曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第49話 浴衣で歩く温泉街の夏祭り

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夢のような露天風呂から上がると、俺たちの体は芯からぽかぽかと温まっていた。
脱衣所には旅館の心遣いだろう、清潔で着心地の良さそうな浴衣が用意されていた。
俺は慣れない手つきで濃紺の浴衣に袖を通し、帯を締める。鏡に映る自分の姿はどこか見慣れないが、悪くない気分だった。

「ユウキ、着替え終わりましたか?」
部屋の中から、ルナの少しだけ弾んだ声が聞こえる。
俺が「ああ」と答えて部屋に戻ると、そこに彼女は立っていた。
そして俺はまたしても、言葉を失った。

彼女が身に纏っていたのは、澄んだ夜空を思わせる美しい瑠璃色の浴衣だった。
生地には銀糸で描かれた可憐な桔梗の花と、天の川のような星屑が散りばめられている。その柄は彼女の銀髪と空色の瞳に、完璧に調和していた。
結い上げた髪には小さな銀のかんざしが一本だけ挿してある。そのシンプルな装いが逆に彼女のうなじの白さと気品を際立たせていた。
普段のドレス姿ともメイド服姿とも違う、和の装い。
それはこれまで見たどんな彼女よりも、しっとりとして艶やかで、そしてどこか儚げな美しさを湛えていた。

「…どう、でしょうか…?」
俺が固まっているのに気づき、彼女は不安そうにくるりと一回転してみせた。
袖がふわりと揺れ、甘い花の香りが俺の鼻腔をくすぐる。
俺は、ようやく我に返り正直な感想を口にした。
「…すごく、綺麗だ。月のお姫様が地上に降りてきたのかと思った」
俺の言葉に、彼女は嬉しそうに、そして恥ずかしそうにはにかんだ。
「ユウキこそ、とても素敵ですわ。その浴衣、まるで夜の湖のようです。吸い込まれてしまいそう…」
お互いの姿を褒め合い、顔を見合わせてどちらからともなく笑ってしまう。
その時間はどこまでも甘く、穏やかだった。

その時、どこからか賑やかな祭囃子の音が聞こえてきた。
トントン、という軽快な太鼓の音と人々の楽しげな笑い声。
「まあ、何の音でしょう?」
ルナが不思議そうに小首を傾げる。
俺たちが窓から外を眺めると、温泉街の中心部が無数の提灯の明かりで煌々と照らし出されているのが見えた。どうやら偶然にも、今日はこの街で年に一度の夏祭りが開かれているらしかった。

「行ってみようか」
俺がそう提案すると、彼女の瞳は子供のようにキラキラと輝いた。
「はいっ!」



旅館から一歩外に出ると、昼間とは全く違う非日常の喧騒が俺たちを迎えてくれた。
石畳の通りには様々な屋台が軒を連ね、赤や黄色の提灯が幻想的な光のトンネルを作り出している。
浴衣姿の人々が楽しそうに行き交っていた。

「わあ…!」
ルナはその光景に圧倒されたように感嘆の声を上げた。
甘いりんご飴の香り、香ばしい焼きとうもろこしの匂い、そして人々の熱気。
その全てが彼女にとって初めての経験なのだ。
俺はそんな彼女の手を、はぐれないようにしっかりと握りしめた。

俺たちは屋台を一つ一つ冷やかしながら歩いた。
真っ赤なりんご飴を買い、お互いの顔を見合わせながらしゃりと一口かじる。その素朴な甘さが口いっぱいに広がった。
金魚すくいの屋台では、ポイをすぐに破ってしまってしょんぼりする彼女の姿があまりにも可愛らしくて、俺は思わず笑ってしまった。

一通り屋台を見て回った後、俺たちはひときわ賑わっている一角で足を止めた。
射的の屋台だ。
棚にはぬいぐるみやお面、駄菓子といった懐かしい景品がずらりと並んでいる。

「ユウキ、あれは何をする場所ですの?」
「的を銃で撃って、倒したら景品がもらえるんだ。やってみるか?」
俺がそう言って屋台の主人からコルク銃を二丁受け取る。
ルナは初めて見る銃をおっかなびっくりといった様子で構えた。
だが、彼女の放った弾はあらぬ方向へと飛んでいき、的の遥か手前でぽとりと落ちた。
「うぅ…難しいですわ…」
しょんぼりと肩を落とす彼女に、俺は「まあ、見てろって」と少しだけ得意げに笑ってみせた。

俺は前世の祭りで培った僅かな経験を思い出す。
狙うのは下の段の、軽くて倒れやすい景品。銃身はしっかりと固定し、息を止めて引き金を引く。
パン、という乾いた音と共にコルクの弾が飛んでいく。
そして見事に、棚の隅に置かれていた小さな白い猫のぬいぐるみをことりと倒した。

「おおっ! お見事!」
屋台の主人が感心したように声を上げる。
だが、それ以上に俺の隣で息を呑む音がした。

「すごい…! すごいですわ、ユウキ!」
ルナが尊敬と憧れと、そして熱烈な愛情が入り混じったキラキラとした瞳で俺を見つめていた。
その瞳はまるで英雄を見るかのようだ。
たかだか射的でぬいぐるみを一つ落としただけなのに、この反応。
俺は照れくさくて頭を掻いた。

「ほら、お嬢ちゃんにプレゼントだ」
屋台の主人が気前よく白い猫のぬいぐるみを俺に手渡してくれた。
俺はそれを受け取ると、そのままルナへと差し出した。
「はい、プレゼント」

彼女は信じられないといった顔で、俺とぬいぐるみを交互に見た。
そして、おずおずと、しかしとても大切そうにそのぬいぐるみを受け取った。

「わたくしに…? ユウキが、わたくしのために…?」
その声は感動で震えていた。
彼女はその小さなぬいぐるみを、ぎゅううっと力いっぱい胸に抱きしめた。
その姿はまるで世界で一番大切な宝物を見つけたかのようだった。

「ありがとうございます…! ユウキ…!」
彼女は潤んだ瞳で俺を見上げると、心の底から幸せそうに微笑んだ。
「この子、わたくしの生涯の宝物にしますわ。絶対に肌身離さず、大切にします…!」
そのあまりにも純粋で、あまりにも真っ直ぐな言葉。
俺は胸の奥が温かくなるのを感じた。

公爵令嬢である彼女はこれまで、どんな高価な宝石やドレスも手に入れてきただろう。
だが今、彼女が胸に抱いているのは、屋台で手に入れたたった一つの安物のぬいぐるみ。
それでも彼女にとってはどんな宝石よりも価値のある、かけがえのない宝物なのだ。
なぜなら、それは俺が彼女のために手に入れた初めてのプレゼントだから。

俺たちは再び手を繋いで歩き出した。
ルナは片方の手で俺の手を握り、もう片方の腕で白い猫のぬいぐるみを大切そうに抱きしめている。
提灯の柔らかな光がそんな俺たち二人を優しく照らし出していた。
祭りの喧騒が少しだけ遠くに聞こえる。
俺たちの周りだけが穏やかで、甘い空気に満ちていた。
この幸せな夜がいつまでも続けばいい。
俺は隣で幸せそうに微笑む彼女の横顔を見ながら、心からそう願うのだった。
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