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第九話 オークリーダーの膂力
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斥候を始末し、俺はさらに森の奥深くへと進んだ。
オークの残した痕跡は、ここから先、より濃く、より多くなっている。間違いなく、集落は近い。
俺は気配を完全に消し、木々の梢を渡るようにして進む。
やがて、眼下に開けた盆地が広がった。
そこが、オークたちの根城だった。
粗末な丸太で組まれた柵。点在する掘っ立て小屋。そして、中央で燃え盛る巨大な焚き火。
数十体のオークが、そこで暮らしていた。女や子供の姿も見える。武器の手入れをする者、獲物の解体をする者。そこには確かに、彼らの生活があった。
だが、俺の心は微動だにしない。
彼らは人を襲い、生活を脅かす害獣だ。依頼を受け、ここに来た俺がやるべきことは一つ。この集落の機能を破壊し、脅威を取り除くこと。
最も効率的な方法は、頭を潰すことだ。
俺の視線は、自然と集落の中心へと注がれた。
ひときわ大きな小屋の前。巨大な岩を椅子代わりに、一体のオークが鎮座している。
他のオークより頭二つは大きい、筋骨隆々の巨体。その身には、鉄製の粗末な鎧を纏い、傍らには人の背丈ほどもある巨大な戦斧が突き立てられていた。
あれがリーダーか。
他のオークたちが、彼に対して敬意と畏怖の念を抱いているのが空気で伝わってくる。
その威圧感は、斥候の比ではなかった。
だが、それでも足りない。
俺の魂は、まだ震えない。スキル【闘神】は沈黙したままだ。
「……手間が省けたな」
俺は木から飛び降り、音もなく地面に着地した。
そして、隠れることもせず、堂々と集落の中央へと歩を進める。
俺の存在に、最初に気づいたのは見張りのオークだった。
「グガッ!? に、人間!?」
甲高い警戒の声が、集落に響き渡る。
一瞬にして、のどかだった集落の空気が殺気で満たされた。
オークたちが次々と武器を手に取り、俺を取り囲む。その数は三十体以上。地響きのような唸り声が、四方から俺に浴びせられた。
普通の人間なら、腰を抜かしていただろう。
だが俺は、その殺気の渦の中心で、ただ静かに玉座に座るリーダーを見据えていた。
「グルル……貴様、何者だ」
リーダーが、地の底から響くような声で問うた。
その目には、斥候が殺されたことへの怒りと、単身で乗り込んできた俺への侮蔑が浮かんでいる。
「冒険者だ。お前たちを狩りに来た」
俺の答えに、オークたちが一斉に猛り立った。
「殺せ!」「食っちまえ!」
下品な罵声が飛び交う。
だがリーダーは、その巨大な手で彼らを制した。
「静かにしろ。こいつは俺の獲物だ」
彼はゆっくりと立ち上がり、傍らの戦斧を軽々と抜き放った。
その動作だけで、彼が相当な手練れであることが分かる。
「貴様の度胸に敬意を表し、この俺、オークジェネラル・グルバッシュが直々に相手をしてやる。感謝するがいい」
オークジェネラル。リーダーの中でも上位の個体だ。
彼はゆっくりと、俺に向かって歩いてくる。その一歩一歩が、地面をわずかに揺らした。
「雑魚は引っ込んでいろ。邪魔だ」
俺がそう言い放った瞬間、俺は動いた。
囲んでいたオークたちの中へ、一瞬で突っ込む。
「なっ!?」
驚く彼らの間を、俺は疾風のように駆け抜けた。
すれ違い様に、肘で顎を砕き、膝で鳩尾をえぐる。俺が通り過ぎた後には、もんどりうって倒れるオークたちの姿だけが残った。
ものの数秒で、俺とグルバッシュを隔てるものはなくなった。
「……ほう」
グルバッシュが、初めて感心したような声を漏らす。
「ただの人間ではないようだな。面白い」
その言葉を合図に、グルバッシュが動いた。
巨体に似合わぬ驚異的な踏み込み。振り上げられた戦斧が、轟音と共に俺の頭上へと振り下ろされる。
俺はそれを、バックステップでかわした。
戦斧が叩きつけられた地面が、クレーターのように陥没する。凄まじい膂力だ。グレートボアの突進にも匹敵する。
だが、大振りすぎる。
俺は空振りの隙を突き、即座に反撃に転じた。
懐に飛び込み、無防備な脇腹に渾身の蹴りを叩き込む。
ゴッ!
鈍い手応え。だが、俺の蹴りを受けても、グルバッシュはよろめきもしなかった。
分厚い筋肉の鎧が、衝撃のほとんどを殺している。
「効かんな!」
グルバッシュは獰猛に笑い、返す斧で俺を薙ぎ払おうとする。
俺は素早く距離を取り、追撃をかわした。
厄介な相手だ。
ゴブリンリーダーとは、頑丈さの次元が違う。
単純な攻撃では、致命傷を与えるのは難しい。
「どうした、終わりか!」
グルバッシュが再び突進してくる。
今度は、縦横無尽に戦斧を振り回し、俺に回避を強いる。森の木々が、その余波で次々と薙ぎ倒されていった。
俺は攻撃の嵐を冷静に見極める。
全ての攻撃に、予備動作がある。全ての動きに、無駄がある。
その隙を、俺は見逃さない。
振り下ろされた戦斧。
俺はそれを避けるのではなく、あえて内側へと踏み込んだ。
そして、大神流体術の奥義の一つ「螺旋流し」を用いる。
戦斧の柄に手を添え、その凄まじいパワーを殺さず、受け流す。
グルバッシュの巨体が、自身の力によってぐらりと傾いだ。
「ぐ、おっ!?」
好機。
俺はがら空きになったグルバッシュの膝の関節に、全体重を乗せたローキックを叩き込んだ。
バキィッ!
硬い骨が砕ける、嫌な音。
グルバッシュの巨体が、初めて膝をついた。
「て、めえ……!」
激痛と屈辱に、グルバッシュの顔が歪む。
彼は片膝をついたまま、それでも戦斧を振り回し、俺を牽制した。
だが、勝負は決した。
俺は彼の攻撃範囲の外側を回り込み、その背後を取る。
そして、無防備なうなじに、容赦なく鉄槌を振り下ろした。
「終わりだ」
俺の拳が、グルバッシュの頸椎を粉砕する。
ピクリと痙攣した後、オークジェネラルの巨体から完全に力が抜けた。
どう、と音を立てて、その体は前に倒れ伏した。
集落に、再び静寂が訪れる。
残ったオークたちは、自分たちの王が赤子のように捻り潰された光景を、ただ呆然と見つめていた。
その目には、もはや戦意はなく、絶対的な強者に対する原始的な恐怖だけが浮かんでいた。
俺は倒れたグルバッシュを一瞥し、すぐに興味を失った。
少しは楽しめたが、所詮はこの程度。
死闘には、程遠い。
俺は彼らに背を向け、依頼の証拠であるグルバッシュの耳だけを切り落とした。
他のオークを狩る気は起きなかった。リーダーを失ったこの集落は、いずれ霧散するか、他の魔物に滅ぼされるだろう。
俺が森を去るまで、オークたちは誰一人として動こうとしなかった。
ただ、恐怖に震えながら、嵐が過ぎ去るのを待っているだけだった。
俺の心には、確かな手応えと、それ以上の物足りなさが残っていた。
もっとだ。もっと強い相手を。
この程度では、俺の渇きは潤せない。
次なる戦場を求め、俺はスタートニアの街へと帰路を急いだ。
オークの残した痕跡は、ここから先、より濃く、より多くなっている。間違いなく、集落は近い。
俺は気配を完全に消し、木々の梢を渡るようにして進む。
やがて、眼下に開けた盆地が広がった。
そこが、オークたちの根城だった。
粗末な丸太で組まれた柵。点在する掘っ立て小屋。そして、中央で燃え盛る巨大な焚き火。
数十体のオークが、そこで暮らしていた。女や子供の姿も見える。武器の手入れをする者、獲物の解体をする者。そこには確かに、彼らの生活があった。
だが、俺の心は微動だにしない。
彼らは人を襲い、生活を脅かす害獣だ。依頼を受け、ここに来た俺がやるべきことは一つ。この集落の機能を破壊し、脅威を取り除くこと。
最も効率的な方法は、頭を潰すことだ。
俺の視線は、自然と集落の中心へと注がれた。
ひときわ大きな小屋の前。巨大な岩を椅子代わりに、一体のオークが鎮座している。
他のオークより頭二つは大きい、筋骨隆々の巨体。その身には、鉄製の粗末な鎧を纏い、傍らには人の背丈ほどもある巨大な戦斧が突き立てられていた。
あれがリーダーか。
他のオークたちが、彼に対して敬意と畏怖の念を抱いているのが空気で伝わってくる。
その威圧感は、斥候の比ではなかった。
だが、それでも足りない。
俺の魂は、まだ震えない。スキル【闘神】は沈黙したままだ。
「……手間が省けたな」
俺は木から飛び降り、音もなく地面に着地した。
そして、隠れることもせず、堂々と集落の中央へと歩を進める。
俺の存在に、最初に気づいたのは見張りのオークだった。
「グガッ!? に、人間!?」
甲高い警戒の声が、集落に響き渡る。
一瞬にして、のどかだった集落の空気が殺気で満たされた。
オークたちが次々と武器を手に取り、俺を取り囲む。その数は三十体以上。地響きのような唸り声が、四方から俺に浴びせられた。
普通の人間なら、腰を抜かしていただろう。
