曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第16話 待ち合わせと輝く笑顔

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デート当日。
俺は、夜明けと共に目を覚ました。別に緊張で眠れなかったわけではない。ただ、自然と意識が浮上しただけだ。そう、断じて緊張などしていない。

クローゼットを開けると、そこにはシルフィード公爵家から贈られた、おびただしい数の衣服が並んでいた。どれもこれも、俺が今まで着ていた服とは比べ物にならないほど上質で、洒落たデザインのものばかりだ。
一体どれを着ていけばいいのか。
普段着でいいとは思うが、昨日のルナリアの「一番お洒落をしてまいります」宣言を思い出すと、あまりにラフな格好も気が引ける。

俺がうんうんと唸っていると、いつの間にか背後に控えていたセバスチャンが、完璧なタイミングで助け舟を出してくれた。
「ユウキ様。本日のような晴れやかな日には、こちらのコーディネートなどいかがでしょう」
彼が差し出してきたのは、純白のシャツに、空色の刺繍がアクセントで入ったネイビーのジャケット。そして、動きやすそうな細身のベージュのパンツだった。
上品でありながら、堅苦しすぎない。まさに今日のデートにぴったりの組み合わせだ。

「ありがとうございます、セバスチャン。それにします」
「お気に召したようで何よりでございます。ルナリアお嬢様も、きっとお喜びになられるかと」
老執事は、全てお見通しといった様子で優雅に微笑んだ。シルフィード公爵家のサポート体制は、今日も完璧だった。



約束の時間の三十分前。
俺は、すでに街の中央広場にある噴水前に到着していた。
早すぎるとは思ったが、落ち着かなくて部屋にいられなかったのだ。決して、浮かれているわけではない。

中央広場は、休日ということもあって大勢の人で賑わっていた。
噴水の周りでは、楽しそうに談笑するカップルや、はしゃぎ回る子供たちの姿が見える。
その平和な光景を眺めながら、俺は一人、そわそわと落ち着かない時間を過ごしていた。

ルナリアは、どんな格好で来るのだろうか。
学園の制服姿も、屋敷で見た白いワンピース姿も、天使のように可愛かった。
そんな彼女が、「一番お洒落をしてくる」と言っていたのだ。
一体、どれほどの破壊力になってしまうのか。想像するだけで、心臓が妙な音を立てる。

約束の時間が、一分、また一分と近づいてくる。
俺は無意識のうちに、何度も噴水の向こうにある大通りに視線を送っていた。
人混みの中から、彼女の姿を探してしまう。
まだか、まだか、と。

そして、約束の時間の鐘が、街に響き渡った、その時だった。
ざわめきに満ちていた広場の空気が、一瞬だけ揺らいだ気がした。
人々が、自然と道を開ける。その視線の先で、何かが輝いていた。

俺は、息を呑んだ。

そこに、彼女はいた。

陽の光を一身に浴びて、銀色の髪をきらきらと輝かせながら、彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
人混みの中にいるはずなのに、彼女の周りだけが、まるで別の世界の光に照らされているかのように、鮮やかに見えた。

今日の彼女は、淡い桜色のワンピースを身に纏っていた。
風が吹くたびにふわりと揺れる柔らかな生地は、春の訪れを告げる花のようだ。胸元には小さなリボンが飾られ、ウエストをきゅっと絞ったデザインは、彼女の可憐なスタイルを際立たせている。
普段は下ろしている銀髪は、サイドで緩やかに編み込まれ、白い花の髪飾りが清楚なアクセントになっていた。
その姿は、おとぎ話から抜け出してきた妖精か、あるいは舞い降りたばかりの天使か。
俺が知るどんな言葉を使っても、その美しさを表現しきることはできないだろう。

彼女は、少し不安そうな表情で辺りを見回していた。
そして、俺の姿を見つけた瞬間。
その表情が、ぱあっと、この世の全ての光を集めたかのように輝いた。

彼女は小さく駆け寄ってくると、俺の目の前でぴたりと足を止め、少し恥ずかしそうに、はにかんだ。

「お待たせしました、ユウキ様」

その笑顔を見た瞬間、俺の心臓は、ドクン、と大きく跳ね上がった。
時が止まったかのような錯覚。
周囲の喧騒は遠くに消え去り、俺の世界には、目の前で微笑む彼女しか存在しなくなった。
それは、これまで俺が見たどんな笑顔よりも、圧倒的に、そして致命的に、可愛かった。

俺はしばらく呆然と立ち尽くしていたが、やがて我に返り、慌てて口を開いた。
「い、いや、俺も今来たとこだよ」
我ながら、なんてベタな台詞だろうか。
「そ、その服…すごく、似合ってる。綺麗だ」
どうにか絞り出した言葉は、ひどく上擦っていた。

俺の言葉に、ルナリアは嬉しそうに頬を染めた。
「ありがとうございます…! ユウキ様のために、昨夜、一生懸命選びましたの」
そう言って、彼女は自分のワンピースの裾を少しだけ持ち上げて、くるりと一回転してみせる。
その仕草の一つ一つが、俺の心臓に追い打ちをかけてくる。

「ユウキ様も、とても素敵ですわ。そのジャケットの色、私の瞳の色と同じですね」
彼女はそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。
言われてみれば、確かにジャケットの刺繍は、彼女の澄んだ空色の瞳と同じ色をしていた。
セバスチャン、あんたってやつは…。
俺は心の中で、有能すぎる老執事に感謝と少しの恨み言を送った。

「さあ、行きましょうか」
「はいっ!」

俺が差し出した手を、ルナリアは少しもためらうことなく、その両手で優しく包み込むように握った。
その手は温かく、そして柔らかかった。
俺たちは、どちらからともなく歩き出す。
広場の人々が、美しいカップルの登場に振り返り、囁き合っているのが分かった。
だが、もうそんなことは気にならなかった。

隣で嬉しそうに俺の顔を見上げる、天使のような笑顔。
繋がれた手から伝わる、温かいぬくもり。
これから始まる、二人だけの特別な一日。
その全てが、俺の心を幸福感で満たしていく。

俺が失ったと思っていた穏やかな日常は、こんなにも甘く、輝かしい形で、再び俺の元へやってきたのかもしれない。
そう思うと、柄にもなく、胸が熱くなった。
初めてのデートは、まだ始まったばかりだ。
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