外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第33話:聖剣、完全復活

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私は壊れた聖剣エクシードに両手を重ね、静かに目を閉じた。
心の中では、先ほどまで語り合っていたエクシードの気高い意思が、共鳴するように穏やかな光を放っている。私たちは、もう孤独ではない。互いの存在を認め合い、一つの目的のために結ばれた、魂のパートナーだった。
私は意識を集中させた。
スキル【修復】。
これまで幾度となく行ってきた力の解放。しかし、今日のそれは、全く次元が違っていた。
私の内なる力に、エクシード自身の力が呼応し、増幅されていく。まるで、小さな川が、雄大な大河へと合流していくかのように。私自身の魂の光と、聖剣に宿る古の光が、完全に一つに溶け合っていく。
「……!」
私の身体から、これまで経験したことのないほどの、膨大で、そして神々しいまでのエネルギーが溢れ出した。
それは、黄金色の光だった。
アシュレイ様の呪いを癒した時の、あの温かい光。しかし、その輝きは、もはや陽だまりなどという生易しいものではない。まるで、部屋の中に太陽そのものが現れたかのような、圧倒的な光量。
応接室の全てが、眩い黄金色の光に包まれた。
アシュレイ様が、咄嗟に腕で目を庇うのが気配で分かった。セバスチャンさんやマーサさんも、その場に跪き、奇跡の顕現に息をのんでいる。

――さあ、我が主よ。あるべき姿へと、我を還すのだ!

エクシードの歓喜の声が、私の心に響き渡る。
私は、その声に導かれるままに、光の奔流を聖剣へと注ぎ込んだ。
まず、キィン、という甲高い金属音が響いた。
折れていた刀身の断面から、さらに強い光が迸る。そして、二つに分かれていた刀身が、まるで磁石のように互いに引き寄せられ、ゆっくりと、しかし確実に一つに繋がっていく。
その様は、まるで時間を逆行させているかのようだった。
やがて、断面は完全に癒合し、一筋の線さえ残さず、滑らかな一本の剣身へと姿を変えた。
だが、奇跡はそれだけでは終わらない。
無数にあった刃こぼれやひび割れが、光に溶けるようにして次々と消え失せていく。輝きを失っていた鈍色の刀身は、まるで生まれたての金属のように、まばゆい銀色の輝きを取り戻していく。
柄に嵌め込まれた青い宝石は、百年の眠りから覚めたように、内部から pulsating するかのような深い光を放ち始めた。

――まだだ、我が主よ。ただ元に戻すだけでは終わらぬ。我らは、さらにその先へ……進化するのだ!

エクシードの言葉に、私はさらに強く力を込めた。
ただの『修復』ではない。破壊される以前よりも、さらに強く、さらに美しく。この聖剣が持つポテンシャルを、最大限に引き出すのだ。
すると、銀色に輝いていた刀身の上に、まるで龍の鱗のような、微細で美しい紋様が浮かび上がり始めた。それは、神聖なルーン文字にも似た、古代の力の象徴。
剣の鍔や柄の部分にも、精緻で優雅な彫刻が、まるで命を得たかのようにひとりでに刻まれていく。
そして、全ての修復が終わった瞬間。
黄金色の光は、一気にその輝きを増し、天へと昇る光の柱となった。公爵邸の屋根を突き抜け、王都の空を、一瞬だけ真昼のように照らし出した。

やがて、光はゆっくりと収まっていった。
後に残された応接室には、しんと静まり返った空気と、呆然と立ち尽くす人々、そして――
テーブルの上には、もはや『壊れた剣』の面影はどこにもなかった。
そこに在ったのは、神々しいまでのオーラを放つ、一本の完璧な聖剣。
流れるような曲線を描く刀身は、鏡のように磨き上げられ、室内の光を複雑に反射させている。浮かび上がった紋様は、見る角度によって淡い虹色に輝きを変えた。柄の宝石は、まるで星の核のように、静かながらも力強い光を放ち続けていた。
それは、百年前の姿を取り戻しただけではない。明らかに、それ以上の力と美しさを秘めた、新たな聖剣として生まれ変わっていた。
私は、ゆっくりと目を開けた。
膨大な力を使ったはずなのに、不思議と疲労感はなかった。むしろ、エクシードと繋がったことで、私の内なる力は、さらに満ち足りているような感覚さえあった。
私は、生まれ変わった聖剣を、そっと両手で持ち上げた。
ずしりとした、心地よい重み。けれど、それは不思議と私の手にしっくりと馴染んだ。まるで、最初から私のために作られたかのように。
私は、その聖剣を胸に抱き、ゆっくりとアシュレイ様の方へと向き直った。
彼は、腕を下ろし、ただ呆然と、目の前の光景を見つめていた。その紫の瞳は、これ以上ないほどに見開かれ、驚愕と、畏敬と、そして……私に対する、どうしようもないほどの深い愛情に、揺らめいていた。
「アシュレイ様」
私は、彼の名前を呼んだ。
そして、精一杯の、そしてこれまでで一番自信に満ちた笑顔で、告げた。
「お約束、果たしました」
その言葉が、彼の心を現実へと引き戻した。
彼は、ふらりと、一歩こちらへ足を踏み出した。そして、私の前に立つと、何を言うでもなく、ただ、私の頬にそっと触れた。その指先は、微かに震えていた。
「……リナリア」
ようやく絞り出した彼の声は、感動と、そして歓喜に、震えていた。
「君は……君は、本当に……」
彼は、言葉を続けることができなかった。
ただ、その瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。
それは、オルゴールの時とは違う。彼自身の、未来への確かな希望を見出した、歓喜の涙だった。
聖剣エクシードの完全復活。
それは、私の運命が、そしてこの国の運命が、新たなステージへと進むことを告げる、荘厳なファンファーレだった。
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