曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

文字の大きさ
27 / 100

第27話 破壊力抜群の衣装合わせ

しおりを挟む
クラスの出し物が「メイド&執事喫茶」に決まってから、放課後の教室は学園祭準備の熱気に包まれていた。
机は部屋の隅に寄せられ、中央のスペースでは装飾係が壁紙やテーブルクロスを広げている。調理係はメニューの試作品を持ち寄って試食会を開いていた。
その喧騒の中で、俺は一人胃を押さえながら遠い目をしていた。

「ユウキ様、ルナリア様! お衣装が届きましたわよ!」

そこに弾むような声と共に現れたのは、衣装係の女子生徒たちと、その後ろで腕を組んで満足そうに頷くクラリスだった。
彼女たちが抱える箱の中には、俺たちの看板衣装が入っているらしい。
その事実が、俺の胃にさらなる追い打ちをかける。

「さあさあ、早速試着していただきましょう! まずはルナリア様から!」
クラリスが有無を言わせぬ勢いでルナリアを促す。
教室の隅にはカーテンで仕切られた即席の試着室が用意されていた。
ルナリアは少し恥ずかしそうにしながらも、期待に満ちた表情で衣装を受け取ると試着室の中へと消えていった。

その瞬間、それまで作業に打ち込んでいたクラスメイトたちの動きがぴたりと止まった。
誰もが固唾を飲んでカーテンの前に注目している。
特に男子生徒たちの目は、獲物を待つ肉食獣のようにギラギラと輝いていた。

数分の、永遠のようにも感じられる時間が過ぎる。
やがてカーテンが静かに、そしてゆっくりと開かれた。

そこに立っていたのは、紛れもない天使だった。

教室中の誰もが息を呑んだ。
しんと静まり返った教室に、誰かが「うそだろ…」と呟く声だけが響いた。

ルナリアが身に纏っていたのは、黒を基調としたクラシカルなロングドレスのメイド服だった。
純白のエプロンには繊細なフリルがふんだんにあしらわれ、胸元には小さな黒いリボンが結ばれている。頭には白いレースのカチューシャ。
そのデザインは、彼女の純粋無垢な雰囲気を最大限に引き立てていた。
普段の制服姿とは違う、完璧に計算され尽くした「奉仕する少女」の姿。
その破壊力は俺の想像を遥かに超えていた。

彼女は自分に向けられる視線に戸惑いながら、恥ずかしそうにスカートの裾をきゅっと握りしめた。
その仕草がまた庇護欲を掻き立てる。

「あ、あの…へ、変では…ありませんでしょうか…?」

不安そうに尋ねる彼女に、誰も答えることができない。
皆、あまりの神々しさに言葉を失ってしまっているのだ。
俺もまたその一人だった。
頭が真っ白になり、心臓が馬鹿みたいに大きな音を立てている。
可愛いとか、似合っているとか、そんな陳腐な言葉では到底表現できない。
ただひたすらに、尊い。
俺はクラスメイトたちが使っていた「尊い」という言葉の意味を、この時初めて魂で理解した。

沈黙を破ったのは、クラリスの感極まったような声だった。
「変なわけがありませんわ…! なんてこと…! これでは、お客様が紅茶を飲む前に尊さで昇天してしまいますわ…!」
その言葉でクラスメイトたちも我に返った。
「女神だ…」「俺、今日まで生きててよかった…」「もうメイド様って呼んでいいですか…?」
あちこちから魂の抜けたような賞賛の声が上がる。

ルナリアは皆の反応を見て少しだけ安堵したようだった。
そして一番聞きたかった相手、つまり俺の方を、おずおずと見つめてきた。
その潤んだ瞳に気づき、俺は慌てて口を開いた。

「…すごく似合ってる。本当に…天使かと思った」
我ながら、あまりにも素直すぎる感想だった。
俺の言葉に、ルナリアは今日一番の幸せそうな笑顔で、ぽっと頬を染めた。

「さて! 次はユウキ様の番ですわよ!」
クラリスがにやりと笑いながら俺の方を向いた。
「え、俺は別に…」
「問答無用ですわ! さあ、どうぞ!」
俺のささやかな抵抗は、クラリスと数人の男子生徒によって軽々と封じられ、半ば強制的に試着室へと押し込まれた。

渡された執事服は、体にぴったりとフィットする仕立ての良いものだった。
着慣れないベストやタイに悪戦苦闘しながらも、なんとか着替えを終える。
覚悟を決めて、俺はカーテンの外に出た。

再び教室が静まり返る。
だが、先ほどの静寂とは少しだけ質が違った。
今度は女子生徒たちの、うっとりとしたため息が聞こえてくる。

俺が着たのは、黒一色のシャープなシルエットの執事服だった。
白いシャツに黒いベスト、そして首元にはきっちりと結ばれたアスコットタイ。普段のどこか気の抜けた雰囲気とは全く違う、凛とした、そしてどこかミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

「まあ…」
誰かがぽつりと呟いた。
その声に、俺は一番見てほしかった相手、ルナリアの方へと視線を向けた。

彼女は時が止まったかのように、その場に立ち尽くしていた。
その空色の瞳は大きく見開かれ、完全に俺の姿に釘付けになっている。
頬は先ほどの俺の比ではないくらい、真っ赤に染め上がっていた。
口元は半開きになり、その瞳は熱に浮かされたかのようにとろりと蕩けている。

「す…てき…ですわ…」

か細い、吐息のような声。
「王子様…みたい…」

その魂からの呟きを聞いて、今度は俺の顔がカッと熱くなった。
女子生徒たちからは「わかる…」「ヤバい、心臓が…」「普段とのギャップがたまらない…!」などという、ひそやかな、しかし熱のこもった声が聞こえてくる。

その状況を、クラリスが満足そうに見渡した。
「ふふふ…どうですの、皆様! これで、我がクラスの勝利は確実ですわ!」
彼女の高らかな宣言に、クラスメイトたちは「おおー!」と力強い歓声で応えた。

こうして俺とルナリアの衣装合わせは、クラスメイトたちに絶大なインパクトを残して幕を閉じた。
お互いに普段とは違う相手の姿にドキドキさせられ、顔を見合わせるたびに赤面してしまう。
その光景は周りから見れば、ただの甘すぎるイチャつきにしか見えなかっただろう。

学園祭当日、このメイドと執事のコンビがどれほどの旋風を巻き起こすことになるのか。
俺はこれから始まるであろう怒涛の日々を思い、期待とそれ以上の胃痛を感じずにはいられなかった。
ただ一つ確かなのは、この破壊力抜群の衣装を着たルナリアが給仕してくれるなら、どんな無理難題でも聞いてしまいそうだ、ということだけだった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜

キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」 20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。 一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。 毎日19時更新予定。

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

処理中です...