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第57話 再会
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リディアの瞳に再び光が宿った。
その赤い光は、かつて戦場で見せた冷徹な輝きとは違う。絶望の淵から這い上がり、自らの意志で運命を掴み取ろうとする、燃えるような生命力の色だった。
彼女の視界に最初に映ったもの。
それは、血塗れになりながらも安堵と喜びの表情で自分を見つめる、愛しい人の姿だった。
「アルフレッド……」
掠れた、しかし確かな声で彼女は彼の名を呼んだ。
その声を聞いた瞬間、アルフレッドの心は歓喜に震えた。彼女が戻ってきた。
「ああ……リディア……!」
しかし、再会を喜ぶ時間は一瞬しか与えられなかった。
二人の間に、絶対的な闇が割り込む。
「……目覚めたか、壊れた人形め」
魔王ザルディアスが、不機嫌を隠そうともせずに低い声で言った。
「小賢しい勇者の声で一時的に意識を取り戻したようだが、もはや手遅れだ。お前の魂は既にこの錬成陣と半ば融合している。もはやお前に自由はない」
彼の言う通りだった。
リディアの体はまだ闇の鎖によって祭壇に縛り付けられており、炉心からは絶えず彼女の魂を吸い上げようとする邪悪な魔力が流れ込んできている。意識は戻ったものの、身動き一つ取れない状態に変わりはなかった。
「だが、目覚めたのなら好都合だ」
魔王は残酷な笑みを浮かべた。「お前の意識があるまま、その魂が我が計画の礎となる様を、その目に焼き付けてやる。お前が愛した勇者がお前を救えずに絶望する顔を、特等席で見せてやろう」
その言葉は、リディアの心に怒りの炎を灯した。
この男は私だけでなく、アルフレッドの心までをも弄ぼうとしている。
許さない。絶対に。
(動いて……私の体……!)
リディアは必死で体に力を込めようとした。
しかし魔力を奪われた体は鉛のように重く、言うことを聞かない。それどころか抵抗すればするほど、炉心からの魔力の奔流が彼女の魂をさらに強く束縛してくる。
「無駄だと言っている」
魔王はそんな彼女の無様な抵抗を嘲笑った。
その時だった。
「――それは、どうかな?」
凛とした第三者の声が、儀式の間に響き渡った。
その声の主は、今まで倒れていたはずのイリーナだった。彼女はいつの間にか立ち上がり、その手に聖女の祈りを込めた杖を握りしめていた。
彼女だけではない。
ダリウスもエルザも、傷つきながらも再び立ち上がり、それぞれの武器を構えていた。
彼らの瞳にもはや絶望の色はない。リディアの覚醒が、彼らに最後の希望とそして戦う力を与えたのだ。
「我らが勇者の愛を、侮らないことですわ、魔王!」
エルザが叫ぶ。
「姫君の覚醒は、我らにとっての勝利の狼煙だ!」
ダリウスが吼えた。
そしてイリーナが、杖を高く掲げた。
「聖なる光よ、今こそ囚われし魂に救いの道を!」
彼女の全身から今までにないほどの強大な神聖な力が溢れ出した。それはただの治癒魔法ではない。魂に直接作用し、その呪縛を解き放つための聖女の奥義。
「リディアさん!」
イリーナの叫びがリディアの心に直接響く。「あなたの魂はまだあなたのものです! 魔王の呪縛に屈しないで!」
イリーナから放たれた純白の光が、一条の矢となって祭壇にいるリディアへと真っ直ぐに飛んでいく。
「小賢しい!」
魔王がそれを闇の障壁で阻もうとする。
しかしその光は物理的な障壁を、まるで存在しないかのようにすり抜けた。
魂に届く光。それはいかなる闇も遮ることはできない。
光はリディアの体に吸い込まれた。
その瞬間、彼女の魂の奥底で何かが弾けるような感覚があった。イリーナの神聖な力が炉心から流れ込む邪悪な魔力を中和し、魂を縛り付けていた見えない枷を僅かに緩めたのだ。
ほんの一瞬だけ自由になった魂。
その好機をリディアが見逃すはずがなかった。
(今……しかない!)
