曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第41話 学内対抗魔法大会・開幕

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穏やかで甘い日々が続く中、学園は新たなイベントシーズンへと突入していた。
秋の訪れと共に開催される伝統行事。
それが「学内対抗魔法大会」だ。

これは各学年、各クラスから選抜された代表選手たちが三人一組のチームを組んで魔法の腕を競い合う、学園最大のスポーツイベントである。
競技内容は模擬戦形式のトーナメント。
相手チームのメンバー全員を戦闘不能にするか、降参させれば勝利となる。
優勝したチームには莫大な名誉と豪華な賞品が与えられるとあって、学園中の生徒たちがこの大会に向けて熱くなっていた。

もちろん俺は全く興味がなかった。
目立つことは今でもできるだけ避けたい。
それに俺の力は対人戦に向いているとは言えない。相手を癒やすことはできても、傷つけることはできないのだから。
俺は観客席でのんびりとルナの応援でもできれば、それで十分だと思っていた。

だが、そんな俺のささやかな願いはまたしてもあっさりと打ち砕かれることになる。

代表選手の選抜会議が行われた放課後の教室。
俺たちのクラスから誰を出すかという話し合いの場で、当然のようにまず二人の名前が挙がった。

「代表にはもちろん、ルナリア様とクラリス様に出ていただくのが一番ですわ!」
一人の女子生徒がそう言うと、クラス中から賛同の声が上がる。
ルナリアは強力な光属性の防御魔法と補助魔法の使い手。
クラリスは学年首席の実力を誇る、超攻撃的な炎の魔術師。
この二人が組めば攻守のバランスが取れた、非常に強力なチームになるだろう。

問題は三人目のメンバーだった。
攻撃役と防御役は決まった。あと一人、チームの戦術に幅を持たせるような優秀なメンバーが必要だ。
クラスメイトたちが「誰がいいだろうか」「ブラウンはどうだ?」などと議論を交わしている、その時だった。
すっくとクラリスが立ち上がった。
そして、その翠色の瞳でまっすぐに俺を射抜いた。

「皆様! 三人目のメンバーはもう決まっておりますわ!」
彼女はビシッと俺を指さし、高らかに宣言した。
「我らがチームの最後のピースは、このユウキ様をおいて他に考えられませんわ!」

その言葉に教室は一瞬静まり返った。
そして次の瞬間、爆発的な賛同の歓声が巻き起こった。
「そうだ!」「その手があったか!」「ユウキがいれば無敵じゃねえか!」

俺は自分の耳を疑った。
「いや、待て! 俺は攻撃魔法なんて使えないぞ! 足手まといになるだけだ!」
俺が慌てて反論すると、クラリスは「ふふん」と自信満々に鼻を鳴らした。

「ユウキ様、ご自分の価値をまだご理解なさっていないようですわね」
彼女はまるで教師が生徒に教え諭すかのように言った。
「考えてもごらんなさい。わたくしが全力で、後先考えずに最大火力の攻撃魔法を放つことができます。なぜなら、万が一わたくしたちが反撃を受けて傷ついたとしても、ユウキ様が一瞬で完全に癒やしてくださるからですわ!」

その言葉に、クラスメイトたちが「なるほど!」と手を打った。
「つまり…クラリスの超攻撃を、ユウキが無限にサポートするってことか!」
「ルナリア様が鉄壁の防御で時間を稼ぎ、その間にクラリス様が魔法を構築。多少の被弾はユウキ様が即時回復…」
「…それ、チートじゃね?」
「最強の布陣じゃないか…!」

クラスメイトたちは勝手に盛り上がっている。
俺の意見など、もはや誰の耳にも届いていない。
攻撃魔法が使えない、ただの治癒術師。
だがその治癒能力が規格外である一点において、俺は、このチームにとって替えの効かない切り札と見なされてしまったのだ。

俺が最後の望みをかけてルナに助けを求めると、彼女は申し訳なさそうな顔で、しかしその瞳は期待にキラキラと輝いていた。
「ユウキ…ごめんなさい。でも、私もユウキと一緒に戦えたら、とても心強いですわ」
その一言で、俺の敗北は決定した。

こうして俺はルナとクラリスと共に、学内対抗魔法大会に出場することが半ば強制的に決定してしまった。
チーム名はクラリスが自信満々に命名した「チーム・セラフィム」。
セラフィムとは伝説に登場する最高位の天使の名だ。ルナをイメージしたらしい。そのネーミングセンスについては、俺はコメントを控えた。

その日の放課後。
俺たちは作戦会議のために旧館の音楽室に集まっていた。
もはや俺たちの秘密の集合場所となりつつある場所だ。

「いいですわね! まずわたくしが先制攻撃で相手の陣形を崩します! その隙にルナリア様は防御結界を展開! ユウキ様は後方で常にわたくしたちの状態を把握し、少しでも傷を負ったら即座に回復をお願いしますわ!」
クラリスが黒板に陣形図を描きながら熱弁を振るっている。
その姿はまるで歴戦の将軍のようだ。

俺はそんな彼女の隣で、ただただ深いため息をついていた。
穏やかな学園生活は、一体どこへ…。

だが、そんな俺の憂鬱を吹き飛ばすようにルナが俺の袖をくいと引いた。
そして小さな声でそっと囁いた。
「大丈夫ですわ、ユウキ。私が必ず貴方のことはお守りしますから」
そのあまりにも健気で、あまりにも頼もしい言葉。
俺は思わず笑ってしまった。
守られるのは、どう考えても俺の方ではないだろうに。

「それに…」
彼女は少しだけ頬を赤らめて言葉を続けた。
「三人で力を合わせるなんて、なんだか秘密の冒険みたいで、少しだけワクワクしますわ」

その純粋な笑顔。
それを見てしまったら、もう腹を括るしかない。
面倒だとか、目立ちたくないとか、そんなことを言っている場合ではない。
この愛おしい少女たちの期待に応えなければならない。

俺はため息をやめ、きりりと表情を引き締めた。
そしてクラリスが描いた陣形図を真剣な目で見つめた。
「クラリス。その初手の攻撃だが、もう少し広範囲を狙える魔法の方が相手の足を止めやすいんじゃないか?」
俺が前世でプレイした戦略ゲームの知識を基にそう提案すると、クラリスは「なんと!」と目を見開いた。
「なるほど…! 確かにその通りですわ! さすがはユウキ様! 戦術眼までお持ちとは!」

作戦会議はそこから一気に熱を帯び始めた。
俺の提案にクラリスが戦術を練り直し、ルナがそれを補助する。
三人の意見がパズルのピースのように、一つ、また一つと噛み合っていく。
その時間は不思議なほど楽しかった。

秘密の冒険。
ルナが言った言葉が俺の胸の中で反芻される。
そうか。これもまた、彼女とそして仲間たちと共に経験する新しい「初めて」なのだ。
そう思うと大会本番が少しだけ楽しみになってきた。
もちろん、その先に待っているであろうさらなる胃痛の種から目を逸らしながら、ではあるが。

学内対抗魔法大会、開幕まであと一週間。
最強(?)の布陣を組んだ俺たちの新たな挑戦が、今、始まろうとしていた。
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