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第二十四話 リリアナの秘密①
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「王都騎士団副団長、アレクシス。この街で、俺が戦うべき最初の相手だ」
俺の言葉は、宣戦布告だった。
張り詰めた路地裏の空気が、まるで固体になったかのように重くなる。
ガロウが、面白そうに、しかし警戒を解かずに口笛を吹いた。リリアナは、青ざめた顔で俺とアレクシスを交互に見ている。
アレクシスは、その端正な顔から一切の感情を消し去っていた。
だが、その青い瞳の奥で、静かに燃える闘志の炎を俺は見逃さなかった。こいつも、俺と同じ種類の人間だ。戦いに悦びを見出す、戦闘者だ。
「……面白い。その挑戦、受けよう」
アレクシスが、静かに頷いた。
「だが、これは決闘ではない。公務執行だ。手加減はしない。死んでも文句は言うな」
「望むところだ」
アレクシスは、部下たちに手で合図を送った。
「貴様たちは手を出すな。これは、俺の獲物だ」
騎士たちが、一斉に後退し、路地裏に円形の闘技場のような空間が生まれる。
アレクシスが、ゆっくりと腰の長剣を抜いた。
シュイン、という澄んだ音と共に、白銀の刀身が月明かりを反射して輝く。それはただの鉄ではない。魔力を帯びた、一級品の魔法剣だ。
剣を抜いた瞬間、アレクシスの気配がさらに研ぎ澄まされる。
俺は、構えない。
自然体のまま、ただそこに立つ。
だが、俺の全身の細胞は、来るべき戦いに備えて歓喜に打ち震えていた。
先に動いたのは、アレクシスだった。
予備動作が、ない。
まるで瞬間移動したかのように、彼の姿が俺の目の前から消えた。
速い。
ガロウとは質の違う、極限まで洗練された神速の踏み込み。
次の瞬間、俺の首筋に、冷たい鋼の感触が迫っていた。
だが、その剣が俺の肉を裂くことはなかった。
俺は、上半身をわずかに反らすだけで、その斬撃を紙一重でかわしていた。
大神流体術「陽炎」。
「なっ……!?」
アレクシスの目に、初めて純粋な驚愕の色が浮かんだ。
必殺の間合いから放ったはずの、絶対の自信を持つ一撃。それを、最小限の動きでかわされたのだ。
俺は、反撃に転じない。
ただ、静かに元の体勢に戻り、彼を見据える。
「……どうした。その程度か」
俺の挑発に、アレクシスの眉がぴくりと動いた。
「……貴様、何者だ」
「ジンだ。ただの冒険者だ」
「嘘をつけ。ただの冒険者が、俺の『瞬光』を避けられるものか」
アレクシスは、一度間合いを取り、再び剣を構え直した。その目つきは、先ほどまでとは比較にならないほど真剣なものに変わっていた。
彼は、俺を本当の意味で「敵」と認識したのだ。
「ならば、これならどうだ!」
アレクシスの剣が、青白い光を纏う。
聖属性の魔力を刀身に付与している。アンデッドや悪魔族に絶大な効果を発揮する、騎士団の秘技だ。
「聖技、十字閃!」
アレクシスの剣が、縦横に閃き、十字の斬撃となって俺に襲いかかる。
それは、物理的な斬撃と、魔力の刃が合わさった、回避不能の範囲攻撃。
だが、俺はその十字の中心へと、あえて踏み込んだ。
そして、迫り来る四つの斬撃を、両手両足で同時に捌く。
掌で剣の腹を打ち、足刀で魔力の流れを逸らす。
大神流武術「四門崩し」。
バキン!という甲高い音と共に、十字の斬撃は四方へと霧散した。
アレクシスの剣技は、再び俺に届くことなく、無力化された。
「……馬鹿な。俺の聖技が、素手で……」
アレクシスの顔に、驚愕を通り越して、わずかな焦りの色が浮かび始めた。
彼の常識、彼の築き上げてきた剣技の全てが、目の前の男には通用しない。