彼女は心の奥底に残っていた、最後の、本当に最後の魔力を振り絞った。
それは炎でも闇でもない。
アルフレッドと出会ってから彼女の中に芽生えた、光の属性を持つ新しい力。
彼女の体が内側から淡く、しかし力強い光を放ち始める。
その光は彼女を縛り付けていた闇の鎖を、内側から焼き切っていった。
ジュッ、という音と共に鎖が溶け落ちる。
ついにリディアの体は祭壇から解放された。
彼女はふらつく足で、ゆっくりと祭壇の上に立ち上がった。
魔力を失い傷ついた体。しかしその姿は、かつてないほど気高くそして美しく見えた。
「……お待たせ、アルフレッド」
彼女は振り返り、愛しい人の名を呼んだ。そしてはにかむように、少しだけ困ったように微笑んだ。
それは彼がずっと見たかった、彼女の心からの本当の笑顔だった。
「ああ……」
アルフレッドの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
待ち望んだ再会。
絶望の淵でようやく掴み取った、奇跡の瞬間。
「……馬鹿な」
魔王が信じられないというように目を見開いていた。「贄が自らの力で枷を……!」
リディアは魔王の方へと向き直った。
その赤い瞳にもはや恐怖も迷いもなかった。
あるのはただ、自らの運命を弄んだ者への静かで燃えるような怒りだけ。
「あなたに言ったはずよ、ザルディアス」
彼女は初めてその名を呼び捨てにした。「私の心は、あなたにだけは渡さない、と」
彼女の体から再び光が溢れ出す。
それは彼女自身の魂の輝き。
力を失ってもなおその気高さだけは、誰にも奪うことはできなかった。
「さあ、始めましょうか」
リディアはアルフレッドの方へ手を差し伸べた。「二人でこの悪夢を終わらせるのよ」
アルフレッドは涙を拭うと力強く頷いた。
彼は彼女の差し伸べた手を固く、固く握り返す。
二つの手が固く結ばれる。
光の勇者と、闇の中から光を取り戻した魔女。
絶望的な状況の中で、ついに二人の英雄は肩を並べた。
再会は新たな戦いの始まりを告げる反撃の狼煙。
物語はついに、本当の意味での最終決戦へとその駒を進めた。
その赤い光は、かつて戦場で見せた冷徹な輝きとは違う。絶望の淵から這い上がり、自らの意志で運命を掴み取ろうとする、燃えるような生命力の色だった。
彼女の視界に最初に映ったもの。
それは、血塗れになりながらも安堵と喜びの表情で自分を見つめる、愛しい人の姿だった。
「アルフレッド……」
掠れた、しかし確かな声で彼女は彼の名を呼んだ。
その声を聞いた瞬間、アルフレッドの心は歓喜に震えた。彼女が戻ってきた。
「ああ……リディア……!」
しかし、再会を喜ぶ時間は一瞬しか与えられなかった。
二人の間に、絶対的な闇が割り込む。
「……目覚めたか、壊れた人形め」
魔王ザルディアスが、不機嫌を隠そうともせずに低い声で言った。
「小賢しい勇者の声で一時的に意識を取り戻したようだが、もはや手遅れだ。お前の魂は既にこの錬成陣と半ば融合している。もはやお前に自由はない」
彼の言う通りだった。
リディアの体はまだ闇の鎖によって祭壇に縛り付けられており、炉心からは絶えず彼女の魂を吸い上げようとする邪悪な魔力が流れ込んできている。意識は戻ったものの、身動き一つ取れない状態に変わりはなかった。
「だが、目覚めたのなら好都合だ」
魔王は残酷な笑みを浮かべた。「お前の意識があるまま、その魂が我が計画の礎となる様を、その目に焼き付けてやる。お前が愛した勇者がお前を救えずに絶望する顔を、特等席で見せてやろう」
その言葉は、リディアの心に怒りの炎を灯した。
この男は私だけでなく、アルフレッドの心までをも弄ぼうとしている。
許さない。絶対に。
(動いて……私の体……!)
