追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ

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第100話:万物を識る者の道(エピローグ)

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あの日、王国軍の侵攻を退けてから、数年の歳月が流れた。辺境の地に吹く風は、もはや以前のような厳しさだけではなく、確かな豊かさと、未来への希望の香りを運んでくるようになっていた。

かつてテル村と呼ばれた場所は、今や堅牢なアーク砦を中心に、活気ある城下町のような集落が広がる「アーク領」として、辺境地域の中核を成す存在となっていた。高くそびえる石壁は風雪から領民を守り、畑には改良された作物が豊かに実り、家々の窓にはカイトが開発した魔石ランプの柔らかな光が灯る。

領主執務室の窓から、俺――カイト・アッシュフィールドは、そんな領地の穏やかな日常風景を眺めていた。領主としての仕事は多忙を極める。農業政策、技術開発、近隣村との交易や協力関係の維持、そして依然として警戒が必要な王国との外交…。だが、その忙しさの中には、確かな充実感があった。

隣の部屋からは、子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。シルフィが、領内の子供たちに文字や自然について教えているのだ。彼女は、アーク領にとってなくてはならない存在となっていた。精霊魔法の力はさらに磨かれ、領地の天候を予測し、作物の生育を助け、人々の心を癒す。その優しさと聡明さは、領民たちから深く敬愛され、俺にとっても、公私にわたる最も信頼できる相談相手だった。彼女が俺に向ける、時折見せる特別な眼差しの意味に、俺が気づかないふりをしているのは、また別の話だが…。

訓練場からは、レナの威勢の良い声と、若者たちの掛け声が響いてくる。彼女はアーク領防衛隊の隊長として、その辣腕を振るっていた。月光狼の力は完全に制御下に置かれ、その戦闘能力は辺境随一と言っても過言ではないだろう。若者たちを厳しく、しかし姉のように温かく指導する彼女の姿は、領民たちからの絶大な人気を集めている。俺への絶対的な忠誠心は、今も変わらない。

そして、エリス。あの日、遺跡の最深部で目覚めた古代の少女。彼女の記憶は、残念ながら完全には戻っていない。だが、アーク領での穏やかな生活の中で、彼女は少しずつ心を開き、笑顔を見せるようになっていた。失われた記憶の代わりに、彼女の中には古代の叡智が眠っている。時折、俺の研究開発や遺跡情報の解析に対して、彼女が無意識に口にする言葉が、大きなブレイクスルーをもたらすことも少なくなかった。特に、魔道具やエネルギー技術に関する彼女の知識は、アーク領の技術レベルを飛躍的に向上させる原動力となりつつある。彼女自身も、シルフィやレナを本当の姉のように慕い、このアーク領をかけがえのない自分の居場所だと感じてくれているようだった。俺に対して向ける、あの不思議な親近感と信頼の眼差しは、今も変わらない。

アストラル研究所の謎は、まだ完全には解明されていない。深部に潜むであろう脅威――汚染されたエーテルの残滓や、次元ゲートの不安定さ――は依然として存在する。だが、俺たちはエリスの知識の断片と、【万物解析】、そして開発した技術を駆使して、遺跡の封印を強化し、厳重な監視下に置くことに成功していた。定期的な調査は欠かせないが、少なくとも、すぐに脅威が外部に漏れ出す心配はないだろう。

王国との関係も、新たな局面を迎えていた。アーク領での惨敗と、その後の「黒い船」騒動などで混乱した王国は、アーク領の独立した勢力としての実力を認めざるを得なくなった。グスタフ将軍も更迭され、王国は正面からの武力介入を諦め、現在は緊張を孕んだ不可侵条約のようなものが結ばれている。もちろん、水面下での牽制や情報収集は続いているだろうし、俺も王国への警戒は怠っていない。だが、アーク領は、事実上の独立を勝ち取ったのだ。

かつて俺を追放した元パーティーメンバーたちの噂は、もはやほとんど聞こえてこなくなった。アルドは完全に姿を消し、セシリアは醜聞と共に没落し、レオンの行方も知れない。ガイアだけが、どこかの戦場で傭兵として剣を振るい続けているらしいが、彼らが再び俺たちの前に現れることは、おそらくないだろう。過去は、静かに清算されたのだ。

夕暮れ時、俺はアーク砦のバルコニーに出て、眼下に広がる領地を眺めていた。家々の窓に温かな灯りがともり、家族の元へ帰る人々の姿が見える。豊かな畑、活気ある市場、そして子供たちの笑い声。

「カイト」
「カイト様」
「カイトさん」

背後から、三人の声がした。振り返ると、シルフィ、レナ、そしてエリスが、穏やかな笑顔で立っていた。

「お仕事、お疲れ様です」シルフィが言う。
「メシの時間だぜ! 今日はあたしが獲ってきたデカい鳥の丸焼きだ!」レナが胸を張る。
「カイト、少しだけ…新しい魔石ランプの回路について、思いついたことがあるのですが…」エリスが、少しはにかみながら言う。

俺は、彼女たちの顔を見回し、心からの笑顔で応えた。
「ああ、ありがとう。すぐに戻るよ」

追放され、全てを失ったと思ったあの日から、本当に長い道のりだった。多くの困難があり、失ったものもある。だが、俺は今、かけがえのない仲間たちと、守るべき故郷と共にここにいる。

【万物解析】――万物を識る力は、時に重く、残酷な真実を突きつけることもある。だが、俺はこの力を、もはや復讐や自己満足のためには使わない。この領地と、仲間たち、そして辺境に生きる全ての人々の、より良い未来のために使うのだ。それが、この力を与えられた者の責任であり、俺が進むべき道なのだと、今は確信している。

空には、一番星が輝き始めていた。

俺の道は、まだ始まったばかりだ。遺跡の完全な解明、エーテルエネルギーの安全な利用、他の地域とのさらなる交流、そして、このアーク領を、誰もが安心して暮らせる真の理想郷とすること…。やるべきことは、まだ山のようにある。

だが、不安はない。この頼もしい仲間たちがいれば、どんな困難も乗り越えていけると信じているからだ。

俺は、シルフィ、レナ、エリスと共に、温かな灯りが待つ家へと歩き出した。辺境の地に築かれた俺たちの未来は、今、静かに、しかし力強く、輝き始めている。

第五章 万物を識る者の道 - 完

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みんなの感想(2件)

キラSS
2025.05.16 キラSS

9話でもちろん地球のことは言わず とあるけど転生者だったという文面はなかったはず?

解除
はるはる
2025.05.05 はるはる

一気に読み進めました!テンポよく、新たな謎もどんどん出てきてとても読み応えのあるストーリーで面白いです^_^

解除

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