この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ

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第98話 涙の卒業式

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玲の感動的な答辞が終わり、卒業式は厳かな雰囲気のうちにその全てのプログラムを終えようとしていた。最後の校歌斉唱。俺たちは肩を組み、これが最後になるであろう学園の校歌を声の限り歌った。隣に立つ葵の肩が、微かに震えているのが分かった。

「……以上をもちまして、令和〇年度、私立獅子王院学園、卒業証書授与式を閉会いたします」

司会の教師の言葉と共に、三年間という長くて短かった俺たちの学園生活は、正式にその幕を閉じた。
講堂は再び大きな拍手に包まれた。だが、それは先ほどの答辞の時のような熱狂的なものではなく、どこか名残惜しさを湛えた温かい拍手だった。

卒業生たちがクラスごとに退場していく。
俺たち三年A組も列になって、慣れ親しんだ教室へと戻っていった。
教室では、担任教師による最後のホームルームが待っていた。

「……お前ら、卒業、おめでとう」
いつもは厳しい担任教師の、その少しだけ震えた声に、俺たちは改めて卒業という事実を実感させられた。
一人一人に卒業アルバムが手渡される。ページをめくると、そこには体育祭で、文化祭で、そして何でもない日常の中で笑い合う俺たちの姿が鮮やかに記録されていた。
そのどれもがキラキラと輝く、宝物のような思い出だ。

ホームルームが終わり、解散が告げられる。
その瞬間、今まで張り詰めていた何かがぷつりと切れたように、教室のあちこちで嗚咽が漏れ始めた。
「うわあああん! 終わりたくねえよぉ!」
「また絶対会おうな!」

クラスメイトたちが互いに抱き合い、肩を叩き合い、涙ながらに別れを惜しんでいる。
男同士の熱い友情。……いや、その内実は三年間苦楽を共にしてきた男装女子たちの涙の別れだ。
彼女たちは皆、明日からは男のフリをする必要のない新しい生活へと踏み出す。そこには期待と、そして同じくらいの不安があるのだろう。

俺たち五人もその輪の中心にいた。
「うっ……ひっく……祐樹ぃ、玲ぇ……俺、お前らと離れたくねえよぉ……」
葵が子供のようにわんわんと泣きじゃくっている。その大きな身体で、俺と玲にぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
「泣かないでよ、葵先輩……もらい泣きしちゃうじゃないですか……うぅ……」
湊もその大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。

雅は一人窓の外を眺めて必死に涙を堪えているようだった。だが、その肩は小刻みに震えている。
玲も気丈に振る舞ってはいたが、その瞳は真っ赤に潤んでいた。

俺はそんな彼女たちの姿をただ黙って見つめていた。
寂しい。心の底からそう思う。
この騒がしくて温かくてかけがえのない日常が、今日で終わってしまう。
もうこの教室で、このメンバーで馬鹿みたいに笑い合うことは二度とないのだ。

込み上げてくる感情に俺の視界も滲んで歪んだ。
だが、俺は泣かなかった。
泣いてはいけない。俺が泣いてしまったら、彼女たちが安心して未来へと歩き出せない気がしたからだ。

俺は葵の大きな背中を優しく、しかし力強く叩いた。
「……終わりじゃないだろ」
俺のその一言に、泣きじゃくっていた四人がはっと顔を上げた。

「玲の答辞にもあったじゃないか」
俺は四人の顔を一人一人しっかりと見つめて言った。
「これは、別れじゃない。始まりなんだって」
俺は精一杯の笑顔を作って見せた。
「俺たちはこれからもずっと仲間だ。離れたって何も変わらない。そうだろ?」

俺のその言葉に、四人はしばらくの間何も言えずにただ俺の顔を見つめていた。
そして、やがて誰からともなくこくんと力強く頷いた。
葵が、湊が、雅が、そして玲が、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、最高の笑顔を見せてくれた。

「……そうだな!」
「……そうですよね!」
「……ああ」
「……ええ、そうね」

そうだ。これで終わりなんかじゃない。
俺たちの物語はここからが本当の始まりなのだから。

涙の卒業式。
それは三年間という青春の終わりを告げる儀式であると同時に、俺たち五人の未来への力強い船出を祝う最高の門出となった。
俺たちは涙の向こうにある、それぞれの輝かしい未来を確かに見ていた。
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