リディアは必死で体に力を込めようとした。
しかし魔力を奪われた体は鉛のように重く、言うことを聞かない。それどころか抵抗すればするほど、炉心からの魔力の奔流が彼女の魂をさらに強く束縛してくる。
「無駄だと言っている」
魔王はそんな彼女の無様な抵抗を嘲笑った。
その時だった。
「――それは、どうかな?」
凛とした第三者の声が、儀式の間に響き渡った。
その声の主は、今まで倒れていたはずのイリーナだった。彼女はいつの間にか立ち上がり、その手に聖女の祈りを込めた杖を握りしめていた。
彼女だけではない。
ダリウスもエルザも、傷つきながらも再び立ち上がり、それぞれの武器を構えていた。
彼らの瞳にもはや絶望の色はない。リディアの覚醒が、彼らに最後の希望とそして戦う力を与えたのだ。
「我らが勇者の愛を、侮らないことですわ、魔王!」
エルザが叫ぶ。
「姫君の覚醒は、我らにとっての勝利の狼煙だ!」
ダリウスが吼えた。
そしてイリーナが、杖を高く掲げた。
「聖なる光よ、今こそ囚われし魂に救いの道を!」
彼女の全身から今までにないほどの強大な神聖な力が溢れ出した。それはただの治癒魔法ではない。魂に直接作用し、その呪縛を解き放つための聖女の奥義。
「リディアさん!」
イリーナの叫びがリディアの心に直接響く。「あなたの魂はまだあなたのものです! 魔王の呪縛に屈しないで!」
イリーナから放たれた純白の光が、一条の矢となって祭壇にいるリディアへと真っ直ぐに飛んでいく。
「小賢しい!」
魔王がそれを闇の障壁で阻もうとする。
しかしその光は物理的な障壁を、まるで存在しないかのようにすり抜けた。
魂に届く光。それはいかなる闇も遮ることはできない。
光はリディアの体に吸い込まれた。
その瞬間、彼女の魂の奥底で何かが弾けるような感覚があった。イリーナの神聖な力が炉心から流れ込む邪悪な魔力を中和し、魂を縛り付けていた見えない枷を僅かに緩めたのだ。
ほんの一瞬だけ自由になった魂。
その好機をリディアが見逃すはずがなかった。
(今……しかない!)
彼女は心の奥底に残っていた、最後の、本当に最後の魔力を振り絞った。
それは炎でも闇でもない。
アルフレッドと出会ってから彼女の中に芽生えた、光の属性を持つ新しい力。
彼女の体が内側から淡く、しかし力強い光を放ち始める。
その光は彼女を縛り付けていた闇の鎖を、内側から焼き切っていった。
ジュッ、という音と共に鎖が溶け落ちる。
ついにリディアの体は祭壇から解放された。
彼女はふらつく足で、ゆっくりと祭壇の上に立ち上がった。
魔力を失い傷ついた体。しかしその姿は、かつてないほど気高くそして美しく見えた。
「……お待たせ、アルフレッド」
彼女は振り返り、愛しい人の名を呼んだ。そしてはにかむように、少しだけ困ったように微笑んだ。
それは彼がずっと見たかった、彼女の心からの本当の笑顔だった。
「ああ……」
アルフレッドの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
待ち望んだ再会。
絶望の淵でようやく掴み取った、奇跡の瞬間。
「……馬鹿な」
魔王が信じられないというように目を見開いていた。「贄が自らの力で枷を……!」
リディアは魔王の方へと向き直った。
その赤い瞳にもはや恐怖も迷いもなかった。
あるのはただ、自らの運命を弄んだ者への静かで燃えるような怒りだけ。
「あなたに言ったはずよ、ザルディアス」
彼女は初めてその名を呼び捨てにした。「私の心は、あなたにだけは渡さない、と」
彼女の体から再び光が溢れ出す。
それは彼女自身の魂の輝き。
力を失ってもなおその気高さだけは、誰にも奪うことはできなかった。
「さあ、始めましょうか」
リディアはアルフレッドの方へ手を差し伸べた。「二人でこの悪夢を終わらせるのよ」
アルフレッドは涙を拭うと力強く頷いた。
彼は彼女の差し伸べた手を固く、固く握り返す。
二つの手が固く結ばれる。
光の勇者と、闇の中から光を取り戻した魔女。
絶望的な状況の中で、ついに二人の英雄は肩を並べた。
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物語はついに、本当の意味での最終決戦へとその駒を進めた。
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