曲がり角でぶつかった少女に回復魔法を使ったら不治の病と盲目なのを治してしまってめちゃくちゃ懐かれてた

夏見ナイ

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第94話 感謝の手紙

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爆笑と甘い香りに包まれたファーストバイトの後、披露宴はいよいよ感動のフィナーレへと向かおうとしていた。
会場の照明が少しだけ落とされる。
楽団が奏で始めたのは、穏やかでどこか郷愁を誘うような優しいメロディーだった。
司会者のしっとりとした声が響き渡る。
「さて、宴もたけなわではございますが…結びに、新婦ルナリア様より皆様へ、感謝のお手紙の朗読がございます」

その言葉に、会場は再び水を打ったように静まり返った。
ルナがゆっくりと席を立つ。
その手には淡いピンク色の美しい便箋が一枚握りしめられていた。
彼女は俺に一度だけ、大丈夫ですわとでも言うように優しく微笑みかけると、マイクの前に進み出た。

その凛とした立ち姿。
だが、その手は便箋と共に微かに震えているのが分かった。
彼女は一度深く息を吸い込んだ。
そして、その澄んだ声で手紙を読み始めた。

「本日ご列席くださいました皆様へ」

その声は静かだったが、不思議なほど会場の隅々にまで響き渡った。

「そして、天国でわたくしを見守ってくださっているお母様へ」

その一言に、アルフォンス公爵の肩がびくりと大きく震えた。
俺もまた息を呑んだ。

「わたくしは、今日この日を迎えることができました。光に満ちたこの場所で、世界で一番愛する人の隣で皆様に祝福していただける。…少し前のわたくしには、想像もできなかった夢のような一日です」

彼女の声は震えていなかった。
ただひたすらに穏やかで、そして感謝の気持ちに満ち溢れていた。

「わたくしのこれまでの人生は、決して平坦なものではありませんでした。光のない、色のない世界で、わたくしはただ息を潜めるように生きておりました。未来に希望を持つことも、誰かを心から愛することも諦めておりました」

「ですが、そんなわたくしのそばには、いつも温かい光がありました」

彼女の視線が、涙で顔をぐしゃぐしゃにしているアルフォンス公爵へと向けられた。
「お父様。わたくしがどれだけ心を閉ざしても、お父様は決してわたくしを見捨てず、その大きな愛で包み続けてくださいました。毎晩わたくしの手を握り、『大丈夫だ、必ず奇跡は起こる』と励まし続けてくださったこと、決して忘れません。わたくしが今日ここにいられるのは、お父様の揺るぎない愛があったからです。…本当に、本当にありがとうございました」

アルフォンス公爵はもはや嗚咽をこらえることもできず、その巨体を震わせて泣きじゃくっていた。
その涙は、これまでの彼の苦悩と、そして娘への深い愛情の結晶だった。

次に彼女の視線は、同じように涙を流しているクラリスへと向けられた。
「クラリス。あなたはわたくしの初めての、そして生涯の親友ですわ。あなたがなければ、わたくしはとっくの昔に孤独に押し潰されていたでしょう。あなたの太陽のような笑顔が、わたくしの心の唯一の光でした。ありがとう。これからもずっと、わたくしの一番の味方でいてくださいね」
クラリスは言葉もなく、ただ何度も何度も力強く頷き返していた。

そして、最後に。
彼女の視線がゆっくりと俺へと注がれた。
そのあまりにも深く、そしてあまりにも愛おしさに満ちた眼差し。
俺は、その視線を真正面から受け止めた。

「そして…ユキ」

彼女が俺の名前を呼んだ。
その声はとろけるように甘く響いた。

「あなたと出会えたこと。それがわたくしの人生に起こった、最大の奇跡でした」

「あなたはわたくしに光をくれました。色のなかったわたくしの世界を鮮やかに彩ってくれました。そして、愛することの喜びを教えてくれました」

「わたくしは、あなたと出会って初めて生きていることの本当の意味を知ったのです」

彼女の瞳から一筋、透明な涙が静かに流れ落ちた。
だが、その顔には最高の幸せな笑顔が浮かんでいた。

「わたくしは誓います。これから先、何があってもあなたの隣で、あなたと共に歩んでいくことを。あなたの喜びはわたくしの喜び。あなたの痛みはわたくしの痛み。あなたの全てをこの命ある限り愛し、支え続けていくことを」

彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その手紙を締めくくる最後の、そして最も大切な言葉を告げた。

「わたくしを見つけ出してくれて、本当に、ありがとう。…あなた」

その初めて呼ばれた愛しい響き。
俺の心の中の最後のダムが決壊した。
俺の瞳からも温かい涙が止めどなく溢れ出した。
もう、それを隠そうとも思わなかった。

しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、これまでで最も温かく、そして優しい拍手の渦に包まれた。
誰もが、そのあまりにも美しく、そして尊い愛の告白に涙を流し、そして心からの祝福を送っていた。

ルナが壇上から降りて俺の元へと戻ってくる。
俺は立ち上がり、何も言わずにそのかけがえのない俺の妻を、力の限り強く、強く抱きしめた。
「…ありがとう、ルナ」
俺が震える声でそう言うと、彼女もまた俺の胸の中でこくりと幸せそうに頷いた。

感謝の手紙。
それは彼女から俺たちを支えてくれた全ての人々への、そして何よりも俺への、最高のラブレターだった。
俺たちの披露宴は、この世界で一番美しい愛の言葉によって、その感動のフィナーレを迎えたのだった。
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