94 / 100
第94話 感謝の手紙
しおりを挟む
爆笑と甘い香りに包まれたファーストバイトの後、披露宴はいよいよ感動のフィナーレへと向かおうとしていた。
会場の照明が少しだけ落とされる。
楽団が奏で始めたのは、穏やかでどこか郷愁を誘うような優しいメロディーだった。
司会者のしっとりとした声が響き渡る。
「さて、宴もたけなわではございますが…結びに、新婦ルナリア様より皆様へ、感謝のお手紙の朗読がございます」
その言葉に、会場は再び水を打ったように静まり返った。
ルナがゆっくりと席を立つ。
その手には淡いピンク色の美しい便箋が一枚握りしめられていた。
彼女は俺に一度だけ、大丈夫ですわとでも言うように優しく微笑みかけると、マイクの前に進み出た。
その凛とした立ち姿。
だが、その手は便箋と共に微かに震えているのが分かった。
彼女は一度深く息を吸い込んだ。
そして、その澄んだ声で手紙を読み始めた。
「本日ご列席くださいました皆様へ」
その声は静かだったが、不思議なほど会場の隅々にまで響き渡った。
「そして、天国でわたくしを見守ってくださっているお母様へ」
その一言に、アルフォンス公爵の肩がびくりと大きく震えた。
俺もまた息を呑んだ。
「わたくしは、今日この日を迎えることができました。光に満ちたこの場所で、世界で一番愛する人の隣で皆様に祝福していただける。…少し前のわたくしには、想像もできなかった夢のような一日です」
彼女の声は震えていなかった。
ただひたすらに穏やかで、そして感謝の気持ちに満ち溢れていた。
「わたくしのこれまでの人生は、決して平坦なものではありませんでした。光のない、色のない世界で、わたくしはただ息を潜めるように生きておりました。未来に希望を持つことも、誰かを心から愛することも諦めておりました」
「ですが、そんなわたくしのそばには、いつも温かい光がありました」
彼女の視線が、涙で顔をぐしゃぐしゃにしているアルフォンス公爵へと向けられた。
「お父様。わたくしがどれだけ心を閉ざしても、お父様は決してわたくしを見捨てず、その大きな愛で包み続けてくださいました。毎晩わたくしの手を握り、『大丈夫だ、必ず奇跡は起こる』と励まし続けてくださったこと、決して忘れません。わたくしが今日ここにいられるのは、お父様の揺るぎない愛があったからです。…本当に、本当にありがとうございました」
アルフォンス公爵はもはや嗚咽をこらえることもできず、その巨体を震わせて泣きじゃくっていた。
その涙は、これまでの彼の苦悩と、そして娘への深い愛情の結晶だった。
次に彼女の視線は、同じように涙を流しているクラリスへと向けられた。
「クラリス。あなたはわたくしの初めての、そして生涯の親友ですわ。あなたがなければ、わたくしはとっくの昔に孤独に押し潰されていたでしょう。あなたの太陽のような笑顔が、わたくしの心の唯一の光でした。ありがとう。これからもずっと、わたくしの一番の味方でいてくださいね」
クラリスは言葉もなく、ただ何度も何度も力強く頷き返していた。
そして、最後に。
彼女の視線がゆっくりと俺へと注がれた。
そのあまりにも深く、そしてあまりにも愛おしさに満ちた眼差し。
俺は、その視線を真正面から受け止めた。
「そして…ユキ」
彼女が俺の名前を呼んだ。
その声はとろけるように甘く響いた。
「あなたと出会えたこと。それがわたくしの人生に起こった、最大の奇跡でした」
「あなたはわたくしに光をくれました。色のなかったわたくしの世界を鮮やかに彩ってくれました。そして、愛することの喜びを教えてくれました」
「わたくしは、あなたと出会って初めて生きていることの本当の意味を知ったのです」
彼女の瞳から一筋、透明な涙が静かに流れ落ちた。
だが、その顔には最高の幸せな笑顔が浮かんでいた。
「わたくしは誓います。これから先、何があってもあなたの隣で、あなたと共に歩んでいくことを。あなたの喜びはわたくしの喜び。あなたの痛みはわたくしの痛み。あなたの全てをこの命ある限り愛し、支え続けていくことを」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その手紙を締めくくる最後の、そして最も大切な言葉を告げた。
「わたくしを見つけ出してくれて、本当に、ありがとう。…あなた」
その初めて呼ばれた愛しい響き。
俺の心の中の最後のダムが決壊した。
俺の瞳からも温かい涙が止めどなく溢れ出した。
もう、それを隠そうとも思わなかった。
しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、これまでで最も温かく、そして優しい拍手の渦に包まれた。
誰もが、そのあまりにも美しく、そして尊い愛の告白に涙を流し、そして心からの祝福を送っていた。
ルナが壇上から降りて俺の元へと戻ってくる。
俺は立ち上がり、何も言わずにそのかけがえのない俺の妻を、力の限り強く、強く抱きしめた。
「…ありがとう、ルナ」
俺が震える声でそう言うと、彼女もまた俺の胸の中でこくりと幸せそうに頷いた。
感謝の手紙。
それは彼女から俺たちを支えてくれた全ての人々への、そして何よりも俺への、最高のラブレターだった。
俺たちの披露宴は、この世界で一番美しい愛の言葉によって、その感動のフィナーレを迎えたのだった。
会場の照明が少しだけ落とされる。
楽団が奏で始めたのは、穏やかでどこか郷愁を誘うような優しいメロディーだった。
司会者のしっとりとした声が響き渡る。
「さて、宴もたけなわではございますが…結びに、新婦ルナリア様より皆様へ、感謝のお手紙の朗読がございます」
その言葉に、会場は再び水を打ったように静まり返った。
ルナがゆっくりと席を立つ。
その手には淡いピンク色の美しい便箋が一枚握りしめられていた。
彼女は俺に一度だけ、大丈夫ですわとでも言うように優しく微笑みかけると、マイクの前に進み出た。
その凛とした立ち姿。
だが、その手は便箋と共に微かに震えているのが分かった。
