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第21話:砦の食糧事情
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料理で貢献する。そう決意した翌朝、私はいつもより早く目が覚めた。窓から差し込む光が、まだ淡い。これまでただ享受するだけだったこの穏やかな朝が、今日は全く違って見えた。私には、やるべきことがある。その事実が、心に確かな張りを与えてくれた。
身支度を整えながら、私は頭の中で計画を練っていた。まずは情報収集だ。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。前世で上司がよく口にしていた言葉を思い出す。私の場合は、厨房の現状を知り、自分の知識で何ができるかを把握することから始めなければならない。
朝食の席で、私は早速マーサに話を切り出した。
「マーサ、この砦で手に入る食材について、もっと詳しく教えていただけますか?」
私の唐突な質問に、マーサは少し驚いた顔をしたが、すぐににこやかに頷いてくれた。
「もちろんですわ。そうですね…まず主食は黒パンです。ライ麦を主原料とした、日持ちのする硬いパンですわ。それから、干し肉と塩漬けの魚。豆類は豊富に備蓄がございます。野菜は、カブやタマネギ、ニンニク、それから最近栽培が始まったジャガイモが中心ですね。冬が長いため、どうしても保存のきくものが多くなります」
やはり、新鮮な葉物野菜や果物はほとんどないようだ。調味料は塩と胡椒が基本。ハーブ類は、夏場に近隣の山で採れるものを乾燥させて使っているという。
「騎士の方々は、毎日同じような食事で飽きたりしないのでしょうか?」
私が尋ねると、マーサは少し寂しそうに微笑んだ。
「皆、口には出しません。ここでは、味よりも量が重視されますから。腹が満たされ、戦う力が得られればそれで良い。それが、ここの者たちの考え方なのです」
諦めにも似た空気。昨日、私が騎士たちの背中から感じ取ったものは、間違いではなかったのだ。
朝食を終えた後、私はマーサに頼んで厨房の近くまで案内してもらった。もちろん、中には入らない。廊下の角から、こっそりと中の様子を窺うだけだ。
厨房の中は、もうもうと湯気が立ち込めていた。大きな寸胴鍋がいくつも火にかけられ、屈強な料理人たちが黙々と作業をこなしている。その中心に立って指示を飛ばしているのは、いかにも頑固そうな、熊のように大きな体躯の男だった。彼が料理長だろう。
厨房に活気はなかった。誰も言葉を交わさず、ただ決められた作業をこなしているだけ。楽しそうに料理をしている者は、一人もいない。作られているのは、昨日と同じ、茶色い煮込み料理と黒パンの山。そこには、彩りや香りを楽しむという発想は、欠片も存在しないようだった。
その光景を見て、私は逆に確信を深めた。
私なら、変えられる。
限られた食材。それは、前世で言えば「節約レシピ」のシチュエーションに似ている。工夫次第で、可能性は無限に広がるはずだ。
干し肉は、ただ煮込むだけでは硬く、臭みも残る。でも、一度茹でこぼしてからハーブと一緒にじっくり煮込めば、驚くほど柔らかくなるだろう。豆は潰してポタージュにすれば、優しい味わいになる。ジャガイモは、茹でて潰して焼けば、外はカリッと中はもちもちの美味しい料理になるはずだ。
体を温める効果のあるニンニクや生姜(もし手に入るなら)を使ったスープは、厳しい冬を越す騎士たちの体を芯から温めてくれるに違いない。保存食の知識を活かせば、夏に採れる僅かな果物でジャムを作り、単調な黒パンの食事に楽しみを添えることもできる。
これは、単なる自己満足の恩返しではない。
温かく美味しい食事は、騎士たちの士気を高め、健康を維持するためにも不可欠なはずだ。ひいては、この砦の戦力向上にも繋がるかもしれない。そう考えれば、私の挑戦には大きな意味があった。
問題は、どうやってあの頑固そうな料理長を説得するかだ。貴族の令嬢が道楽で厨房をかき回しに来た。そう思われて、門前払いされるのが関の山だろう。
正面からぶつかっても、きっと上手くいかない。何か、作戦が必要だ。
私は静かにその場を離れると、自室に戻って一人、思考を巡らせた。
私の武器は、前世の料理の知識。そして、この砦で唯一、私に絶対的に甘い人物の存在。
「ギルバート様…」
彼の名前を呟いた時、私の頭の中に一つの計画が浮かび上がった。少し強引かもしれない。でも、今の私にはこれしか方法が思いつかなかった。
