「おそらく、この通路のどこかに奴らを生み出している親玉……『女王(クイーン)』のような個体がいるはずだ!」
二人は背中を合わせるように立ち、周囲を警戒する。
四方八方から赤い複眼がぎらぎらと光り、涎を垂らしながら彼らを見つめている。
絶え間ない消耗戦。
このままではいずれ体力が尽きてしまう。
「……仕方ないわね」
ゼノヴィアは、ふう、と一つ息を吐いた。
そして、その血のように赤い瞳に決意の光を宿す。
「少し派手にいくわよ、勇者。……死なないでよ」
「……何をする気だ?」
レオンが訝しげに問いかける。
ゼノヴィアは答えなかった。
ただ、その薄い唇に残酷なほど美しい笑みを浮かべるだけ。
彼女はレイピアの切っ先を地面に突き立てた。
そして、その華奢な体におよそ似つかわしくないほどの膨大な魔力を練り上げ始めた。
周囲の空気が急速に冷え込んでいく。
床が、壁が、天井が、みるみるうちに白く凍りついていく。
「―――絶対零度(アブソリュート・ゼロ)」
彼女の静かな囁き。
それは彼女の奥義。
あらゆる熱を奪い、生命活動を完全に停止させる究極の氷結魔法。
ズドドドドドドッ!
彼女を中心に絶対零度の冷気が爆発的に広がっていく。
それは全てを飲み込む白い死の波。
眷属たちは逃げる間もなく、その白い波に飲み込まれていく。
甲高い悲鳴を上げる暇さえなく。
彼らはその場で瞬時に凍りつき、生命の光を失った氷のオブジェへと変わっていった。
広大な通路を埋め尽くしていた数十体の魔物が、たった一撃で完全に沈黙した。
「……す、凄いな」
レオンは、そのあまりの威力に呆然と呟いた。聖なるオーラで身を守っていなければ、自分も凍りついていたかもしれない。
だが、ゼノヴィアの消耗も激しかった。
その額には玉の汗が浮かび、その白い肌はさらに血の気を失っている。
「……はぁ、はぁ……これで少しは静かになったかしら……」
彼女がよろめきかけた、その時だった。
通路の一番奥。
闇のさらに深い場所から、今までとは比べ物にならないほどの巨大なプレッシャーが放たれた。
ゴゴゴゴゴ……。
遺跡全体が揺れる。
ゼノヴィアが凍らせたはずの眷属たちの氷像に、次々と亀裂が入っていく。
そして、その奥の闇からゆっくりと姿を現したのは。
他の眷属たちの倍はあろうかという巨大な個体だった。
その甲殻は黒曜石のように黒く輝き、その鎌のような前足は鋼鉄さえも切り裂きそうだ。
そして何よりも違うのは、その頭部。
そこには、まるで人間の女性の上半身が生えているかのような異様な姿。
その顔には苦悶と憎悪に満ちた表情が浮かんでいる。
「……あれが女王(クイーン)ね」
ゼノヴィアが憎々しげに呟いた。
女王は甲高い金切り声を上げた。
その声は超音波となり、周囲の氷像を粉々に打ち砕く。
氷の中から解放された眷属たちが、再び動き出した。
「……ちっ! やはりこれだけでは死なんかっ!」
レオンが悪態をつく。
状況は振り出しに戻ってしまった。
いや、それ以上に悪い。
最強の奥義を放ったゼノヴィアは消耗しきっている。
そして目の前には最強の敵が君臨している。
絶体絶命。
その時だった。
「……貸し、一つだったわね、勇者」
ゼノヴィアがレオンの背中に向かって囁いた。
「え……?」
「この前の借りを返す時が来たようよ」
彼女はそう言うと、レオンの背中にそっとその白い手を触れた。
彼女の体に残っていた最後の魔力が、レオンの体へと流れ込んでいく。
それは彼女の魔力の本質。
氷の力。
「―――ぐっ!?」
レオンの体が内側から凍りつくような激痛に襲われる。
だが、それは破壊の力ではなかった。
彼の聖なる光の力と彼女の絶対零度の氷の力が、その体の中で混じり合い、螺旋を描くように融合していく。
光と氷。
相反する二つの力が奇跡の相乗効果を生み出す。
「行け、勇者」
ゼノヴィアの声が聞こえる。
「私の全てをお前に託す」
レオンの聖剣が、今まで放ったことのない凄まじい輝きを放ち始めた。
黄金の光と白銀の氷が混じり合った、オーロラのような輝き。
「……ああ。確かに受け取った」
レオンは立ち上がった。
その体はもはや一人の勇者のものではなかった。
勇者の剣と魔将の槍。
二人の英雄の魂が、今、一つになる。
彼は女王に向かって一直線に駆け出した。
その一歩一歩が地面を凍りつかせ、そしてその軌跡からは聖なる光が立ち上る。
最後の戦いが始まろうとしていた。
アリアとカイザーが待つその場所へと、道を切り拓くための最後の戦いが。
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