私、魔王軍の四天王(紅一点)なんですが、敵であるはずの勇者が会うたびに口説いてきます

夏見ナイ

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第99話 聖剣と魔剣

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『大丈夫だ、リディア。僕は君を信じている。君がくれた光を信じている。だから、きっとこの闇に呑まれはしない』

アルフレッドの決意は、私の魂に直接響き渡った。
彼は魔剣を鞘から抜き放つ。
右手に、生命を育む聖剣の光。
左手に、魂を喰らう魔剣の闇。

二つの剣を構えた瞬間、アルフレッドの体が激しく痙攣した。
「ぐ……おおおおっ!」
相反する二つの絶対的な力が、彼の体を戦場として互いを滅ぼそうと荒れ狂う。聖剣の光は彼の肉体を癒やそうとし、魔剣の闇は彼の魂を喰らおうとする。その矛盾した力の奔流が、彼の存在そのものを内側から引き裂こうとしていた。

『アルフレッド!』
私は悲鳴を上げた。やはり無謀だったのだ。

『違う……!』
彼の苦悶に満ちた思念が返ってくる。『これを抑え込もうとするな……! リディア……君の力を貸してくれ!』

私は彼の意図を瞬時に理解した。
抑え込むのではない。調和させるのだ。
光と闇。その二つを対立するものではなく、一つのより大きな力へと昇華させる。
それは私たちの息子、ガレスがその身に宿す力。そして光の勇者と闇の魔女であった、私たち自身の在り方そのもの。

『ええ……! 私の全てを、あなたに!』

私は遠く離れた王城の書庫で意識を集中させた。
私の魂を彼と完全に同調させる。
私の内なる光と闇を、彼の魂の奔流を導くための道標とするのだ。

アルフレッドの体の中で荒れ狂っていた二つの力が、私の魂という調律師を得て、徐々にそのリズムを合わせ始めた。
反発し合っていた光と闇が、互いを認め、受け入れ、そして一つの巨大な渦となって溶け合っていく。

アルフレッドの体から凄まじいオーラが噴き上がった。
それは白でもなく、黒でもない。
夜明け前の最も深い空の色。星々の輝きを内包した、深淵の銀色。

彼の瞳の色が変わる。
右目は太陽のように輝く金色に。
左目は月のように静かな紫色に。
神々しさと禍々しさ。その二つを同時に宿した、人ならざる王の姿がそこにあった。

「……これが」
彼は自らの掌を見下ろし、呟いた。「僕と君の力……」

彼は顔を上げた。
その視線の先には、未だ無限に湧き出てくるアビス・ウォーカーの軍勢。
しかし今の彼の目には、それはもはや脅威には映っていなかった。

「道を開けろ」

その声は静かだったが、絶対的な王の宣告だった。
彼は右手の聖剣と左手の魔剣を胸の前で交差させた。

そして、振り抜く。

「―――双覇・光闇絶衝(ツイン・ブリンガー)!」

放たれたのは斬撃ではなかった。
銀色の地平線。
光と闇が完璧に融合した絶対的な消滅の波が、嘆きの氷原全体を薙ぎ払った。

その波に触れたアビス・ウォーカーたちは、悲鳴を上げる間もなくその存在そのものが「無」に還っていく。喰らうことも再生することも許されない。世界の理とその外側の理、その両方から同時に存在を否定されたのだ。

銀色の光が通り過ぎた後、そこに広がっていたのは信じられないほどの静寂だった。
あれほど氷原を埋め尽くしていた魔物の軍勢が、黒水晶の塔へと続く一本道を残して綺麗さっぱり消滅していたのだ。

「……な……」
「なんだ、今のは……」
ダリウスもボルグ王も、そのあまりの光景に言葉を失っていた。

しかし、その奇跡の代償はあまりにも大きかった。
アルフレッドはその場に片膝をつき、激しく喘いでいた。口の端から血が流れている。二つの剣を同時に振るった両腕は、その強すぎる力に耐えきれず皮膚が裂け、血が滲んでいた。

「……はぁ……はぁ……」
魔剣の闇が弱った彼の魂を再び喰らおうと囁きかけてくる。
『もっと……力を……』

『駄目よ、アルフレッド! 意識を保って!』
私の魂の叫びが、かろうじて彼の理性を繋ぎ止めていた。

「道は……開かれた……」
アルフレッドは聖剣を杖のようにして、よろめきながら立ち上がった。「ダリウス! ボルグ王! 後は頼む!」

「陛下!」

「我ら突入部隊は、これより塔へ向かう!」
彼は仲間たちに最後の命令を下した。

ダリウスたちはその鬼気迫る姿に何も言えなかった。ただ、王の覚悟をその目に焼き付けるように力強く頷くことしかできない。

アルフレッドは、私、そしてレヴィとエリアーナ長老と共に、切り開かれた静寂の道へと足を踏み入れた。
向かうは漆黒の祭壇。
虚無の王が眠る世界の墓場。

彼の体は満身創痍だった。
魂もまた危険な闇の淵を彷徨っている。
しかしその足取りには一片の迷いもなかった。
愛する者たちの未来をこの手で掴み取る。
そのただ一つの誓いだけが、彼を突き動かしていた。

黒水晶の塔が巨大な墓標のように、彼らの目の前にその不気味な口を開けて待ち構えていた。
最後の戦いの舞台は整った。
しかし、そこに待つものが彼らの想像を絶するさらなる絶望である可能性を、彼らはまだ知らなかった。
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