その事実が、騎士団最強と謳われる男のプライドを、根底から揺さぶり始めていた。
「面白い技だ。だが、まだ足りない」
俺は、静かに告げた。
「お前の全てを見せろ。でなければ、死ぬぞ」
その言葉が、引き金だった。
アレクシスの理性の箍が、外れた。
「……黙れ、異端者がァァッ!」
彼の全身から、凄まじい魔力が噴き上がった。
青いオーラが、彼の体を包み込む。
それは、彼が持つスキルの力だろう。
「奥義、セラフィック・ノヴァ!」
アレクシスの姿が、複数に見える。
神速の動きで、四方八方から同時に斬りかかってくる、究極の絶技。
その一つ一つが、先ほどの「十字閃」と同等以上の威力を持っていた。
これは、捌ききれない。
俺は、初めてダメージを受けることを覚悟した。
そして、その覚悟が、俺の魂をさらに昂らせた。
俺は防御を捨てた。
無数に迫る斬撃の、本物の一太刀。その核となる一撃を、見極める。
これだ。
俺は、右肩に走る灼熱の痛みを感じながら、その本物の一撃を放ったアレクシスの腕を、左手で掴んでいた。
「ぐっ……!?」
俺の肩からは、鮮血が噴き出している。
だが、俺の口元には、歓喜の笑みが浮かんでいた。
【スキル【闘神】の発動条件を認識。スキルを発動します】
待っていた。
この瞬間を。
傷を負った俺の体から、それまでとは比較にならないほどの闘気が、爆発的に噴き上がった。
肩の傷が、瞬時に塞がっていくのが分かる。
「な……なんだ、その力は……!?」
アレクシスが、俺の腕力に捕らえられたまま、驚愕の声を上げる。
さっきまでとは比較にならない、圧倒的な力の奔流。
彼は、目の前で起きている現象が理解できなかった。
俺は、掴んだアレクシスの腕を、ゆっくりと引き寄せた。
ミシミシミシ、と彼の鎧が悲鳴を上げる。
「これが、俺の力だ」
俺は、空いている右拳を、ゆっくりと振り上げた。
その拳には、赤黒い闘気が渦を巻いている。
「……まずい」
アレクシスが、本能的な恐怖に目を見開いた。
この一撃を受ければ、死ぬ。
騎士団最強の男が、初めて、自らの死を明確に予感した。
だが、俺の拳が振り下ろされることはなかった。
俺は、その拳を、アレクシスの顔面の寸前で、ぴたりと止めた。
拳から放たれる風圧だけで、彼の金の髪が激しく逆巻く。
「……勝負あったな」
俺は、静かに告げた。
アレクシスは、動けなかった。
その青い瞳には、敗北の色と、そして理解を超えた力への畏怖が浮かんでいた。
彼は、ゆっくりと、握っていた剣を手放した。
カラン、という乾いた音が、静まり返った路地裏に響き渡った。
それは、王都騎士団最強の男が、敗北を認めた音だった。
俺はアレクシスの腕を解放し、一歩後ろへ下がった。
【闘神】のスキル効果が切れ、心地よい疲労感が体を満たす。
肩の傷は、完全に塞がっていた。
アレクシスは、その場に膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。
彼の部下たちが、慌てて駆け寄ろうとするが、彼はそれを手で制した。
「……完敗だ」
彼は、絞り出すように言った。
「約束通り、お前たちの罪は問わん。……行け」
俺は、それに答えず、踵を返した。
ガロウが、満足げな顔で俺の肩を叩く。リリアナが、安堵の涙を浮かべていた。
俺たちは、黙ってその場を去った。
去り際に、俺は一度だけ振り返った。
アレクシスは、まだ膝をついたまま、俺の背中をじっと見つめていた。
その目に宿っていたのは、もはや敵意ではなかった。
それは、自分を超える強者に出会ってしまった、一人の武人の目だった。
この一件は、すぐに王都の上層部に伝わるだろう。
俺たち『闘神旅団』の名は、もはやただの噂ではなく、騎士団すら凌駕する実力者として、良くも悪くも知れ渡ることになる。
