追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第75話:地上への帰還、新たな家族

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エリスの肩を支え、俺たちはアストラル研究所からの脱出を開始した。封印の間を出て、再びあの荒廃した研究区画や、巨大な動力炉が鎮座する広間を通過していく。

「これが…今の研究所の姿なのですか…?」
エリスは、自分が眠っていた場所とはあまりにも違う、破壊され、打ち捨てられた遺跡の惨状を目の当たりにし、ショックを受けているようだった。壁に刻まれた術式や、床に散らばる残骸を見つめるその瑠璃色の瞳には、深い悲しみと、理解できない現状への戸惑いが浮かんでいる。

動力室を通過する際には、再び、足元から微弱な、しかし確かな揺れを感じた。同時に、あの巨大な星脈炉からも、不安定な魔力の揺らぎと、唸るような低い共振音が響いてくる。

「まだ…揺れてる…」レナが不安げに呟く。
「遺跡の不安定さは、まだ続いているようだな…根本的な原因を突き止めない限り、安心はできない」
俺は気を引き締め、脱出を急いだ。

長い通路を抜け、ようやく祠へと続く階段にたどり着く。一歩一歩、地上へと近づくにつれて、外の新鮮な空気と、微かな太陽の光が感じられるようになってきた。

そして、ついに俺たちは祠の中から地上へと生還した。森の木々の緑、土の匂い、そして暖かな太陽の光。数千年ぶりに外の世界に触れたエリスは、眩しそうに目を細め、深く、深く息を吸い込んだ。その頬を、一筋の涙が伝うのが見えた。長い、長い眠りからの、本当の意味での目覚めだったのかもしれない。

「…外…」
彼女のか細い呟きに、俺もシルフィもレナも、ほっとした表情で顔を見合わせた。

テル村への帰路、俺はエリスに、彼女が眠っていた間に世界がどれほど変わったのかを、少しずつ、言葉を選びながら説明した。数千年という途方もない時間の経過、古代文明の滅亡(おそらく)、現在の王国の存在、そして魔物と呼ばれる存在が闊歩するこの世界の状況…。エリスは、黙って俺の話を聞いていたが、その表情からは、計り知れないほどの衝撃と混乱、そして深い孤独感が伝わってきた。

やがて、テル村が見えてきた。村の入り口では、俺たちの帰りを待っていた村長や、見張り番の若者たちが、安堵の声を上げて駆け寄ってきた。
「おお! カイト! 無事だったか!」
「心配したぞ!」

しかし、彼らの視線はすぐに、俺の隣にいる見慣れぬ少女――エリス――へと注がれた。銀色の髪、美しい顔立ち、そして何より、この辺境には似つかわしくない、古風で気品のある佇まい。村人たちは驚き、ざわめき始めた。

「こ、このお嬢さんは…?」村長が戸惑いながら尋ねる。
俺はエリスを庇うように前に立ち、村長に事情を説明した。
「村長、この子はエリス。遺跡の奥深くで、長い間眠っていたところを保護しました。記憶を失っており、身寄りもありません。しばらくの間、俺の家で預かることを許可していただけませんか?」
俺は、遺跡の詳細やエリスの素性については伏せ、必要最低限の情報だけを伝えた。

村長は、エリスの尋常ならざる雰囲気と、俺の真剣な表情を見て、状況を察したようだった。彼は深くため息をつくと、苦笑いを浮かべて言った。
「…ふぅ。また一人、訳ありのお嬢さんが増えたというわけじゃな。まあ、カイトがそう言うなら、わしに否やはない。エリスさんとやら、ようこそテル村へ。ゆっくりしていくといい」
村人たちも、最初は驚いていたものの、カイトが連れてきた仲間ならと、警戒心を解き、温かい視線をエリスに向け始めた。中には、「綺麗な子だねぇ」「大変だったろうに」と声をかける者もいる。このテル村の持つ、素朴な温かさが、エリスの心を少しでも癒してくれることを願った。

俺はエリスを連れて、自分の家へと戻った。家の中は、俺たちが留守の間も、シルフィとレナが綺麗に片付けてくれていたようだ。
「エリス、疲れただろう。ここはもう安全だ。この部屋を使ってくれ」
俺は、以前シルフィが使っていた小さな部屋(今は物置になっていたが、急いで片付けた)をエリスに用意し、休息を促した。

エリスは、初めて見る辺境の村の簡素な家に、少し戸惑いながらも、どこか安堵したように頷いた。シルフィが温かいお茶を淹れてくれ、レナが「腹減ってねーか?」と不器用ながらも気遣う言葉をかける。まだ互いにぎこちなさは残っているが、少しずつ、新しい関係が生まれようとしていた。

その夜、俺たちの家の食卓には、四つの席が用意された。カイト、シルフィ、レナ、そしてエリス。まだ戸惑いの表情が消えないエリスに、シルフィが優しく料理を取り分け、レナが賑やかに(しかし空気を読んで)話しかける。その光景は、まるで新しい家族が生まれたかのようだった。

俺は、目の前の光景に温かいものを感じながらも、自身の責任の重さを改めて痛感していた。古代の謎を秘めた少女エリスの保護、未だ不安定なアストラル研究所の問題、そして、いつまた動き出すか分からない王国の脅威…。解決すべき問題は山積みだ。

だが、俺には信頼できる仲間がいる。シルフィ、レナ、そして新たに加わった(かもしれない)エリス。そして、俺を信じ、支えてくれるテル村の人々。

(やるしかない…)

俺は、この温かな光景を守り抜くため、そして全ての謎を解き明かすため、決意を新たにする。辺境の物語は、新たな仲間を迎え、さらに複雑で、予測不能で、そして豊かな様相を呈し始めていた。俺たちの未来は、まだ誰にも分からない。だが、この仲間たちと一緒なら、きっとどんな困難も乗り越えていけると、俺は強く信じていた。

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