死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第八話 森の脅威、オーク

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安宿のベッドで目覚めた朝は、ウッドビルのそれとは全く違っていた。
鳥のさえずりの代わりに聞こえるのは、街の喧騒と遠い鍛冶の音。懐かしさなど微塵も感じない。むしろ、この雑多な音の方が俺の性に合っている。

俺は身支度を済ませ、すぐにギルドへ向かった。
昨日稼いだ金で、宿代と簡単な食事は賄える。だが、それだけだ。この街で戦い続けるには、もっと金がいる。より良い装備、より多くの情報。それらは全て金で買うものだ。

ギルドの扉を開けると、昨日のような喧騒はなく、朝早い時間帯だからか人はまばらだった。
しかし、俺の姿を認めた数少ない冒険者たちの視線は、昨日とは明らかに異なっていた。好奇心、警戒、そして畏怖。彼らは囁き合い、俺から距離を取った。

「おい、あれが例の……」
「ああ、『ゴブリン・スレイヤー』だ」
いつの間にか、そんな安っぽい二つ名まで付けられているらしい。どうでもいいことだ。

俺は彼らを無視し、一直線に依頼ボードへ向かう。
Fランクのボードには目もくれない。俺の目的地は、その隣に設置されたEランクの依頼ボードだ。

そこには、Fランクの雑用とは一線を画す依頼が並んでいた。
「鉱山跡に出没する巨大コウモリの討伐」
「沼地に生息するリザードマンの偵察」
「街道を荒らすオークの討伐」

俺の指は、迷いなくオーク討伐の依頼書に触れた。
オーク。ゴブリンより遥かに大型で、屈強な肉体と高い戦闘能力を持つ亜人族。一体一体が、ゴブリンリーダーに匹敵するか、それ以上の力を持つと言われている。

これだ。これなら少しは楽しめるかもしれない。
俺はその依頼書を剥がし、カウンターへ持っていった。

昨日と同じ受付嬢が、俺の顔と依頼書を見て、わずかに顔を引きつらせた。
「ジ、ジンさん……オーク討伐ですか?」
「何か問題でも?」

「いえ、問題というわけでは……。ですが、オークは非常に好戦的で、力も強い魔物です。Eランクの依頼ではありますが、通常は三人以上の熟練パーティで挑むのが基本です。単独で受注される方は、ほとんど……」
彼女の声には、純粋な心配の色が滲んでいた。

「一人で十分だ」
俺の言葉に、彼女は諦めたようにため息をついた。
「……分かりました。ですが、絶対に無茶はしないでください。危険だと判断したら、すぐに撤退を。ギルドへの違約金など、命に比べれば安いものですから」

余計な忠告だ。俺が戦いから逃げることなど、死んでもあり得ない。
俺は黙って手続きを済ませ、ギルドを後にした。

街を出て、東へ向かう街道を歩く。
依頼書によれば、オークの目撃情報は、街から半日ほど歩いた先にある森に集中しているらしい。近隣の村へ向かう商人や旅人が、立て続けに襲われているとのことだった。

道中、いくつかの隊商とすれ違った。
彼らは屈強な傭兵を護衛につけ、警戒を怠らない。俺が一人で森の方へ向かうのを見て、何人かが訝しげな視線を向けてきたが、声をかけてくる者はいなかった。

やがて、目的の森が見えてきた。
ゴブリンがいた西の森よりもずっと深く、鬱蒼としている。昼間だというのに、森の中は薄暗く、不気味な静寂に包まれていた。

俺は街道から外れ、森の中へと足を踏み入れた。
足元には、巨大な獣のものと思しき足跡がいくつも残されている。へし折られた太い枝、無残に食い散らかされた動物の死骸。全てが、この森の新たな支配者の存在を物語っていた。

