追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第74話:目覚めの言葉、古代からの問い

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広間に満ちていた圧倒的な魔力の奔流は、まるで嵐が過ぎ去ったかのように、ゆっくりと収まっていった。残されたのは、機能停止した警備ゴーレムの残骸と、呆然と立ち尽くす俺たち三人、そして、クリスタルの棺――『揺り籠』から静かに体を起こした、銀髪の少女。

「……あなたは…誰…?」

数千年の時を超えて紡がれた最初の言葉。その瑠璃色の瞳は、目の前に立つ俺を、戸惑いと、そして深い警戒心を滲ませながら見つめている。無理もない。彼女にとって、目覚めて最初に見た光景がこれなのだから。

少女――エリスは、ゆっくりと周囲を見回した。磨き上げられた壁、機能停止したゴーレムの残骸、そして見慣れぬ服装をした俺たち。彼女の表情は混乱の色を深めていく。
「ここは…? 私は…研究所にいたはず…なのに…どうして…?」
記憶が混濁しているようだ。長い眠りの影響だろうか。彼女は自分のこめかみを押さえ、苦しげに呟いた。
「…名前…私の名前は……エリス…そう、エリス…。でも、それ以外が…思い出せない…」
断片的に、自分の名前だけを思い出したらしい。

俺は、彼女から敵意が感じられないこと、そして極度に混乱していることを【万物解析】で確認しつつ、警戒は解かずに、ゆっくりと一歩近づいた。そして、できるだけ穏やかな声で話しかけた。

「エリス…だな? 俺はカイト。こっちはシルフィとレナ。俺たちは敵じゃない。君を傷つけるつもりは、まったくない」
俺は両手を広げ、敵意がないことを示す。

エリスは、俺の言葉にびくりと肩を震わせたが、後ずさりはしなかった。彼女は、じっと俺の顔を、そして俺から発せられる魔力の波動――特に【万物解析】を使用する際に微弱に漏れ出す、特殊な波長――を感じ取ろうとしているかのように、その瑠璃色の瞳を細めた。

「あなた……カイト……どこかで…会ったことがあるような……? いいえ、そんなはずは……私の記憶には、ない……でも、あなたのその力は……なんだか、懐かしいような……」
彼女は首を振り、さらに混乱した様子を見せる。俺のスキルに、何か特別なものを感じ取っているのだろうか?

(今は、彼女を落ち着かせることが先決だ…)

俺は、現状を簡潔に、しかし正直に伝えることにした。
「エリス、落ち着いて聞いてほしい。君は、おそらく数千年間、この『揺り籠』と呼ばれる装置の中で眠っていたんだ」
「数千…年…?」エリスは信じられないといった表情で目を見開く。
「ああ。そして、この装置のエネルギーが、もうほとんど尽きかけている。それに、さっきのゴーレムのように、この遺跡の防衛システムはまだ生きている可能性が高い。ここは、もう安全な場所じゃないんだ」
俺は、淡く明滅する『揺り籠』と、機能停止したゴーレムを指し示しながら説明した。
「だから、俺たちと一緒に、ここを離れて、一旦安全な場所へ行かないか? 君の記憶が戻る手助けもできるかもしれない」

俺の突然の提案に、エリスは戸惑い、再び警戒の色を浮かべた。見ず知らずの、しかも数千年後の人間を、簡単に信用できるはずがない。彼女はしばらく黙り込み、俺の顔と、エネルギーが尽きかけた『揺り籠』、そして広間の入り口を塞ぐように立ち尽くすゴーレムの残骸を、不安げに見比べていた。

だが、やがて彼女は、何かを決意したように顔を上げた。そして、まっすぐに俺の目を見て言った。
「……分かりました。今は、何が何だか分かりません。でも、あなたの言う通り、ここが危険なのは感じます。それに…あなたの瞳は、嘘をついているようには見えませんから」
彼女は、ふっと息をつき、続けた。
「あなたを…信じてみます。カイト…」

その言葉に、俺は安堵の息をついた。
「ありがとう、エリス。必ず君を守ると約束する」

俺がそう言うと、後ろで様子を見守っていたシルフィとレナが、ほっとした表情で近づいてきた。
「よかった…」シルフィが安堵の声を漏らす。
「へっ、話の分かる奴で助かったぜ!」レナが少し乱暴に笑う。

俺は二人をエリスに紹介した。
「エリス、改めて紹介するよ。こちらがシルフィ。エルフの精霊使いだ。そして、こっちがレナ。狼獣人で、とても頼りになる仲間だ」
「シルフィ…グリーンウィンドです。よろしくお願いします、エリスさん」シルフィが丁寧に頭を下げる。
「おう! レナ・ウルフィアだ! ま、よろしく頼むぜ!」レナが快活に挨拶する。

エリスは、シルフィのエルフとしての姿と、レナの獣人としての姿に、少し驚いたような、しかし興味深そうな視線を向けた。彼女が生きていた時代には、エルフや獣人はもっと珍しい存在だったのかもしれない。
「エルフ…獣人…本当にいるのですね…」彼女は小さく呟いた。

「さて、長居は無用だ。エリス、立てるか?」
俺はエリスに手を差し伸べた。彼女が頷くと、『揺り籠』が自動的に機能したのか、彼女の体に繋がっていた光の糸が消え、棺の前面が静かに開いた。

俺はエリスの手を取り、彼女が数千年ぶりに棺から出るのを手伝った。長い眠りのせいか、彼女の足元は少しふらついている。俺はそっとその肩を支えた。

「さあ、行こう。ここから脱出するぞ」

俺たちは、機能停止したゴーレムの残骸の間を抜け、封印の間からの脱出を開始した。古代の眠りから覚めた謎多き少女、エリス。彼女を仲間に(あるいは保護対象として)加えたことで、俺たちの旅は、新たな局面を迎えることになった。

遺跡の深部に潜むさらなる謎、エリス自身の秘密、そして依然として存在する王国の脅威。辺境領主カイトの物語は、予測不能な要素をさらに加え、その速度を増していく。俺たちは、希望と不安を胸に、地上への帰還を急いだ。

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