曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第23話 守りたいという想い

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どれくらいの時間が経ったのだろう。
俺はただ黙って、ルナリアの銀色の髪を優しく撫で続けた。
手のひらに伝わる絹糸のような滑らかな感触。彼女の小さな体の震えが、少しずつ収まっていくのが分かった。
湖面を渡る風が、彼女の涙の跡をそっと乾かしていく。

彼女が語ってくれた、色のない世界。
音と匂いだけが頼りの孤独な日々。
『呪われた令嬢』という言葉の棘に、一人で耐えてきた小さな心。

その全てが、俺の胸に重く、そして深く突き刺さっていた。
これまで俺が見てきた彼女は、いつも太陽のように明るく笑う天真爛漫な少女だった。
その笑顔の裏にこれほどまでの深い闇と痛みを隠していたなんて、思いもしなかった。
彼女は俺が想像していたよりもずっと、ずっと強い人間だったのだ。

俺は今まで彼女に対して、どこか甘えのような感情を抱いていたのかもしれない。
公爵令嬢という立場、純粋すぎる性格、そして俺に向ける絶対的な好意。
その全てを無意識のうちに受け入れ、流されるままに過ごしてきた。
だが、今は違う。

彼女の過去を知った今、俺の中に芽生えたのは同情や憐れみといった感情ではなかった。
もっと熱く、もっと力強い、腹の底から湧き上がってくるような衝動。
それは明確な「意志」だった。

この少女を、俺が守らなければならない。

彼女がようやく手に入れた、この色鮮やかな世界。
彼女が浮かべる心からの笑顔。
それを曇らせるものがこの世にあるのなら、俺がこの力で全て排除してやる。

もう彼女に一人で泣かせたりはしない。
彼女が背負ってきた重荷を、これからは俺も一緒に背負おう。
彼女が感じてきた痛みを、俺の温もりで全て溶かしてしまおう。

それは友情などという言葉では到底足りない、確かな想いの芽生えだった。
これが、人が人を愛おしいと思う気持ちなのか。
これが恋という感情の始まりなのかもしれない。
まだはっきりとした答えは出ない。
だが、この胸に灯った温かい炎を大切に育てていきたいと、心からそう思った。

やがて彼女の涙は完全に止まった。
ルナリアはゆっくりと顔を上げると、少しだけ腫れた目元で、はにかむように俺に微笑んだ。
その笑顔は雨上がりの空にかかる虹のように、儚く、そしてどこまでも美しかった。

「ありがとうございます、ユキ様」
その声は、まだ少しだけ掠れていた。
「私の我儘を聞いてくださって。…なんだか、すっきりしましたわ。胸の奥にあった黒い澱のようなものが、全部消えてしまったみたいです」
「そうか。なら、よかった」

俺は彼女の頭からそっと手を離した。
名残惜しいような、寂しいような不思議な気持ちが胸をよぎる。

「ユキ様」
彼女が俺の名前を呼んだ。
その声には先ほどまでの弱さはもうない。芯の通った、凛とした響きがあった。
「私、もう大丈夫ですわ」

彼女はそう言うと、すっと立ち上がった。
そして今度は俺に向かって、手を差し伸べてきたのだ。
その小さな手はもう震えていなかった。

「さあ、参りましょう。ユキ様がくださったこの素晴らしい世界を、もっとたくさん見て回りたいのです」

その姿は、もう守られるだけのか弱い少女ではなかった。
自分の足で立ち、未来へと歩き出そうとする一人の強い女性の姿だった。
差し伸べられたその手は、俺を過去から未来へと引き上げてくれる希望の光のようにも見えた。

俺は彼女の強さと美しさに、改めて心を奪われた。
そして微笑みながら、その手を力強く握り返した。

「ああ、そうだな。行こうか」

繋いだ手から伝わる温かいぬくもり。
それはお互いの心を確かめ合う、言葉よりも雄弁な誓いのようだった。
俺はもう迷わない。
この手を絶対に離さない。
この笑顔を一生、俺が守り抜く。

夕暮れの光が、湖面を黄金色に染め上げていた。
それはまるで俺たちの未来を祝福するかのように、どこまでも優しく輝かしい光だった。
俺たちの初めてのデートは、ただ甘いだけのものではなくなった。
互いの過去を受け入れ、未来を共に歩むことを誓う忘れられない一日となったのだ。

俺は繋いだ手に少しだけ力を込めた。
ルナリアもそれに答えるように、優しく握り返してくる。
言葉はもう必要なかった。
俺たちの心は、この瞬間確かに一つになっていた。
静かで穏やかで、そしてどこまでも温かい時間が、湖畔の二人を包み込んでいた。
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