彼女は一度深く息を吸い込んだ。
そして、その澄んだ声で手紙を読み始めた。
「本日ご列席くださいました皆様へ」
その声は静かだったが、不思議なほど会場の隅々にまで響き渡った。
「そして、天国でわたくしを見守ってくださっているお母様へ」
その一言に、アルフォンス公爵の肩がびくりと大きく震えた。
俺もまた息を呑んだ。
「わたくしは、今日この日を迎えることができました。光に満ちたこの場所で、世界で一番愛する人の隣で皆様に祝福していただける。…少し前のわたくしには、想像もできなかった夢のような一日です」
彼女の声は震えていなかった。
ただひたすらに穏やかで、そして感謝の気持ちに満ち溢れていた。
「わたくしのこれまでの人生は、決して平坦なものではありませんでした。光のない、色のない世界で、わたくしはただ息を潜めるように生きておりました。未来に希望を持つことも、誰かを心から愛することも諦めておりました」
「ですが、そんなわたくしのそばには、いつも温かい光がありました」
彼女の視線が、涙で顔をぐしゃぐしゃにしているアルフォンス公爵へと向けられた。
「お父様。わたくしがどれだけ心を閉ざしても、お父様は決してわたくしを見捨てず、その大きな愛で包み続けてくださいました。毎晩わたくしの手を握り、『大丈夫だ、必ず奇跡は起こる』と励まし続けてくださったこと、決して忘れません。わたくしが今日ここにいられるのは、お父様の揺るぎない愛があったからです。…本当に、本当にありがとうございました」
アルフォンス公爵はもはや嗚咽をこらえることもできず、その巨体を震わせて泣きじゃくっていた。
その涙は、これまでの彼の苦悩と、そして娘への深い愛情の結晶だった。
次に彼女の視線は、同じように涙を流しているクラリスへと向けられた。
「クラリス。あなたはわたくしの初めての、そして生涯の親友ですわ。あなたがなければ、わたくしはとっくの昔に孤独に押し潰されていたでしょう。あなたの太陽のような笑顔が、わたくしの心の唯一の光でした。ありがとう。これからもずっと、わたくしの一番の味方でいてくださいね」
クラリスは言葉もなく、ただ何度も何度も力強く頷き返していた。
そして、最後に。
彼女の視線がゆっくりと俺へと注がれた。
そのあまりにも深く、そしてあまりにも愛おしさに満ちた眼差し。
俺は、その視線を真正面から受け止めた。
「そして…ユキ」
彼女が俺の名前を呼んだ。
その声はとろけるように甘く響いた。
「あなたと出会えたこと。それがわたくしの人生に起こった、最大の奇跡でした」
「あなたはわたくしに光をくれました。色のなかったわたくしの世界を鮮やかに彩ってくれました。そして、愛することの喜びを教えてくれました」
「わたくしは、あなたと出会って初めて生きていることの本当の意味を知ったのです」
彼女の瞳から一筋、透明な涙が静かに流れ落ちた。
だが、その顔には最高の幸せな笑顔が浮かんでいた。
「わたくしは誓います。これから先、何があってもあなたの隣で、あなたと共に歩んでいくことを。あなたの喜びはわたくしの喜び。あなたの痛みはわたくしの痛み。あなたの全てをこの命ある限り愛し、支え続けていくことを」
彼女はそこで一度言葉を切った。
そして、その手紙を締めくくる最後の、そして最も大切な言葉を告げた。
「わたくしを見つけ出してくれて、本当に、ありがとう。…あなた」
その初めて呼ばれた愛しい響き。
俺の心の中の最後のダムが決壊した。
俺の瞳からも温かい涙が止めどなく溢れ出した。
もう、それを隠そうとも思わなかった。
しんと静まり返っていた会場は、次の瞬間、これまでで最も温かく、そして優しい拍手の渦に包まれた。
誰もが、そのあまりにも美しく、そして尊い愛の告白に涙を流し、そして心からの祝福を送っていた。
ルナが壇上から降りて俺の元へと戻ってくる。
俺は立ち上がり、何も言わずにそのかけがえのない俺の妻を、力の限り強く、強く抱きしめた。
「…ありがとう、ルナ」
俺が震える声でそう言うと、彼女もまた俺の胸の中でこくりと幸せそうに頷いた。
感謝の手紙。
それは彼女から俺たちを支えてくれた全ての人々への、そして何よりも俺への、最高のラブレターだった。
俺たちの披露宴は、この世界で一番美しい愛の言葉によって、その感動のフィナーレを迎えたのだった。
30
あなたにおすすめの小説
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。
猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。
もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。
すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。
主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。
――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました――
風景が目まぐるしく移り変わる。
天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。
移り変わる景色こそは、
第一天 ヴィロン。
第二天 ラキア。
第三天 シャハクィム。
第四天 ゼブル。
第五天 マオン。
第六天 マコン。
それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。
気付けば明星は、玉座に座っていた。
そこは天の最高位。
第七天 アラボト。
そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。
――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる