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第三十七話 伝説のダンジョン
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俺たちの新たな目標が決まった瞬間、闘神旅団は再び動き出した。
行き先は未踏破ダンジョン『神々の墓場』。Sランク指定の、生還者なき魔境。
その情報は王都中央ギルドの中でも最高機密に属するものだった。
「本気か、お前ら」
マスター室で俺たちの決意を聞いたバルガスは、さすがに呆れたような顔をした。
「あの仮面の剣士に負けたからって、ヤケになるのも大概にしやがれ。神々の墓場は、お前らがこれまで経験してきたどの戦場とも次元が違う。死にに行くようなもんだぞ」
「だから行くんだ」
俺の答えに、バルガスは深く長い煙を吐き出した。
「……そうか。お前のその目は、もう誰にも止められねえ目だな」
彼はやれやれといった風に首を振りながらも、巨大な書庫の鍵を取り出した。
「分かった。ギルドが持つ、神々の墓場に関する全ての情報をくれてやる。だが、これは投資だ。必ず生きて帰ってきて、その情報を持ち帰れ。そして、ギルドに莫大な利益をもたらせ。いいな」
「ああ、約束する」
俺たちはギルドの地下にある禁書庫へと案内された。
そこには数百年分の冒険の記録が、埃を被って眠っていた。
神々の墓場に関する資料は一つの書棚を丸々埋め尽くすほどだったが、そのほとんどが「第一階層で消息を絶つ」「入口付近で壊滅」といった絶望的な記録ばかりだった。
「……こりゃあ、思った以上にヤバそうだな」
ガロウが黄ばんだ羊皮紙をめくりながら唸る。
資料によれば、神々の墓場はただのダンジョンではない。古代、神々が自らの力を試すために創り出した試練の場であり、内部の構造は常に変化し、そこに巣食う魔物は全てが神話級の眷属だという。
過去に挑んだSランクパーティですら、第三階層より奥に進んだ記録は一つも残っていなかった。
「ですが、攻略の糸口がないわけではありません」
リリアナが一冊の古い書物を指差した。
「この文献によれば、ダンジョンの各階層には神々の試練を司る『番人』が存在するそうです。その番人を打ち破ることで次の階層への道が開かれると……。そして、番人にはそれぞれ弱点となる属性や、特定の倒し方があるようです」
俺たちは三日三晩その禁書庫に籠もり、膨大な情報を頭に叩き込んだ。
俺がこれほど戦う前に座学に時間を費したことは、前世を含めても初めてだった。
だが、苦痛ではなかった。未知の強敵、未知の試練。その全てが俺の闘争心を刺激した。
「……なるほどな。力押しだけじゃ絶対にクリアできねえように作られてるわけか」
ガロウもただの脳筋ではない。彼は戦術の重要性を理解し、真剣な表情で地図や魔物の弱点リストを頭に叩き込んでいた。
そして、準備期間。
俺たちは今回の挑戦のために、ギルドから前借りした莫大な資金を惜しみなく投入した。
ガロウはドワーフの鍛冶師に再び依頼し、対神話級魔物用の特殊合金で作られた山のような大盾とウォーハンマーを手に入れた。それはもはや武器というより、城壁の一部を切り取ってきたかのような代物だった。
リリアナは王宮の宝物庫から、エルフの王族にしか扱えないとされる伝説の杖『世界樹の枝』を借り受けてきた。それは彼女の精霊魔法の力を何倍にも増幅させる秘宝だ。
俺は武器も防具も新調しなかった。
だが、代わりに王都の裏路地にある、ある工房を訪れた。
そこは魔力を込めた特殊な刺青を彫る、一風変わった老婆の店だった。
俺は全財産を支払い、背中一面に闘気を増幅させる古代のルーン文字を刻んでもらった。皮膚を切り裂き、魔力を帯びたインクを流し込む。その痛みは俺の決意をさらに強固なものにした。
全ての準備が整った。
俺たちはこれまでで最高の装備と覚悟をその身に纏っていた。
出発の日の朝。
俺たちが宿を出ると、そこには意外な人物が待っていた。
腕を吊った騎士団副団長アレクシスだった。
「……死にに行くと聞いた」
彼は静かに言った。
「ああ」
「……これを、持っていけ」
アレクシスは俺に一つの小さなペンダントを差し出した。それは聖なる銀で作られ、守護の魔法が付与された騎士団のお守りだった。
「……気休めにしかならんかもしれんがな」
俺は黙ってそれを受け取った。
「……なぜだ。俺は、お前を打ち負かした相手だぞ」
「だからだ」
アレクシスは真っ直ぐに俺の目を見た。
「俺はお前に負けた。だが、俺はまだお前を超えることを諦めてはいない。貴様がそんな場所で無様に死んでしまっては、俺の目標がなくなる。……必ず、生きて帰ってこい。そして、もう一度俺と戦え」
それはライバルからの熱いエールだった。
俺は初めて、その男に対してわずかな好感を覚えた。
「……ああ。約束する」
俺たちは誰に見送られるでもなく、静かに王都の門をくぐった。
目指すは大陸の北端、人が足を踏み入れぬ禁忌の山脈地帯にあるという、神々の墓場。
それはこれまでのどんな冒険とも違う、死と隣り合わせの旅になるだろう。
俺の、そして俺たちの全てが試される。
敗北を知った俺が本当の意味で生まれ変われるのか。
その答えは伝説のダンジョンの最深部で、俺たちを待っているはずだ。
俺は北の空を見据えた。
その先にあるまだ見ぬ死闘の気配に、俺の魂は静かに、しかし激しく燃え上がっていた。
本当の戦いは、これからだ。
行き先は未踏破ダンジョン『神々の墓場』。Sランク指定の、生還者なき魔境。
その情報は王都中央ギルドの中でも最高機密に属するものだった。
「本気か、お前ら」
マスター室で俺たちの決意を聞いたバルガスは、さすがに呆れたような顔をした。
「あの仮面の剣士に負けたからって、ヤケになるのも大概にしやがれ。神々の墓場は、お前らがこれまで経験してきたどの戦場とも次元が違う。死にに行くようなもんだぞ」
「だから行くんだ」
俺の答えに、バルガスは深く長い煙を吐き出した。
「……そうか。お前のその目は、もう誰にも止められねえ目だな」
彼はやれやれといった風に首を振りながらも、巨大な書庫の鍵を取り出した。
「分かった。ギルドが持つ、神々の墓場に関する全ての情報をくれてやる。だが、これは投資だ。必ず生きて帰ってきて、その情報を持ち帰れ。そして、ギルドに莫大な利益をもたらせ。いいな」
「ああ、約束する」
俺たちはギルドの地下にある禁書庫へと案内された。
そこには数百年分の冒険の記録が、埃を被って眠っていた。
神々の墓場に関する資料は一つの書棚を丸々埋め尽くすほどだったが、そのほとんどが「第一階層で消息を絶つ」「入口付近で壊滅」といった絶望的な記録ばかりだった。
「……こりゃあ、思った以上にヤバそうだな」
ガロウが黄ばんだ羊皮紙をめくりながら唸る。
資料によれば、神々の墓場はただのダンジョンではない。古代、神々が自らの力を試すために創り出した試練の場であり、内部の構造は常に変化し、そこに巣食う魔物は全てが神話級の眷属だという。
過去に挑んだSランクパーティですら、第三階層より奥に進んだ記録は一つも残っていなかった。
「ですが、攻略の糸口がないわけではありません」
リリアナが一冊の古い書物を指差した。
「この文献によれば、ダンジョンの各階層には神々の試練を司る『番人』が存在するそうです。その番人を打ち破ることで次の階層への道が開かれると……。そして、番人にはそれぞれ弱点となる属性や、特定の倒し方があるようです」
俺たちは三日三晩その禁書庫に籠もり、膨大な情報を頭に叩き込んだ。
俺がこれほど戦う前に座学に時間を費したことは、前世を含めても初めてだった。
だが、苦痛ではなかった。未知の強敵、未知の試練。その全てが俺の闘争心を刺激した。
「……なるほどな。力押しだけじゃ絶対にクリアできねえように作られてるわけか」
ガロウもただの脳筋ではない。彼は戦術の重要性を理解し、真剣な表情で地図や魔物の弱点リストを頭に叩き込んでいた。
そして、準備期間。
俺たちは今回の挑戦のために、ギルドから前借りした莫大な資金を惜しみなく投入した。
ガロウはドワーフの鍛冶師に再び依頼し、対神話級魔物用の特殊合金で作られた山のような大盾とウォーハンマーを手に入れた。それはもはや武器というより、城壁の一部を切り取ってきたかのような代物だった。
リリアナは王宮の宝物庫から、エルフの王族にしか扱えないとされる伝説の杖『世界樹の枝』を借り受けてきた。それは彼女の精霊魔法の力を何倍にも増幅させる秘宝だ。
俺は武器も防具も新調しなかった。
だが、代わりに王都の裏路地にある、ある工房を訪れた。
そこは魔力を込めた特殊な刺青を彫る、一風変わった老婆の店だった。
俺は全財産を支払い、背中一面に闘気を増幅させる古代のルーン文字を刻んでもらった。皮膚を切り裂き、魔力を帯びたインクを流し込む。その痛みは俺の決意をさらに強固なものにした。
全ての準備が整った。
俺たちはこれまでで最高の装備と覚悟をその身に纏っていた。
出発の日の朝。
俺たちが宿を出ると、そこには意外な人物が待っていた。
腕を吊った騎士団副団長アレクシスだった。
「……死にに行くと聞いた」
彼は静かに言った。
「ああ」
「……これを、持っていけ」
アレクシスは俺に一つの小さなペンダントを差し出した。それは聖なる銀で作られ、守護の魔法が付与された騎士団のお守りだった。
「……気休めにしかならんかもしれんがな」
俺は黙ってそれを受け取った。
「……なぜだ。俺は、お前を打ち負かした相手だぞ」
「だからだ」
アレクシスは真っ直ぐに俺の目を見た。
「俺はお前に負けた。だが、俺はまだお前を超えることを諦めてはいない。貴様がそんな場所で無様に死んでしまっては、俺の目標がなくなる。……必ず、生きて帰ってこい。そして、もう一度俺と戦え」
それはライバルからの熱いエールだった。
俺は初めて、その男に対してわずかな好感を覚えた。
「……ああ。約束する」
俺たちは誰に見送られるでもなく、静かに王都の門をくぐった。
目指すは大陸の北端、人が足を踏み入れぬ禁忌の山脈地帯にあるという、神々の墓場。
それはこれまでのどんな冒険とも違う、死と隣り合わせの旅になるだろう。
俺の、そして俺たちの全てが試される。
敗北を知った俺が本当の意味で生まれ変われるのか。
その答えは伝説のダンジョンの最深部で、俺たちを待っているはずだ。
俺は北の空を見据えた。
その先にあるまだ見ぬ死闘の気配に、俺の魂は静かに、しかし激しく燃え上がっていた。
本当の戦いは、これからだ。
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