それは、さらなる戦いの始まりを告げる、号砲だった。
俺は、これから始まるであろう新たな死闘の予感に、静かに胸を躍らせていた。
王都での戦いは、まだ始まったばかりだ。
俺の言葉は、宣戦布告だった。
張り詰めた路地裏の空気が、まるで固体になったかのように重くなる。
ガロウが、面白そうに、しかし警戒を解かずに口笛を吹いた。リリアナは、青ざめた顔で俺とアレクシスを交互に見ている。
アレクシスは、その端正な顔から一切の感情を消し去っていた。
だが、その青い瞳の奥で、静かに燃える闘志の炎を俺は見逃さなかった。こいつも、俺と同じ種類の人間だ。戦いに悦びを見出す、戦闘者だ。
「……面白い。その挑戦、受けよう」
アレクシスが、静かに頷いた。
「だが、これは決闘ではない。公務執行だ。手加減はしない。死んでも文句は言うな」
「望むところだ」
アレクシスは、部下たちに手で合図を送った。
「貴様たちは手を出すな。これは、俺の獲物だ」
騎士たちが、一斉に後退し、路地裏に円形の闘技場のような空間が生まれる。
アレクシスが、ゆっくりと腰の長剣を抜いた。
シュイン、という澄んだ音と共に、白銀の刀身が月明かりを反射して輝く。それはただの鉄ではない。魔力を帯びた、一級品の魔法剣だ。
剣を抜いた瞬間、アレクシスの気配がさらに研ぎ澄まされる。
俺は、構えない。
自然体のまま、ただそこに立つ。
だが、俺の全身の細胞は、来るべき戦いに備えて歓喜に打ち震えていた。
先に動いたのは、アレクシスだった。
予備動作が、ない。
まるで瞬間移動したかのように、彼の姿が俺の目の前から消えた。
速い。
ガロウとは質の違う、極限まで洗練された神速の踏み込み。
次の瞬間、俺の首筋に、冷たい鋼の感触が迫っていた。
だが、その剣が俺の肉を裂くことはなかった。
俺は、上半身をわずかに反らすだけで、その斬撃を紙一重でかわしていた。
大神流体術「陽炎」。
「なっ……!?」
アレクシスの目に、初めて純粋な驚愕の色が浮かんだ。
必殺の間合いから放ったはずの、絶対の自信を持つ一撃。それを、最小限の動きでかわされたのだ。
俺は、反撃に転じない。
ただ、静かに元の体勢に戻り、彼を見据える。
「……どうした。その程度か」
俺の挑発に、アレクシスの眉がぴくりと動いた。
「……貴様、何者だ」
「ジンだ。ただの冒険者だ」
「嘘をつけ。ただの冒険者が、俺の『瞬光』を避けられるものか」
アレクシスは、一度間合いを取り、再び剣を構え直した。その目つきは、先ほどまでとは比較にならないほど真剣なものに変わっていた。
彼は、俺を本当の意味で「敵」と認識したのだ。
「ならば、これならどうだ!」
アレクシスの剣が、青白い光を纏う。
聖属性の魔力を刀身に付与している。アンデッドや悪魔族に絶大な効果を発揮する、騎士団の秘技だ。
「聖技、十字閃!」
アレクシスの剣が、縦横に閃き、十字の斬撃となって俺に襲いかかる。
それは、物理的な斬撃と、魔力の刃が合わさった、回避不能の範囲攻撃。
だが、俺はその十字の中心へと、あえて踏み込んだ。
そして、迫り来る四つの斬撃を、両手両足で同時に捌く。
掌で剣の腹を打ち、足刀で魔力の流れを逸らす。
大神流武術「四門崩し」。
バキン!という甲高い音と共に、十字の斬撃は四方へと霧散した。
アレクシスの剣技は、再び俺に届くことなく、無力化された。
「……馬鹿な。俺の聖技が、素手で……」
アレクシスの顔に、驚愕を通り越して、わずかな焦りの色が浮かび始めた。
彼の常識、彼の築き上げてきた剣技の全てが、目の前の男には通用しない。
その事実が、騎士団最強と謳われる男のプライドを、根底から揺さぶり始めていた。
「面白い技だ。だが、まだ足りない」
俺は、静かに告げた。
「お前の全てを見せろ。でなければ、死ぬぞ」
その言葉が、引き金だった。
