曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第95話 新しい名前

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感動的な感謝の手紙の朗読が終わり、披露宴はいよいよお開きの時間を迎えようとしていた。
会場には穏やかでどこまでも優しいクロージINGの音楽が静かに流れ始めている。
招待客たちは今日の数々の感動的な場面をその胸に刻み込み、名残惜しそうに席を立ち始めていた。

俺とルナはアルフォンス公爵、そしてクラリスと共に会場の出口に立ち、帰路につく招待客たちを一人一人見送っていた。
「素晴らしい結婚式でしたぞ、子爵閣下!」
「ルナリア様、末永くお幸せに!」
「聖者様と聖女様のご武運をお祈りしております!」

その一人一人からかけられる温かい言葉。
俺たちはその一つ一つに深々と頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた。
その作業は夜が更けるまで続いた。

やがて最後の一人の招待客を見送り終えた時。
巨大なホールには俺たち四人と、後片付けをする数名の使用人たちだけが残されていた。
あれほど華やかだった喧騒が嘘のように静まり返っている。
その祭りの後の、一抹の寂しさが俺の胸を少しだけ締め付けた。

「…終わったな」
アルフォンス公爵がしみじみと呟いた。
その顔には父親としての大役を終えた安堵と、そして深い、深い満足感が浮かんでいた。

「ええ。最高の一日でしたわね」
クラリスもまた少しだけ潤んだ瞳で、がらんとしたホールを見渡していた。

俺とルナは何も言わずにただ顔を見合わせた。
そしてどちらからともなく、そっと手を繋いだ。
今日一日ずっとそうしていたように。
だがその手の感触は今、これまでとは全く違う特別な意味を持っていた。

「さあ、お二人とも」
アルフォンス公爵が俺たちのそんな様子を温かい目で見守りながら言った。
「疲れただろう。今日はもうゆっくりとお休み。…君たちの新しい家でな」
その最後の言葉は、どこか悪戯っぽい響きを持っていた。

そうだった。
今夜から俺たちはあの二人だけの「愛の巣」で新しい生活を始めるのだ。
その事実に改めて気づかされ、俺の心臓はまたしても大きな音を立てて跳ね上がった。
隣に立つルナの顔も、ぽっと夕焼けのように赤く染まっているのが分かった。

俺たちはアルフォンス公爵とクラリスにもう一度深く感謝の礼を述べた。
「お義父さん、クラリス。本当にありがとう。二人のおかげで最高の一日になったよ」
「…何を今更。当たり前ですわ」
クラリスはそっぽを向きながらそう言った。その耳は真っ赤だった。

アルフォンス公爵は何も言わずに、ただ俺の肩を力強く叩いた。
その大きな手から、全ての想いが伝わってくるようだった。



王城から俺たちの新しい家へと向かう帰りの馬車の中。
俺とルナは二人きりで並んで座っていた。
窓の外を王都の穏やかな夜景がゆっくりと流れていく。
馬車の中は静かだった。
だがその沈黙は、心地よい緊張感とそしてこれから始まる新しい生活への甘い期待に満ちていた。

俺は繋いだままの彼女の小さな手をそっと握りしめた。
その左手の薬指には、俺が贈った結婚指輪が月明かりを浴びて静かに輝いていた。

俺は、その輝きを見つめながらぽつりと呟いた。
「…今日から君は、アスカワ・ルナなんだな」

俺のその言葉に、彼女の肩がびくりと小さく震えた。
彼女はゆっくりと顔を上げた。
そのあまりにも美しい空色の瞳が驚きと、そしてとろけるような幸福感で潤んでいる。

アスカワ・ルナ。
彼女の新しい名前。
俺と同じ名前。
俺たちがもう離れることのない一つの家族になった証。

彼女はその新しい名前の響きを、自分の心の中で確かめるように噛み締めていた。
そしてやがてその唇から、吐息のような甘い声がこぼれ落ちた。

「はい…」

そのたった一言の返事。
だが、そこには彼女の全ての喜びと愛情が凝縮されていた。

彼女は俺の胸にその頭をこてんと預けてきた。
そして俺の顔を見上げながら囁いた。
今日彼女が俺にだけ見せてくれた最高の笑顔で。

「――はい、あなた」

その愛おしい響き。
俺はもう何も言えなかった。
ただ目の前の、俺の妻となったこのかけがえのない宝物を力の限り優しく、そして強く抱きしめるだけだった。

馬車は俺たち二人だけの甘い誓いを乗せて、丘の上の新しい家へと向かっていく。
その先には二人だけの新しい生活が待っている。
笑い、時には喧嘩もするかもしれない。
だがその全ての日常がきっとかけがえのない宝物になる。
そんな確かな予感に、俺たちの心は満たされていた。

新しい名前。
それは俺たちの永遠に続く甘い物語の、本当の始まりを告げる魔法の言葉だった。
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