曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第51話 王家からの招待状

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天空の温泉郷での甘い旅行は、夢のようにあっという間に過ぎ去った。
俺とルナは心にたくさんの温かい思い出を刻み込み、再び王都アウレリアへと戻ってきた。
長かったはずの長期休暇も、気づけばもう終わりだ。

休暇明けの初日。
学園へと向かう道すがら、俺は隣を歩くルナとの間に流れる空気が旅行前とは比べ物にならないほど甘く、そして穏やかなものになっているのを感じていた。
もう手を繋ぐことにも、お互いを名前で呼び合うことにも気恥ずかしさはない。
それは当たり前でかけがえのない、俺たちの日常の一部となっていた。

「ユウキ、見てください。あのお店のショーウィンドウ、秋色の新作ドレスが飾られていますわ」
「本当だ。君に似合いそうだな」
「まあ。では今度の休日に、また一緒に見に来てくださいますか?」
「もちろん」

そんな恋人同士の何気ない会話。
その一つ一つが俺の心を幸福感で満たしていく。
学園に着いても、その穏やかな空気は変わらなかった。
クラスメイトたちの生暖かい祝福の視線も、もはや心地よいBGMのようなものだ。

俺は心のどこかで期待していたのかもしれない。
このまま大きな事件も起こらず、ただルナとの甘い学園生活が続いていくのではないか、と。
だが、そんな俺の淡い期待はこの世界の「物語」が許してはくれなかった。

その日の放課後だった。
俺たちが教室で帰り支度をしていると、セバスチャンが普段の落ち着き払った様子とは少し違う、どこか神妙な面持ちで俺たちを訪ねてきた。
その手には一通の見慣れない封筒が握られている。
純白の上質な羊皮紙で作られたその封筒には蝋で封がされており、そこには俺でも知っているこの国の王家の紋章がくっきりと刻まれていた。

「ルナリアお嬢様、そしてユウキ様。王宮より、お二方宛ての親書でございます」

セバスチャンの静かな言葉に、教室に残っていた数名の生徒たちが息を呑むのが分かった。
王宮からの親書。
その単語が持つ重みは平民である俺にも理解できた。
それは国王陛下、あるいは王族直々の命令書、もしくは招待状を意味する。

ルナは少し驚いた顔をしたが、すぐに公爵令嬢としての落ち着きを取り戻し、その封筒を恭しく受け取った。
そして繊細な指先で器用に封を切り、中の便箋を広げる。
俺は固唾を飲んで、その隣から文面を覗き込んだ。

そこに書かれていた内容は、俺の想像を遥かに超えるものだった。

『親愛なるシルフィード公爵令嬢、ルナリア・フォン・シルフィード殿
 並びに、ユウキ・アスカワ殿

 秋冷の候、貴殿らにおかれては益々ご健勝のこととお慶び申し上げる。
 さて、来る新月の夜、我が王城にてささやかながら建国記念の祝賀パーティーを催すことと相成った。
 つきましては、ルナリア殿には、ぜひユウキ・アスカワ殿をエスコート役として、共にこのパーティーへご臨席いただきたく、ここに招待するものである。
 貴殿らの来訪を、心よりお待ち申し上げておる。

 アウレリア国王 アルベイン・フォン・アウレリア』

俺はその文面を最後まで読み終えると、ゆっくりと天を仰いだ。
頭がくらくらする。
胃がきりり、と鋭い痛みを訴え始めた。久しぶりの親友との再会だった。

王家。国王陛下。建国記念パーティー。
その一つ一つが俺の平穏な日常とはかけ離れた別世界の単語だ。
そして極めつけは。
俺が「ルナリア・フォン・シルフィードのエスコート役」として、国王陛下から直々に名指しで招待されているという、この悪夢のような事実。

どうして、こうなった。
俺の噂がついに王様の耳にまで届いてしまったというのか。
シルフィード家の令嬢を癒やした奇跡の治癒術師。学内最強の王者を打ち破った謎の転入生。街の吟遊詩人に「聖者」とまで詠われた男。
その一人歩きしすぎた虚像が、ついに国家レベルの注目を集めてしまったのだ。

「…終わった」
俺の口から魂の抜けたような声が漏れた。
俺のスローライフ計画はもはや塵となって風に吹き飛ばされてしまった。

俺が絶望の淵に沈んでいると、隣のルナが嬉しそうな、そしてどこか誇らしげな声で言った。
「まあ、ユウキ! 王様が貴方のことをご存知だったのですね! なんて素晴らしいことでしょう!」
彼女は俺が王家に認められたことを自分のことのように喜んでいる。
その純粋な笑顔が今の俺には眩しすぎた。

「ユウキとご一緒に王家のパーティーに出席できるなんて…夢のようですわ。最高のドレスを選ばなければなりませんね!」
彼女はすでにパーティーのことで頭がいっぱいらしい。
俺の胃痛のことなど微塵も気づいていない。

その日の夜。
俺は報告のために再びシルフィード公爵邸に連行されていた。
アルフォンス公爵は招待状を見るなり、案の定号泣した。

「来たか! ついにこの時が来たのだな! 我が息子が、名実ともにこの国の歴史に名を刻む日が!」
彼はもはや俺を息子と呼ぶことに何の躊躇もない。
「陛下はかねてよりユウキ、君の噂に大変ご興味をお持ちであられたのだ! 我が娘を救ったその奇跡の力、そして魔法大会で見せたその規格外の実力! 君がこの国の至宝となる日は近いぞ!」
そのあまりにも大きすぎる期待。
俺はプレッシャーで押し潰されそうだった。

そこに話を聞きつけて駆けつけたクラリスまで加わった。
「当然ですわ! ユウキ様の実力とルナとの愛の深さを考えれば、王家が黙っているはずがありませんもの!」
彼女は応援団長として拳を握りしめて熱弁を振るう。
「これはお二人が名実ともに王国最高のカップルとなるための、最初の公式な舞台ですわ! 全力でサポートさせていただきます!」

ルナは純粋に喜び、アルフォンス公爵は感動にむせび、クラリスは熱狂的に応援する。
俺の味方はどこにもいなかった。
完全に逃げ場は塞がれている。

「社交界なんて行ったことないし、作法も何も分からない…」
俺が最後の抵抗として弱音を吐くと、アルフォンス公爵は「何を言うか!」と豪快に笑い飛ばした。
「心配無用だ! パーティーまでの二週間、この私が君を完璧な貴公子に育て上げてみせよう! 礼儀作法からダンス、会話術に至るまで、全てを叩き込んでやる!」
その目は本気だった。
どうやら俺は地獄の特訓を受けることまで決定してしまったらしい。

こうして俺の意思とは全く関係なく、俺の社交界デビューが決定した。
舞台は王城で開かれる建国記念パーティー。
それは俺の穏やかな日常に完全な終止符を打つ、華やかすぎるギロチン台だった。

俺はこれから始まるであろう怒涛の二週間を想像して、そっと胃を押さえた。
俺の胃は果たしてパーティー当日まで無事でいてくれるのだろうか。
その答えは神のみぞ知る。
いや、きっと神様はにやにやしながらこの状況を楽しんでいるに違いない。
俺は異世界に俺を送り込んだあの軽い神様の顔を思い出し、深く、深いため息をつくのだった。
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