アレクシスの理性の箍が、外れた。
「……黙れ、異端者がァァッ!」
彼の全身から、凄まじい魔力が噴き上がった。
青いオーラが、彼の体を包み込む。
それは、彼が持つスキルの力だろう。
「奥義、セラフィック・ノヴァ!」
アレクシスの姿が、複数に見える。
神速の動きで、四方八方から同時に斬りかかってくる、究極の絶技。
その一つ一つが、先ほどの「十字閃」と同等以上の威力を持っていた。
これは、捌ききれない。
俺は、初めてダメージを受けることを覚悟した。
そして、その覚悟が、俺の魂をさらに昂らせた。
俺は防御を捨てた。
無数に迫る斬撃の、本物の一太刀。その核となる一撃を、見極める。
これだ。
俺は、右肩に走る灼熱の痛みを感じながら、その本物の一撃を放ったアレクシスの腕を、左手で掴んでいた。
「ぐっ……!?」
俺の肩からは、鮮血が噴き出している。
だが、俺の口元には、歓喜の笑みが浮かんでいた。
【スキル【闘神】の発動条件を認識。スキルを発動します】
待っていた。
この瞬間を。
傷を負った俺の体から、それまでとは比較にならないほどの闘気が、爆発的に噴き上がった。
肩の傷が、瞬時に塞がっていくのが分かる。
「な……なんだ、その力は……!?」
アレクシスが、俺の腕力に捕らえられたまま、驚愕の声を上げる。
さっきまでとは比較にならない、圧倒的な力の奔流。
彼は、目の前で起きている現象が理解できなかった。
俺は、掴んだアレクシスの腕を、ゆっくりと引き寄せた。
ミシミシミシ、と彼の鎧が悲鳴を上げる。
「これが、俺の力だ」
俺は、空いている右拳を、ゆっくりと振り上げた。
その拳には、赤黒い闘気が渦を巻いている。
「……まずい」
アレクシスが、本能的な恐怖に目を見開いた。
この一撃を受ければ、死ぬ。
騎士団最強の男が、初めて、自らの死を明確に予感した。
だが、俺の拳が振り下ろされることはなかった。
俺は、その拳を、アレクシスの顔面の寸前で、ぴたりと止めた。
拳から放たれる風圧だけで、彼の金の髪が激しく逆巻く。
「……勝負あったな」
俺は、静かに告げた。
アレクシスは、動けなかった。
その青い瞳には、敗北の色と、そして理解を超えた力への畏怖が浮かんでいた。
彼は、ゆっくりと、握っていた剣を手放した。
カラン、という乾いた音が、静まり返った路地裏に響き渡った。
それは、王都騎士団最強の男が、敗北を認めた音だった。
俺はアレクシスの腕を解放し、一歩後ろへ下がった。
【闘神】のスキル効果が切れ、心地よい疲労感が体を満たす。
肩の傷は、完全に塞がっていた。
アレクシスは、その場に膝をつき、荒い呼吸を繰り返していた。
彼の部下たちが、慌てて駆け寄ろうとするが、彼はそれを手で制した。
「……完敗だ」
彼は、絞り出すように言った。
「約束通り、お前たちの罪は問わん。……行け」
俺は、それに答えず、踵を返した。
ガロウが、満足げな顔で俺の肩を叩く。リリアナが、安堵の涙を浮かべていた。
俺たちは、黙ってその場を去った。
去り際に、俺は一度だけ振り返った。
アレクシスは、まだ膝をついたまま、俺の背中をじっと見つめていた。
その目に宿っていたのは、もはや敵意ではなかった。
それは、自分を超える強者に出会ってしまった、一人の武人の目だった。
この一件は、すぐに王都の上層部に伝わるだろう。
俺たち『闘神旅団』の名は、もはやただの噂ではなく、騎士団すら凌駕する実力者として、良くも悪くも知れ渡ることになる。
それは、さらなる戦いの始まりを告げる、号砲だった。
俺は、これから始まるであろう新たな死闘の予感に、静かに胸を躍らせていた。
王都での戦いは、まだ始まったばかりだ。
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