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第16話 待ち合わせと輝く笑顔
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デート当日。
俺は、夜明けと共に目を覚ました。別に緊張で眠れなかったわけではない。ただ、自然と意識が浮上しただけだ。そう、断じて緊張などしていない。
クローゼットを開けると、そこにはシルフィード公爵家から贈られた、おびただしい数の衣服が並んでいた。どれもこれも、俺が今まで着ていた服とは比べ物にならないほど上質で、洒落たデザインのものばかりだ。
一体どれを着ていけばいいのか。
普段着でいいとは思うが、昨日のルナリアの「一番お洒落をしてまいります」宣言を思い出すと、あまりにラフな格好も気が引ける。
俺がうんうんと唸っていると、いつの間にか背後に控えていたセバスチャンが、完璧なタイミングで助け舟を出してくれた。
「ユウキ様。本日のような晴れやかな日には、こちらのコーディネートなどいかがでしょう」
彼が差し出してきたのは、純白のシャツに、空色の刺繍がアクセントで入ったネイビーのジャケット。そして、動きやすそうな細身のベージュのパンツだった。
上品でありながら、堅苦しすぎない。まさに今日のデートにぴったりの組み合わせだ。
「ありがとうございます、セバスチャン。それにします」
「お気に召したようで何よりでございます。ルナリアお嬢様も、きっとお喜びになられるかと」
老執事は、全てお見通しといった様子で優雅に微笑んだ。シルフィード公爵家のサポート体制は、今日も完璧だった。
◇
約束の時間の三十分前。
俺は、すでに街の中央広場にある噴水前に到着していた。
早すぎるとは思ったが、落ち着かなくて部屋にいられなかったのだ。決して、浮かれているわけではない。
中央広場は、休日ということもあって大勢の人で賑わっていた。
噴水の周りでは、楽しそうに談笑するカップルや、はしゃぎ回る子供たちの姿が見える。
その平和な光景を眺めながら、俺は一人、そわそわと落ち着かない時間を過ごしていた。
ルナリアは、どんな格好で来るのだろうか。
学園の制服姿も、屋敷で見た白いワンピース姿も、天使のように可愛かった。
そんな彼女が、「一番お洒落をしてくる」と言っていたのだ。
一体、どれほどの破壊力になってしまうのか。想像するだけで、心臓が妙な音を立てる。
約束の時間が、一分、また一分と近づいてくる。
俺は無意識のうちに、何度も噴水の向こうにある大通りに視線を送っていた。
人混みの中から、彼女の姿を探してしまう。
まだか、まだか、と。
そして、約束の時間の鐘が、街に響き渡った、その時だった。
ざわめきに満ちていた広場の空気が、一瞬だけ揺らいだ気がした。
人々が、自然と道を開ける。その視線の先で、何かが輝いていた。
俺は、息を呑んだ。
そこに、彼女はいた。
陽の光を一身に浴びて、銀色の髪をきらきらと輝かせながら、彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
人混みの中にいるはずなのに、彼女の周りだけが、まるで別の世界の光に照らされているかのように、鮮やかに見えた。
今日の彼女は、淡い桜色のワンピースを身に纏っていた。
風が吹くたびにふわりと揺れる柔らかな生地は、春の訪れを告げる花のようだ。胸元には小さなリボンが飾られ、ウエストをきゅっと絞ったデザインは、彼女の可憐なスタイルを際立たせている。
普段は下ろしている銀髪は、サイドで緩やかに編み込まれ、白い花の髪飾りが清楚なアクセントになっていた。
その姿は、おとぎ話から抜け出してきた妖精か、あるいは舞い降りたばかりの天使か。
俺が知るどんな言葉を使っても、その美しさを表現しきることはできないだろう。
彼女は、少し不安そうな表情で辺りを見回していた。
そして、俺の姿を見つけた瞬間。
その表情が、ぱあっと、この世の全ての光を集めたかのように輝いた。
彼女は小さく駆け寄ってくると、俺の目の前でぴたりと足を止め、少し恥ずかしそうに、はにかんだ。
「お待たせしました、ユウキ様」
その笑顔を見た瞬間、俺の心臓は、ドクン、と大きく跳ね上がった。
