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第49話:迫る脅威、決断の時
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行商人からもたらされた王国の調査団派遣の報は、瞬く間にテル村全体に広がり、穏やかだった村の空気を一変させた。村人たちの間には動揺と不安が走り、あちこちで囁き声が交わされる。
「王国の騎士団が来るって本当か!?」
「俺たち、どうなっちまうんだ…」
「まさか、村を潰しに来るんじゃ…」
これまでの平和な日々が嘘のように、村は重苦しい雰囲気に包まれた。このままでは、戦う前に村の結束が崩壊しかねない。俺はすぐさま村長に頼み、村の有力者――猟師長や、古くから村に住む長老たち、そして拠点建設の中心となっていた若者たち――を集め、緊急の対策会議を開いた。もちろん、シルフィとレナも同席した。
集会所に集まった人々の表情は、一様に硬い。村長が事の次第を説明すると、会議はすぐに意見の対立を見せた。
「王国に逆らうなど、無謀じゃ! 我々は辺境のしがない村人に過ぎん。素直に調査団を迎え入れ、事情を説明し、穏便に済ませるべきじゃ!」
最初に口火を切ったのは、村の長老の一人だった。彼の意見には、長年の経験から来る現実的な判断と、王国への潜在的な恐怖があった。彼に同調する者も少なくない。
しかし、それに対して、血気盛んな猟師長が猛然と反論した。
「馬鹿を言うな! 奴らが『支援』だの『調査』だの言って近づいてくる時は、ろくなことがあった試しがねぇ! きっとこの村の豊かさや、カイトさんたちの力を嗅ぎつけて、根こそぎ奪いに来るに決まってる! 黙って首を差し出すくらいなら、戦うべきだ!」
彼の言葉にも、力強く頷く者がいた。特に、カイトやレナと共に汗を流してきた若者たちは、戦う意志を固めている者が多いようだった。
穏健派と強硬派。どちらの言い分にも理はある。村長は板挟みになり、苦悩の表情で押し黙っている。会議は紛糾し、結論が出ないまま時間が過ぎていく。
その時、俺は静かに立ち上がり、皆を見渡して口を開いた。
「皆さんの気持ちは分かります。王国は強大です。逆らえば、どうなるか分からない。だが…」
俺は言葉を続け、自分の決意を語った。
「俺たちは、この手で、何もない辺境の地に、ささやかながらも希望を築き上げてきました。水を引き、畑を耕し、家を建て、そして、互いを守るための砦を築いている。この村は、俺たち全員の汗と努力の結晶です。それを、王都の都合で、一方的に踏みにじられるわけにはいかない」
俺の声は、集会所に静かに響き渡った。
「王国が、対話を望むというのなら、俺は喜んで応じます。俺たちのやっていることを説明し、理解を求めます。しかし、もし彼らが力ずくで我々を支配しようとし、仲間たちの自由を奪おうとするならば…俺は戦います。このテル村を、ここにいる全ての仲間たちを、命に代えても守り抜く。それが、俺の決意です」
俺の言葉に、しんと静まり返っていた集会所に、二つの声が響いた。
「私も、カイトと共に戦います」
シルフィが、震えながらも、しかし凛とした声で言った。「この村は、故郷を失った私にとって、かけがえのない大切な居場所です。この場所と、ここにいる皆さんを守るためなら、私の力の全てを使います」
「ったりめーだろ!」
レナが、力強く立ち上がり、宣言した。「カイトが決めたんなら、あたしはどこまでもついていくぜ! 王国の騎士だか何だか知らねぇが、この村に手ぇ出す奴は、あたしが残らずぶっ飛ばしてやる!」
シルフィとレナ。種族も立場も違う二人が、揺るぎない覚悟を示した。その姿は、会議の場の空気を一変させた。迷っていた者たちの目に、決意の光が灯り始める。
「…そうだ、カイトさんの言う通りだ」
「俺たちの村は、俺たちで守るしかねぇ!」
「王国なんかに、好き勝手させてたまるか!」
若者たちを中心に、戦う意志を示す声が次々と上がった。
長老たちも、カイトたちの覚悟と、村の若い世代の熱意に押されたのか、あるいは心のどこかで同じ思いを抱いていたのか、最終的には沈黙を守った。
