死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第三話 旅立ちの朝

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あのグレートボアとの死闘から、五年が過ぎた。
俺は十五歳になった。この世界では成人と見なされる年齢だ。

あの日を境に、俺を見る村人たちの目は変わった。
彼らは俺を村の英雄と呼びながらも、その視線には明らかな畏怖が混じるようになった。子供たちは俺を遠巻きにし、大人たちは腫れ物に触るように接する。俺が鍛錬のために森へ入れば、彼らは安堵の息を漏らした。

だが、そんなことはどうでもよかった。
他人の評価など、俺の渇きを癒す足しにはならない。

この五年、俺は鍛錬を一日も欠かさなかった。
俺のステータスは、あの頃とは比べ物にならないほど上昇している。だが、スキル【闘神】が発動することは二度となかった。

森の魔物たちは、俺の気配を察すると蜘蛛の子を散らすように逃げていく。村に近づく者など皆無だ。おかげでウッドビルはかつてないほど平和になったが、それは俺にとって牢獄の平和と何ら変わりない。

強い敵がいない。
戦う相手がいない。
このままでは腐る。あのグレートボアとの戦いで燃え上がった魂の炎が、燻って消えてしまう。

その焦燥感だけが、俺を突き動かしていた。

ある日の夕暮れ、俺は村を見下ろす丘の上で一人、空を眺めていた。
地平線の彼方へと続く街道を、小さな隊商が進んでいく。あの道の先には、どんな街があるのだろう。どんな強者が、俺を待っているのだろう。

「もう、限界だ」
ぽつりと、独り言が漏れた。
決意は固まった。この生ぬるい場所に、これ以上留まる理由はない。

その夜、俺は夕食の席で両親に告げた。
「俺は、この村を出る」

一瞬の静寂。
シチューを掬うスプーンの音が止まる。
母のセラが、悲しそうな顔で俺を見た。父のカイルは、黙って俺の目をじっと見つめている。

「……冒険者にでも、なるのか」
やがて、カイルが静かに口を開いた。その声には、驚きよりも納得の色が濃かった。
「ああ。強い奴がいる場所へ行く」

「そうか。お前ほどの力があれば、それもいいだろう」
カイルはそう言うと、ふっと息を吐いた。
「正直に言えば、寂しい。だが、お前の器がこの小さな村に収まりきらないことくらい、ずっと前から分かっていた。お前は、俺たちの知らない高みを目指すべき人間だ」

父の言葉は、真っ直ぐに俺の胸に届いた。
彼は俺の異常性を理解し、その上で受け入れてくれていた。

「ジン」
母さんが俺の名を呼ぶ。その目には涙が浮かんでいた。
「危ないことはしないでなんて、言えないわ。だって、あなたはそれを求めて生きていくのでしょうから。でも、これだけは約束して。絶対に、死なないで」

「……分かった」
俺は短く答える。
前世では知らなかった温かい感情が、胸の奥を締め付けた。これが家族というものなのか。悪くない、と思った。

翌朝、俺は旅支度を整えていた。
といっても、荷物はほとんどない。着替えと、母さんが無理やり持たせた保存食。そして、父さんから譲り受けた年代物の短剣だけだ。護身用だと言われたが、俺には不要だろう。

家の前で、両親が見送ってくれた。
「身体にだけは気をつけろよ」
カイルが俺の肩を強く叩く。

「いつでも、帰ってきていいのよ。ここがあなたの家なんだから」
セラは涙をこらえ、無理に笑顔を作った。

俺は二人に向かって、一度だけ深く頭を下げた。
「世話になった」
それだけを告げ、踵を返す。振り返ることはしなかった。

村の門へ向かう道すがら、何人かの村人が遠巻きに俺を見ていた。
彼らの視線に意味を求めることはしない。俺の道は、彼らとはもう交わらないのだ。

村を出ようとした、その時だった。
「ジン兄ちゃん!」
聞き慣れた声に呼び止められた。振り返ると、ティムが息を切らして走ってくる。この五年で、彼は随分とたくましい少年に成長した。

「これ、持っていって!」
ティムが俺に差し出したのは、彼が手ずから彫ったであろう、拙い作りの木の鳥だった。
「母ちゃんが言ってた。遠くへ旅立つ人には、無事を祈ってお守りを渡すんだって」

俺は黙ってそれを受け取った。
「……そうか」
礼を言うのは、どうにも性に合わない。だが、この小さな木彫りに込められた想いは、確かに感じ取れた。俺はそれを懐にしまい、ティムの頭を無言で一度だけ撫でた。

「じゃあな」
それだけを残し、俺は今度こそ村の門をくぐった。

朝の冷たい空気が肌を刺す。
目の前には、どこまでも続く荒野と、地平線へと伸びる一本道。
俺は大きく息を吸い込んだ。それは、新しい世界の匂いがした。

ウッドビルでの十五年間は、来るべき日のための長い助走だった。
ここからが、俺の本当の人生の始まりだ。

最初の目的地は、ここから最も近い冒険者ギルドがある街「スタートニア」。
そこにはどんな出会いが、そして、どんな戦いが待っているのか。
考えるだけで、心が躍る。血が騒ぐ。

俺は荒野へと続く道を、確かな足取りで踏み出した。
二度と、この村へ振り返ることはないだろう。
俺の目は、まだ見ぬ強者がいる未来だけを見据えていた。
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