私、魔王軍の四天王(紅一点)なんですが、敵であるはずの勇者が会うたびに口説いてきます

夏見ナイ

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第55話 魔王城・最上階

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幻影の回廊を抜けた先。
アルフレッドたちが開けた巨大な扉の向こう側は、上へと続く壮麗な螺旋階段だった。
下層や中層の陰鬱さや武骨さとは異なり、壁には精緻な彫刻が施され、床には深紅の絨毯が敷かれている。まるで王城の最も神聖な場所へと続く道のようだった。

しかし、その荘厳さとは裏腹に、階段を登るごとに肌を刺すようなプレッシャーが強くなっていく。それは魔王ザルディアス自身の、圧倒的な魔力の気配だった。

四人は言葉を交わすことなく、ただ黙々と階段を登り続けた。
もはや作戦も言葉も不要だった。互いの心は完全に一つになっている。これから始まる最後の戦いに向けて、ただひたすらに精神を研ぎ澄ませていた。

長い長い階段を登り切った先。
そこに最後の扉があった。
これまでのどの扉よりも巨大で、黒曜石と金で装飾された荘厳な両開きの扉。

扉の前で四人は足を止めた。
この向こうに全てがある。
救うべき愛しい人と、倒すべき全ての元凶が。

アルフレッドは仲間たちの顔を一人一人見つめた。
イリーナ、ダリウス、エルザ。
彼らの瞳には緊張と、そして揺るぎない覚悟が宿っていた。

「……行こう」
アルフレッドの短い言葉に、三人は力強く頷いた。

アルフレッドとダリウスが、二人で巨大な扉に手をかける。
ギィィ……という重い音を立てて、扉がゆっくりと開かれていった。

その先に広がっていたのは、魔王城の最上階。
玉座の間……いや、儀式の間だった。

部屋は円形で、ドーム状の高い天井を持つ巨大な空間だった。
壁にはステンドグラスが嵌め込まれているが、描かれているのは聖人の物語ではなく、魔族の神話と思しき禍々しくも美しい情景。
そして、部屋の中央。
そこには巨大な紫色の水晶が、心臓のように脈動しながら宙に浮かんでいた。
魔力の炉心。
その下には、黒曜石でできた巨大な円形の祭壇が設えられている。

その光景に、四人は息を呑んだ。
部屋全体が、一つの巨大な魔法陣と化しているのだ。床に、壁に、天井に、無数の古代ルーン文字が刻まれ、それらが炉心の脈動と同期するように明滅を繰り返している。

魂の錬成陣。
レヴィから聞かされた世界を破滅させる禁術が、まさに完成しつつあった。

しかし、彼らの視線はその禍々しい光景よりも、ただ一点に釘付けになっていた。

祭壇の中央。
そこに一人の少女が、闇の鎖で磔にされるように縛り付けられていたのだ。

艶やかな漆黒の髪は乱れ、力なく垂れ下がっている。
かつて彼女を彩っていた豪奢なドレスは、見る影もなくボロボロになっていた。
そしてその顔は青白く、血の気も失われ、その瞳は固く閉じられている。

「リディア……!」

アルフレッドの魂からの叫びが、儀式の間に木霊した。
彼女は生きていた。
しかし、その体からは生命の輝きがほとんど感じられない。まるで魂だけを抜き取られた美しい人形のようだった。
彼女の体は祭壇を通して炉心と直接繋がれ、その魂が少しずつ、しかし確実に術式のエネルギーとして吸い上げられているのだ。

「……なんて酷いことを」
イリーナが唇を震わせた。

アルフレッドの全身を、静かでしかし燃え盛るような怒りが駆け巡った。
彼女の気高い魂を、こんな形で弄ぶなど。
断じて許すことはできない。

彼は一歩、祭壇へと踏み出した。
その時。

「――よくぞ、ここまで来たな。勇者アルフレッドよ」

声はどこからともなく響いてきた。
祭壇の奥、玉座があったであろう場所に空間が歪み、闇が凝縮されていく。
そして、その闇の中から絶対的な絶望の化身が、その姿を現した。

魔王、ザルディアス。

その姿は謁見の間で見た影とは違い、明確な輪郭を持っていた。
漆黒のローブに身を包み、その顔は驚くほど若々しくそして整っていた。しかし、その瞳だけは永劫の時を生きてきたかのような、深い深い闇を湛えている。

「貴様が……魔王!」
アルフレッドは聖剣を構え、その切っ先を真っ直ぐに魔王へと向けた。

「いかにも」
魔王は余裕の笑みを浮かべて頷いた。「我が名はザルディアス。この古き世界を終わらせ、新たな理を創造する者だ」

彼の全身から放たれるプレッシャーは、ガレスや、ましてやボーン・ドラゴンなどとは比較にならない次元の違うものだった。ただそこに立っているだけで、世界の法則が彼を中心に捻じ曲げられていくような絶対的な存在感。

「お前たちの行動は全て読んでいた。レヴィの小賢しい裏切りも、ガレスの愚かな反逆もな。だが、それすらも我が計画の余興に過ぎん」
魔王はまるで神のように、傲然と語った。

「むしろ感謝しよう、勇者よ。お前という存在が、リディアという『贄の姫』を完璧に仕上げてくれたのだからな。光と闇、その両方を知り絶望の淵に沈んだ魂こそ最高の触媒となる。お前は我が計画の最大の功労者だ」

その言葉は、アルフレッドの心を最大限に侮辱するものだった。
自分の愛が彼女を苦しめる結果になった。その事実を、これ以上ないほど残酷な形で突きつけてくる。

「黙れッ!」
アルフレッドは吼えた。「貴様に彼女を語る資格はない! 今すぐ彼女を解放しろ!」

「ククク……面白いことを言う」
魔王は心底おかしそうに笑った。「もはや手遅れだ。儀式は最終段階に入っている。あと数刻もすれば彼女の魂は完全に炉心と融合し、この世界は新たな創生の産声を聞くことになるだろう」

「そうはさせるか!」

アルフレ-D.OL.D.は地を蹴った。
しかし魔王は動かない。ただ、その指先を軽く振るっただけ。
それだけでアルフレッドの目の前に巨大な闇の障壁が出現し、彼の突進を容易く受け止めた。

「無駄だと言っている」
魔王の声が冷ややかに響く。「お前ごときの力で、私に届くとでも思ったか」

その時、アルフレッドの背後から三つの力が迸った。

「氷よ、絶対零度の檻となり闇を砕け!」
エルザの最大級の氷結魔法が、障壁に叩きつけられる。
「我が剣は、主君の道を切り開く!」
ダリウスの渾身の斬撃が、氷に亀裂を入れる。
「聖なる光よ、邪悪を滅し道を照らせ!」
イリーナの神聖な祈りが、障arg-障壁そのものを浄化していく。

三位一体の攻撃。
それは、いかなる鉄壁をも打ち破る勇者パーティーの最強の連携。

闇の障壁がガラスのように砕け散った。

「ほう……」
魔王が初めて、僅かに驚きの声を漏らした。「仲間との絆、か。くだらぬ。だが、少しだけ厄介ではあるな」

道が開けた。
アルフレッドは仲間たちに視線で感謝を伝えると、再び魔王に向かって突撃する。

「行くぞ! 魔王ザルディアス!」
「来るがいい、勇者アルフレッド!」

光と闇。
世界の運命を賭けた最後の戦いの火蓋が、ついに切って落とされた。
その激しい戦いの傍らで、リディアはまだ意識を取り戻すことなく、静かに祭壇の上に横たわり続けていた。

彼女の魂が完全に失われるまで、残された時間はあと僅か。
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