死闘を求めた戦闘狂、異世界で最強スキル【闘神】を授かる 〜強敵と戦うほど無限に強くなるので、神だろうが殴りに行きます〜

夏見ナイ

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第五十七話 旧神の欠片

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神殿に満ちていた殺意と闘気の嵐が過ぎ去り、後に残されたのは死のような静寂と俺たちの荒い呼吸だけだった。
壁画の英雄たちは砕け散り、床には教団員たちのローブの残骸と黒い血痕が生々しく残っている。
俺は意識を失ったリリアナを慎重に抱え上げ、血の海に倒れ伏しているガロウに歩み寄った。

「……立てるか」
「へっ……当たり前だろ……。この程度でくたばる俺様じゃねえ……」
ガロウは強がって見せたが、その体はもはや限界だった。俺が肩を貸すと、彼は巨体を預けるようにしてもたれかかってきた。その体重は鉛のように重かった。

俺たちは満身創痍の体を引きずりながら、神殿の奥、教団員たちが向かったであろう祭壇の間へと足を踏み入れた。
そこは神殿の中でも一際神聖な空気が漂う円形の広間だった。
だが、その神聖さは既に穢されていた。

広間の中央には、かつて何かを奉っていたであろう巨大な水晶の祭壇があった。
だが、その水晶は中央から無惨に砕け散り、禍々しい紫色の瘴気を放っている。
祭壇の周囲には、教団が儀式に使ったであろう冒涜的な魔法陣が血で描かれていた。

「……間に合わなかったか」
俺は静かに呟いた。
教団は俺たちがザラガスと死闘を繰り広げている隙に、この祭壇に封印されていた何かを奪い去ったのだ。

「ジン様……これは……」
俺の腕の中でリリアナがかろうじて意識を取り戻した。彼女は砕けた祭壇を見て、息を呑んだ。
「……旧神の……欠片……。まさか、こんな場所に封印されていたなんて……」

彼女の瞳には絶望の色が浮かんでいた。
「旧神の欠片?」
ガロウが苦しげな声で問う。

「はい。かつて英雄たちに封印された旧神は、その魂と肉体を無数の欠片に分けられ、世界の各地に隠されたと文献にはありました。その一つ一つが神の力の一部を宿す危険な遺物……。黄昏の教団はそれを集め、旧神を完全に復活させようとしているのです」

嘆きの坑道のリッチ、ネビュロスは言っていた。
『この霊廟での儀式は、そのためのほんの布石』だと。
あの儀式は、この封印の場所を特定し、その力を弱めるためのものだったのだろう。
そして、俺たちは結果的にその手助けをしてしまったことになる。

「……くそったれが」
ガロウが悔しげに悪態をついた。
俺たちは戦いには勝った。だが、教団の目的を阻止することはできなかった。
この敗北感は仮面の剣士に負けた時とはまた違う、重くそして苦いものだった。

俺は砕けた祭壇に近づいた。
まだ、わずかに旧神の気配が残っている。
それは混沌、無秩序、そして世界そのものに対する絶対的な悪意。
ほんの欠片で、これほどの邪気を放つというのか。

もし、これが全て集まり、旧神が完全に復活してしまったら……。
世界は間違いなく終わるだろう。

「……行くぞ」
俺は二人に言った。
「今はとにかくここから脱出する。そして、このことを王都に報告しなければならない」

俺たちの戦いは、もはや個人的な強さの追求だけでは済まされなくなっていた。
俺たちは世界の存亡に関わる、巨大な陰謀の中心に立ってしまったのだ。

俺たちは神殿を後にし、第四階層からの脱出路を探し始めた。
だが、その道は容易ではなかった。
教団が封印を解いた影響か、あるいは俺たちが番人を倒してしまったからか、この古代遺跡は急速に崩壊を始めていたのだ。

天井からは巨大な岩が降り注ぎ、床には深い亀裂が走る。
水晶の橋は砕け散り、壮麗だった塔は傾いていく。
俺たちは崩れゆく瓦礫の中を必死で駆け抜けた。

「こっちだ!」
リリアナが世界樹の杖の導きで、かろうじて安全なルートを見つけ出す。
「うおおおっ!」
ガロウが崩れ落ちてきた壁を最後の力を振り絞ってその身で受け止め、俺たちのための活路を開く。

そして俺は二人を庇いながら、障害となる瓦礫を拳で粉砕し道を切り開いていった。
三人の力がなければ、この死地からの脱出は不可能だっただろう。

どれだけの時間走り続けたか。
俺たちが第四階層の入口であった巨大な扉にたどり着いた時、その背後で古代都市は完全に崩落し、永遠の闇の中へと沈んでいった。

俺たちは言葉もなくその光景を見つめていた。
数千年の眠りから覚めた遺跡は、その秘密を再び闇に隠し、俺たちという闖入者の記憶だけを地上に残した。

だが、休んでいる暇はなかった。
ダンジョン全体の崩壊はまだ止まっていない。
俺たちは来た道を、今度は駆け上がらなければならなかった。

第三階層『竜の巣』は主を失ったことで火山活動が不安定になり、至る所で溶岩が噴き出していた。
第二階層『惑わしの森』はその幻想的な光を失い、ただの不気味な枯れ木の森と化していた。
第一階層『巨人の庭』のサイクロプスたちはダンジョンの崩壊に恐れおののき、暴れ狂っていた。

俺たちはそれらの障害を、満身創痍の体でただひたすらに突破していった。
もはや戦っている余裕はない。
ただ生き延びるためだけに走り続けた。

そして、ついに。
俺たちの目の前に見覚えのある洞穴の出口が見えてきた。
外の、本物の世界の光。

俺たちは転がり込むようにして神々の墓場から脱出した。
背後でダンジョンの入口が轟音と共に完全に崩落し、塞がれる。
伝説のダンジョンは、その役目を終えたかのように永遠にその門を閉ざした。

俺たちは雪が舞う山の斜面に、大の字になって倒れ込んだ。
冷たい雪が火照った体を冷やしていく。
空はどこまでも青く、澄み渡っていた。

俺たちは生きて帰ってきたのだ。
Sランクパーティですら生還できなかった、伝説の魔境から。

だが、俺たちの心は晴れやかではなかった。
手に入れた力と仲間との絆。
そして、それと同時に背負ってしまった世界の命運。

俺は空を見上げながら静かに拳を握りしめた。
黄昏の教団、旧神。
俺の新たな戦いの相手が決まった。
それはもはや俺一人の渇きを満たすための戦いではない。

俺の仲間を、そして俺たちが生きるこの世界を守るための戦いだ。
そのことに不思議と嫌な気はしなかった。
守るべきものがある。その事実は俺をさらに強くするだろう。

俺は隣で倒れている仲間たちの顔を見た。
彼らの寝顔はひどく安らかだった。
この寝顔を二度と脅かさせはしない。

俺は静かに、しかし強く心に誓った。
次なる死闘の舞台は、もう決まっているのだから。
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