曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第33話 後夜祭の伝説

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ダンスパーティーの熱狂が冷めやらぬまま、学園祭の最後のイベントが始まろうとしていた。
後夜祭だ。
場所は学園の裏手にある広大な中庭。その中央には見上げるほど高く積み上げられた薪が、静かに出番を待っていた。

生徒たちはパーティーの喧騒から解放され、思い思いに中庭に集まってきていた。
ドレスや礼服のままの者もいれば、ラフな格好に着替えてきた者もいる。
夜風が心地よく、皆どこかリラックスした表情をしていた。

俺とルナリアも人混みから少し離れた大きな木の根元に腰を下ろしていた。
隣にはいつの間にか現れたクラリスが、満足そうな顔で腕を組んでいる。
「お二人とも、本日のダンスは実に見事でしたわ! まさに伝説の始まりですわね!」
彼女はまるで自分のことのように興奮気味に語っている。もはや完全に保護者の視点だ。

やがて学園長による短い挨拶の後、ついにその時が訪れた。
生徒会長が掲げた松明を薪の中心へと投げ入れる。
轟、という音と共に乾いた薪に炎が燃え移り、瞬く間に天を焦がすほどの巨大な火柱へと成長した。
キャンプファイヤーだ。

「わあ…!」

ルナリアが感嘆の声を上げる。
夜の闇を払う燃え盛る炎の圧倒的な迫力。そのオレンジ色の光が、生徒たちの顔を幻想的に照らし出している。
パチパチと薪がはぜる音が心地よいBGMのように響いていた。

生徒たちは自然と炎を囲むように輪になり、誰からともなく歌を歌い始めたり、肩を組んで踊り始めたりした。
三日間の学園祭をやり遂げた達成感と、終わってしまうことへの一抹の寂しさ。
その両方が入り混じった不思議な高揚感が、中庭全体を包み込んでいた。

俺はその光景をぼんやりと眺めていた。
前世ではこんな風に、大勢で何かを成し遂げた達成感を味わうことなどなかった。
ただひたすらに個人のノルマをこなし、疲弊していくだけの毎日。
それに比べて今の俺は、なんて温かい場所にいるのだろう。
そう思うと胸の奥がじんわりと熱くなった。

「ユウキ様」
不意に隣にいたルナリアがそっと俺の袖を引いた。
彼女は燃え盛る炎を見つめながら、どこか夢見るような表情で言った。
「このキャンプファイヤーには、一つの伝説があるのをご存知ですこと?」

「伝説?」
俺が聞き返すと、彼女はこくりと頷いた。
「はい。この炎の前で愛を誓い合ったカップルは、永遠に幸せになれる…という言い伝えがあるのですわ」

なんともロマンチックな伝説だ。
いかにも学生が好きそうな話である。
俺が「へえ」と相槌を打つと、隣にいたクラリスが待ってましたとばかりに身を乗り出してきた。

「その通りですわ! そして、ユウキ様!」
彼女はキラキラとした瞳で俺を見つめてくる。
「今こそがその時ではありませんこと!?」
「は?」
「ルナリア様に愛の告白をなさるのですわ! この最高のシチュエーションで! さあ、早く!」

クラリスのあまりにもストレートな催促に、俺は思わずむせ返った。
告白? 俺が? 今、ここで?
無茶を言うな。そんな心の準備など微塵もできていない。

「い、いや、何を言ってるんだクラリスさん! そんな、いきなり…」
俺が慌てて否定すると、クラリスは「もどかしいですわね!」と地団駄を踏んだ。
その様子はまるで自分の好きな物語の主人公が、なかなかくっつかないことに業を煮やしているファンのようだ。

俺たちのそんなやり取りを、ルナ-リアは頬を染めながら黙って聞いていた。
その瞳は燃え盛る炎のように熱っぽく揺れている。
彼女は期待しているのだ。
俺の言葉を。

その瞳に見つめられて、俺の心臓は大きく、そして力強く脈打ち始めた。
告白。
確かに、もう潮時なのかもしれない。
俺の気持ちはすでに固まっている。
彼女が好きだ。愛おしい。一生、隣で笑っていてほしい。
その想いをきちんと言葉にして彼女に伝えなければならない。
曖昧な関係のまま彼女を不安にさせてはいけない。

伝説がどうとか。
シチュエーションがどうとか。
そんなことはどうでもいい。
ただ、今この瞬間の自分の素直な気持ちを伝えたい。

俺はゆっくりと深呼吸をした。
そして隣に座るルナリアの方へと真っ直ぐに向き直った。
俺のただならぬ雰囲気を察したのか、クラリスが「!」と息を呑んで後ずさる。
ルナリアの肩がびくりと小さく震えた。

燃え盛る炎が俺たちの顔を照らし出す。
パチパチとはぜる薪の音だけがやけに大きく聞こえた。
俺は彼女の透き通るような空色の瞳をじっと見つめた。
その瞳の奥に、俺自身の真剣な顔が映っている。

もう、迷いはない。
俺は意を決して口を開いた。
それは俺の人生で、最も勇気が必要な一言だった。
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