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第二十六話 嘆きの坑道・上層
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、俺たちを飲み込んだ。
坑道に一歩足を踏み入れた瞬間、背後の光は遠のき、世界は漆黒と静寂に支配された。
ひやりとした空気が肌を刺す。カビと腐敗、そして死そのものが凝縮されたような悪臭が鼻をついた。
「……うわっ、空気が重てえ」
ガロウが、巨大なウォーハンマーを肩に担ぎ直しながら呟いた。
リリアナが銀の杖を掲げると、その先端から柔らかな光が放たれ、周囲を照らし出す。
光に照らし出されたのは、無数に枝分かれした広大な洞窟だった。壁や天井からは、不気味な色の粘液が滴り落ちている。
瘴気だ。
それはただの淀んだ空気ではない。負の魔力が、霧のように空間を満たしている。
呼吸をするだけで、精神がわずかに削られていくような不快感があった。
「皆さん、これを」
リリアナが懐から小さな布袋を取り出し、俺たちに手渡した。中には、清涼な香りを放つ薬草が入っている。
「気休めかもしれませんが、瘴気の影響を少しだけ和らげてくれるはずです」
俺たちは薬草の袋を首から下げ、隊列を組んで奥へと進み始めた。
ガロウが先頭。その巨体と銀メッキの大盾は、まさに動く要塞だ。俺がそのすぐ後ろに続き、リリアナが最後尾から周囲を警戒する。
コツ、コツ、という俺たちの足音だけが、不気味な静寂の中に響く。
だが、その静寂は長くは続かなかった。
洞窟の闇の奥から、カシャカシャという無数の乾いた音が聞こえてきた。
骨と骨が擦れ合う、おぞましい音。
「……来たか」
ガロウが、盾を構えて低い声を出す。
闇の中から、赤い光点が無数に現れた。それは、憎悪に燃える魂の光。
やがて、光に照らされた闇の中から、奴らが姿を現した。
骸骨。スケルトンだ。
その数は、ざっと見て三十を超える。錆びた剣や斧を手に、ぎこちない動きでこちらへ迫ってくる。
一体一体は弱いが、この数は脅威だ。
「俺が引き受ける! 二人は後ろから援護を頼む!」
ガロウが咆哮し、突進してきたスケルトンの群れに正面からぶつかった。
ドゴォン!という轟音。大盾の一撃で、数体のスケルトンが粉々に砕け散る。
だが、騎士団の報告通り、奴らは異常だった。
砕けた骨が、まるで磁石に引かれるように集まり、再び元の姿へと戻っていく。
「ちっ、マジで再生しやがるのかよ!」
ガロウが悪態をつく。
「聖なる光よ、その穢れを浄めたまえ!」
リリアナの詠唱が響く。彼女の杖から放たれた光の矢が、一体のスケルトンに命中した。
光を浴びたスケルトンは、聖なる炎に焼かれて甲高い悲鳴を上げ、今度こそ再生することなく灰と化した。
「リリアナ、いいぞ! だが、全員は無理だ!」
「分かっています! 動きを鈍らせるのが精一杯です!」
リリアナの魔法は強力だが、この数を相手にするには詠唱時間が長すぎる。
俺は、ガロウの盾の陰から飛び出した。
「核を潰せばいい。それだけのことだ」
再生の源は、頭蓋骨の奥で妖しく光る魂の火。あれを破壊すれば、奴らはただの骨に戻る。
俺はスケルトンの群れに突っ込む。
振り下ろされる錆びた剣を避け、一体の懐に潜り込む。
そして、その頭蓋骨めがけて、一点に集中させた貫き手を叩き込んだ。
パリン!という軽い音。
俺の指は、硬い頭蓋を豆腐のように貫き、魂の火を握り潰した。
光を失ったスケルトンは、糸が切れたように崩れ落ち、二度と動くことはなかった。
俺は次々と、同じ方法でスケルトンを破壊していく。
ガロウが壁となって敵の攻撃を一身に受け止め、俺がその隙に敵の急所を的確に破壊する。
リリアナは、俺たちが取りこぼした個体や、厄介な動きをする個体を魔法で的確に牽制した。
完璧な連携だった。
俺たちの前では、不死身のはずのアンデッドの群れが、ただの的になっていた。
スケルトンを全滅させ、俺たちはさらに奥へと進む。
