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第62話 世界で一つの指輪
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「史上最高のプロポーズ作戦会議」はその後も連夜に渡って秘密裏に開催された。
アルフォンス公爵とクラリスのアイデアは、日を追うごとにエスカレートしていく一方だった。
ドラゴンをチャーターして空から登場する案、国中の吟遊詩人を集めてプロポーズの歌を同時に歌わせる案、果ては魔法で巨大な氷の城を建造しその頂上で愛を誓う案まで飛び出した。
「お二人とも、気持ちは嬉しいんですが、もう少し現実的な線で…」
俺の切実な訴えも、二人の燃え盛る情熱の前では焼け石に水だった。
彼らは本気で、歴史の教科書に載るレベルの伝説を創造しようとしているのだ。
そんなカオスな会議が続く中で、俺は一人着々とプロポーズに不可欠なあるものの準備を進めていた。
婚約指輪だ。
これもまたただ市販のものを買うだけでは、彼女への想いを伝えきれない気がした。
俺は自分の手で、この世に一つだけの特別な指輪を作り上げることを決意した。
俺はまずアルフォンス公爵のコネを最大限に利用させてもらい、王都で一番と名高いドワーフの宝石職人の工房を訪ねた。
頑固一徹で知られるその老職人は、最初は「貴族の若様の道楽に付き合う気はない」と俺を追い返そうとした。
だが、俺が自分の魔力を使って極小の宝石の原石を寸分の狂いもなくカットしてみせると、彼の目の色が変わった。
「…面白い。お主、ただのボンボンではないようじゃな」
俺は彼に弟子入りを請い、それから数日間、昼は学園、放課後は特訓、そして夜は工房という前世の社畜時代を彷彿とさせるハードスケジュールをこなすことになった。
俺が指輪のメインとなる宝石に選んだのは、「月光石(ムーンストーン)」と呼ばれる白く半透明の石だった。
その石は魔力を注ぎ込むと、内部に柔らかな光を灯すという特殊な性質を持っている。
俺は、その月光石の原石にドワーフの師匠から教わった秘伝の技術と、俺自身の【聖なる癒やしの手】の力を融合させることにした。
工房の奥深く、俺は極限まで集中力を高め、小さな月光石に向き合っていた。
俺は石に触れる指先に自分の魔力を、そしてルナへの想いを全て注ぎ込んでいく。
感謝、愛おしさ、守りたいという誓い。
俺たちの出会いから今日までの全ての思い出を光の粒子に変えて、石の中へと封じ込めていく。
「――想いよ、宿れ。二人の心に、永遠の光を灯せ」
俺がそう呟くと、手のひらにあった月光石が眩いばかりの虹色の光を放ち始めた。
それはあの日、俺が呪いを解いたペンダントが放った光とよく似ていた。
だがその輝きは、もっと温かく、もっと優しく、そしてどこまでも深い愛情に満ちていた。
光が収まった時、そこにあったのはもはやただの月光石ではなかった。
石の内部には、まるで小さな銀河が生まれたかのように無数の光の粒子がきらめき、ゆっくりと渦を巻いていた。
「…できた」
その奇跡的な美しさに俺自身も息を呑んだ。
隣で見ていたドワーフの師匠は、腰を抜かさんばかりに驚き「神の御業じゃ…」とただただ震えていた。
この宝石の本当の価値はここからだった。
この石は俺とルナの心そのもの。
俺たちの心が喜びや愛情で満たされている時はひときわ強く七色に輝く。
逆にどちらかが悲しみや不安を感じれば、その輝きは翳り微かに震えて相手にそれを知らせる。
そしてもし、どちらかの身に危険が迫れば真紅の警告の光を放つ。
まさに世界で一つの、二人の心に呼応して輝く魔法の指輪だった。
宝石が完成すれば、あとは土台となるリングの作成だ。
俺は素材に星屑銀(スターダストシルバー)とオリハルコンを、魔力で融合させた特別な合金を選んだ。
そのリングに繊細な蔦の模様を彫り込み、小さなダイヤモンドをまるで朝露のように散りばめていく。
全ての作業を、俺は一睡もせずにたった一人で一晩でやり遂げた。
ルナの喜ぶ顔を、ただそれだけを想像しながら。
夜が明け朝日が工房に差し込む頃、ついに世界で一つの婚約指輪が完成した。
銀色のリングの中央で虹色の銀河を宿した宝石が、静かに、しかし圧倒的な存在感を放って輝いている。
その完璧な出来栄えに、俺は深い満足感とそして少しばかりの誇りを感じていた。
俺は完成した指輪をビロード張りの小さな箱にそっと収めた。
あとはこれを彼女に渡すだけ。
その最高の舞台を整えるだけだ。
工房から出た俺を、いつの間にか待っていたクラリスが呆れたような、しかしどこか感心したような顔で見ていた。
「…本当に作ってしまいましたのね。貴方という人は本当にどこまで規格外なのですか」
どうやら彼女は俺の行動を、アルフォンス公爵を通じて全て把握していたらしい。
「でも…」
彼女はふっとその表情を和らげた。
「その指輪なら、きっとルナも世界で一番幸せな顔で受け取ってくれますわ」
その言葉は、俺にとって何よりの励みになった。
「ありがとう、クラリス」
俺が素直に感謝を述べると、彼女は「べ、別に貴方のためではありませんわ! 全ては親友であるルナの幸せのためですもの!」と顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。
その素直じゃない優しさが、俺は少しだけ好きだった。
史上最高のプロポーズ計画は、その心臓部である世界で一つの指輪の完成によって大きく前進した。
