曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第40話 恋人のための料理修行

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俺が手作りのブレスレットをプレゼントしてからというもの、ルナはそれを片時も手首から外すことはなかった。
授業中も食事中も、そしておそらくは眠る時でさえも。
時折愛おしそうにその銀の輝きを撫でている彼女の姿を見るたびに、俺の胸は温かいもので満たされた。

そんなある日のことだった。
昼休みにいつものように彼女の手作り弁当を食べていた俺は、ふとあることに気がついた。
今日の卵焼きはいつもよりほんの少しだけ甘みが強い。そして照り焼きチキンには、隠し味に微かな生姜の風味が加えられている。
それは俺が前世で好んで食べていた母親の味付けに驚くほどよく似ていた。

「今日の弁当、なんだかいつもと少し違うな。すごく俺好みの味だ」
俺が何気なくそう言うと、ルナは「本当ですか!?」とぱあっと顔を輝かせた。
その反応はまるでテストで百点を取った子供のようだ。

「実は…最近、公爵家の料理長にお願いしてお料理を教えていただいているのです」
彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら言った。
「え、料理を?」
「はい。ユウキの好きなものを、もっともっと完璧に作れるようになりたいと思いまして…」

その健気すぎる言葉に、俺の心臓はきゅんと甘く締め付けられた。
公爵令嬢である彼女が俺のために、自ら厨房に立って料理を学ぶ。
その事実だけで俺はもう胸がいっぱいだった。

「セバスチャンにユウキの細かい味の好みや、子供の頃に好きだったお料理などを根掘り葉掘り聞き出しまして…」
なるほど、それで俺の母親の味に近かったのか。
シルフィード公爵家の情報網とセバスチャンの完璧な記憶力には、もはや脱帽するしかない。

「でも、まだまだですわ。料理長のようにはなかなかいきません。火加減の調整も味付けの塩梅も、本当に奥が深くて…」
彼女は少し悔しそうに唇を尖らせた。
その指先にはいくつか小さな切り傷や火傷の跡が見える。
きっと俺の知らないところで彼女は必死に努力しているのだろう。
その小さな傷跡がたまらなく愛おしかった。

俺はそっと彼女の手を取った。
そしてその小さな傷跡の一つ一つに、自分の唇を優しく押し当てた。
「…!」
ルナの体がびくりと大きく跳ねる。
その顔はみるみるうちに真っ赤に染め上がっていった。

「ユ、ユウキ…!? な、何を…!?」
「頑張った証だからな」
俺はそう言って微笑むと、彼女の指先にそっと治癒魔法をかけた。
淡い黄金色の光が彼女の指を包み込み、小さな傷は跡形もなく消えていった。

「これでもう痛くないだろ」
「あ…うぅ…」
ルナは完全にキャパシティオーバーを起こし、両手で顔を覆って俯いてしまった。
その耳まで真っ赤になっている。

「でも、ありがとう」
俺はもう一度彼女の手を優しく握りしめた。
「君が俺のために一生懸命作ってくれた料理だ。世界で一番美味しいよ。どんな高級レストランのフルコースよりも、俺はこの弁当が好きだ」

それは俺の偽らざる本心だった。
俺の言葉にルナは顔を覆ったまま、こく、こくと何度も頷いていた。
その肩は嬉しさに小さく震えている。

その日を境にルナの料理の腕は目に見えて上達していった。
毎日のお弁当は日替わりで俺の好物が詰め込まれ、そのどれもが完璧な味付けだった。
ある日は出汁の香りが豊かな和食。
またある日はスパイスの効いた異国風の料理。
彼女のレパートリーは日に日に増えていった。

クラスメイトたちもその変化に気づいていた。
「なあ、ユウキ。最近ルナリア様が持ってくる弁当、なんかレベルアップしてないか?」
「ああ。もはや神の領域に達しつつある」
「一口くれよ」「断る」
そんなやり取りが日常の風景となった。

そして彼女の料理修行は、思わぬ形で俺たちの関係をさらに深めるきっかけとなった。

ある週末、俺はシルフィード公爵邸に招かれていた。
表向きはアルフォンス公爵とのお茶会ということだったが、本当の目的は別にある。
俺が広大な厨房を訪れると、そこには白いエプロンをきりりと締めたルナの姿があった。
彼女は巨大なオーブンを前に、何やら真剣な表情で奮闘していた。

「ユウキ! よく来てくださいました!」
俺の姿を認めると、彼女はぱっと顔を輝かせた。
その顔には小麦粉が少しだけ付着している。

「今日はアップルパイに挑戦しているのです。でもパイ生地を伸ばすのが、すごく難しくて…」
彼女は困ったように眉を下げた。
その隣では白髪の厳格そうな料理長が、腕を組んで厳しい目で見守っている。

俺はくすりと笑うと自分のジャケットを脱ぎ、袖をまくった。
そしてルナの隣に立つと、彼女の手から麺棒を受け取った。
「少し貸してみろ。こういうのは力任せにやってもダメなんだ。生地の声を聞くように優しく、均等に力を加えるのがコツなんだよ」
俺は前世で趣味だったお菓子作りの知識を思い出しながら手本を見せるように、手際よく生地を伸ばしていく。

俺の背後からルナが「まあ…!」と感嘆の声を上げる。
俺は彼女の腰に手を回し、その体を自分の腕の中に包み込むような形になった。
そして彼女の手に自分の手を重ねる。

「こうやって一緒にやってみよう」
俺の耳元での囁きに、彼女の体がびくりと震えた。
俺たちはまるで映画のワンシーンのように、二人で一つのパイ生地を伸ばしていく。
その光景はあまりにも甘すぎて、見ていた若い見習い料理人たちが何人か尊さで倒れていた。
厳格なはずの料理長でさえ、その顔はなぜかほんのりと赤らんでいる。

二人で協力して作り上げたアップルパイはこんがりと美しい焼き色に仕上がり、厨房中に甘く香ばしい香りを漂わせた。
その日の午後のお茶会でアルフォンス公爵は、そのアップルパイを一口食べるなり「うまい! うますぎるぞ! これが我が娘と息子、二人の愛の共同作業の味か!」と叫び、感動のあまり号泣していた。

恋人のための料理修行。
それはただ美味しい料理を作るためだけのものではなかった。
相手を想う気持ち、喜ばせたいという願い。
その一つ一つが最高のスパイスとなって俺たちの毎日を、そして俺たちの関係をどこまでも甘く、味わい深いものへと変えていく。
俺はルナが作ってくれる愛情のこもった料理を食べるたびに、この上ない幸福を噛みしめるのだった。
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