よし、決めた。
まずは、あの料理長の牙城に、第一歩を踏み出さなければ。
私はスカートの裾をぎゅっと握りしめ、来るべき交渉の時に向けて覚悟を決めるのだった。
身支度を整えながら、私は頭の中で計画を練っていた。まずは情報収集だ。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。前世で上司がよく口にしていた言葉を思い出す。私の場合は、厨房の現状を知り、自分の知識で何ができるかを把握することから始めなければならない。
朝食の席で、私は早速マーサに話を切り出した。
「マーサ、この砦で手に入る食材について、もっと詳しく教えていただけますか?」
私の唐突な質問に、マーサは少し驚いた顔をしたが、すぐににこやかに頷いてくれた。
「もちろんですわ。そうですね…まず主食は黒パンです。ライ麦を主原料とした、日持ちのする硬いパンですわ。それから、干し肉と塩漬けの魚。豆類は豊富に備蓄がございます。野菜は、カブやタマネギ、ニンニク、それから最近栽培が始まったジャガイモが中心ですね。冬が長いため、どうしても保存のきくものが多くなります」
やはり、新鮮な葉物野菜や果物はほとんどないようだ。調味料は塩と胡椒が基本。ハーブ類は、夏場に近隣の山で採れるものを乾燥させて使っているという。
「騎士の方々は、毎日同じような食事で飽きたりしないのでしょうか?」
私が尋ねると、マーサは少し寂しそうに微笑んだ。
「皆、口には出しません。ここでは、味よりも量が重視されますから。腹が満たされ、戦う力が得られればそれで良い。それが、ここの者たちの考え方なのです」
諦めにも似た空気。昨日、私が騎士たちの背中から感じ取ったものは、間違いではなかったのだ。
朝食を終えた後、私はマーサに頼んで厨房の近くまで案内してもらった。もちろん、中には入らない。廊下の角から、こっそりと中の様子を窺うだけだ。
厨房の中は、もうもうと湯気が立ち込めていた。大きな寸胴鍋がいくつも火にかけられ、屈強な料理人たちが黙々と作業をこなしている。その中心に立って指示を飛ばしているのは、いかにも頑固そうな、熊のように大きな体躯の男だった。彼が料理長だろう。
厨房に活気はなかった。誰も言葉を交わさず、ただ決められた作業をこなしているだけ。楽しそうに料理をしている者は、一人もいない。作られているのは、昨日と同じ、茶色い煮込み料理と黒パンの山。そこには、彩りや香りを楽しむという発想は、欠片も存在しないようだった。
その光景を見て、私は逆に確信を深めた。
私なら、変えられる。
限られた食材。それは、前世で言えば「節約レシピ」のシチュエーションに似ている。工夫次第で、可能性は無限に広がるはずだ。
干し肉は、ただ煮込むだけでは硬く、臭みも残る。でも、一度茹でこぼしてからハーブと一緒にじっくり煮込めば、驚くほど柔らかくなるだろう。豆は潰してポタージュにすれば、優しい味わいになる。ジャガイモは、茹でて潰して焼けば、外はカリッと中はもちもちの美味しい料理になるはずだ。
体を温める効果のあるニンニクや生姜(もし手に入るなら)を使ったスープは、厳しい冬を越す騎士たちの体を芯から温めてくれるに違いない。保存食の知識を活かせば、夏に採れる僅かな果物でジャムを作り、単調な黒パンの食事に楽しみを添えることもできる。
これは、単なる自己満足の恩返しではない。
温かく美味しい食事は、騎士たちの士気を高め、健康を維持するためにも不可欠なはずだ。ひいては、この砦の戦力向上にも繋がるかもしれない。そう考えれば、私の挑戦には大きな意味があった。
問題は、どうやってあの頑固そうな料理長を説得するかだ。貴族の令嬢が道楽で厨房をかき回しに来た。そう思われて、門前払いされるのが関の山だろう。
正面からぶつかっても、きっと上手くいかない。何か、作戦が必要だ。
私は静かにその場を離れると、自室に戻って一人、思考を巡らせた。
私の武器は、前世の料理の知識。そして、この砦で唯一、私に絶対的に甘い人物の存在。
「ギルバート様…」
彼の名前を呟いた時、私の頭の中に一つの計画が浮かび上がった。少し強引かもしれない。でも、今の私にはこれしか方法が思いつかなかった。
よし、決めた。
まずは、あの料理長の牙城に、第一歩を踏み出さなければ。
私はスカートの裾をぎゅっと握りしめ、来るべき交渉の時に向けて覚悟を決めるのだった。
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