残るは、その舞台設定。
俺はクラリスと共に、アルフォンス公爵の暴走をいかにして止め、そして俺たち二人だけの特別な場所に決めるかという、新たな戦いへと身を投じるのだった。
アルフォンス公爵とクラリスのアイデアは、日を追うごとにエスカレートしていく一方だった。
ドラゴンをチャーターして空から登場する案、国中の吟遊詩人を集めてプロポーズの歌を同時に歌わせる案、果ては魔法で巨大な氷の城を建造しその頂上で愛を誓う案まで飛び出した。
「お二人とも、気持ちは嬉しいんですが、もう少し現実的な線で…」
俺の切実な訴えも、二人の燃え盛る情熱の前では焼け石に水だった。
彼らは本気で、歴史の教科書に載るレベルの伝説を創造しようとしているのだ。
そんなカオスな会議が続く中で、俺は一人着々とプロポーズに不可欠なあるものの準備を進めていた。
婚約指輪だ。
これもまたただ市販のものを買うだけでは、彼女への想いを伝えきれない気がした。
俺は自分の手で、この世に一つだけの特別な指輪を作り上げることを決意した。
俺はまずアルフォンス公爵のコネを最大限に利用させてもらい、王都で一番と名高いドワーフの宝石職人の工房を訪ねた。
頑固一徹で知られるその老職人は、最初は「貴族の若様の道楽に付き合う気はない」と俺を追い返そうとした。
だが、俺が自分の魔力を使って極小の宝石の原石を寸分の狂いもなくカットしてみせると、彼の目の色が変わった。
「…面白い。お主、ただのボンボンではないようじゃな」
俺は彼に弟子入りを請い、それから数日間、昼は学園、放課後は特訓、そして夜は工房という前世の社畜時代を彷彿とさせるハードスケジュールをこなすことになった。
俺が指輪のメインとなる宝石に選んだのは、「月光石(ムーンストーン)」と呼ばれる白く半透明の石だった。
その石は魔力を注ぎ込むと、内部に柔らかな光を灯すという特殊な性質を持っている。
俺は、その月光石の原石にドワーフの師匠から教わった秘伝の技術と、俺自身の【聖なる癒やしの手】の力を融合させることにした。
工房の奥深く、俺は極限まで集中力を高め、小さな月光石に向き合っていた。
俺は石に触れる指先に自分の魔力を、そしてルナへの想いを全て注ぎ込んでいく。
感謝、愛おしさ、守りたいという誓い。
俺たちの出会いから今日までの全ての思い出を光の粒子に変えて、石の中へと封じ込めていく。
「――想いよ、宿れ。二人の心に、永遠の光を灯せ」
俺がそう呟くと、手のひらにあった月光石が眩いばかりの虹色の光を放ち始めた。
それはあの日、俺が呪いを解いたペンダントが放った光とよく似ていた。
だがその輝きは、もっと温かく、もっと優しく、そしてどこまでも深い愛情に満ちていた。
光が収まった時、そこにあったのはもはやただの月光石ではなかった。
石の内部には、まるで小さな銀河が生まれたかのように無数の光の粒子がきらめき、ゆっくりと渦を巻いていた。
「…できた」
その奇跡的な美しさに俺自身も息を呑んだ。
隣で見ていたドワーフの師匠は、腰を抜かさんばかりに驚き「神の御業じゃ…」とただただ震えていた。
この宝石の本当の価値はここからだった。
この石は俺とルナの心そのもの。
俺たちの心が喜びや愛情で満たされている時はひときわ強く七色に輝く。
逆にどちらかが悲しみや不安を感じれば、その輝きは翳り微かに震えて相手にそれを知らせる。
そしてもし、どちらかの身に危険が迫れば真紅の警告の光を放つ。
まさに世界で一つの、二人の心に呼応して輝く魔法の指輪だった。
宝石が完成すれば、あとは土台となるリングの作成だ。
俺は素材に星屑銀(スターダストシルバー)とオリハルコンを、魔力で融合させた特別な合金を選んだ。
そのリングに繊細な蔦の模様を彫り込み、小さなダイヤモンドをまるで朝露のように散りばめていく。
全ての作業を、俺は一睡もせずにたった一人で一晩でやり遂げた。
ルナの喜ぶ顔を、ただそれだけを想像しながら。
夜が明け朝日が工房に差し込む頃、ついに世界で一つの婚約指輪が完成した。
銀色のリングの中央で虹色の銀河を宿した宝石が、静かに、しかし圧倒的な存在感を放って輝いている。
その完璧な出来栄えに、俺は深い満足感とそして少しばかりの誇りを感じていた。
俺は完成した指輪をビロード張りの小さな箱にそっと収めた。
あとはこれを彼女に渡すだけ。
その最高の舞台を整えるだけだ。
工房から出た俺を、いつの間にか待っていたクラリスが呆れたような、しかしどこか感心したような顔で見ていた。
「…本当に作ってしまいましたのね。貴方という人は本当にどこまで規格外なのですか」
どうやら彼女は俺の行動を、アルフォンス公爵を通じて全て把握していたらしい。
「でも…」
彼女はふっとその表情を和らげた。
「その指輪なら、きっとルナも世界で一番幸せな顔で受け取ってくれますわ」
その言葉は、俺にとって何よりの励みになった。
「ありがとう、クラリス」
俺が素直に感謝を述べると、彼女は「べ、別に貴方のためではありませんわ! 全ては親友であるルナの幸せのためですもの!」と顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまった。
その素直じゃない優しさが、俺は少しだけ好きだった。
史上最高のプロポーズ計画は、その心臓部である世界で一つの指輪の完成によって大きく前進した。
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