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第五十一話 ガロウの覚悟
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終末のブレス。
エンシェントドラゴン・イグニールの口内に収束していく光は、もはやブレスという生易しいものではなかった。
それは、星が生まれ、そして死ぬ瞬間の輝き。
純粋な破壊の概念そのものが、一つの形となって俺たちに牙を剥こうとしていた。
周囲の空間がその圧倒的な魔力に耐えきれず悲鳴を上げる。
地面の溶岩は逆巻き、空は赤黒く染まり、世界が終わるかのようなプレッシャーが俺たちの魂を直接握り潰しにかかる。
「聖域展開! 水の精霊王の加護を!」
リリアナが血を吐くような叫びと共に、ありったけの魔力を込めた防御魔法を展開した。
だが、その聖なる結界はブレスが放たれる前に、ただプレッシャーだけでガラスのように砕け散った。
格が違いすぎる。
絶望。
その二文字がリリアナの顔に浮かんだ。
だが、その絶望を打ち砕くように、一つの巨大な影が彼女の前に立ちはだかった。
「……下がってろ、リリアナ。ジンもだ」
ガロウだった。
その声はいつもと変わらない自信に満ちたものだったが、その背中はこれまでに見たどんな時よりも大きく、そして頼もしく見えた。
「ここは盾役の俺の仕事だ」
彼はドワーフの最高傑作である大盾『不動』を、灼熱の大地に深く突き刺すように構えた。
そして、その背中を盾に預け、自らの肉体そのものを最後の城壁とした。
彼の全身から、獣の闘気が血のように噴き上がる。
「面白い」
イグニールの声が響いた。
『その矮小な体で、我が終焉を受け止めようというのか。その蛮勇、褒めてやろう』
そして、光が放たれた。
世界から音が消えた。
純白の破壊の奔流が、ガロウの巨体を、その一点だけを完全に飲み込んでいく。
リリアナが悲鳴を上げようとして、声も出せずに口を覆った。
俺はただその光景を目に焼き付けていた。
俺の相棒が命を懸けて、俺たちのための時間を稼いでいる。
その覚悟を無駄にはしない。
光の中心で、ガロウは耐えていた。
大盾『不動』は神話級の金属で作られているはずだったが、終末のブレスの前ではまるで蝋細工のように端から溶け落ちていく。
ミシミシミシ、と盾が断末魔の悲鳴を上げる。
「ぐ……おおおおおおおおおおおおっ!」
ガロウの咆哮。
彼の全身の筋肉が、血管が、はち切れんばかりに隆起する。
彼はただ受け止めているのではない。
獣人族の秘技。受けた衝撃を闘気として自らの力に変換し、耐え続けているのだ。
だが、それにも限界があった。
バキィィィィィン!!!
甲高い破壊音と共に、大盾『不動』が光の粒子となって完全に砕け散った。
盾を失ったガロウの巨体に、破壊の奔流が直接叩きつけられる。
「ガロウ!」
だが、彼はまだ立っていた。
盾を失った今、彼は自らの両腕を交差させ、その肉体そのものを最後の盾としていた。
皮膚が焼け、筋肉が抉れ、骨が軋む。
それでも、彼は倒れない。
その瞳に宿る光は、少しも揺らいでいなかった。
(……ここまで、か)
ガロウの意識が遠のいていく。
(だが、悪くねえ。最高の相棒と最高の仲間を守って死ねるなら……盾役として本望だ)
彼の覚悟が死を決したその一瞬、背後から二つの力が彼を支えた。
「風の衣よ、彼の者の痛みを和らげよ!」
リリアナの祈りに似た支援魔法が、ガロウの体を包みダメージをわずかに軽減する。
そして。
「――そこまでだ」
俺が動いた。
ガロウが稼いでくれたほんの数秒。
俺はその時間を使い、極限まで闘気を高めて跳んでいた。
俺はブレスの奔流の、わずかに威力が弱い側面から突っ込んだ。
灼熱のエネルギーが俺の体を焼く。
だが、構わない。
俺はイグニールの巨大な顎の下、ブレスの放射元へとたどり着いていた。
そして、その逆鱗が密集する最も硬いであろう一点に、俺の全てを込めた拳を叩き込む。
狙いはダメージを与えることではない。
このブレスを中断させること。
「邪魔だァァァッ!」
轟音。
俺の拳は確かにイグニールの鱗を砕き、その肉体へと達した。
『グ……オッ!?』
イグニールの巨大な瞳に、初めて明確な驚愕の色が浮かんだ。
彼の意識が俺という異物に一瞬だけ向いたことで、ブレスの集中が途切れる。
破壊の奔流が嘘のように掻き消えた。
後に残されたのは、ボロボロになって膝をつくガロウと、全身から煙を上げる俺、そしてわずかな傷を負い、心底愉快そうに俺たちを見下ろすエンシェントドラゴンの姿だった。
『……ほう』
イグニールの声が響き渡る。
『我が終焉を耐えきり、さらには反撃までしてみせるとは。定命の者よ、貴様ら、実に面白い』
絶望的な状況は何も変わっていなかった。
俺たちは満身創痍。
だが、敵はまだ本気を出してすらいない。
戦いはまだ始まったばかりだった。
エンシェントドラゴン・イグニールの口内に収束していく光は、もはやブレスという生易しいものではなかった。
それは、星が生まれ、そして死ぬ瞬間の輝き。
純粋な破壊の概念そのものが、一つの形となって俺たちに牙を剥こうとしていた。
周囲の空間がその圧倒的な魔力に耐えきれず悲鳴を上げる。
地面の溶岩は逆巻き、空は赤黒く染まり、世界が終わるかのようなプレッシャーが俺たちの魂を直接握り潰しにかかる。
「聖域展開! 水の精霊王の加護を!」
リリアナが血を吐くような叫びと共に、ありったけの魔力を込めた防御魔法を展開した。
だが、その聖なる結界はブレスが放たれる前に、ただプレッシャーだけでガラスのように砕け散った。
格が違いすぎる。
絶望。
その二文字がリリアナの顔に浮かんだ。
だが、その絶望を打ち砕くように、一つの巨大な影が彼女の前に立ちはだかった。
「……下がってろ、リリアナ。ジンもだ」
ガロウだった。
その声はいつもと変わらない自信に満ちたものだったが、その背中はこれまでに見たどんな時よりも大きく、そして頼もしく見えた。
「ここは盾役の俺の仕事だ」
彼はドワーフの最高傑作である大盾『不動』を、灼熱の大地に深く突き刺すように構えた。
そして、その背中を盾に預け、自らの肉体そのものを最後の城壁とした。
彼の全身から、獣の闘気が血のように噴き上がる。
「面白い」
イグニールの声が響いた。
『その矮小な体で、我が終焉を受け止めようというのか。その蛮勇、褒めてやろう』
そして、光が放たれた。
世界から音が消えた。
純白の破壊の奔流が、ガロウの巨体を、その一点だけを完全に飲み込んでいく。
リリアナが悲鳴を上げようとして、声も出せずに口を覆った。
俺はただその光景を目に焼き付けていた。
俺の相棒が命を懸けて、俺たちのための時間を稼いでいる。
その覚悟を無駄にはしない。
光の中心で、ガロウは耐えていた。
大盾『不動』は神話級の金属で作られているはずだったが、終末のブレスの前ではまるで蝋細工のように端から溶け落ちていく。
ミシミシミシ、と盾が断末魔の悲鳴を上げる。
「ぐ……おおおおおおおおおおおおっ!」
ガロウの咆哮。
彼の全身の筋肉が、血管が、はち切れんばかりに隆起する。
彼はただ受け止めているのではない。
獣人族の秘技。受けた衝撃を闘気として自らの力に変換し、耐え続けているのだ。
だが、それにも限界があった。
バキィィィィィン!!!
甲高い破壊音と共に、大盾『不動』が光の粒子となって完全に砕け散った。
盾を失ったガロウの巨体に、破壊の奔流が直接叩きつけられる。
「ガロウ!」
だが、彼はまだ立っていた。
盾を失った今、彼は自らの両腕を交差させ、その肉体そのものを最後の盾としていた。
皮膚が焼け、筋肉が抉れ、骨が軋む。
それでも、彼は倒れない。
その瞳に宿る光は、少しも揺らいでいなかった。
(……ここまで、か)
ガロウの意識が遠のいていく。
(だが、悪くねえ。最高の相棒と最高の仲間を守って死ねるなら……盾役として本望だ)
彼の覚悟が死を決したその一瞬、背後から二つの力が彼を支えた。
「風の衣よ、彼の者の痛みを和らげよ!」
リリアナの祈りに似た支援魔法が、ガロウの体を包みダメージをわずかに軽減する。
そして。
「――そこまでだ」
俺が動いた。
ガロウが稼いでくれたほんの数秒。
俺はその時間を使い、極限まで闘気を高めて跳んでいた。
俺はブレスの奔流の、わずかに威力が弱い側面から突っ込んだ。
灼熱のエネルギーが俺の体を焼く。
だが、構わない。
俺はイグニールの巨大な顎の下、ブレスの放射元へとたどり着いていた。
そして、その逆鱗が密集する最も硬いであろう一点に、俺の全てを込めた拳を叩き込む。
狙いはダメージを与えることではない。
このブレスを中断させること。
「邪魔だァァァッ!」
轟音。
俺の拳は確かにイグニールの鱗を砕き、その肉体へと達した。
『グ……オッ!?』
イグニールの巨大な瞳に、初めて明確な驚愕の色が浮かんだ。
彼の意識が俺という異物に一瞬だけ向いたことで、ブレスの集中が途切れる。
破壊の奔流が嘘のように掻き消えた。
後に残されたのは、ボロボロになって膝をつくガロウと、全身から煙を上げる俺、そしてわずかな傷を負い、心底愉快そうに俺たちを見下ろすエンシェントドラゴンの姿だった。
『……ほう』
イグニールの声が響き渡る。
『我が終焉を耐えきり、さらには反撃までしてみせるとは。定命の者よ、貴様ら、実に面白い』
絶望的な状況は何も変わっていなかった。
俺たちは満身創痍。
だが、敵はまだ本気を出してすらいない。
戦いはまだ始まったばかりだった。
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