道中、今度はゾンビの集団に遭遇した。生前の騎士や冒険者だったのだろう。腐りかけた肉体を動かし、生者への憎しみを撒き散らしながら襲いかかってくる。
スケルトンよりも動きは鈍いが、その分、力と耐久力が高い。
「こいつら、臭え上にしぶといぜ!」
ガロウが、ウォーハンマーでゾンビの頭を叩き潰す。だが、頭を失っても、その体はしばらく動き続けた。
「心臓部にある、瘴気の核が弱点です!」
リリアナが、文献で得た知識を叫ぶ。
「任せろ!」
俺はゾンビの群れを駆け抜ける。
すれ違い様に、一体一体の胸に掌底を打ち込んでいく。
俺の闘気を込めた一撃は、腐った肉体を貫通し、内部の核だけを正確に破壊した。
俺が通り過ぎた後には、活動を停止したゾンビの死体が積み上がっていくだけだった。
「……へっ。お前がいると、俺の出番がねえな」
ガロウが、ウォーハンマーを肩に担ぎ、楽しそうに笑った。
「お前の盾がなければ、俺も自由に動けん」
俺は、事実を告げた。
その言葉に、ガロウは満足げに頷いた。
上層だけでも、相当な数のアンデッドを屠った。
騎士団が苦戦した理由が分かる。この再生能力と物量は、普通のパーティではいずれ押し潰されるだろう。
だが、俺たちにとっては、格好のウォーミングアップでしかなかった。
やがて、俺たちの目の前に、下り階段が現れた。
坑道の中層へと続く道だ。
階段の向こうからは、これまでとは比較にならないほど、濃密で邪悪な瘴気が渦を巻いて吹き上がってきていた。
「どうやら、ここからが本番らしいな」
ガロウが、ウォーハンマーを握り直す。
「瘴気が格段に濃くなっています。皆さん、気を引き締めてください」
リリアナも、杖を構え直した。
俺は、階段の先の闇を見据えた。
奥から聞こえるのは、鎖を引きずるような音。そして、何者かの苦悶に満ちた呻き声。
上層の雑魚どもとは、明らかに質の違う気配が、俺を呼んでいた。
俺の口元に、笑みが浮かぶ。
「……いいぞ。もっと来い」
闘神旅団は、躊躇なく、その深淵へと続く階段を下り始めた。
本当の戦いは、ここから始まる。
坑道に一歩足を踏み入れた瞬間、背後の光は遠のき、世界は漆黒と静寂に支配された。
ひやりとした空気が肌を刺す。カビと腐敗、そして死そのものが凝縮されたような悪臭が鼻をついた。
「……うわっ、空気が重てえ」
ガロウが、巨大なウォーハンマーを肩に担ぎ直しながら呟いた。
リリアナが銀の杖を掲げると、その先端から柔らかな光が放たれ、周囲を照らし出す。
光に照らし出されたのは、無数に枝分かれした広大な洞窟だった。壁や天井からは、不気味な色の粘液が滴り落ちている。
瘴気だ。
それはただの淀んだ空気ではない。負の魔力が、霧のように空間を満たしている。
呼吸をするだけで、精神がわずかに削られていくような不快感があった。
「皆さん、これを」
リリアナが懐から小さな布袋を取り出し、俺たちに手渡した。中には、清涼な香りを放つ薬草が入っている。
「気休めかもしれませんが、瘴気の影響を少しだけ和らげてくれるはずです」
俺たちは薬草の袋を首から下げ、隊列を組んで奥へと進み始めた。
ガロウが先頭。その巨体と銀メッキの大盾は、まさに動く要塞だ。俺がそのすぐ後ろに続き、リリアナが最後尾から周囲を警戒する。
コツ、コツ、という俺たちの足音だけが、不気味な静寂の中に響く。
だが、その静寂は長くは続かなかった。
洞窟の闇の奥から、カシャカシャという無数の乾いた音が聞こえてきた。
骨と骨が擦れ合う、おぞましい音。
「……来たか」
ガロウが、盾を構えて低い声を出す。
闇の中から、赤い光点が無数に現れた。それは、憎悪に燃える魂の光。
やがて、光に照らされた闇の中から、奴らが姿を現した。
骸骨。スケルトンだ。
その数は、ざっと見て三十を超える。錆びた剣や斧を手に、ぎこちない動きでこちらへ迫ってくる。
一体一体は弱いが、この数は脅威だ。
「俺が引き受ける! 二人は後ろから援護を頼む!」
ガロウが咆哮し、突進してきたスケルトンの群れに正面からぶつかった。