時が止まったかのような錯覚。
周囲の喧騒は遠くに消え去り、俺の世界には、目の前で微笑む彼女しか存在しなくなった。
それは、これまで俺が見たどんな笑顔よりも、圧倒的に、そして致命的に、可愛かった。
俺はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて我に返り、慌てて口を開いた。
「い、いや、俺も今来たとこだよ」
我ながら、なんてベタな台詞だろうか。
「そ、その服…すごく、似合ってる。綺麗だ」
どうにか絞り出した言葉は、ひどく上擦っていた。
俺の言葉に、ルナリアは嬉しそうに頬を染めた。
「ありがとうございます…! ユウキ様のために、昨夜、一生懸命選びましたの」
そう言って、彼女は自分のワンピースの裾を少しだけ持ち上げて、くるりと一回転してみせる。
その仕草の一つ一つが、俺の心臓に追い打ちをかけてくる。
「ユウキ様も、とても素敵ですわ。そのジャケットの色、私の瞳の色と同じですね」
彼女はそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。
言われてみれば、確かにジャケットの刺繍は、彼女の澄んだ空色の瞳と同じ色をしていた。
セバスチャン、あんたってやつは…。
俺は心の中で、有能すぎる老執事に感謝と少しの恨み言を送った。
「さあ、行きましょうか」
「はいっ!」
俺が差し出した手を、ルナリアは少しもためらうことなく、その両手で優しく包み込むように握った。
その手は温かく、そして柔らかかった。
俺たちは、どちらからともなく歩き出す。
広場の人々が、美しいカップルの登場に振り返り、囁き合っているのが分かった。
だが、もうそんなことは気にならなかった。
隣で嬉しそうに俺の顔を見上げる、天使のような笑顔。
繋がれた手から伝わる、温かいぬくもり。
これから始まる、二人だけの特別な一日。
その全てが、俺の心を幸福感で満たしていく。
俺が失ったと思っていた穏やかな日常は、こんなにも甘く、輝かしい形で、再び俺の元へやってきたのかもしれない。
そう思うと、柄にもなく、胸が熱くなった。
初めてのデートは、まだ始まったばかりだ。
俺は、夜明けと共に目を覚ました。別に緊張で眠れなかったわけではない。ただ、自然と意識が浮上しただけだ。そう、断じて緊張などしていない。
クローゼットを開けると、そこにはシルフィード公爵家から贈られた、おびただしい数の衣服が並んでいた。どれもこれも、俺が今まで着ていた服とは比べ物にならないほど上質で、洒落たデザインのものばかりだ。
一体どれを着ていけばいいのか。
普段着でいいとは思うが、昨日のルナリアの「一番お洒落をしてまいります」宣言を思い出すと、あまりにラフな格好も気が引ける。
俺がうんうんと唸っていると、いつの間にか背後に控えていたセバスチャンが、完璧なタイミングで助け舟を出してくれた。
「ユウキ様。本日のような晴れやかな日には、こちらのコーディネートなどいかがでしょう」
彼が差し出してきたのは、純白のシャツに、空色の刺繍がアクセントで入ったネイビーのジャケット。そして、動きやすそうな細身のベージュのパンツだった。
上品でありながら、堅苦しすぎない。まさに今日のデートにぴったりの組み合わせだ。
「ありがとうございます、セバスチャン。それにします」
「お気に召したようで何よりでございます。ルナリアお嬢様も、きっとお喜びになられるかと」
老執事は、全てお見通しといった様子で優雅に微笑んだ。シルフィード公爵家のサポート体制は、今日も完璧だった。
◇
約束の時間の三十分前。
俺は、すでに街の中央広場にある噴水前に到着していた。
早すぎるとは思ったが、落ち着かなくて部屋にいられなかったのだ。決して、浮かれているわけではない。
中央広場は、休日ということもあって大勢の人で賑わっていた。
噴水の周りでは、楽しそうに談笑するカップルや、はしゃぎ回る子供たちの姿が見える。
その平和な光景を眺めながら、俺は一人、そわそわと落ち着かない時間を過ごしていた。
ルナリアは、どんな格好で来るのだろうか。
学園の制服姿も、屋敷で見た白いワンピース姿も、天使のように可愛かった。
そんな彼女が、「一番お洒落をしてくる」と言っていたのだ。
一体、どれほどの破壊力になってしまうのか。想像するだけで、心臓が妙な音を立てる。
約束の時間が、一分、また一分と近づいてくる。
俺は無意識のうちに、何度も噴水の向こうにある大通りに視線を送っていた。
人混みの中から、彼女の姿を探してしまう。
まだか、まだか、と。
そして、約束の時間の鐘が、街に響き渡った、その時だった。
ざわめきに満ちていた広場の空気が、一瞬だけ揺らいだ気がした。
人々が、自然と道を開ける。その視線の先で、何かが輝いていた。
俺は、息を呑んだ。
そこに、彼女はいた。
陽の光を一身に浴びて、銀色の髪をきらきらと輝かせながら、彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
人混みの中にいるはずなのに、彼女の周りだけが、まるで別の世界の光に照らされているかのように、鮮やかに見えた。
今日の彼女は、淡い桜色のワンピースを身に纏っていた。
風が吹くたびにふわりと揺れる柔らかな生地は、春の訪れを告げる花のようだ。胸元には小さなリボンが飾られ、ウエストをきゅっと絞ったデザインは、彼女の可憐なスタイルを際立たせている。
普段は下ろしている銀髪は、サイドで緩やかに編み込まれ、白い花の髪飾りが清楚なアクセントになっていた。
その姿は、おとぎ話から抜け出してきた妖精か、あるいは舞い降りたばかりの天使か。
俺が知るどんな言葉を使っても、その美しさを表現しきることはできないだろう。
彼女は、少し不安そうな表情で辺りを見回していた。
そして、俺の姿を見つけた瞬間。
その表情が、ぱあっと、この世の全ての光を集めたかのように輝いた。
彼女は小さく駆け寄ってくると、俺の目の前でぴたりと足を止め、少し恥ずかしそうに、はにかんだ。
「お待たせしました、ユウキ様」
その笑顔を見た瞬間、俺の心臓は、ドクン、と大きく跳ね上がった。
時が止まったかのような錯覚。
周囲の喧騒は遠くに消え去り、俺の世界には、目の前で微笑む彼女しか存在しなくなった。
それは、これまで俺が見たどんな笑顔よりも、圧倒的に、そして致命的に、可愛かった。
俺はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて我に返り、慌てて口を開いた。
「い、いや、俺も今来たとこだよ」
我ながら、なんてベタな台詞だろうか。
「そ、その服…すごく、似合ってる。綺麗だ」
どうにか絞り出した言葉は、ひどく上擦っていた。
俺の言葉に、ルナリアは嬉しそうに頬を染めた。
「ありがとうございます…! ユウキ様のために、昨夜、一生懸命選びましたの」
そう言って、彼女は自分のワンピースの裾を少しだけ持ち上げて、くるりと一回転してみせる。
その仕草の一つ一つが、俺の心臓に追い打ちをかけてくる。
「ユウキ様も、とても素敵ですわ。そのジャケットの色、私の瞳の色と同じですね」
彼女はそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。
言われてみれば、確かにジャケットの刺繍は、彼女の澄んだ空色の瞳と同じ色をしていた。
セバスチャン、あんたってやつは…。
俺は心の中で、有能すぎる老執事に感謝と少しの恨み言を送った。
「さあ、行きましょうか」
「はいっ!」
俺が差し出した手を、ルナリアは少しもためらうことなく、その両手で優しく包み込むように握った。
その手は温かく、そして柔らかかった。
俺たちは、どちらからともなく歩き出す。
広場の人々が、美しいカップルの登場に振り返り、囁き合っているのが分かった。
だが、もうそんなことは気にならなかった。
隣で嬉しそうに俺の顔を見上げる、天使のような笑顔。
繋がれた手から伝わる、温かいぬくもり。
これから始まる、二人だけの特別な一日。
その全てが、俺の心を幸福感で満たしていく。
俺が失ったと思っていた穏やかな日常は、こんなにも甘く、輝かしい形で、再び俺の元へやってきたのかもしれない。
そう思うと、柄にもなく、胸が熱くなった。
初めてのデートは、まだ始まったばかりだ。
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