98 / 100
第98話 涙の卒業式
しおりを挟む
玲の感動的な答辞が終わり、卒業式は厳かな雰囲気のうちにその全てのプログラムを終えようとしていた。最後の校歌斉唱。俺たちは肩を組み、これが最後になるであろう学園の校歌を声の限り歌った。隣に立つ葵の肩が、微かに震えているのが分かった。
「……以上をもちまして、令和〇年度、私立獅子王院学園、卒業証書授与式を閉会いたします」
司会の教師の言葉と共に、三年間という長くて短かった俺たちの学園生活は、正式にその幕を閉じた。
講堂は再び大きな拍手に包まれた。だが、それは先ほどの答辞の時のような熱狂的なものではなく、どこか名残惜しさを湛えた温かい拍手だった。
卒業生たちがクラスごとに退場していく。
俺たち三年A組も列になって、慣れ親しんだ教室へと戻っていった。
教室では、担任教師による最後のホームルームが待っていた。
「……お前ら、卒業、おめでとう」
いつもは厳しい担任教師の、その少しだけ震えた声に、俺たちは改めて卒業という事実を実感させられた。
一人一人に卒業アルバムが手渡される。ページをめくると、そこには体育祭で、文化祭で、そして何でもない日常の中で笑い合う俺たちの姿が鮮やかに記録されていた。
そのどれもがキラキラと輝く、宝物のような思い出だ。
ホームルームが終わり、解散が告げられる。
その瞬間、今まで張り詰めていた何かがぷつりと切れたように、教室のあちこちで嗚咽が漏れ始めた。
「うわあああん! 終わりたくねえよぉ!」
「また絶対会おうな!」
クラスメイトたちが互いに抱き合い、肩を叩き合い、涙ながらに別れを惜しんでいる。
男同士の熱い友情。……いや、その内実は三年間苦楽を共にしてきた男装女子たちの涙の別れだ。
彼女たちは皆、明日からは男のフリをする必要のない新しい生活へと踏み出す。そこには期待と、そして同じくらいの不安があるのだろう。
俺たち五人もその輪の中心にいた。
「うっ……ひっく……祐樹ぃ、玲ぇ……俺、お前らと離れたくねえよぉ……」
葵が子供のようにわんわんと泣きじゃくっている。その大きな身体で、俺と玲にぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
「泣かないでよ、葵先輩……もらい泣きしちゃうじゃないですか……うぅ……」
湊もその大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。
雅は一人窓の外を眺めて必死に涙を堪えているようだった。だが、その肩は小刻みに震えている。
玲も気丈に振る舞ってはいたが、その瞳は真っ赤に潤んでいた。
俺はそんな彼女たちの姿をただ黙って見つめていた。
寂しい。心の底からそう思う。
この騒がしくて温かくてかけがえのない日常が、今日で終わってしまう。
もうこの教室で、このメンバーで馬鹿みたいに笑い合うことは二度とないのだ。
込み上げてくる感情に俺の視界も滲んで歪んだ。
だが、俺は泣かなかった。
泣いてはいけない。俺が泣いてしまったら、彼女たちが安心して未来へと歩き出せない気がしたからだ。
俺は葵の大きな背中を優しく、しかし力強く叩いた。
「……終わりじゃないだろ」
俺のその一言に、泣きじゃくっていた四人がはっと顔を上げた。
「玲の答辞にもあったじゃないか」
俺は四人の顔を一人一人しっかりと見つめて言った。
「これは、別れじゃない。始まりなんだって」
俺は精一杯の笑顔を作って見せた。
「俺たちはこれからもずっと仲間だ。離れたって何も変わらない。そうだろ?」
俺のその言葉に、四人はしばらくの間何も言えずにただ俺の顔を見つめていた。
そして、やがて誰からともなくこくんと力強く頷いた。
葵が、湊が、雅が、そして玲が、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、最高の笑顔を見せてくれた。
「……そうだな!」
「……そうですよね!」
「……ああ」
「……ええ、そうね」
そうだ。これで終わりなんかじゃない。
俺たちの物語はここからが本当の始まりなのだから。
涙の卒業式。
それは三年間という青春の終わりを告げる儀式であると同時に、俺たち五人の未来への力強い船出を祝う最高の門出となった。
俺たちは涙の向こうにある、それぞれの輝かしい未来を確かに見ていた。
「……以上をもちまして、令和〇年度、私立獅子王院学園、卒業証書授与式を閉会いたします」
司会の教師の言葉と共に、三年間という長くて短かった俺たちの学園生活は、正式にその幕を閉じた。
講堂は再び大きな拍手に包まれた。だが、それは先ほどの答辞の時のような熱狂的なものではなく、どこか名残惜しさを湛えた温かい拍手だった。
