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第97話 答辞
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卒業式の朝。空は俺たちの門出を祝うかのように、雲一つない快晴だった。
俺は三年間着慣れた、しかし今日で最後となる制服のネクタイを鏡の前で締め直した。隣では玲が同じように、寸分の乱れもなく身支度を整えている。その横顔はいつもと同じ、完璧な王子様のそれだった。だが、俺だけには分かった。そのクールな表情の下で、彼女が様々な感情と戦っていることを。
式典が行われる講堂は、卒業生とその保護者たち、そして在校生で埋め尽くされていた。厳かで、しかしどこか温かい空気が会場を包んでいる。
俺たち五人はクラスの列で隣同士に並んで座っていた。誰も何も話さない。ただ、時折視線を交わし、互いの存在を確かめ合うように小さく微笑み合うだけだった。
式は粛々と進行していく。卒業証書授与。学園長式辞。在校生送辞。
そして、いよいよ式のクライマックスである、卒業生代表による答辞の時間がやってきた。
「卒業生代表、橘玲君」
司会の教師に名前を呼ばれ、玲が静かに席を立った。
会場中の視線が彼女一人に注がれる。
彼女は一瞬だけ俺の方を振り返った。そして、大丈夫、というように小さく力強く頷いてみせる。
俺も彼女に向かって無言で頷き返した。
壇上へと向かう彼女の背筋は、どこまでも真っ直ぐだった。
その姿は三年前、入学式の時に新入生代表として同じ場所に立った時のことを鮮明に思い出させた。
あの時はただただ遠い存在に見えた、完璧な王子様。
だが、今の彼女は違う。
俺は彼女の強さも弱さも、その全てを知っている。
壇上に上がった玲はマイクの前に立つと、一度深く息を吸い込んだ。
そして、卒業生、保護者、教師、その全てを見渡しながら、澄み渡るような凛とした声で言葉を紡ぎ始めた。
「本日、私たち卒業生は、三ヶ年の全ての課程を修了し、この獅子王院学園を卒業いたします」
その声は講堂の隅々にまで凛と響き渡った。
彼女は入学からの三年間を一つ一つ丁寧に振り返っていく。
初めてこの学園の門をくぐった時の期待と不安。
レベルの高い授業に必死で食らいついた日々。
体育祭でクラス一丸となって勝利を掴んだ、あの歓喜。
文化祭で仲間たちと夜を徹して準備した、あの熱狂。
そのどれもが俺たち五人が共に駆け抜けてきた、かけがえのない思い出だった。
「私たちはこの学園で多くのことを学びました。知識や教養だけではありません。……私たちはここで、かけがえのない『仲間』と出会いました」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その視線をまっすぐに俺たちのいる卒業生の席へと向けた。
その視線は葵を、湊を、雅を、そして俺を、一人一人確かめるように捉えていた。
「時にはぶつかり合い、時には共に涙し、そしてどんな時も互いを信じ、支え合ってきた最高の仲間たち。……彼らがいなければ、今の私はここにいません」
その言葉に、葵がぐっと唇を噛み締めた。
湊の瞳がきらりと光った。
雅が俯いて肩を震わせた。
俺も込み上げてくる熱いものを必死で堪えていた。
「そして」と彼女は続けた。その声には今まで以上の深い、深い感謝の念が込められていた。
「……たった一人の特別な友人が、私に教えてくれました」
会場がわずかにざわめいた。
玲の視線はもう俺から逸らされなかった。
それは他の誰でもない、俺だけに向けられた言葉だった。
「彼は私に本当の強さとは何かを教えてくれました。自分の弱さを受け入れ、それでも前を向く勇気をくれました。……そして、一人では見ることのできなかった未来という名の光を見せてくれました」
彼女の瞳から一筋の涙がそっとこぼれ落ちた。
だが、彼女の声は少しも震えていなかった。
「彼に伝えたい。……君と出会えて、本当によかった。……君がいたから、私は私でいられた。……心から、ありがとう、と」
その言葉はもはや答辞ではなかった。
それは橘玲という一人の少女から、相葉祐樹という一人の少年へ贈られた、最高のラブレターだった。
俺はもう涙を堪えることができなかった。
彼女の全ての想いを真正面から受け止めていた。
答辞の最後を、彼女は力強い決意の言葉で締めくくった。
「私たちは今日、この学び舎を巣立ちます。ですが、別れではありません。これは新たな始まりです。この学園で得た知識と誇り、そしてかけがえのない絆を胸に、私たちはそれぞれの未来へと力強く歩んでいくことを、ここに誓います!」
その言葉と共に彼女は深く、深く一礼した。
講堂は割れんばかりの万雷の拍手に包まれた。
それは卒業生代表、橘玲へ。
そして、男装という仮面の下で三年間を戦い抜いた、一人の強く美しい少女へ贈られた最高の賛辞だった。
男装した凛々しい姿での最後のスピーチ。
