曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第26話 学園祭準備とクラスの出し物

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初めてのデートの翌日。
俺はどこかふわふわとした心地で、学園へと続く道を歩いていた。
昨日の出来事がまだ夢のように感じられる。繋いだ手の温もり、夕日に染まる湖畔で交わした約束、そして別れ際にかわした小指の感触。
その一つ一つを思い出すたびに胸の奥が温かくなり、自然と口元が緩んでしまう。

校門の前には見慣れた光景があった。
桜の木の下で、一人の少女が俺を待っている。
銀色の髪を朝の光に輝かせる、ルナリア・フォン・シルフィード。
俺の姿を認めると、彼女はぱあっと顔を輝かせ、小さな駆け足でこちらへやってきた。

「おはようございます、ユウキ様!」
「おはよう、ルナリアさん。今日も早いな」
「はい! ユウキ様にお会いできると思うと、昨夜は嬉しくてなかなか眠れませんでしたの」

さらりと言われた言葉に、俺の心臓がどきりと跳ねる。
彼女は昨日までと何も変わらない。だが、俺の中の彼女に対する認識は昨日を境に大きく変わってしまっていた。
制服姿の彼女をまともに見ることができない。

「ユウキ様? どうかされましたか? お顔が少し赤いですわ」
「な、なんでもない! さあ、行こう!」
俺は誤魔化すように早口で言うと、歩き出した。
ルナリアは不思議そうに小首を傾げたが、すぐににこりと微笑むと、昨日までと同じように俺の腕にそっと自分の腕を絡めてきた。
その感触に、俺の心臓はまた一つ大きな音を立てた。
もうダメだ。俺は彼女の一挙手一投足に、完全に心をかき乱されている。



その日のホームルームは、いつもとは少し違う空気に包まれていた。
教壇に立ったギルバート先生が、一枚の羊皮紙を掲げながら言った。
「知っている者も多いと思うが、来月開催される創立記念祭…学園祭についてだ。各クラス、出し物を決めて準備に入るように。申請の締め切りは今週末だ」

その一言で教室は一気に活気づいた。
「学園祭か!」「今年はなにやる?」「去年は演劇だったよな!」
あちこちから期待に満ちた声が上がる。
俺は異世界に来て初めて経験する学園祭というイベントに、少しだけ興味を惹かれた。もちろん、面倒なことにならなければという条件付きだが。

そして放課後。
早速、クラスの出し物を決めるための話し合いが始まった。
日直が黒板の前に立ち、次々と意見を募っていく。

「模擬店はどうだ? 焼きそばとか、いかにも学園祭って感じで!」
「演劇にしましょうよ! 私、去年隣のクラスがやった『ロミオとジュリエット』に感動したんです!」
「お化け屋敷なんてどうかな? 意外性があって面白いと思うんだけど」

様々な案が出るがどれも決め手に欠け、話し合いは平行線を辿っていた。
俺はできれば準備が楽な展示系のものがいいな、などと他人事のように考えていた。
その時だった。
すっくと一人の生徒が立ち上がった。燃えるような真紅のポニーテールが、夕日を受けて鮮やかに輝く。
クラリス・フォン・ヴァレンシュタインだ。

彼女は応援団長としての自信に満ちた表情で教室全体を見渡すと、高らかに宣言した。
「皆様! わたくしに一つ提案がございますわ!」
その声に、全員の視線が集中する。
「今年の出し物は『メイド&執事喫茶』というのはいかがでしょう!」

その提案に教室は一瞬静まり返った。
そして次の瞬間、爆発的な歓声が巻き起こった。
「それだ!」「最高じゃないか!」「クラリス様、天才!」
特に男子生徒たちの熱狂ぶりは凄まじいものがあった。女子生徒たちも、可愛いメイド服が着られるとあって満更でもない様子だ。

クラリスは満足そうに頷くと、ちらりと俺とルナリアに視線を送った。
その目は、完全に獲物を狙う狩人の目をしていた。
「そして、この企画を成功させるためには強力な『看板』が必要ですわ。皆様、もうお分かりですわね?」
彼女の言葉に、クラスメイトたちがにやりと笑いながら一斉にこちらを向いた。

まずい。
俺の心に最大級の警報が鳴り響く。
これは完全に俺たちを巻き込むための筋書きだ。

「看板メイドには、もちろんこの学園の至宝、我らがルナリア様を!」
クラリスがそう言うと、「おおおお!」という地鳴りのような歓声が上がった。
ルナリアは突然自分の名前を呼ばれて、きょとんとした顔で目を瞬かせている。

「そして!」
クラリスは今度は俺をビシッと指さした。
「そのルナリア様にお仕えする看板執事には、ユウキ様しかおりませんわ!」
再び割れんばかりの拍手と歓声。
もはやクラスの総意は決定していた。
俺たちの意見など聞く気もないらしい。

俺はなんとかこの流れを断ち切ろうと、必死に断る理由を探した。
「い、いや、俺はそういうの柄じゃないし…もっと他に相応しいやつがいるだろ!」
「何をおっしゃいますか、ユウキ様!」
俺のささやかな抵抗は、クラリスによって一蹴された。
「ルナリア様の隣に立つことが許されるのは、この学園広しといえど貴方様をおいて他に存在しませんわ! これは、クラスの、いえ、学園全体の総意ですのよ!」
その無茶苦-茶な理論に、なぜかクラスメイトたちが力強く頷いている。

もうダメだ。打つ手がない。
俺が最後の望みをかけて隣を見ると、ルナリアが俺の袖をくいと引いた。
そしてキラキラと輝く瞳で、俺を見上げてきたのだ。

「ユウキ様…」
その声は期待に満ちていた。
「メイドさんと執事さん…ですの? ユウキ様の執事服姿、きっとすごく素敵ですわ…。それに、ユウキ様とご一緒に出し物ができるなんて、とても楽しそうです…!」

その純粋すぎる笑顔と期待に満ちた言葉。
それは俺の最後の抵抗を打ち砕くには、十分すぎるほどの威力を持っていた。
こんな顔をされて「嫌だ」なんて言えるはずがない。

俺は天を仰いだ。
そして力なく、一言だけ呟いた。
「…分かりました」

その瞬間、教室は今日一番の歓声に包まれた。
クラリスは「さすがですわ、ユウキ様!」と満足そうに頷き、クラスメイトたちはハイタッチを交わして喜んでいる。
まるで何か大きな戦いに勝利したかのようだ。

こうして、俺たちのクラスの出し物は「メイド&執事喫茶」に決定した。
そして俺とルナリアは、満場一致、というかもはや強制的にその看板役へと選ばれたのだった。
これから始まるであろう怒涛の準備期間を想像して、俺の胃は久しぶりに鋭い痛みを訴え始めた。

俺の平穏は、どこだ。
心の中でそう叫びながら、俺は隣で「どんなお給仕をしましょうか」と嬉しそうに呟くルナリアの横顔を、ただ見つめることしかできなかった。
学園祭は、どうやら俺にとって新たな試練の舞台となるらしい。
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