村長は、皆の顔を見渡し、そして深く息をつくと、腹を括ったように言った。
「…よし、分かった。テル村は、王国には屈しない。カイト、お前さんに、この村の全権を委ねる。我々は、お前さんの指揮に従う!」
村の意思は、一つになった。王国に抗うという、いばらの道を選択したのだ。
決定が下されると、村の空気は一変した。不安は消え去り、代わりに悲壮なまでの決意と、静かな闘志が村全体を覆い始めた。
「時間がない! すぐに迎撃準備を加速するぞ!」
俺の号令の下、村全体が臨戦態勢へと移行した。拠点建設は、防御に関わる部分を最優先に進められた。未完成だった正門部分には、巨大な丸太と岩石で急遽バリケードが築かれ、壁の上には見張り台が次々と設置されていく。
俺は【万物解析】で拠点の構造的な弱点を洗い出し、補強策を指示。村の周囲には、以前よりも巧妙で殺傷能力の高い罠――落とし穴に鋭い杭を仕込んだもの、トリップワイヤーに繋いだ重石、そして火炎瓶のような簡易的な火計トラップ――が、敵の予想進路を計算して多数設置された。
鍛冶場はフル稼働状態となり、ありったけの鉄を使って、矢尻や槍の穂先、そして胸当てや兜といった簡単な防具が、昼夜を問わず作られていく。
シルフィは、防御魔法と支援魔法の精度を高める訓練に集中し、いざという時に仲間を守れるよう備えた。レナは、村の若者たちへの戦闘訓練をさらに厳しくし、個々の能力だけでなく、集団での連携戦闘の動きを叩き込んだ。
村人総出で、食料や水の備蓄が拠点へと運び込まれ、弓矢の手入れが行われ、負傷者が出た場合に備えて、薬草や包帯などの救護物資が準備された。
テル村全体が、来るべき戦いに向けて、一つの巨大な意思を持った生き物のように動き出していた。拠点には、武器を手に訓練に励む若者たちの掛け声が響き、村には静かな、しかし燃えるような決意が満ちている。
俺は、完成に近づく拠点の壁の上から、王都へと続く街道の方角を睨みつけた。地平線の向こうから、いずれ現れるであろう王国の軍勢。その規模も、戦力も、まだ未知数だ。だが、俺たちの覚悟は決まった。
「来るなら来い…」
俺は静かに呟いた。
「この村は、俺たちが必ず守り抜く!」
王国との全面衝突は、もはや避けられないだろう。辺境の小さな村の、存亡を賭けた戦いの火蓋が、切られようとしていた。
「王国の騎士団が来るって本当か!?」
「俺たち、どうなっちまうんだ…」
「まさか、村を潰しに来るんじゃ…」
これまでの平和な日々が嘘のように、村は重苦しい雰囲気に包まれた。このままでは、戦う前に村の結束が崩壊しかねない。俺はすぐさま村長に頼み、村の有力者――猟師長や、古くから村に住む長老たち、そして拠点建設の中心となっていた若者たち――を集め、緊急の対策会議を開いた。もちろん、シルフィとレナも同席した。
集会所に集まった人々の表情は、一様に硬い。村長が事の次第を説明すると、会議はすぐに意見の対立を見せた。
「王国に逆らうなど、無謀じゃ! 我々は辺境のしがない村人に過ぎん。素直に調査団を迎え入れ、事情を説明し、穏便に済ませるべきじゃ!」
最初に口火を切ったのは、村の長老の一人だった。彼の意見には、長年の経験から来る現実的な判断と、王国への潜在的な恐怖があった。彼に同調する者も少なくない。
しかし、それに対して、血気盛んな猟師長が猛然と反論した。
「馬鹿を言うな! 奴らが『支援』だの『調査』だの言って近づいてくる時は、ろくなことがあった試しがねぇ! きっとこの村の豊かさや、カイトさんたちの力を嗅ぎつけて、根こそぎ奪いに来るに決まってる! 黙って首を差し出すくらいなら、戦うべきだ!」
彼の言葉にも、力強く頷く者がいた。特に、カイトやレナと共に汗を流してきた若者たちは、戦う意志を固めている者が多いようだった。
穏健派と強硬派。どちらの言い分にも理はある。村長は板挟みになり、苦悩の表情で押し黙っている。会議は紛糾し、結論が出ないまま時間が過ぎていく。
その時、俺は静かに立ち上がり、皆を見渡して口を開いた。
「皆さんの気持ちは分かります。王国は強大です。逆らえば、どうなるか分からない。だが…」
俺は言葉を続け、自分の決意を語った。
「俺たちは、この手で、何もない辺境の地に、ささやかながらも希望を築き上げてきました。水を引き、畑を耕し、家を建て、そして、互いを守るための砦を築いている。この村は、俺たち全員の汗と努力の結晶です。それを、王都の都合で、一方的に踏みにじられるわけにはいかない」
俺の声は、集会所に静かに響き渡った。
「王国が、対話を望むというのなら、俺は喜んで応じます。俺たちのやっていることを説明し、理解を求めます。しかし、もし彼らが力ずくで我々を支配しようとし、仲間たちの自由を奪おうとするならば…俺は戦います。このテル村を、ここにいる全ての仲間たちを、命に代えても守り抜く。それが、俺の決意です」
俺の言葉に、しんと静まり返っていた集会所に、二つの声が響いた。
「私も、カイトと共に戦います」
シルフィが、震えながらも、しかし凛とした声で言った。「この村は、故郷を失った私にとって、かけがえのない大切な居場所です。この場所と、ここにいる皆さんを守るためなら、私の力の全てを使います」
「ったりめーだろ!」
レナが、力強く立ち上がり、宣言した。「カイトが決めたんなら、あたしはどこまでもついていくぜ! 王国の騎士だか何だか知らねぇが、この村に手ぇ出す奴は、あたしが残らずぶっ飛ばしてやる!」
シルフィとレナ。種族も立場も違う二人が、揺るぎない覚悟を示した。その姿は、会議の場の空気を一変させた。迷っていた者たちの目に、決意の光が灯り始める。
「…そうだ、カイトさんの言う通りだ」
「俺たちの村は、俺たちで守るしかねぇ!」
「王国なんかに、好き勝手させてたまるか!」
若者たちを中心に、戦う意志を示す声が次々と上がった。
長老たちも、カイトたちの覚悟と、村の若い世代の熱意に押されたのか、あるいは心のどこかで同じ思いを抱いていたのか、最終的には沈黙を守った。
村長は、皆の顔を見渡し、そして深く息をつくと、腹を括ったように言った。
「…よし、分かった。テル村は、王国には屈しない。カイト、お前さんに、この村の全権を委ねる。我々は、お前さんの指揮に従う!」
村の意思は、一つになった。王国に抗うという、いばらの道を選択したのだ。
決定が下されると、村の空気は一変した。不安は消え去り、代わりに悲壮なまでの決意と、静かな闘志が村全体を覆い始めた。
「時間がない! すぐに迎撃準備を加速するぞ!」
俺の号令の下、村全体が臨戦態勢へと移行した。拠点建設は、防御に関わる部分を最優先に進められた。未完成だった正門部分には、巨大な丸太と岩石で急遽バリケードが築かれ、壁の上には見張り台が次々と設置されていく。
俺は【万物解析】で拠点の構造的な弱点を洗い出し、補強策を指示。村の周囲には、以前よりも巧妙で殺傷能力の高い罠――落とし穴に鋭い杭を仕込んだもの、トリップワイヤーに繋いだ重石、そして火炎瓶のような簡易的な火計トラップ――が、敵の予想進路を計算して多数設置された。
鍛冶場はフル稼働状態となり、ありったけの鉄を使って、矢尻や槍の穂先、そして胸当てや兜といった簡単な防具が、昼夜を問わず作られていく。
シルフィは、防御魔法と支援魔法の精度を高める訓練に集中し、いざという時に仲間を守れるよう備えた。レナは、村の若者たちへの戦闘訓練をさらに厳しくし、個々の能力だけでなく、集団での連携戦闘の動きを叩き込んだ。
村人総出で、食料や水の備蓄が拠点へと運び込まれ、弓矢の手入れが行われ、負傷者が出た場合に備えて、薬草や包帯などの救護物資が準備された。
テル村全体が、来るべき戦いに向けて、一つの巨大な意思を持った生き物のように動き出していた。拠点には、武器を手に訓練に励む若者たちの掛け声が響き、村には静かな、しかし燃えるような決意が満ちている。
俺は、完成に近づく拠点の壁の上から、王都へと続く街道の方角を睨みつけた。地平線の向こうから、いずれ現れるであろう王国の軍勢。その規模も、戦力も、まだ未知数だ。だが、俺たちの覚悟は決まった。
「来るなら来い…」
俺は静かに呟いた。
「この村は、俺たちが必ず守り抜く!」
王国との全面衝突は、もはや避けられないだろう。辺境の小さな村の、存亡を賭けた戦いの火蓋が、切られようとしていた。
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