85 / 100
第85話:領地の礎、交流の始まり
しおりを挟む
アストラル研究所から帰還し、エリスを保護してから季節は一巡りした。辺境の地にも豊かな実りの秋が訪れ、かつてテル村と呼ばれた場所は、今や堅牢なアーク砦を中心に、目覚ましい発展を遂げていた。もはや単なる「村」ではなく、一つの独立した共同体、「アーク領」と呼ぶべき様相を呈し始めている。
今年の収穫は、村の誰もが経験したことのないほど豊かだった。俺が【万物解析】で得た知識を基に指導した輪作や堆肥利用が定着し、土壌そのものが肥沃になったことに加え、シルフィが精霊の力を借りて育成を手伝った作物は、病害虫にも強く、大きく実を結んだ。拠点内に設置した温室では、冬場でも葉物野菜などが栽培できるようになり、食料の安定供給は完全に達成され、十分な備蓄と共に、余剰分も生まれるようになっていた。
村の景観も変わりつつあった。俺が開発した『テル・ブリック』は量産体制が整い、まずは拠点の壁や主要施設、そして村の共同パン焼き窯などに使われたが、その丈夫さと扱いやすさから、村人たちの家々の改修にも少しずつ利用され始めた。風雪に強いレンガ造りの家は、辺境の厳しい気候において、人々の生活の質を確実に向上させている。改良された農具や工具も村に行き渡り、日々の労働効率は格段に上がっていた。夜には、試作した簡易的な魔石ランプが、砦の通路やいくつかの家をぼんやりと照らし、以前の松明だけの夜とは違う、文明的な雰囲気を醸し出している。
そして、このアーク領の発展に、新たな動きが加わった。外部との交易の開始だ。俺は、以前から懇意にしていたグランフェルトの行商人――彼はテル村の変貌ぶりに毎回度肝を抜かれている――と正式な交易契約を結んだ。こちらからは、シルフィが育てた高品質な薬草、量産できるようになったテル・ブリック、そして村の女性たちが作る素朴な陶器や織物などを輸出品として提供する。その見返りとして、村では手に入らない塩や砂糖、金属資源(鉄や銅)、丈夫な布地、そして時には遠い地域の珍しい食材や書物などを輸入する。
この交易によって、村に貨幣経済の概念が少しずつ浸透し始め、人々の生活はさらに豊かになった。何より、行商人を通じて、王都やグランフェルト、その他の地域の情勢に関する情報を、定期的かつ(比較的)安全に得られるようになったことは大きい。王国が依然として辺境、特にアーク領の動向を注視していること、しかし今のところ大きな動きは見せていないことなどが、断片的ながらも伝わってきていた。
アーク砦の噂は、交易を通じて、あるいは森を越えて、近隣の村々にも少しずつ広まり始めていた。「魔物の大群を退けた謎の砦」「厳しい辺境で豊かに暮らす人々」「不思議な力を持つ指導者と仲間たち」。そんな噂を聞きつけ、最初は遠巻きに様子を窺うだけだった他の村から、やがて交易や情報交換を求めて、あるいはアーク砦の保護と発展ぶりに惹かれて、移住を希望する者たちが、恐る恐る訪れるようになったのだ。
突然の訪問者たちに、村人たちは当初戸惑いを見せたが、俺は彼らを無下に追い返すことはしなかった。交易の申し出には可能な範囲で応じ、信頼できると判断した村の代表者とは、魔物の情報や農業技術などについて、限定的な情報交換も行った。
移住希望者については、より慎重な対応を取った。村長や村の有力者たちと協議し、受け入れの条件――確かな身元、労働への意欲、そして何よりアーク領のルールと秩序を守る意思――を厳格に定めた。無秩序な人口増加は、食料問題や治安の悪化を招きかねない。審査を通過した者は、少しずつではあるが、新たな住民として受け入れ、住居や仕事(主に拠点建設や開墾作業)を提供した。彼らは、アーク領の発展に新たな労働力と多様性をもたらしてくれる可能性を秘めている。
近隣の村々との交流を通じて、俺はこの辺境地域全体が抱える共通の問題――常に存在する魔物の脅威、厳しい自然環境、貧困、そして王国からの(時には搾取とも言える)統治――を改めて認識させられた。テル村(アーク領)だけが豊かになっても、根本的な解決にはならない。
(もしかしたら、アーク領が中心となって、この辺境地域全体で連携し、共に発展していく道を模索できるのではないだろうか…?)