ゴブリンの巣とは、明らかに空気が違う。
より濃密で、暴力的な気配。
俺は無意識に口角が上がるのを感じた。いい。それでこそだ。

俺は痕跡を辿り、森の奥深くへと進んでいく。
オークはゴブリンと違い、縄張り意識が非常に強い。集落を作っているとすれば、その中心部にいるはずだ。

しばらく進むと、開けた場所に出た。
そこには、粗末な見張り台が組まれ、二体のオークが退屈そうに周囲を警戒していた。
身長は二メートルを優に超え、豚のような醜い顔。緑色の皮膚は分厚く、全身が強靭な筋肉で覆われている。手には、人間の背丈ほどもある巨大な棍棒。

斥候か。
俺は木の陰に身を隠し、静かにその姿を観察する。
一体一体の強さは、ゴブリンリーダーを遥かに凌駕している。あれが二体。まともにやり合えば、Dランクパーティでも苦戦は免れないだろう。

だが、俺の心は凪いでいた。
闘争心は刺激されるが、【闘神】が発動するほどの圧は感じない。
こいつらもまた「格下」ということか。

少しだけ落胆したが、すぐに思考を切り替える。
斥候がいるということは、集落が近い証拠だ。まずはこいつらを静かに始末し、情報を集める。

俺は音もなく動き出した。
風のように木々の間を駆け抜け、一体のオークの背後を取る。
オークは俺の気配に全く気づいていない。仲間と下品な言葉を交わし、ゲラゲラと笑っている。

その無防備な首筋に、俺は手刀を振り下ろした。
狙いは頸椎。
ゴッ、という鈍い音と共に、オークの巨体が崩れ落ちる。悲鳴を上げる間もなかった。

「ん? どうした、グルガ?」
もう一体のオークが、仲間の異変に気づき振り返る。
その目に映ったのは、静かに佇む俺の姿と、足元に転がる仲間の死体。

「グ……ゴ、人間!?」
オークは驚愕に目を見開き、そしてすぐに怒りを爆発させた。
「グオオオオッ! よくも仲間を!」

咆哮と共に、巨大な棍棒が横薙ぎに振るわれる。
風を切り、木々を薙ぎ倒すほどの凄まじい一撃。まともに食らえば、鋼の鎧ごと叩き潰されるだろう。

俺はその一撃を、低く屈んでかわした。
頭上を通り過ぎていく棍棒の風圧が、髪を揺らす。
空振りしたオークの体勢が、一瞬だけ崩れた。

その隙を、俺は見逃さない。
俺は地面を蹴り、銃弾のような速さでオークの懐に飛び込んだ。
そして、がら空きになった分厚い胸板に、渾身の正拳突きを叩き込む。

ドゴォッ!
空気が破裂するような衝撃音。

俺の拳は、オークの頑丈な胸骨を砕き、その心臓まで達した。
「ガハッ……!?」
オークは信じられないといった顔で、自らの胸に突き刺さる俺の腕を見下ろした。そして、その醜い口から大量の血を吐き出し、ゆっくりと後ろへ倒れていく。

地響きを立てて、二体目のオークが絶命した。
俺はオークの体に突き刺さった腕を引き抜き、付着した血を軽く振り払う。

「……なるほど。ゴブリンよりは骨がある」
その頑丈な肉体と馬鹿力は、確かに脅威だ。
だが、それだけ。動きは単調で、隙だらけ。俺の敵ではない。

しかし、斥候でこのレベルだ。
集落には、もっと強い個体がいるかもしれない。
リーダー格の、オークジェネラルやオークキングと呼ばれるような存在が。

俺は、オークたちがやって来た方向を見据えた。
森のさらに奥深く。そこから、濃厚な魔物の気配が漂ってくる。

ようやく、少しだけ楽しくなってきた。
俺は笑みを浮かべ、集落へと続く道を踏み出した。
この先に待つであろう、より大きな獲物を求めて。
少しは楽しませてくれるといいが。

俺の戦いは、まだ始まったばかりだ。
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