曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第52話 社交ダンスの猛特訓

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王家からの招待状が届いてからというもの、俺の放課後は地獄の特訓コースへと姿を変えた。
場所はシルフィード公爵邸に併設された広大なダンスホール。
磨き上げられた大理石の床、天井には巨大なシャンデリア。そんな俺の人生とは縁もゆかりもない場所で、俺は来る日も来る日も慣れないステップを踏み続けていた。

「違う! ユウキ殿、腰が高い! もっと重心を低く、滑るように!」

ホールの隅で腕を組み、鬼教官と化して檄を飛ばすのはアルフォンス公爵その人だった。
彼は見た目の威厳に違わず、ダンスにおいても超一流の腕前を持つらしい。
その指導は一切の妥協を許さなかった。

「背筋を伸ばせ! 指の先まで神経を行き渡らせるのだ!」
「そのターンはなんだ! 軸がぶれているぞ!」
「音楽を感じろ! 魂で踊るのだ!」

次から次へと飛んでくるスパルタ指導。
俺は汗だくになりながら必死にその要求に応えようとするが、付け焼き刃の技術ではなかなか上手くいかない。
足はもつれ、ステップは乱れ、ターンをすればよろめく。
その度に公爵の雷が落ちる。

「はあ…はあ…もう、無理です…」
練習開始から一時間。俺は完全に床に伸びていた。
体力的な疲労もさることながら、精神的なプレッシャーが半端ない。

そんな俺に救いの女神が舞い降りた。
「お父様。少し厳しすぎますわ」
練習用の軽やかなドレスに着替えたルナが、困ったような笑顔で公爵を諌めてくれた。
彼女の隣には同じく練習着姿のクラリスもいる。
彼女たち二人が俺のダンスパートナー兼、サブコーチ役を務めてくれることになっていた。

「む…そうか? だが、パーティーで我が息子が恥をかくわけには…」
「大丈夫ですわ。ユウキはとても筋が良いですから」
ルナはそう言うと、俺に優しく手を差し伸べてくれた。
「さあ、ユウキ。今度は私と踊りましょう」
その天使の微笑みに俺の疲労は少しだけ吹き飛んだ。

俺は彼女の手を取って立ち上がる。
そして練習を再開した。
パートナーがルナに変わった途端、不思議なことが起こった。
あれほどぎこちなかった俺のステップが、嘘のように滑らかになったのだ。

「ワン、ツー、スリー…」
彼女の優しい声と完璧なリード。
俺の動きに合わせて彼女が絶妙に体を動かし、サポートしてくれる。
まるで俺の体が彼女の魔法に導かれているかのようだった。

「上手ですわ、ユウキ。とても素敵よ」
耳元で囁かれる甘い賞賛の言葉。
それだけで俺の体は先ほどまでの疲労が嘘のように軽くなった。
俺たちはどちらからともなく自然と笑みを交わしていた。
その光景はもはや特訓というよりは、ただの甘いデートの一場面だった。

その様子をクラリスが少しだけ羨ましそうに、しかし満足げに見守っていた。
「…仕方ありませんわね。次はわたくしがお相手しますわよ、ユウキ!」
彼女はそう言うと、ルナと交代するように俺の前に立った。
クラリスのリードはルナとはまた違う、情熱的でキレのあるものだった。
「ほら、もっと大胆に! わたくしをリードするくらいの気持ちで!」
彼女の叱咤激励を受けながら、俺はさらにステップに磨きをかけていく。

そんな俺たちの様子を、鬼教官だったはずのアルフォンス公爵がいつの間にか涙ぐみながら見ていた。
「おお…! なんということだ…! 我が息子が二人の美しい姫君に囲まれて華麗に舞っている…! この光景を見られる日が来ようとは…!」
彼はハンカチで何度も目頭を押さえている。
もはや指導どころではないらしい。

練習は日が暮れても続いた。
最初は地獄のようだった特訓も、いつしか三人での楽しいダンスレッスンへと変わっていた。
俺とルナが踊る甘いワルツ。
俺とクラリスが踊る情熱的なタンゴ(なぜか練習メニューに追加されていた)。
その合間には休憩と称して、ルナがお手製のレモネードを差し入れてくれる。
そのどれもが俺にとってかけがえのない時間となっていた。

そしてパーティーを三日後に控えた特訓の最終日。
俺のダンスは見違えるほど上達していた。
もう足がもつれることも、ターンでよろめくこともない。
俺はホールの中心で、ルナと最後の仕上げとなるワルツを踊っていた。

オーケストラの生演奏(いつの間にか公爵が手配していた)に合わせて、俺たちは優雅に舞う。
俺のリードはもうぎこちなくない。
自信を持って彼女を導き、ターンさせ、そしてそっと引き寄せる。
彼女は絶対の信頼を込めて、その身を俺に預けてくれていた。
俺たちの呼吸は完全に一つになっていた。

音楽がフィナーレを迎える。
俺は彼女を抱きしめるようにして、最後のポーズを完璧に決めた。
しん、と静まり返るダンスホール。

その静寂を破ったのは、アルフォンス公爵とクラリスの割れんばかりの拍手だった。
「素晴らしい! 見事だ、ユウキ!」
「完璧ですわ、お二人とも! これならパーティーで会場中の視線を釘付けにすること間違いなしですわ!」

二人の賞賛の言葉に俺は少しだけ照れくさくなった。
腕の中のルナは幸せそうに、そして満足そうに俺の胸に顔をうずめている。
その頬は運動のせいか、あるいは別の理由か、可愛らしく上気していた。

「ありがとう、ユウキ」
彼女が俺にしか聞こえない声でそっと囁いた。
「最高のエスコート役ね」

その言葉だけで、これまでの地獄のような(でも、本当は楽しかった)特訓の全てが報われた気がした。
社交ダンスの猛特訓。
それはパーティーで恥をかかないためだけの付け焼き刃の練習ではなかった。
俺とルナ、そしてクラリスの絆をさらに深めるための、かけがえのない時間だったのだ。

俺は腕の中の温かいぬくもりを感じながら、三日後に迫った運命の夜会に思いを馳せた。
不安はもうない。
あるのはこの最高のパートナーと共に最高の舞台に立つことへの、確かな自信と高揚感だけ。
俺はこの愛おしい少女を誰よりも輝かせてみせる。
そう心に固く誓うのだった。
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