ドゴォン!という轟音。大盾の一撃で、数体のスケルトンが粉々に砕け散る。
だが、騎士団の報告通り、奴らは異常だった。
砕けた骨が、まるで磁石に引かれるように集まり、再び元の姿へと戻っていく。
「ちっ、マジで再生しやがるのかよ!」
ガロウが悪態をつく。
「聖なる光よ、その穢れを浄めたまえ!」
リリアナの詠唱が響く。彼女の杖から放たれた光の矢が、一体のスケルトンに命中した。
光を浴びたスケルトンは、聖なる炎に焼かれて甲高い悲鳴を上げ、今度こそ再生することなく灰と化した。
「リリアナ、いいぞ! だが、全員は無理だ!」
「分かっています! 動きを鈍らせるのが精一杯です!」
リリアナの魔法は強力だが、この数を相手にするには詠唱時間が長すぎる。
俺は、ガロウの盾の陰から飛び出した。
「核を潰せばいい。それだけのことだ」
再生の源は、頭蓋骨の奥で妖しく光る魂の火。あれを破壊すれば、奴らはただの骨に戻る。
俺はスケルトンの群れに突っ込む。
振り下ろされる錆びた剣を避け、一体の懐に潜り込む。
そして、その頭蓋骨めがけて、一点に集中させた貫き手を叩き込んだ。
パリン!という軽い音。
俺の指は、硬い頭蓋を豆腐のように貫き、魂の火を握り潰した。
光を失ったスケルトンは、糸が切れたように崩れ落ち、二度と動くことはなかった。
俺は次々と、同じ方法でスケルトンを破壊していく。
ガロウが壁となって敵の攻撃を一身に受け止め、俺がその隙に敵の急所を的確に破壊する。
リリアナは、俺たちが取りこぼした個体や、厄介な動きをする個体を魔法で的確に牽制した。
完璧な連携だった。
俺たちの前では、不死身のはずのアンデッドの群れが、ただの的になっていた。
スケルトンを全滅させ、俺たちはさらに奥へと進む。
道中、今度はゾンビの集団に遭遇した。生前の騎士や冒険者だったのだろう。腐りかけた肉体を動かし、生者への憎しみを撒き散らしながら襲いかかってくる。
スケルトンよりも動きは鈍いが、その分、力と耐久力が高い。
「こいつら、臭え上にしぶといぜ!」
ガロウが、ウォーハンマーでゾンビの頭を叩き潰す。だが、頭を失っても、その体はしばらく動き続けた。
「心臓部にある、瘴気の核が弱点です!」
リリアナが、文献で得た知識を叫ぶ。
「任せろ!」
俺はゾンビの群れを駆け抜ける。
すれ違い様に、一体一体の胸に掌底を打ち込んでいく。
俺の闘気を込めた一撃は、腐った肉体を貫通し、内部の核だけを正確に破壊した。
俺が通り過ぎた後には、活動を停止したゾンビの死体が積み上がっていくだけだった。
「……へっ。お前がいると、俺の出番がねえな」
ガロウが、ウォーハンマーを肩に担ぎ、楽しそうに笑った。
「お前の盾がなければ、俺も自由に動けん」
俺は、事実を告げた。
その言葉に、ガロウは満足げに頷いた。
上層だけでも、相当な数のアンデッドを屠った。
騎士団が苦戦した理由が分かる。この再生能力と物量は、普通のパーティではいずれ押し潰されるだろう。
だが、俺たちにとっては、格好のウォーミングアップでしかなかった。
やがて、俺たちの目の前に、下り階段が現れた。
坑道の中層へと続く道だ。
階段の向こうからは、これまでとは比較にならないほど、濃密で邪悪な瘴気が渦を巻いて吹き上がってきていた。
「どうやら、ここからが本番らしいな」
ガロウが、ウォーハンマーを握り直す。
「瘴気が格段に濃くなっています。皆さん、気を引き締めてください」
リリアナも、杖を構え直した。
俺は、階段の先の闇を見据えた。
奥から聞こえるのは、鎖を引きずるような音。そして、何者かの苦悶に満ちた呻き声。
上層の雑魚どもとは、明らかに質の違う気配が、俺を呼んでいた。
俺の口元に、笑みが浮かぶ。
「……いいぞ。もっと来い」
闘神旅団は、躊躇なく、その深淵へと続く階段を下り始めた。
本当の戦いは、ここから始まる。
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