その言葉の節々には確かに俺への、そして俺たち仲間への愛が込められていた。
俺は鳴り止まない拍手の中で、ただ誇らしげに壇上で輝く彼女の姿を見つめ続けていた。
俺は三年間着慣れた、しかし今日で最後となる制服のネクタイを鏡の前で締め直した。隣では玲が同じように、寸分の乱れもなく身支度を整えている。その横顔はいつもと同じ、完璧な王子様のそれだった。だが、俺だけには分かった。そのクールな表情の下で、彼女が様々な感情と戦っていることを。
式典が行われる講堂は、卒業生とその保護者たち、そして在校生で埋め尽くされていた。厳かで、しかしどこか温かい空気が会場を包んでいる。
俺たち五人はクラスの列で隣同士に並んで座っていた。誰も何も話さない。ただ、時折視線を交わし、互いの存在を確かめ合うように小さく微笑み合うだけだった。
式は粛々と進行していく。卒業証書授与。学園長式辞。在校生送辞。
そして、いよいよ式のクライマックスである、卒業生代表による答辞の時間がやってきた。
「卒業生代表、橘玲君」
司会の教師に名前を呼ばれ、玲が静かに席を立った。
会場中の視線が彼女一人に注がれる。
彼女は一瞬だけ俺の方を振り返った。そして、大丈夫、というように小さく力強く頷いてみせる。
俺も彼女に向かって無言で頷き返した。
壇上へと向かう彼女の背筋は、どこまでも真っ直ぐだった。
その姿は三年前、入学式の時に新入生代表として同じ場所に立った時のことを鮮明に思い出させた。
あの時はただただ遠い存在に見えた、完璧な王子様。
だが、今の彼女は違う。
俺は彼女の強さも弱さも、その全てを知っている。
壇上に上がった玲はマイクの前に立つと、一度深く息を吸い込んだ。
そして、卒業生、保護者、教師、その全てを見渡しながら、澄み渡るような凛とした声で言葉を紡ぎ始めた。
「本日、私たち卒業生は、三ヶ年の全ての課程を修了し、この獅子王院学園を卒業いたします」
その声は講堂の隅々にまで凛と響き渡った。
彼女は入学からの三年間を一つ一つ丁寧に振り返っていく。
初めてこの学園の門をくぐった時の期待と不安。
レベルの高い授業に必死で食らいついた日々。
体育祭でクラス一丸となって勝利を掴んだ、あの歓喜。
文化祭で仲間たちと夜を徹して準備した、あの熱狂。
そのどれもが俺たち五人が共に駆け抜けてきた、かけがえのない思い出だった。
「私たちはこの学園で多くのことを学びました。知識や教養だけではありません。……私たちはここで、かけがえのない『仲間』と出会いました」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その視線をまっすぐに俺たちのいる卒業生の席へと向けた。
その視線は葵を、湊を、雅を、そして俺を、一人一人確かめるように捉えていた。
「時にはぶつかり合い、時には共に涙し、そしてどんな時も互いを信じ、支え合ってきた最高の仲間たち。……彼らがいなければ、今の私はここにいません」
その言葉に、葵がぐっと唇を噛み締めた。
湊の瞳がきらりと光った。
雅が俯いて肩を震わせた。
俺も込み上げてくる熱いものを必死で堪えていた。
「そして」と彼女は続けた。その声には今まで以上の深い、深い感謝の念が込められていた。
「……たった一人の特別な友人が、私に教えてくれました」
会場がわずかにざわめいた。
玲の視線はもう俺から逸らされなかった。
それは他の誰でもない、俺だけに向けられた言葉だった。
「彼は私に本当の強さとは何かを教えてくれました。自分の弱さを受け入れ、それでも前を向く勇気をくれました。……そして、一人では見ることのできなかった未来という名の光を見せてくれました」
彼女の瞳から一筋の涙がそっとこぼれ落ちた。
だが、彼女の声は少しも震えていなかった。
「彼に伝えたい。……君と出会えて、本当によかった。……君がいたから、私は私でいられた。……心から、ありがとう、と」
その言葉はもはや答辞ではなかった。
それは橘玲という一人の少女から、相葉祐樹という一人の少年へ贈られた、最高のラブレターだった。
俺はもう涙を堪えることができなかった。
彼女の全ての想いを真正面から受け止めていた。
答辞の最後を、彼女は力強い決意の言葉で締めくくった。
「私たちは今日、この学び舎を巣立ちます。ですが、別れではありません。これは新たな始まりです。この学園で得た知識と誇り、そしてかけがえのない絆を胸に、私たちはそれぞれの未来へと力強く歩んでいくことを、ここに誓います!」
その言葉と共に彼女は深く、深く一礼した。
講堂は割れんばかりの万雷の拍手に包まれた。
それは卒業生代表、橘玲へ。
そして、男装という仮面の下で三年間を戦い抜いた、一人の強く美しい少女へ贈られた最高の賛辞だった。
男装した凛々しい姿での最後のスピーチ。
その言葉の節々には確かに俺への、そして俺たち仲間への愛が込められていた。
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