それは、途方もなく大きな目標だ。だが、不可能ではないかもしれない。俺は、辺境全体の未来という、より大きな視点を持つ必要性を感じ始めていた。
夕暮れ時、完成したアーク砦の望楼から、俺は眼下に広がる領地を眺めていた。家々の窓には温かな灯りがともり、畑からは収穫を終えた満足げな農夫たちが帰路につき、新しく加わった移住者たちが、既存の村人たちと談笑しながら共同作業の後片付けをしている。遠くには、交易を終えて近隣の村へと帰っていく人々の姿も見えた。
「俺たちの村は、もうテル村という小さな枠だけじゃないのかもしれないな…」
辺境の地に生まれた、新しい共同体「アーク領」。その領主として、俺はこの地の人々の未来を背負っている。その責任の重さを感じながらも、俺の心には、確かな手応えと、未来への力強い希望が満ちていた。辺境の物語は、一つの村の再生から、地域全体の変革へと、そのスケールを広げようとしていた。
今年の収穫は、村の誰もが経験したことのないほど豊かだった。俺が【万物解析】で得た知識を基に指導した輪作や堆肥利用が定着し、土壌そのものが肥沃になったことに加え、シルフィが精霊の力を借りて育成を手伝った作物は、病害虫にも強く、大きく実を結んだ。拠点内に設置した温室では、冬場でも葉物野菜などが栽培できるようになり、食料の安定供給は完全に達成され、十分な備蓄と共に、余剰分も生まれるようになっていた。
村の景観も変わりつつあった。俺が開発した『テル・ブリック』は量産体制が整い、まずは拠点の壁や主要施設、そして村の共同パン焼き窯などに使われたが、その丈夫さと扱いやすさから、村人たちの家々の改修にも少しずつ利用され始めた。風雪に強いレンガ造りの家は、辺境の厳しい気候において、人々の生活の質を確実に向上させている。改良された農具や工具も村に行き渡り、日々の労働効率は格段に上がっていた。夜には、試作した簡易的な魔石ランプが、砦の通路やいくつかの家をぼんやりと照らし、以前の松明だけの夜とは違う、文明的な雰囲気を醸し出している。
そして、このアーク領の発展に、新たな動きが加わった。外部との交易の開始だ。俺は、以前から懇意にしていたグランフェルトの行商人――彼はテル村の変貌ぶりに毎回度肝を抜かれている――と正式な交易契約を結んだ。こちらからは、シルフィが育てた高品質な薬草、量産できるようになったテル・ブリック、そして村の女性たちが作る素朴な陶器や織物などを輸出品として提供する。その見返りとして、村では手に入らない塩や砂糖、金属資源(鉄や銅)、丈夫な布地、そして時には遠い地域の珍しい食材や書物などを輸入する。
この交易によって、村に貨幣経済の概念が少しずつ浸透し始め、人々の生活はさらに豊かになった。何より、行商人を通じて、王都やグランフェルト、その他の地域の情勢に関する情報を、定期的かつ(比較的)安全に得られるようになったことは大きい。王国が依然として辺境、特にアーク領の動向を注視していること、しかし今のところ大きな動きは見せていないことなどが、断片的ながらも伝わってきていた。
アーク砦の噂は、交易を通じて、あるいは森を越えて、近隣の村々にも少しずつ広まり始めていた。「魔物の大群を退けた謎の砦」「厳しい辺境で豊かに暮らす人々」「不思議な力を持つ指導者と仲間たち」。そんな噂を聞きつけ、最初は遠巻きに様子を窺うだけだった他の村から、やがて交易や情報交換を求めて、あるいはアーク砦の保護と発展ぶりに惹かれて、移住を希望する者たちが、恐る恐る訪れるようになったのだ。
突然の訪問者たちに、村人たちは当初戸惑いを見せたが、俺は彼らを無下に追い返すことはしなかった。交易の申し出には可能な範囲で応じ、信頼できると判断した村の代表者とは、魔物の情報や農業技術などについて、限定的な情報交換も行った。
移住希望者については、より慎重な対応を取った。村長や村の有力者たちと協議し、受け入れの条件――確かな身元、労働への意欲、そして何よりアーク領のルールと秩序を守る意思――を厳格に定めた。無秩序な人口増加は、食料問題や治安の悪化を招きかねない。審査を通過した者は、少しずつではあるが、新たな住民として受け入れ、住居や仕事(主に拠点建設や開墾作業)を提供した。彼らは、アーク領の発展に新たな労働力と多様性をもたらしてくれる可能性を秘めている。
近隣の村々との交流を通じて、俺はこの辺境地域全体が抱える共通の問題――常に存在する魔物の脅威、厳しい自然環境、貧困、そして王国からの(時には搾取とも言える)統治――を改めて認識させられた。テル村(アーク領)だけが豊かになっても、根本的な解決にはならない。
(もしかしたら、アーク領が中心となって、この辺境地域全体で連携し、共に発展していく道を模索できるのではないだろうか…?)
それは、途方もなく大きな目標だ。だが、不可能ではないかもしれない。俺は、辺境全体の未来という、より大きな視点を持つ必要性を感じ始めていた。
夕暮れ時、完成したアーク砦の望楼から、俺は眼下に広がる領地を眺めていた。家々の窓には温かな灯りがともり、畑からは収穫を終えた満足げな農夫たちが帰路につき、新しく加わった移住者たちが、既存の村人たちと談笑しながら共同作業の後片付けをしている。遠くには、交易を終えて近隣の村へと帰っていく人々の姿も見えた。
「俺たちの村は、もうテル村という小さな枠だけじゃないのかもしれないな…」
辺境の地に生まれた、新しい共同体「アーク領」。その領主として、俺はこの地の人々の未来を背負っている。その責任の重さを感じながらも、俺の心には、確かな手応えと、未来への力強い希望が満ちていた。辺境の物語は、一つの村の再生から、地域全体の変革へと、そのスケールを広げようとしていた。
47
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる