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第十一話 森で出会ったエルフ
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オークジェネラルを討伐してから数日が過ぎた。
俺はDランク冒険者として、いくつかの依頼をこなした。鉱山跡の巨大コウモリの群れを殲滅し、沼地に巣食うリザードマンの集落を壊滅させた。
依頼は全て完璧にこなした。報酬も破格だった。
俺のギルド内での評価はうなぎ登りで、もはや俺に絡んでくる命知らずはいなくなった。一部の者たちからは、畏怖を込めて「歩く災害」などと呼ばれているらしい。
だが、俺の心は満たされなかった。
どの敵も、弱すぎた。
オークジェネラルを超える者は、一体として現れない。
俺は日に日に強くなっている。だが、戦うべき相手のレベルは一向に上がらない。このままでは、ジリ貧だ。
その日も、俺はギルドの依頼ボードの前で腕を組み、深くため息をついた。
Dランクの依頼は、もはや俺にとって退屈な作業でしかない。かといって、Cランクの依頼を受けるには、ギルドの規定でパーティを組むか、さらなる実績を積む必要がある。
「……埒が明かんな」
俺は依頼ボードに背を向けた。
ギルドの依頼に頼っていては、俺の渇きは永遠に癒せない。ならば、やり方を変えるまでだ。
自らの足で探す。
この世界のどこかにいるであろう、俺の魂を震わせるほどの強敵を。
俺は受付嬢に声をかけ、街の周辺で最も危険な場所についての情報を買った。
「『嘆きの森』ですか? あそこはダメです! Bランク以上のパーティでも、生きて帰れる保証はないと言われています。一体どんな魔物がいるのか、詳しい調査すらできていない魔境ですよ!」
彼女は顔を真っ青にして俺を止めようとしたが、俺は聞く耳を持たなかった。
魔境。素晴らしい響きだ。
詳しい調査ができていないということは、未知の強敵が眠っている可能性が高いということだ。
俺は高揚する心を抑え、ギルドを後にした。
街の南に広がる「嘆きの森」。
その入口に立っただけで、俺は空気が違うことを肌で感じ取った。
これまでの森とは比較にならない、濃密で邪悪な魔力の淀み。木々はどれも不気味にねじくれ、生き物の気配が全くしない。静寂が、逆に危険を告げていた。
「……いい」
俺の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
これだ。こういう場所を求めていた。
俺は躊躇なく、その魔境へと足を踏み入れた。
森の中は、異様だった。
奇妙な形をした植物が発光し、地面からは時折、不気味な色の瘴気が噴き出している。
俺は五感を研ぎ澄まし、慎重に奥へと進む。強敵の気配を探りながら。
しばらく進んだ、その時だった。
森の奥から、微かに戦闘の音と、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
金属がぶつかり合う音。魔物の咆哮。そして、助けを求める人の声。
誰かが戦っている。
俺は即座に音の方向へと駆け出した。
木々の間を抜け、視界が開けた場所に出る。
そこは、凄惨な戦場と化していた。
豪華な装飾が施された一台の馬車が、多数の魔物に囲まれている。
馬は既に殺され、馬車を守るように戦っていた数人の護衛騎士たちも、そのほとんどが地に伏していた。
魔物の種類は多岐にわたっていた。
人の倍はあろうかという巨大な蜘蛛「アークスパイダー」。鋼のような甲殻を持つ大蠍「アイアンスコーピオン」。そして、それらを率いるように、三体のオーガが棍棒を振り回していた。
「くそっ、キリがない!」
生き残った騎士の一人が、絶望の声を上げる。
彼らは必死に戦っているが、多勢に無勢。その命が尽きるのは、時間の問題だった。
馬車の窓からは、怯えた表情の少女がこちらを覗いていた。
長く尖った耳。絹糸のような白金の髪。整いすぎた美しい顔立ち。彼女が、高貴なエルフであることは一目で分かった。
俺は少し離れた木の陰から、その光景を静観していた。
人助けに興味はない。彼らがどうなろうと、俺の知ったことではなかった。
俺の興味は、ただ一点。
あのオーガどもだ。
中でも、中央に立つ一体は、他の二体よりさらに一回り大きい。その全身から放たれる威圧感は、オークジェネラル・グルバッシュに匹敵する。あるいは、それ以上か。
「……あれなら、少しは楽しめるか」
俺は静かに呟いた。
ようやく見つけた、まともな獲物。みすみす騎士どもに削られてはつまらない。
俺は地面を蹴った。
戦場のまっただ中へ、何の脈絡もなく、一人の男が舞い降りる。
突然の闖入者に、騎士も魔物も、一瞬動きを止めた。
「な、何者だ!?」
騎士の一人が叫ぶ。
俺は答えず、一番近くにいたアークスパイダーの顎を蹴り砕いた。
「グシャァッ!」
断末魔と共に、巨大な蜘蛛が吹き飛ぶ。
それを合図に、俺は魔物の群れへと突っ込んだ。
それは、もはや戦闘ではなかった。
殺戮。蹂躙。一方的な破壊のショーだ。
アイアンスコーピオンの硬い甲殻を拳で貫き、オーガの棍棒を素手で受け止め、逆にへし折る。
魔物たちは、突如として現れた規格外の暴力に混乱していた。
俺は一切の躊躇なく、その命を刈り取っていく。
騎士たちやエルフの少女は、目の前で繰り広げられる光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
あっという間に、雑魚は片付いた。
戦場には、俺と、リーダー格のオーガだけが残される。
「グルオオオオオッ!」
オーガリーダーは、仲間を殺された怒りで血管を浮き上がらせ、俺に向かって咆哮した。
その手には、岩を削り出したような巨大な棍棒が握られている。
「いいぞ。少しは楽しませろよ」
俺は笑みを浮かべ、構えた。
オーガが地響きを立てて突進してくる。振り下ろされる棍棒は、小さな家ほどもある威力と質量を伴っていた。
俺はその一撃を、あえて正面から受け止めた。
両腕を交差させ、全身の筋肉を連動させる。大神流防御術「金剛」。
ゴオォォン!という轟音と共に、凄まじい衝撃が俺の腕を襲った。
足元の地面が砕け、放射状に亀裂が走る。
腕の骨が軋む音が聞こえる。だが、俺は一歩も引かなかった。
「なっ!?」
オーガが、その一撃を受け止められたことに驚愕の表情を浮かべる。
俺はその隙を逃さない。
「もらった」
俺はオーガの棍棒を掴んだまま、逆に力を込める。
ミシミシと、俺の腕力に棍棒が悲鳴を上げた。
そして、次の瞬間。
バキィィィッ!
巨大な石の棍棒が、俺の手の中で粉々に砕け散った。
「グ……!?」
武器を失い、オーガの動きが止まる。
俺はその胸板に、渾身の正拳突きを叩き込んだ。
ドゴォォォン!!!
空気が破裂するような衝撃波が、周囲の木々を揺らす。
オーガの巨体は、まるで砲弾のように吹き飛ばされ、森の奥へと消えていった。
静寂が、戦場を支配した。
残っていた魔物たちは、自分たちのリーダーが一撃で葬られたのを見て、恐怖に駆られたように蜘蛛の子を散らして逃げていく。
嵐が、過ぎ去った。
俺は軽く腕を振り、残った衝撃を逃がす。
少しは楽しめたが、やはり「死闘」には程遠い。物足りなさを感じながら、俺は踵を返した。
もう、ここに用はない。
俺がその場を去ろうとした、その時だった。
「あ、あの! お待ちください!」
か細く、しかし凛とした声が、俺を呼び止めた。
振り返ると、馬車から降りたエルフの少女が、必死の形相でこちらを見ていた。
俺は面倒くさそうに、彼女を一瞥する。
「……何だ」
少女は俺の前に進み出ると、ドレスの裾をつまみ、深々と優雅に頭を下げた。
その所作には、育ちの良さが滲み出ている。
「お助けいただき、誠にありがとうございます。私はリリアナと申します。あなた様のお名前を、お聞かせ願えませんでしょうか」
透き通るような声。翡翠のような瞳。
この世のものとは思えないほどの美しさだった。
だが、俺の心は一ミリも動かない。
俺は倒したオーガが消えていった方向を顎でしゃくった。
「礼なら、あのデカブツに言え」
「……え?」
リリアナは、俺の言葉の意味が理解できず、戸惑った表情を浮かべる。
俺は彼女の反応を楽しむように、口の端を吊り上げた。
「少しだけ、楽しませてくれたんでな」
リリアナと、生き残った騎士たちの顔が、困惑と恐怖に染まっていく。
彼らはようやく理解し始めたのだ。
目の前に立つ男が、自分たちとは全く違う理屈で動く、得体の知れない存在であることを。
俺はDランク冒険者として、いくつかの依頼をこなした。鉱山跡の巨大コウモリの群れを殲滅し、沼地に巣食うリザードマンの集落を壊滅させた。
依頼は全て完璧にこなした。報酬も破格だった。
俺のギルド内での評価はうなぎ登りで、もはや俺に絡んでくる命知らずはいなくなった。一部の者たちからは、畏怖を込めて「歩く災害」などと呼ばれているらしい。
だが、俺の心は満たされなかった。
どの敵も、弱すぎた。
オークジェネラルを超える者は、一体として現れない。
俺は日に日に強くなっている。だが、戦うべき相手のレベルは一向に上がらない。このままでは、ジリ貧だ。
その日も、俺はギルドの依頼ボードの前で腕を組み、深くため息をついた。
Dランクの依頼は、もはや俺にとって退屈な作業でしかない。かといって、Cランクの依頼を受けるには、ギルドの規定でパーティを組むか、さらなる実績を積む必要がある。
「……埒が明かんな」
俺は依頼ボードに背を向けた。
ギルドの依頼に頼っていては、俺の渇きは永遠に癒せない。ならば、やり方を変えるまでだ。
自らの足で探す。
この世界のどこかにいるであろう、俺の魂を震わせるほどの強敵を。
俺は受付嬢に声をかけ、街の周辺で最も危険な場所についての情報を買った。
「『嘆きの森』ですか? あそこはダメです! Bランク以上のパーティでも、生きて帰れる保証はないと言われています。一体どんな魔物がいるのか、詳しい調査すらできていない魔境ですよ!」
彼女は顔を真っ青にして俺を止めようとしたが、俺は聞く耳を持たなかった。
魔境。素晴らしい響きだ。
詳しい調査ができていないということは、未知の強敵が眠っている可能性が高いということだ。
俺は高揚する心を抑え、ギルドを後にした。
街の南に広がる「嘆きの森」。
その入口に立っただけで、俺は空気が違うことを肌で感じ取った。
これまでの森とは比較にならない、濃密で邪悪な魔力の淀み。木々はどれも不気味にねじくれ、生き物の気配が全くしない。静寂が、逆に危険を告げていた。
「……いい」
俺の口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。
これだ。こういう場所を求めていた。
俺は躊躇なく、その魔境へと足を踏み入れた。
森の中は、異様だった。
奇妙な形をした植物が発光し、地面からは時折、不気味な色の瘴気が噴き出している。
俺は五感を研ぎ澄まし、慎重に奥へと進む。強敵の気配を探りながら。
しばらく進んだ、その時だった。
森の奥から、微かに戦闘の音と、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
金属がぶつかり合う音。魔物の咆哮。そして、助けを求める人の声。
誰かが戦っている。
俺は即座に音の方向へと駆け出した。
木々の間を抜け、視界が開けた場所に出る。
そこは、凄惨な戦場と化していた。
豪華な装飾が施された一台の馬車が、多数の魔物に囲まれている。
馬は既に殺され、馬車を守るように戦っていた数人の護衛騎士たちも、そのほとんどが地に伏していた。
魔物の種類は多岐にわたっていた。
人の倍はあろうかという巨大な蜘蛛「アークスパイダー」。鋼のような甲殻を持つ大蠍「アイアンスコーピオン」。そして、それらを率いるように、三体のオーガが棍棒を振り回していた。
「くそっ、キリがない!」
生き残った騎士の一人が、絶望の声を上げる。
彼らは必死に戦っているが、多勢に無勢。その命が尽きるのは、時間の問題だった。
馬車の窓からは、怯えた表情の少女がこちらを覗いていた。
長く尖った耳。絹糸のような白金の髪。整いすぎた美しい顔立ち。彼女が、高貴なエルフであることは一目で分かった。
俺は少し離れた木の陰から、その光景を静観していた。
人助けに興味はない。彼らがどうなろうと、俺の知ったことではなかった。
俺の興味は、ただ一点。
あのオーガどもだ。
中でも、中央に立つ一体は、他の二体よりさらに一回り大きい。その全身から放たれる威圧感は、オークジェネラル・グルバッシュに匹敵する。あるいは、それ以上か。
「……あれなら、少しは楽しめるか」
俺は静かに呟いた。
ようやく見つけた、まともな獲物。みすみす騎士どもに削られてはつまらない。
俺は地面を蹴った。
戦場のまっただ中へ、何の脈絡もなく、一人の男が舞い降りる。
突然の闖入者に、騎士も魔物も、一瞬動きを止めた。
「な、何者だ!?」
騎士の一人が叫ぶ。
俺は答えず、一番近くにいたアークスパイダーの顎を蹴り砕いた。
「グシャァッ!」
断末魔と共に、巨大な蜘蛛が吹き飛ぶ。
それを合図に、俺は魔物の群れへと突っ込んだ。
それは、もはや戦闘ではなかった。
殺戮。蹂躙。一方的な破壊のショーだ。
アイアンスコーピオンの硬い甲殻を拳で貫き、オーガの棍棒を素手で受け止め、逆にへし折る。
魔物たちは、突如として現れた規格外の暴力に混乱していた。
俺は一切の躊躇なく、その命を刈り取っていく。
騎士たちやエルフの少女は、目の前で繰り広げられる光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
あっという間に、雑魚は片付いた。
戦場には、俺と、リーダー格のオーガだけが残される。
「グルオオオオオッ!」
オーガリーダーは、仲間を殺された怒りで血管を浮き上がらせ、俺に向かって咆哮した。
その手には、岩を削り出したような巨大な棍棒が握られている。
「いいぞ。少しは楽しませろよ」
俺は笑みを浮かべ、構えた。
オーガが地響きを立てて突進してくる。振り下ろされる棍棒は、小さな家ほどもある威力と質量を伴っていた。
俺はその一撃を、あえて正面から受け止めた。
両腕を交差させ、全身の筋肉を連動させる。大神流防御術「金剛」。
ゴオォォン!という轟音と共に、凄まじい衝撃が俺の腕を襲った。
足元の地面が砕け、放射状に亀裂が走る。
腕の骨が軋む音が聞こえる。だが、俺は一歩も引かなかった。
「なっ!?」
オーガが、その一撃を受け止められたことに驚愕の表情を浮かべる。
俺はその隙を逃さない。
「もらった」
俺はオーガの棍棒を掴んだまま、逆に力を込める。
ミシミシと、俺の腕力に棍棒が悲鳴を上げた。
そして、次の瞬間。
バキィィィッ!
巨大な石の棍棒が、俺の手の中で粉々に砕け散った。
「グ……!?」
武器を失い、オーガの動きが止まる。
俺はその胸板に、渾身の正拳突きを叩き込んだ。
ドゴォォォン!!!
空気が破裂するような衝撃波が、周囲の木々を揺らす。
オーガの巨体は、まるで砲弾のように吹き飛ばされ、森の奥へと消えていった。
静寂が、戦場を支配した。
残っていた魔物たちは、自分たちのリーダーが一撃で葬られたのを見て、恐怖に駆られたように蜘蛛の子を散らして逃げていく。
嵐が、過ぎ去った。
俺は軽く腕を振り、残った衝撃を逃がす。
少しは楽しめたが、やはり「死闘」には程遠い。物足りなさを感じながら、俺は踵を返した。
もう、ここに用はない。
俺がその場を去ろうとした、その時だった。
「あ、あの! お待ちください!」
か細く、しかし凛とした声が、俺を呼び止めた。
振り返ると、馬車から降りたエルフの少女が、必死の形相でこちらを見ていた。
俺は面倒くさそうに、彼女を一瞥する。
「……何だ」
少女は俺の前に進み出ると、ドレスの裾をつまみ、深々と優雅に頭を下げた。
その所作には、育ちの良さが滲み出ている。
「お助けいただき、誠にありがとうございます。私はリリアナと申します。あなた様のお名前を、お聞かせ願えませんでしょうか」
透き通るような声。翡翠のような瞳。
この世のものとは思えないほどの美しさだった。
だが、俺の心は一ミリも動かない。
俺は倒したオーガが消えていった方向を顎でしゃくった。
「礼なら、あのデカブツに言え」
「……え?」
リリアナは、俺の言葉の意味が理解できず、戸惑った表情を浮かべる。
俺は彼女の反応を楽しむように、口の端を吊り上げた。
「少しだけ、楽しませてくれたんでな」
リリアナと、生き残った騎士たちの顔が、困惑と恐怖に染まっていく。
彼らはようやく理解し始めたのだ。
目の前に立つ男が、自分たちとは全く違う理屈で動く、得体の知れない存在であることを。
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