卒業生たちがクラスごとに退場していく。
俺たち三年A組も列になって、慣れ親しんだ教室へと戻っていった。
教室では、担任教師による最後のホームルームが待っていた。
「……お前ら、卒業、おめでとう」
いつもは厳しい担任教師の、その少しだけ震えた声に、俺たちは改めて卒業という事実を実感させられた。
一人一人に卒業アルバムが手渡される。ページをめくると、そこには体育祭で、文化祭で、そして何でもない日常の中で笑い合う俺たちの姿が鮮やかに記録されていた。
そのどれもがキラキラと輝く、宝物のような思い出だ。
ホームルームが終わり、解散が告げられる。
その瞬間、今まで張り詰めていた何かがぷつりと切れたように、教室のあちこちで嗚咽が漏れ始めた。
「うわあああん! 終わりたくねえよぉ!」
「また絶対会おうな!」
クラスメイトたちが互いに抱き合い、肩を叩き合い、涙ながらに別れを惜しんでいる。
男同士の熱い友情。……いや、その内実は三年間苦楽を共にしてきた男装女子たちの涙の別れだ。
彼女たちは皆、明日からは男のフリをする必要のない新しい生活へと踏み出す。そこには期待と、そして同じくらいの不安があるのだろう。
俺たち五人もその輪の中心にいた。
「うっ……ひっく……祐樹ぃ、玲ぇ……俺、お前らと離れたくねえよぉ……」
葵が子供のようにわんわんと泣きじゃくっている。その大きな身体で、俺と玲にぎゅうぎゅうと抱きついてくる。
「泣かないでよ、葵先輩……もらい泣きしちゃうじゃないですか……うぅ……」
湊もその大きな瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。
雅は一人窓の外を眺めて必死に涙を堪えているようだった。だが、その肩は小刻みに震えている。
玲も気丈に振る舞ってはいたが、その瞳は真っ赤に潤んでいた。
俺はそんな彼女たちの姿をただ黙って見つめていた。
寂しい。心の底からそう思う。
この騒がしくて温かくてかけがえのない日常が、今日で終わってしまう。
もうこの教室で、このメンバーで馬鹿みたいに笑い合うことは二度とないのだ。
込み上げてくる感情に俺の視界も滲んで歪んだ。
だが、俺は泣かなかった。
泣いてはいけない。俺が泣いてしまったら、彼女たちが安心して未来へと歩き出せない気がしたからだ。
俺は葵の大きな背中を優しく、しかし力強く叩いた。
「……終わりじゃないだろ」
俺のその一言に、泣きじゃくっていた四人がはっと顔を上げた。
「玲の答辞にもあったじゃないか」
俺は四人の顔を一人一人しっかりと見つめて言った。
「これは、別れじゃない。始まりなんだって」
俺は精一杯の笑顔を作って見せた。
「俺たちはこれからもずっと仲間だ。離れたって何も変わらない。そうだろ?」
俺のその言葉に、四人はしばらくの間何も言えずにただ俺の顔を見つめていた。
そして、やがて誰からともなくこくんと力強く頷いた。
葵が、湊が、雅が、そして玲が、涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、最高の笑顔を見せてくれた。
「……そうだな!」
「……そうですよね!」
「……ああ」
「……ええ、そうね」
そうだ。これで終わりなんかじゃない。
俺たちの物語はここからが本当の始まりなのだから。
涙の卒業式。
それは三年間という青春の終わりを告げる儀式であると同時に、俺たち五人の未来への力強い船出を祝う最高の門出となった。
俺たちは涙の向こうにある、それぞれの輝かしい未来を確かに見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な高校生、相沢優斗。彼の隣の席は『氷の女王』と噂のクールな銀髪美少女、雪城冬花。住む世界が違うと思っていたが、ある日彼女から「私はあなたの未来の妻です」と衝撃の告白を受ける。
その日から、学校では鉄壁の彼女が、二人きりになると「未来では当然です」と腕を組み、手作り弁当で「あーん」を迫る超絶甘々なデレモードに!
戸惑いながらも、彼女の献身的なアプローチに心惹かれていく優斗。これは未来で結ばれる運命の二人が、最高の未来を掴むため、最高の恋をする糖度MAXの青春ラブコメディ。
クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。
ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。
無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。
クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる