クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第50話 告白の決意

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後夜祭のキャンプファイヤーが消え、楽しかった文化祭は終わりを告げた。
翌日の月曜日は、片付けのための特別登校日。クラスの全員が祭りの後の心地よい疲労感と、少しの寂しさを感じながら、教室の装飾を外したり机を元に戻したりしていた。

教室の空気は今までで一番和やかだったかもしれない。
文化祭という一つの目標に向かってクラスが団結したことで、見えない壁のようなものが完全に取り払われていた。あちこちで今まで話したこともなかったような生徒同士が、楽しそうに談笑している。
その輪の中心には、やはり雫がいた。
「月宮さん、このケーキのレシピ教えてくれない?」
「文化祭終わっても、また作ってきてよー!」
女子たちがすっかり彼女に懐いている。雫も以前のように固くなることなく、はにかみながらも彼女たちとのコミュニケーションを楽しんでいるようだった。

俺はそんな光景を少し離れた場所から目を細めて眺めていた。
彼女が笑っている。
ただそれだけで、俺の心は満たされる。

ふと彼女と目が合った。
お互いの脳裏に、キャンプファイヤーの下での出来事がフラッシュバックする。
二人して顔がぼっと赤くなるのが分かった。
俺たちが慌てて視線を逸らすと、それを見ていた健太と天野さんたちが「はいはい、ごちそうさまー」「青春だねえ」とニヤニヤしながら冷やかしてくる。俺は「うるせえ!」と照れ隠しに返すことしかできない。
この甘酸っぱくて、くすぐったい空気。
嫌いじゃなかった。

全ての片付けが終わり、教室が元の見慣れた姿に戻っていく。
窓の外はもう夕暮れの色に染まり始めていた。
「よし、これで終わりだ! みんな、お疲れさん!」
健太の号令で、クラスの全員が拍手をした。大きな達成感が教室を満たしている。
生徒たちは三々五々帰り支度を始め、「お疲れー」「また明日なー」と言い合いながら教室を後にしていく。

俺も鞄を肩にかけ、帰ろうとした。
その時だった。
雫が俺のそばにそっと近づいてきた。
そして、周りの生徒たちに聞こえないように俺の制服の裾を、ちょん、と遠慮がちに引っ張った。
俺が振り返ると、彼女は少しだけ頬を染めながら手話でメッセージを送ってくれた。

『一緒に帰らない?』

その可愛すぎるお誘い。
断る理由なんて天地がひっくり返っても存在するはずがない。
俺は心の中で特大のガッツポーズをしながら、平静を装って力強く頷いた。
「ああ、もちろん」

二人並んで夕暮れの廊下を歩く。
もうすれ違っていた頃の気まずい沈黙はない。
そこにあるのは言葉にしなくても伝わる、温かくて穏やかな空気だった。
時折肩が触れ合うだけで、お互いの心臓が甘く跳ねるのを感じる。

昇降口で靴を履き替え、校門を出る。
夏の終わりを告げる、少しだけ涼しい風が火照った俺たちの頬を優しく撫でていった。
「どっちの方向?」
俺が尋ねると、彼女は俺と同じ駅の方向を指差した。
帰り道も一緒だ。
その小さな偶然がどうしようもなく嬉しかった。

二人並んで歩く夕暮れの帰り道。
他愛ない話を、手話と時々スマホのメッセージで交わす。
『片付け、疲れたね』
『でも、すごく楽しかった』
『うん。雫のおかげだよ。最高の文化祭になった』
俺がそう伝えると、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
その反応の一つ一つがたまらなく愛おしい。

好きだ。
この気持ちが胸の奥からもう溢れ出してしまいそうだった。
キャンプファイヤーの下で勢いで伝えてしまったけれど。
そうじゃない。
もっとちゃんと。
俺の本当の言葉で彼女に伝えたい。
俺と付き合ってほしい、と。

いつ言おうか。
どこで伝えようか。
最高のシチュエーションはどんな場所だろう。
俺の頭の中はそのことでいっぱいになっていた。

駅までの道のりの途中、小さな公園を通り過ぎる。
その公園の隅に街を一望できる小さな丘があるのを俺は知っていた。
夕日を浴びて街全体がキラキラと輝いている。
綺麗だな、と俺が思っていると、隣を歩いていた雫も同じ場所を見てうっとりと目を細めていた。

ここだ。
俺は直感的にそう思った。
初めてカフェに行った日に二人で綺麗だと話していた、あの丘の公園。
あそこなら。
あそこなら俺の気持ちを最高の形で伝えられるかもしれない。

俺は心に固く決意した。
次の週末。
彼女をあの場所に呼び出そう。
そして、俺のこのどうしようもないくらい大きな想いを全部伝えよう。

「雫」
俺は彼女の名前を呼んだ。
驚いて振り返る、その愛しい顔。
俺は彼女の目を真っ直ぐに見つめて、少しだけ震える指でメッセージを紡いだ。

『今度の週末、空いてる?』
『話したいことがあるんだ』

俺の真剣な眼差し。
その意味を彼女はすぐに察してくれたようだった。
彼女の頬が、ぽっと夕焼け色に染まる。
そして、期待と緊張と喜びが入り混じった最高の笑顔で。
彼女は一度だけ力強く頷いてくれた。

俺たちの文化祭は終わった。
でも、それは俺たちの恋の物語の、本当の始まりを告げるファンファーレだったのかもしれない。
告白へのカウントダウンが今、静かに始まった。
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