追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第97話:揺らぐ将軍、変化する戦局

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カイト率いる遊撃部隊による大胆な夜襲は、アーク砦を包囲する王国軍に、物理的な損害以上の深い混乱と動揺をもたらした。

夜が明け、野営地を覆っていた煙が薄れると、その惨状が明らかになった。山と積まれていたはずの食料や武器、矢弾の多くは黒焦げの瓦礫と化し、攻城兵器を組み立てるための貴重な資材も、その多くが炎に飲まれていた。補給拠点の被害は甚大で、今後の長期戦継続に、深刻な影響を与えることは間違いない。

だが、それ以上に王国軍を蝕んでいたのは、疑心暗鬼と士気の低下だった。なぜ補給拠点が正確に狙われたのか? なぜあれほど厳重だったはずの哨戒網を突破されたのか? そして、あの矢文にあった「友軍」や「別働隊」の情報は真実なのか?

「報告はどうなっている! 援軍とやらの正体は掴めたのか!?」
グスタフ将軍は、幕僚たちを前に怒声を飛ばしていた。しかし、偽情報の確認のために派遣された部隊からは、「それらしき影は見当たらず」という報告しか上がってこない。カイトたちが巧妙に痕跡を消し、さらに偽の情報を流して撹乱している可能性もあった。

(辺境の村が、これほどの情報収集能力と、撹乱工作を行うだと…? ありえん…! やはり、内部に手引きする者がいるのか…? それとも、あのカイト・アッシュフィールドという男が、我々の想像を超える策士だというのか…?)

百戦錬磨のグスタフでさえ、この不可解な状況に冷静さを失いかけていた。敵の実態が掴めないまま、これ以上の攻勢に出るのは危険すぎる。補給物資の損害も無視できない。彼は苦渋の決断を下さざるを得なかった。

「…全軍に告ぐ。一時、攻勢を中断する。砦への攻撃は最小限に留め、包囲網を維持しつつ、情報収集と体制の立て直しを最優先とせよ。本国からの追加補給と増援を待つ」

将軍の命令は、最前線の兵士たちにとっては、一時的な安堵をもたらすと同時に、さらなる士気の低下を招いた。
「なんだよ、攻めないのか…」
「いったい、いつまでこんな辺境にいなきゃならねぇんだ…」
「食料も、水も、少しずつ減ってきてるって話だぜ…」
「それに、夜になったら、またあの化け物みたいな獣人娘が襲ってくるんじゃねぇか…?」

疲労と不満、そして先の見えない戦いへの不安が、王国軍全体に蔓延し始めていた。中には、夜陰に紛れて脱走を図る兵士まで現れ始めたという噂が、まことしやかに囁かれるほどだった。

一方、アーク砦の中では、王国軍の動きが鈍ったことを確認し、安堵の空気が広がっていた。カイトの仕掛けた夜襲作戦は、見事に成功したのだ。

「やったな、カイト!」
「敵さん、完全にビビってるぜ!」
レナや若者たちは、作戦の成功を素直に喜んでいた。

「ああ、だが油断はできない。これは時間稼ぎに過ぎない。敵は必ず体勢を立て直し、次なる手を打ってくる」
俺は皆を引き締めつつ、この貴重な時間を利用して、砦の修復と防御設備のさらなる強化、そして負傷者の治療に全力を注いだ。シルフィの献身的な治癒魔法と、備蓄していた薬草のおかげで、負傷者たちの回復も順調だった。レナも、防衛隊の士気を高く維持しながら、休息と再訓練を効果的に行っている。

そして俺自身は、再び遺跡情報の解析に没頭する時間を確保することができた。『星見の欠片』にコピーしたデータと、解読が進んだ石版の内容を照合し、特にアストラル研究所のエネルギーシステムと、遺跡全体の防御システムに関する情報の分析を重点的に進めた。

その解析作業中、最近体調も安定し、時折この部屋に顔を出すようになったエリスが、俺が広げた設計図や数式を見て、興味深そうに呟くことが増えてきた。

「…その魔力回路…なんだか、流れが非効率な気がします…。あそこの分岐点に、小さな制波水晶を組み込めば、エネルギーの損失を抑えられるはず…」
「その紋章…見たことがあります…たしか、セキュリティシステムの緊急停止コードの一部…だったような…でも、完全なコードは…思い出せない…」

彼女の言葉は、依然として断片的で、本人もなぜそれが分かるのか理解していないようだった。だが、その無意識の助言は、驚くほど的確で、俺の解析作業に大きなヒントを与えてくれた。特に、遺跡の防御システムに関する彼女の断片的な知識は、アーク砦の防御に応用できるかもしれない、という新たな可能性を示唆していた。

(エリス…君の記憶の中には、やはり計り知れない価値がある…)

俺は、エリスの精神的な負担にならないよう、細心の注意を払いながら、彼女との対話を通じて、失われた古代の知識の断片を丁寧に拾い集めていくことを決めた。彼女の存在は、この窮地を脱するための、そしてアーク領の未来を切り開くための、大きな希望の光となるかもしれない。

王国軍の攻勢が一時的に止み、アーク領は貴重な猶予期間を得た。敵の士気が低下する一方、俺たちの結束は固まり、エリスという新たな希望の芽も育ち始めている。戦局は、一時的ながらも、確実に辺境側に有利に傾き始めていた。

だが、グスタフ将軍がこのまま黙って引き下がるはずがない。彼が体勢を立て直し、次なる一手――より巧妙で、より苛烈な攻撃――を仕掛けてくるのは、時間の問題だろう。

俺は油断することなく、迫りくるであろう次なる戦いと、そして未だ謎多きアストラル研究所への再訪に向けて、着々と準備を進めていく。辺境の地の未来を賭けた戦いは、まだ終わっていないのだから。

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