追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第69話:遺跡攻略への布石、力の底上げ

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アストラル研究所での遭遇と、そこから持ち帰った断片的な情報は、テル村に新たな目標と、そして明確な危機感をもたらした。王国からの干渉という外的な脅威に加え、足元に眠る古代遺跡という内的な脅威。その両方に対処するため、俺たちは拠点(アーク砦)の最終的な強化と、村全体の戦力底上げを急ぐ必要があった。季節は夏を迎え、辺境の地は力強い生命力に満ち溢れていた。

アーク砦の建設は、最終段階に入っていた。外壁と主要な建物は完成し、今は防御設備の強化と、内部の生活環境整備が中心だ。俺は【万物解析】で得た知識を応用し、壁の一部には魔力抵抗を持つ特殊な鉱石粉末を混ぜた漆喰を塗り重ね、対魔法防御をわずかながらも向上させた。また、音の反響を利用した簡易的な警報システムを設計し、見張り台と主要施設を結ぶ連絡手段として設置した。村人たちは、自分たちの手で築き上げた砦が、さらに堅牢で機能的になっていく様子を、誇らしげに見守っていた。

砦の強化と並行して、俺たち三人と、村の防衛隊の育成にも力を入れた。来るべき遺跡攻略、そして王国との再衝突に備え、個々の能力と連携を極限まで高める必要があったからだ。

シルフィは、精霊との対話を通じて、その魔法能力を飛躍的に深化させていた。風の精霊だけでなく、拠点内に引き込んだ井戸水を通じて水の精霊とも、そして豊かな大地を通じて土の精霊とも、安定したコミュニケーションを取れるようになっていた。
「カイトさん、見てください! 風の盾が、以前よりずっと長く維持できるようになりました!」
彼女が作り出す【ウィンド・シールド】は、もはや単なる風の壁ではなく、魔力を帯びて輝き、物理攻撃だけでなく、低位の魔法攻撃もある程度弾き返す強度を持つようになっていた。さらに、広範囲の気配を探る風の索敵魔法や、精霊の力を借りて一時的に自身の魔力を増幅させる方法なども、俺のアドバイスと彼女自身の努力によって、少しずつ形になりつつあった。

レナの進化も目覚ましかった。俺は【万物解析】で彼女の月光狼としての身体能力――特に、驚異的な瞬発力と回復力、そして鋭敏な五感――を分析し、それを最大限に活かすための戦闘術と訓練メニューを考案した。
「おりゃあっ!」
訓練場で、レナは目にも留まらぬ速さで動き回りながら、俺が改良を加えた短剣(切れ味と耐久性を向上させた)と、自身の爪や牙、そして体術を組み合わせた、変幻自在の攻撃を繰り出す。以前のような力任せの戦い方ではなく、相手の動きを読み、最小限の動きで急所を突く、洗練された戦闘スタイルを身につけつつあった。部分的な獣化――戦闘中に爪や牙を瞬時に伸長させたり、聴覚や嗅覚を極限まで高めたりする技術――も、かなり安定して制御できるようになっていた。対ゴーレム戦を想定した、硬い装甲を打ち破るための衝撃集中打撃なども習得し、彼女の戦闘能力は、もはや辺境レベルを完全に超越し始めていた。

俺自身も、彼岸の指揮や解析だけでなく、自己強化に努めた。魔力総量を増やすための瞑想、効率的な魔力制御の訓練、【万物解析】の精度と速度を上げるための精神集中。そして、遺跡で得た情報と【万物解析】を組み合わせた技術開発にも力を注いだ。
ゴーレム・イーターが嫌う高周波音を発生させる小型装置の試作品、あの黒い粘液を中和・除去するための薬草と鉱物を組み合わせた薬剤、遺跡探索に不可欠な、より明るく長時間点灯する魔石ランプ、そして『星見の欠片』と連携させて情報を表示・記録できる簡易的なデバイス(これはまだ構想段階だが)。これらの開発は試行錯誤の連続だったが、少しずつ形になりつつあった。空間収納ボックスも解析を進め、収納容量をわずかに拡張することに成功した。

レナが指導する村の防衛隊も、目覚ましい成長を遂げていた。俺が改良した胸当てや槍を装備し、レナから叩き込まれた連携戦術を繰り返し訓練することで、以前とは比較にならないほど組織的な動きが可能になっていた。彼らはもはや、単なる村人の寄せ集めではない。アーク砦を守る、頼れる戦力となりつつあった。

季節は流れ、夏の盛りが過ぎようとしていた。アーク砦は、辺境の地にそびえ立つ、まさに難攻不落の要塞としての威容を完成させていた。俺たち三人と、テル村の村人たちは、それぞれの力を着実に向上させ、来るべき日に備えていた。

遺跡攻略への準備は、整いつつある。

俺はアーク砦の最も高い望楼から、夕暮れの森の奥深く、アストラル研究所がある方向を静かに見つめていた。あそこに眠る謎と脅威に、俺たちは挑まなければならない。

「…そろそろ、だな」

俺は静かに呟いた。隣には、いつの間にかシルフィとレナが来て、同じ方向を見つめていた。彼女たちの瞳にも、覚悟と決意の色が浮かんでいる。

王国からの次の接触がいつになるかは分からない。だが、その前に、俺たちは動くべきだ。遺跡の謎を解き明かし、そこに潜む脅威を排除する。それが、この村と仲間たちを守るための、最善の道だと信じて。

辺境の村は、内なる力を十分に蓄えた。運命の歯車が、再び大きく動き出す時が、近づいていた。

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