だが俺は、その殺気の渦の中心で、ただ静かに玉座に座るリーダーを見据えていた。
「グルル……貴様、何者だ」
リーダーが、地の底から響くような声で問うた。
その目には、斥候が殺されたことへの怒りと、単身で乗り込んできた俺への侮蔑が浮かんでいる。
「冒険者だ。お前たちを狩りに来た」
俺の答えに、オークたちが一斉に猛り立った。
「殺せ!」「食っちまえ!」
下品な罵声が飛び交う。
だがリーダーは、その巨大な手で彼らを制した。
「静かにしろ。こいつは俺の獲物だ」
彼はゆっくりと立ち上がり、傍らの戦斧を軽々と抜き放った。
その動作だけで、彼が相当な手練れであることが分かる。
「貴様の度胸に敬意を表し、この俺、オークジェネラル・グルバッシュが直々に相手をしてやる。感謝するがいい」
オークジェネラル。リーダーの中でも上位の個体だ。
彼はゆっくりと、俺に向かって歩いてくる。その一歩一歩が、地面をわずかに揺らした。
「雑魚は引っ込んでいろ。邪魔だ」
俺がそう言い放った瞬間、俺は動いた。
囲んでいたオークたちの中へ、一瞬で突っ込む。
「なっ!?」
驚く彼らの間を、俺は疾風のように駆け抜けた。
すれ違い様に、肘で顎を砕き、膝で鳩尾をえぐる。俺が通り過ぎた後には、もんどりうって倒れるオークたちの姿だけが残った。
ものの数秒で、俺とグルバッシュを隔てるものはなくなった。
「……ほう」
グルバッシュが、初めて感心したような声を漏らす。
「ただの人間ではないようだな。面白い」
その言葉を合図に、グルバッシュが動いた。
巨体に似合わぬ驚異的な踏み込み。振り上げられた戦斧が、轟音と共に俺の頭上へと振り下ろされる。
俺はそれを、バックステップでかわした。
戦斧が叩きつけられた地面が、クレーターのように陥没する。凄まじい膂力だ。グレートボアの突進にも匹敵する。
だが、大振りすぎる。
俺は空振りの隙を突き、即座に反撃に転じた。
懐に飛び込み、無防備な脇腹に渾身の蹴りを叩き込む。
ゴッ!
鈍い手応え。だが、俺の蹴りを受けても、グルバッシュはよろめきもしなかった。
分厚い筋肉の鎧が、衝撃のほとんどを殺している。
「効かんな!」
グルバッシュは獰猛に笑い、返す斧で俺を薙ぎ払おうとする。
俺は素早く距離を取り、追撃をかわした。
厄介な相手だ。
ゴブリンリーダーとは、頑丈さの次元が違う。
単純な攻撃では、致命傷を与えるのは難しい。
「どうした、終わりか!」
グルバッシュが再び突進してくる。
今度は、縦横無尽に戦斧を振り回し、俺に回避を強いる。森の木々が、その余波で次々と薙ぎ倒されていった。
俺は攻撃の嵐を冷静に見極める。
全ての攻撃に、予備動作がある。全ての動きに、無駄がある。
その隙を、俺は見逃さない。
振り下ろされた戦斧。
俺はそれを避けるのではなく、あえて内側へと踏み込んだ。
そして、大神流体術の奥義の一つ「螺旋流し」を用いる。
戦斧の柄に手を添え、その凄まじいパワーを殺さず、受け流す。
グルバッシュの巨体が、自身の力によってぐらりと傾いだ。
「ぐ、おっ!?」
好機。
俺はがら空きになったグルバッシュの膝の関節に、全体重を乗せたローキックを叩き込んだ。
バキィッ!
硬い骨が砕ける、嫌な音。
グルバッシュの巨体が、初めて膝をついた。
「て、めえ……!」
激痛と屈辱に、グルバッシュの顔が歪む。
彼は片膝をついたまま、それでも戦斧を振り回し、俺を牽制した。
だが、勝負は決した。
俺は彼の攻撃範囲の外側を回り込み、その背後を取る。
そして、無防備なうなじに、容赦なく鉄槌を振り下ろした。
「終わりだ」
俺の拳が、グルバッシュの頸椎を粉砕する。
ピクリと痙攣した後、オークジェネラルの巨体から完全に力が抜けた。
どう、と音を立てて、その体は前に倒れ伏した。
集落に、再び静寂が訪れる。
残ったオークたちは、自分たちの王が赤子のように捻り潰された光景を、ただ呆然と見つめていた。
その目には、もはや戦意はなく、絶対的な強者に対する原始的な恐怖だけが浮かんでいた。
俺は倒れたグルバッシュを一瞥し、すぐに興味を失った。
少しは楽しめたが、所詮はこの程度。
死闘には、程遠い。
俺は彼らに背を向け、依頼の証拠であるグルバッシュの耳だけを切り落とした。
他のオークを狩る気は起きなかった。リーダーを失ったこの集落は、いずれ霧散するか、他の魔物に滅ぼされるだろう。
俺が森を去るまで、オークたちは誰一人として動こうとしなかった。
ただ、恐怖に震えながら、嵐が過ぎ去るのを待っているだけだった。
俺の心には、確かな手応えと、それ以上の物足りなさが残っていた。
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